ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第916話 上空より訪れし者達

「くそっ、走れ、走れ!」

「むむむむむ」

「スプリンガーさん、何かの魔法でちょっとでも足止め出来ませんかね?」

「む~ん、俺の手持ちの魔法じゃそれっぽいのは無いな」

「ヒルダはどうだ?」

「ブリザードウォールなら使えますけど、とてもヴァルハラのユキノさんのようには………」

「ほんのちょっと時間を稼げるだけでも助かる、試してみてくれ!」

「分かりました」

 

 ヒルダは走りながら呪文の詠唱を開始した。

そんなヒルダが転ばないように、スプリンガーとファーブニルがフォローに入る。

そして呪文が完成し、ヒルダは振り返り、T-REXの足元に向け、魔法を解き放った。

 

「ブリザードウォール!」

 

 その氷の壁は、丁度敵の腰あたりまでせり上がり、

さすがのT-REXもそれを見てその場に立ち止まる。

 

「ふう、何とか成功しました」

「よくやった!これで多少時間が稼げるな」

「この後どうします?」

「これを見てくれ」

 

 ファーブニルにそう問われたスプリンガーは、走りながらコンソールを操作し、

可視化した上で地図を見せてきた。

 

「ここに出口の表示がある、ここまで行ければ脱出出来るはずだ」

「えっ、こんな所に出口が?」

「みたいだな、こっちには来た事がないが、さすがに自動生成の地図に間違いはないだろ」

「まあそうですね」

 

 ALOの地図システムはシンプルである。

よくあるパターンではあるが、プレイヤーが実際に行った事のある場所が表示されるのだ。

その範囲は百メートル、つまりもう少し走ればそこに出口がある事になる。

 

「よし、みんな、こっちだ!」

 

 スプリンガーは先頭に立ち、三人を出口へと案内していく。

それを逃がすまいと、T-REXは少し下がって振り返り、

助走をつけて氷の壁を飛び越した。

だが既にスプリンガー達との距離は五十メートルほど開いており、

このままなら十分逃げ切る事が可能だと、スプリンガーは地図を見ながら判断していた。

 

「よしここだ、多分階段か何………か、が………」

 

 スプリンガーはそのまま、あるはずだという言葉を飲み込んだ。

そこはただの行き止まりの小部屋であり、階段は愚か、隠れる場所すらも存在してはいない。

 

「ど、どういう事だ?地図が間違ってるはずはないのに………」

「あっ、皆さん、見て下さい」

 

 その時ヒルダが上を指差しながらそう言った。

その指の先、部屋の中央付近の天井の、地上十メートルくらいの位置に大穴が開いており、

おそらくそこが、地図に表示された出口なのだと思われた。

 

「マジかよ………」

「む~ん」

「ここじゃ飛べないし、あそこまで行くのはちょっと無理ですかね………」

「うぅ、まずいです、もうすぐあいつがここに来ます!」

 

 そのヒルダの言葉通り、T-REXはまもなくこの部屋に到着しようとしていた。

 

「みんなすまん、俺の判断が間違いだった」

 

 スプリンガーは苦渋の表情でそう言った。

 

「いやいや、あの地図を見たら誰だってそう思いますって」

「そうですよ、気に病む必要なんてないです」

 

 そして最後にラキアが、ふんすっ、と鼻息を荒くしながらスプリンガーの肩に手を置いた。

 

「あん?倒せば問題ないだって?まあ確かにそうなんだろうけどなぁ………」

 

 そんな会話をしている間に、もうT-REXはすぐそこまで迫ってきていた。

 

「まあむざむざと全滅させられるのは癪だし、少しは抵抗するか」

「ですね、やれるだけやってみましょう」

 

 一同がそう悲壮な決意を固めたその瞬間に、

T-REXがいきなり立ち止まって上を向いた。

 

「ん?あいつ、どうしたんだ?」

「さあ………」

 

 その時上の方からプレイヤーの声が聞こえてきた。

 

「ん、あれは何だ?」

「ここに敵がいるなんて初めてではなくて?」

「あれってトンキーじゃないよな!?」

「うん、違うように見えるね」

「こっちを見てやがるな、あれって………」

「ダイナソー?」

「ああそうか、恐竜か、あれ」

「かなり強そうだぞ、どうする?」

「う~ん、まあ何とかなるだろ、やばそうなら魔法で足止めしてとんずらだ」

 

 上にいる相手はこちらの存在には気付いていないようだ。

それも当然である、こちらからも向こうの姿は見えないのだ。

だがその声は、とても聞き覚えがある声であった。

 

「おいラキア、今のって」

「んっ」

「そうか、お前もそう思うか、これは何とかなるかもしれないな」

 

 そう希望に満ちた目をした二人に、ファーブニルが話しかけてきた。

 

「スプリンガーさん、今の声ってもしかして………」

「お、お前にも分かったか、今の声は多分、ヴァルハラの連中の声だな」

「で、ですよね!」

「えっ、そうなんですか?」

 

 どうやらヴァルハラとはあまり接点がないのか、ヒルダはそう驚いたような声を上げた。

 

「間違いない、おっ………来るぞ」

 

