ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第923話 気が合う二人

 唯花は正確に九分で出かける準備を終え、八幡の到着を今か今かと待っていた。

もちろん待っている間も鏡を見ながら準備に余念がない。

 

「大丈夫だよね、私、変じゃないよね」

 

 誰に聞かせるでもなくそう呟いた唯花の前に、時間ピッタリにキットが停車した。

 

「悪い、待たせたか?」

「いえ、時間ピッタリです!さすがは八幡さんとキットちゃんです!」

 

 唯花は興奮した様子でそう言い、八幡は少し引いた。

 

「お、おう、うちのキットは凄いからな」

 

 唯花は八幡が若干引きぎみな事にすぐ気付き、

コホン、と咳払いをすると、改めて八幡に自己紹介をした。

 

「失礼しました、私は岡田唯花、十七歳です。

この度は私の家までわざわざ迎えに来て頂きありがとうございます」

 

 八幡はその豹変ぶりに驚きつつ、じっと唯花の顔を見つめた。

唯花の髪型はポニーテールであり、鼻筋がスッと通っていて、

優しげな瞳をキラキラと輝かせていた。

 

「ああ、これはモテるわ………」

 

 八幡は思わずそう呟き、その瞬間に唯花の顔が赤くなった。

 

「やだもう、八幡さんったら」

「わ、悪い、それじゃあ行くか」

「そうですね、あまり遅くなると、明日の授業中に寝ちゃいそうです」

 

 そして二人はそのまま二十四時間営業のスーパーへと向かった、その道中の事である。

唯花が不意に、何かに気付いたように鼻をひくっとさせた。

 

「あれ、八幡さん、もしかして今日、飲んでました?」

 

 唯花はそう言いながら首を傾げた。微妙にあざとい。

 

「ん、おお、悪い、ちょっと酒臭かったか?」

「あ、はい、ほんの少しですけど」

 

 そう言って唯花はくんかくんかと八幡の匂いを嗅いだ。

 

「おわっ」

「でも大丈夫です、気になるほどじゃないですよ」

 

 唯花は平然とした顔で微笑んだ。結構あざとい。

 

「唯花さん近いしあざといです。そういうところが男を勘違いさせるんですよ、

本当に気をつけて下さいね」

「な、何でいきなり敬語なんですか!?」

「いや、同じような事を昔よく内心で思ってたから、つい口に出ちまったわ」

「私、あざとくなんかないですよ!」

「あざとい奴は大抵そう言うもんだ、ソースは俺の後輩」

「むぅ、八幡さんこそよく思ってたって、

女の子に密着されまくりのモテモテだったんじゃないですか」

「いや、そんな事はまったくない、近くに隙だらけな奴が一人いただけだ」

「隙だらけ、ですか………あっ、私は違いますからね、こんな事普段は絶対にしません!

だから思いっきり勘違いしてくれちゃっても全然構いませんからね!」

「すまん、何を言ってるのか全然分からない」

「え~!何でですか!」

 

(随分と話し易いな、ああ、だからモテるのか)

 

 八幡はそう考えたが、そんな時、唯花がやや声を潜めながら、八幡にこう質問してきた。

 

「ところで今日は、誰と飲んでたんですか?

彼女さんですか?お友達ですか?あ、もしかして女友達とか?」

 

(あ、この感じ、昔のいろはと一緒だな、結局モテる奴ってのはこういうタイプなんだな。

それはさておきこの質問にはどう答えるべきか………)

 

 八幡はまだ酔っていたせいもあるのだろうが、

本当の事を言ったら唯花がどんな反応をするのか、見てみたい衝動にかられた。

 

「おう、神崎エルザと飲みに行ってたわ」

「えっ?私のライバルにあの歌姫が追加ですと!?何ですかそれ、聞いてないですよ!?」

「えっ?」

 

 唯花があっさり信じた事で、逆に八幡の目が点になった。

 

「な、何で何の疑問も持たずに信じちまうんだ?」

「え~?だって帰還者用学校で、

神崎エルザが何度もチャリティーコンサートをやってるのは有名な話ですよ?」

「そ、そう言われると確かに………」

 

 その事は他ならぬエルザ自身がインタビューとかで言った事もあり、

世間では美談扱いされているというのが正直なところである。

 

「なので多分本当なんだろうなって思ったんですよ、

例えば防衛大臣の嘉納閣下とかの名前を出されたら、さすがの私も嘘だと思いますって」

「な、何故そこで閣下の名前が出てくる」

 

 八幡は一瞬、『こいつ、俺の交友関係を全部知ってて鎌をかけてるんじゃないだろうな』

などと考え、唯花にそう問いかけた。

 

「だってあの人、おたく疑惑があるじゃないですか。

VRゲームをやってるって噂もよく聞きますし」

 

 だが返ってきた返事はそんな感じであった。

確かに嘉納が閣下と呼ばれているのもそれが理由な為、

ここで例として名前が出てきても不思議ではないのだ。

 

「そ、そうか、まああの人ともたまに飲むわ」

「あはははは、八幡さんったらとってつけたみたいに、面白いです!」

「本当だったらどうするんだ?」

「その時は何でも一つ、八幡さんの言う事を聞いてあげます!

