ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日から一気に話が進んでいきます


第091話 だから人生は面白い

 リハビリを終え、病室に帰った二人の所に、結衣と優美子が尋ねてきた。

 

「ヒッキーゆきのんやっほー!」

「あら、二人も来たのね」

「うん!ヒッキーのリハビリの具合はどうかなって」

「今日からだよね。調子はどう?」

「順調だ。雪乃にも助けてもらったしな」

「あんたは運動神経は良かったみたいだし、すぐまた自由に動けるようになるよ、八幡」

「まあ頑張るよ。ありがとうな、由比ヶ浜、優美子」

 

 それを聞いた結衣は、ビシッと音をたてて固まった。

結衣は今の遣り取りについて、二人に尋ねた。

 

「い、いつからみんな、お互いの事名前で呼び合ってるの?」

「優美子は目覚めた日からだな。雪乃は今日からだ。で、その事でお前にも話があるんだよ」

「う、うん」

「俺はゲームの中ではずっとハチマンって呼ばれてたんだよ。でな、二年もそうされてると、

さすがに比企谷って呼ばれる方が違和感を感じるようになっていてな」

「あー、そういう事なんだ」

「だから、色々な人に名前で呼んでくれるようにお願いしてるんだよ。

まあ優美子の場合は優美子からだったが、自分からも言うつもりだったから問題ない。

俺が相手をどう呼ぶかは、まあ相手次第だな。で、問題はお前だ、由比ヶ浜」

「ヒッキーって呼び方の事?」

「そうだ。ヒッキーってのは元々あだ名だから、俺としては特に違和感はない。

だからそのまま呼んでくれても構わないし、名前で呼んでくれてもいい」

「名前で……八幡、ヒッキー、八幡、ヒッキー、うーん」

 

 結衣はかなり悩んでいたが、どうやら結論が出たようだ。

 

「うん、今まで通りヒッキーで!」

「どうやって決めたんだ?」

「他の人が全員名前で呼ぶとしたら、ヒッキーの方がなんか特別っぽいから!」

「結衣らしいね」

「そうね、ゆい……ヶ浜さんらしいわね」

「俺は何て呼べばいいんだ?由比ヶ浜のままでいいのか?」

「なっななっ、名前でお願いします!」

 

 結衣は、緊張しながらも即答した。

 

「結衣、なぜ敬語……」

「わかった。名前だな。それじゃあ……」

 

 結衣はわくわくしながら八幡に呼ばれるのを待っていた。

だが八幡が選択したのは、予想外の呼び方だった。

 

「ゆいゆい、ゆいゆいだな。ははっ、何かかわいいなこの呼び方」

「八幡、さすがにそれは……」

 

 優美子はたしなめようとしたが、雪乃と結衣の反応は予想外のものだった。

 

「ヒッキー!どこでその呼び方を……」

「え?結衣?」

「八幡君、どこでその呼び方を?」

「雪ノ下さんまで……」

「前に雪乃が由比ヶ浜の事をゆいゆいって呼んでたからな。

普段はそう呼んでるんじゃないかって思ってたんだよ」

「う……この私とした事が……」

「というわけで、俺もゆいゆいと呼ぶ事に決定だ」

「うー、いいんだけどなんか複雑な感じ!」

「まあ、とっくにバレていたようだし、もう諦めましょう、ゆいゆい」

「嫌なら結衣って呼ぶぞ」

「うーん……」

 

 結衣は少し考えた後、八幡にこう頼んだ。

 

「ヒッキー、試しにちょっと私の目を見ながらゆいゆいって呼んでみて」

「わかった。これでいいか?ゆいゆい」

「うわ……」

 

 結衣は頬を赤らめながら、ぶつぶつと呟き始めた。

 

「うん、これは悪くない、というか、すごくいい。ゆいゆい、ゆいゆい……」

「お、おい……」

「ゆいゆいはどうやら違う世界に旅立ってしまったようね」

「結衣……」

「まあ、そのうち戻ってくるだろ」

「そうそう八幡、これ、小町ちゃんに渡すように頼まれた八幡のスマホ」

「おお……ありがとな。小町は忙しいのか?」

「小町さんは、生徒会の副会長をやっているのよ、八幡君」

「まじか。小町は総武高校の影の支配者になったのか……」

「その表現は当たらずとも遠からずって所ね。

選挙の時、私は会長になる事を薦めたのだけれど、その時小町さん、

小町はお兄ちゃんに似て主役よりも黒幕が好きなんです!って言っていたわ」

「まじか……」

「ええ、一言一句間違いないわね」

「俺は小町にそんな風に思われていたのか……」

「ふふっ、まあいいじゃない。それだけ小町さんは、あなたの事が好きなのよ」

「そう、なのかな」

「ええ、そうよ」

「えへへ、当たり前じゃんヒッキー!小町ちゃんだけじゃなく、みんなそうだよ!」

 

 その時結衣がいきなり会話に割り込んできた。どうやら別の世界から戻ってきたらしい。

 

「おお、おかえり、ゆいゆい」

「ただいま!って何が?」

「いや、いいんだ。ゆいゆいはいつも明るくていいな。髪がピンクだからだな」

「それまったく関係無いし!」

「俺の仲間にそういう奴がいたんだよ。ピンクは明るくて元気、これが真理だ」

「真理なんだ……」

「おう」

 

 八幡と結衣はそのまま雑談を続けた。

雪乃は何かを思いついたような顔をして、優美子に話しかけた。

 

「ところで三浦さん、私の事も、雪乃って呼んでもらえないかしら。

三浦さんは姉の事をさんづけで呼んでいるのに、

私の事を苗字で呼ぶのはちょっとおかしい気もするのだけれど」

「確かにね、それじゃ、雪乃って呼び捨てでもいい?