 そして上から五人のプレイヤーが下に降りてきた。

十メートルくらいの高さから飛び降りたはずなのだが、その着地する姿は実に軽やかだ。

 

「ハチマン君!」

「え?あれ、スプリンガーさん、ラキアさん、どうしてここに?」

「いや、狩りの最中にそのワンダラーモンスターに襲われてよ、

他にも細かいのが沢山いて、そいつだけ俺達がここに引っ張ってきたんだ」

「ああ、そういう事ですか、それじゃあ一緒にこいつを退治しちゃいましょう、

今はうちの幹部連が全員いるので、まあ何とかなると思います」

 

 その言葉にファーブニルとヒルダは目を見開いた。

 

「うわ、本当だ………」

「凄い、ALOの最高戦力だ」

 

 そしてスプリンガーは、笑顔でハチマンにお礼を言った。

 

「おお、助かるぜ、頼む!」

「それでそっちは………ああ、アル冒のファーブニルか、あと確かヒルダだったか」

「えっ?」

「私達の事を知ってるんですか?」

「ああ、まあ有望そうなプレイヤーの情報収集はしてるからな」

 

 その言葉に二人は気分が高揚するのを感じた。

尊敬するプレイヤーに認められていると理解したからだ。

 

「よし、タンクがいないから少し大変だが、全員で囲めば何とかなるだろ、

アスナ、キリト、やるぞ」

「うん!」

「久々の強敵だな」

「ラキアさんはどう考えても前衛ですよね、俺の隣にお願いします。

スプリンガーさんとサトライザー、それにファーブニルは前衛のフォローを、

ユキノとヒルダは後方支援な」

「「「「「「「了解!」」」」」」」

「むが~!」

 

 ラキアがやる気満々でそう叫び、こうしてヴァルハラとソニック・ドライバー、

そしてアルン冒険者の会の共闘が始まった。

最初に突撃したのは、ヴァルハラの特攻隊長を自認するキリトである。

 

「うおおおおお!」

 

 キリトは二刀に構えた彗王丸を敵に叩きつけるが、

その攻撃は、相手の皮膚に薄っすらと傷をつけるだけであった。

 

「ハチマン、こいつ、意外と硬いぞ」

「二刀じゃ無理か、剣を一本にしたらどうだ?」

「やってみる」

 

 そしてキリトは二本に別れていた彗王丸を一つにし、彗王丸は巨大な剣へと変化した。

 

「これならどうだ!」

 

 キリトの裂帛の気合いを込めたその一撃は、見事に敵の肌を切り裂いた。

T-REXはすぐに噛みつきで反撃に出るが、キリトはその攻撃をひらりと交わした。

 

「少し浅いけど、いけるぜ!」

「カウンターからならもっといけそうだな、難しいがやってみる。

みんな、攻撃は基本、相手の体勢が崩れた時を狙ってやってみてくれ」

 

 そしてハチマンは敵の正面に立ち、T-REXにカウンターを決めようと、

その顔の動きを注視した。だが攻撃は、予想もしない方向からやってきた。

 

「ハチマン、尻尾!」

「おう、見えてる見えてる」

 

 いきなりT-REXが体を捻り、ハチマンに尻尾で攻撃してきたのだ。

だがその言葉通り、ハチマンにはちゃんと見えていたのか、

その攻撃をヒラリと飛び上がって回避する。

 

「ハチマン、尻尾が戻ってくるんじゃないか?」

「おう、だろうな」

 

 キリトからそう声が飛ぶか飛ばないかという時には既に、

ハチマンは尻尾を追いかけてダッシュしていた。

そして尻尾のしなりが限界点に達した直後に、ハチマンはその根元を思いっきり殴りつけた。

それでT-REXの体がぐらりと揺れる。

 

「今だ!」

 

 そのハチマンの声を受け、ラキアがハチマンごと真っ二つにする勢いで斧を振るう。

キリトはT-REXの足を狙ってその剣を振り下ろし、

アスナは敵の喉元にいきなり大技を放った。

 

「スターリィ・ティアー!」

 

 そしてサトライザーが、相手の目を狙って魔法銃の銃撃を浴びせかける。

ユキノもアイスジャベリンを使って敵の顔付近に攻撃し、

ファーブニルとスプリンガーは、仲間に思わぬ反撃が来ないように、

すぐ後ろでT-REXがおかしな動きをしないかじっとそれを観察していた。

 

「一旦後退!」

 

 そこでハチマンがそう指示を出した、その言葉に従って、仲間達は敵から一旦距離をとる。

 

「GGYYYAAAAOOOOOO!」

 

 その瞬間に、T-REXは凄まじい咆哮を上げ、こちらへと向き直った。

どうやらサトライザーの攻撃が功を奏したらしく、その右目が潰れている。

だが出血こそしているが、他に失った部位は一つもなく、

その動きも攻撃前とまったく変わらない。

肝心のHPゲージの減り方は、五パーセントといったところであろうか。

 

「中々タフだな」

「みたいだな」

「まあいかにもボスっぽいし、これくらいはやってくれないとな」

「だな!」

 

 そして一同は、この強敵を倒すべく、剣を握りなおした。

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