でももし八幡さんが本当だと証明出来なかったら、

私が逆に八幡さんに言う事を一つ聞いてもらいますからね!」

 

 唯花は自信満々でそう言った。

 

「マジかよ、何をしてもらおうかな………」

 

 八幡はそう言いながら、自身のスマホに嘉納と一緒に写っている写真を表示させ、

唯花に見せようとした。

 

「ふふん、えっちな事でもいいですよ?」

 

 だが唯花がそう言った為、八幡はピタリと動きを止め、慌ててスマホを後ろに隠した。

 

(おいおいおい、そんな事を言われたら、

それ目当てみたいに見えちまって写真を出しづらいだろうが!)

 

「八幡さん、今スマホを隠しましたよね?」

「いや、気のせいだ、そもそも俺は今、運転してるからハンドルから手が離せん」

「さっきからずっと自動運転じゃないですか」

「う………」

「ほら、諦めて見せて下さいよ!」

 

 そう言って唯花は八幡に圧し掛かった。

必然的にその胸が八幡に押しつけられる事になる。

唯花は巨乳というわけではなかったが、それなりに豊かなサイズを誇っていた為、

八幡はその感触を感じてかなり慌てた。

 

「おいこらちょっと待て、それはまずいって!ってかシートベルトを外すな!」

「え~?何がですか?」

「む、胸、胸が当たってるんだっつの」

「違います、当ててるんです」

「もっと悪いわ!ほら、離れろって!」

「今隠した物を見せてくれたら離します」

「やめとけ、見たら絶対後悔するぞ」

「そう言われると益々興味が出ますね、ほら、さっさと見せなさい!」

 

 唯花は八幡を抱きしめるように手を回して密着し、

八幡が硬直した瞬間にその手からスマホを奪い取った。

 

「あっ」

「ふう、手こずらせやがったな、小猫ちゃん」

「お前、それは卑怯だろ!ってか男前かよ!」

「さて、どれどれ?え~と………」

 

 そう呟きながら八幡のスマホの画面をじっと見つめた唯花の目が、驚愕に見開かれた。

 

「えっ?えっ?何ですかこれ、何の冗談ですか?」

「だから後悔するって言っただろ、せっかく負けといてやろうと思ったのに」

「悔やんでも悔やみきれぬ………」

「おお、まあドンマイだな」

「八幡さんに嬉し恥ずかしのあんな事やこんな事をしてもらう計画が台無しに!」

「あんな事やこんな事って何だよ………」

「もちろん放送禁止な奴に決まってます!」

「唯花、よく自爆した、ざまぁみろだな」

「言い方がひどい!?」

 

 今日初めて会ったにも関わらず、気が合うのだろうか、

二人は既に、長年の友人のような掛け合いを楽しんでいた。

 

「はぁ、もういいです、最後のワンチャンに賭けますから。実は三………」

「実は三回勝負でしたとか言うつもりか?」

「んもう!八幡さん、乙女の心を読みすぎですよ!」

「分かり易すぎるお前が悪い、俺は悪くない」

「むぅぅ、分かりました、とりあえず私への要求をどうぞ」

「お、いいのか?それじゃあどんなエロい事をしてもらうかな」

「そんな気なんかまったくない癖に!」

 

 唯花はそう言って頬を膨らませ、そんな唯花に八幡は、嫌らしい顔で言った。

 

「それじゃあ今日お前の………」

 

(えっ?えっ?まさか本当に?勝負下着を付けてきて良かった!)

 

 その表情を見た唯花は頬を赤らめ、ドキドキしながら八幡の言葉を待っていた。

 

「買い物は俺に奢らせ………」

「はい、喜んで!………………え?」

「ろ………って、答えんの早えよ!」

「えっ?えっ?は、八幡さん、優しい………

じゃなくて!何でそこでへたれるんですか、色々台無しですよ!んもう!」

「へ?あ、す、すみません………」

 

 そうぷりぷりと怒る唯花の顔は、だがとても嬉しそうであった。

 

「八幡さん、私、今とても楽しいです」

「俺も楽しいぞ、想像以上にお前が面白いからな」

「でへへぇ、照れますなぁ」

「それじゃあさっさと買い物を済ませちまうか」

「ですね!」

 

 二人はそのままスーパーに到着し、仲良く買い物を始めたのだった。




すみません、唯花が勝手に暴れ出して移動だけで一話使っちゃいましたorz
この作品ではよくある事かもしれませんがorz

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