あーし、雪乃とはもっと仲良くなりたいし」

「構わないわ。私もあなたの事、優美子さんって呼んでもいいかしら。

ちょっと性格的に、さんづけがどうしても抜けないからそこは申し訳ないのだけれども」

「いつか呼び捨てになる日が来るのかな?」

「そうね、いつか私もそう呼べる日が来るかもしれないわね、ふふっ」

「あんたとあーしがこんな関係になるなんて、人生何が起こるかわからないね、雪乃」

「そうね、だから面白いのではないかしら、優美子さん」

 

 その後四人はしばらく雑談を続けていたが、雪乃はそろそろ帰宅する事にしたようだ。

 

「私はそろそろ帰るけど、二人はどうするのかしら」

「あーしもそろそろ帰らないとかも」

「あー、私もそろそろかなぁ」

「そうか。三人とも今日はありがとな。良かったらまた遊びに来てくれ」

「あら、私はしばらくリハビリに付き合うわよ」

「私も来れる時は手伝いに来るね!」

「あーしもまめに顔は出すかな。ねえ八幡、何か欲しいものとかあったら、

あーしのアドレスをスマホに入れといたから、そこに連絡して」

「優美子、いつの間に!」

「やはりあなどれないわね……」

「それじゃまたね、八幡」

「八幡君、また明日」

「ヒッキー、またね!」

「おう、またな!」

 

 こうして三人は帰っていった。

 

「さてと……」

 

 八幡は先ず、スマホをチェックする事にした。

知らないアドレスからメールが来ていたので、八幡はそのメールを開き、中を確認した。

メールにはキリトの名前と電話番号が書かれていたので、

八幡は即座にその番号に電話をかけた。

 

「はい」

「キリトか?俺だ」

「おっ、もしかしてハチマンか?」

「ああ、始めましてだな。比企谷八幡だ」

「俺は桐ヶ谷和人。よろしくな、ハチマン」

「よろしくな、和人。それともキリトのままの方がいいか?」

「ハチマンには、二年間キリトって呼ばれてたからなぁ……キリトの方がしっくりくるな」

「それじゃ、今まで通りって事でいいな」

「ああ」

 

 お互いの呼び方を確認した後、八幡は本題に入った。

 

「SAOの最後にあった事、覚えているか?」

「四人で話した事か?」

「ああ。実はあの後、晶彦さんと二人だけで少し話をしたんだよ。

その時に、百人の人間がまだ解放されていないって事を告げられたんだ。

どうやら外部からの干渉らしい」

「菊岡さんから大体の話は聞いてるよ」

「……アスナとリズの事も聞いたか?」

「全部聞いた。犯人は絶対に許さない」

「そうだな、どんな理由で行ったのかはわからないが、絶対に許さん」

「で、どうする?」

「SAOのサーバーを今管理しているのがどこか、知ってるか?」

「レクト・プログレスって聞いたな」

「そのレクトの本社に一人、強力な味方がいる。当面はその人に情報を収集してもらう。

もしかしたらプログレスの方にもバイトとして一人入り込めるかもしれん」

「もう手を打ってんのか……さすがだな、ハチマン。

しかしそのハチマンが強力って表現するなんて、その味方って人は本当にすごそうだな……」

「ああ。わかりやすく言うと、魔王だ。ラスボスだ」

 

 その八幡の答えを聞いたキリトは、息を呑んだ。

 

「……そこまでか」

「ああ。ちなみにすごい美人だ。そして大金持ちのお嬢様だ」

「何だそのバグキャラは……まさしくチートじゃないかよ」

「そういうわけだから、当面俺達は早く体力を戻すのが仕事って事になるな」

「さすがに二ヶ月で戻す自信は無いんだが……」

「死ぬ気でやれ」

「……そうだな、ここでやらなくていつやるって感じだよな」

「俺も頑張るから、問題なく外出出来るようになったらどこかで落ち合おうぜ」

「そうだな」

 

 とりあえずリハビリを頑張るという方針を確認した後、

二人は今回の事件について、意見を交換した。

 

「で、ハチマンは今回の件、どう見てる?」

「レクト・プログレスの内部に犯人がいる」

「根拠は?」

「SAOのサーバーの管理を任されるほどの会社だ。

外部から易々と侵入を許すはずがない。政府の目だって光ってたはずだ」

「まあ、道理だよな」

「それに、七十五層でクリアになるなんて、誰にも予想がつかなかったはずだ。

つまり、いつでも今回の犯罪を実行できるように、ずっと準備されていたはずだ。

それを行えるのは、レクト・プログレスの内部の人間以外にありえない。

更に言うと、組織的な犯行かもしれん」

「確かにそう言われると、犯人はそれ以外ありえないって気がするな」

 

 キリトは納得し、頷いているようだった。

 

「ところが一つ、ここに疑問点が浮かび上がる」

「どんな疑問?」

「うわっ」

 

 八幡はいきなり背後から声をかけられ、驚いて声を上げた。

 

「ハチマンどうした?うわっ、誰だお前ら!」

 

 同じくキリトも、何かに驚いたような声を上げた。

八幡は、まさか敵の襲撃かと思い、恐る恐る振り向いた。


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