「ところでラキアさん、今俺も一緒に真っ二つにしようとしてませんでしたか?」
「ヒューヒュー」
「口笛、鳴ってませんよ」
「むっふぅ」
「何ですかそのドヤ顔!?」
相変わらず仲良しな二人はさておき、今の戦闘を見て、
ファーブニルとヒルダは驚愕していた。
「攻撃力も凄いけど、それ以上に連携が凄い………」
「今の攻撃、全員がほぼ同時に着弾してただろ」
「はい、そう見えました」
「うちももっと戦闘経験を積まないといけないな」
「先輩も頑張って
「いやいや、無理だって」
そして戦闘が再開され、ハチマンは全員に鋭く指示を飛ばした。
「戦った感じ、やばいのはやはり噛みつきだ、
あのでかい顎で噛まれたら、一発で死んじまうと思うから、それだけは注意してくれ!
他の攻撃に関しては、多分ユキノが何とかしてくれるだろ、
助けてユキえも~んって言えばそれでオーケーだ」
「ハチマン君、私をネコ型ロボット扱いするなんて………」
ユキノが即座にそう言い、一同はハチマンがユキノに制裁をくらう未来を想像した。
だがユキノの口から飛び出したのは、正反対の言葉であった。
「えらいわ」
「「「「「そこって褒めるとこ!?」」」」」
ドラえもんを知らないらしいサトライザーと、
いつも無言なラキア以外の全員がそう突っ込んだ。
「お前らユキノのネコ愛をなめるんじゃない。
それよりキリト、しばらく攻撃は任せた、俺はちょっとアスナと分析に入る」
「お?おう、任せろ!」
「それなら僕も前に出ておこうか」
「そうだな頼む、サトライザー」
「オーケーオーケー」
そう言ってハチマンの代わりにサトライザーが前に出た。
キリトとサトライザーの二人が交互に敵にヒット&アウェイを行い、
ペースこそ遅いが堅実に敵のHPを削っていく。
その間にハチマンとアスナは、相手の死角から攻撃したり、
背後から敵を狙ったりと、色々な事を試していた。
「う~ん、キッチリ対応してくるね」
「これは両方の視覚を奪っても意味が無さそうだな、
死角からの攻撃にも普通に対応してきたしな」
「って事は、敵はこっちの行動を把握する手段が複数あるんだね」
「だろうな、音とか色々な手段を使ってこっちを認識してるんだろう」
「巨人族なら目を潰せば楽勝なのにね」
「だな、さて、そうするとどうするか」
ハチマンは一歩後ろに下がり、TーREXの姿をじっと観察した。
「普通の恐竜なら足でも斬って、倒しちまえば攻撃力はほぼ無くなるんだけどな」
「でも邪神系だから、足は沢山あるしね………」
「そう、あの足だ、今のところあのにょろにょろを攻撃には使ってこないが、
あれが一斉にこっちに向かってきたら厄介だよな」
「試しに狙ってみる?」
「そうだな、何本か切り落としてみるか。おいキリト、あいつの足、切れるか?」
ハチマンはそうキリトに声をかけ、キリトは難しい顔をしながらそれに答えた。
「あれか、かなり余計に踏み込まないといけないんだけど、やってみるよ!」
そしてキリトはラキアの攻撃と呼吸を合わせ、
敵がその攻撃にぐらついた瞬間に、敵の足元に飛び込んだ。
そのまま何本かの触手を見事に切り落としたキリトだったが、
その瞬間にその断面から新しい触手が生え、キリトに向かって攻撃してきた。
「ちっ」
キリトは慌てて飛び退ったが、
その際に切り落とした敵の触手をしっかり確保しており、
キリトはその触手をハチマンの所に投げた。
「手応えはあまり無かったな、簡単に切れたぞ」
それを受け取ったハチマンは、まだピクピクしているその触手を気持ち悪そうに眺めた。
「これ、再生してたよな」
「うん、あれに攻撃を仕掛けるのは得策じゃないと思うけど、
多分発狂モードになったらあれが一斉にこっちに攻撃してくる可能性は否定出来ないよね」
「だよな、他に考えられるとしたら、口からビームとかそんな感じか」
「その姿を考えるとかなりやばいね」
「分かった、お~いキリト、正面から攻撃を続けてくれ、今度は首の可動域を見たい」
ハチマンはキリトにそう声をかけ、アスナの手を引いた。
「俺達は後ろだ、アスナ、行くぞ」
「うん!」
そのままハチマン達は後方に回り、尻尾の可動域を調べ始めた。
「足さえ封じれば、いいところ九十度ってところか」
「体の捻りが無ければただの手打ちの攻撃と変わりないね」
「ハチマン、こっちもやっぱり大した事ない!正面から左右に三十度ってところだ」
前後から挟んだ事で、どちらにも対応しないといけなくなった敵の動きは、
体全体を使ってダイナミックに攻撃する事が出来なくなったせいか、
かなり単調なものとなり、攻撃範囲を見切るのは容易であった。
「よし、考えが纏まった。ユキノ、相手を囲むようにブリザード・ウォールだ、
三十秒だけ時間を稼いでくれ!」
「分かったわ」
「そのままユキノも含めて全員俺のところに集合してくれ」
そして仲間達は飛び退り、ハチマンの所に集合した。
「いいか、敵の真横が死角になる、最初は前後から挟んで、
発狂モードに入った瞬間に敵の真横に移動だ、ユキノはあいつの触手を全部封じてくれ」
ハチマンは集まった八人にそう説明し、
全員は氷の壁が消えないうちに配置につく為に急いで走り、そのまま所定の位置に到達した。
敵の前方にキリト、サトライザー、ラキア、スプリンガー、ユキノが布陣し、
残りの四人は敵の後方に布陣したのだ。
敵は前後を挟まれ、じりじりとHPを削られていく。
敵のHPはそのまま六割を切り、四割を切り、そしてまもなく二割を切ろうとしていた。
「もうすぐ発狂モードだ、ユキノの動きを見逃すなよ!」
ここでハチマンからそう指示が飛んだが、一つ誤算が発生した。
この中で一番戦闘慣れしていないヒルダが、
その言葉に思わずユキノを視認しようと、敵の攻撃から目を離してしまったのである。
間の悪い事に、丁度その時ヒルダ目掛けて敵の尻尾がまるで刺突剣のように突き出された。
「ヒルダ!」
その瞬間に、ハチマンがヒルダをかばうように前に出た。
そしてヒルダの目の前で、敵の尻尾に貫かれたハチマンの右腕が根元から宙に待った。
「くそ、雷丸を持っていかれたか、まあいい、後で回収しよう」
「あ、あ………」
ヒルダはそれを見て、茫然自失した。
「ハチマン!」
「ハチマン君!」
周囲から心配そうな声が飛ぶが、ハチマンはその声に向かって叫び返した。
「こっちは大丈夫だ、ユキノ、そろそろ魔法を頼む、十秒後だ!」
どうやらこの状況でも、ハチマンはしっかりと敵のHPの減り方を確認していたらしい。
そしてハチマンは残る左手の拳で追撃してこようとする敵の尻尾を弾き返すと、
そのままヒルダの所に向かい、ヒルダを左腕一本で抱き寄せ、こう囁いた。
「悪い、左腕だけじゃさすがに抱えられないから、こうさせてもらうぞ。
予定と変わっちまったから俺が誘導する、ヒルダ、とにかく落ち着いて足だけを動かせ」
「あっ、は、はい!」
ヒルダはまだ呆然としていたが、
言われた通りにとにかく足だけは動かそうと、ハチマンに支えられながら必死で走った。
当初の予定では、敵のすぐ横につくはずだったのだが、
二人は敵からぐんぐんと遠ざかっていく。
「そろそろだ、発狂モードが来るぞ!」
そしてハチマンのそんな叫びと共に、ユキノの魔法が発動した。
「アイスコフィン!」
その瞬間に、敵の足元に大量の氷が発生し、敵の触手はその氷に全て封じ込まれた。
それに呼応するかのように、T-REXの色が赤くなり、発狂モードへと突入する。
T-REXは狂ったように口からビームを吐き出し始め、
遠くでそれを見ていたハチマンは、苦笑しながらこう呟いた。
「やっぱり口からビームか、もう定番だな」
「ご、ごめんなさいハチマンさん、わ、私のせいで………」
そんなハチマンに、ヒルダは慌ててヒールをかけた。
「気にするな、とにかくヒルダが無事で良かった」
「で、でもハチマンさんの腕が………」
「もうすぐ生えてくるから大丈夫だって」
ハチマンはのんびりとした口調でそう言うと、仲間達に声をかけた。
「よ~し、誰がラストアタックをとるか勝負だな、頑張れ!」
敵は完全に足を封じられている為、尻尾も噛みつきも可動範囲が制限されており、
こちらの誰にもその攻撃を届かせる事が出来ない。
要するに、ただ死を待つだけの状態にまで追い込まれていた。
「うん、やっぱり初見の敵をはめてやるのは気分がいいな」
「ふふっ、そうですね」
もう何も心配する事はないのだと理解し、緊張が解けたのか、ヒルダはクスッと笑った。
この戦闘においてはもう二人は部外者となっており、ただ見ている他はない。
今から近付くと、尻尾の攻撃範囲を通る事になってしまい、逆に危険なのだ。
「おっと、またビームか、さっきから多いな」
「一応こっちに向けて撃とうとしてるんですね」
だがその攻撃が二人に届く事はない、
体の構造的に、どうしても首の角度がこちらに向かないのだ。
「さて、そろそろ終わりだな、
あ、そういえばさっきスプリンガーさんが、あいつの他に細かいのがいたって言ってたよな」
「あ、はい、今多分本隊がそいつらと戦ってると思います」
「ほうほう、何がいたんだ?ベビーレックスか?トリケラか?」
「あ、ええとですね」
その瞬間に、TーREXが口から吐いたビームが二人の横を連続で通り過ぎた。
二人とも一瞬そちらに気を取られたが、目を戻すと丁度T-REXが消滅していく所だった。
どうやら今のは断末魔の叫びのようなものだったらしい。
「お、倒したか」
「みたいですね」
その時ハチマンは、自分とT-REXの目が合ったような気がした。
その瞳がニヤリと嫌らしい笑みを浮かべていたような気がして、ハチマンは胸騒ぎを覚えた。
(………何だ?気のせいか?)
その時背後から嫌な気配がし、
ハチマンは慌てて後ろにいたヒルダの方に振り向いた。
「どうしたんですか?」
そうキョトンとするヒルダの背後には、二対の小さな光がたくさん浮かんでおり、
その正体が何なのか理解した瞬間、ハチマンは片手でヒルダを抱き寄せ、
ヒルダを守るように、その身に覆い被さった。その直後にドン!と、二人を衝撃が襲う。
「えっ?えっ?」
ヒルダは戸惑ったが、体を入れ替えた事で、
先ほど自分がいた位置の背後の様子が確認出来るようになり、
ヒルダはそこにあった二対の光~敵の目と目が合い、悲鳴を上げた。
「き、きゃああああああああああ!」
そこにはいつの間にかラプトルの大群が出現しており、
そのうちの一匹が、ハチマンの肩に噛み付いていたのであった。