ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第926話 屋上での報告会

 次の日の朝からずっと、貴子は詩乃からのプレッシャーを受け続けていた。

 

「ふふっ、お昼が楽しみよね」

「そ、そうだね………」

 

 休み時間の度にそう言われ、貴子は胃が痛くなった。そしてついに昼休みが訪れ、

貴子は詩乃に引きずられるように、映子、美衣、椎奈と共に唯花の教室へと訪れた。

 

 一方唯花は昼休みを迎え、珍しく生徒会室には向かわず、

大人しく教室で、詩乃の迎えを待っていた。

 

「あれ唯花、今日は教室でお昼を食べるの?良かったら私達といっしょする?」

「あっ、ごめんね、今日は約束があって、これから迎えが来るの」

「えっ、会長がここに迎えに?珍しいね?」

「えっ、先輩?あ、あ~………」

 

(これは早めに言っておかないとだね)

 

 唯花はこの機会に訂正しておこうと思い、ニコニコと微笑みながら、友人達に言った。

 

「何か誤解が広がってるみたいだけど、私と先輩の間には何も無いからね!」

「えっ、そ、そうなの?」

「でもよく一緒にいるよね?」

「あれは別に付き合ってるとかそういうんじゃないよ、

実は私と会長って、同じゲームをやってるから、

その攻略についての相談をしてたみたいな?」

「あっ、そうなんだ?」

「唯花もゲームしてるんだ?知らなかったぁ!」

「うん、だから私と先輩の間には、そんな浮いた話は一つもないからね!

だってほら、私もみんなと一緒で、八幡さん命だしね!」

 

 唯花はそう言って、友人達の手をとった。

 

「あっ、唯花も?」

「うん、もちろん!」

「そうだよね、やっぱり八幡さんが一番だよね!」

「うんうん!私もそろそろ本気を出すつもり!」

「本気………?」

 

 そこに別の友人が、慌てた様子で一同に駆け寄ってきた。

 

「ゆ、唯花ちゃん、ひ、姫が迎えに来てるんだけど」

「あ、迎えが来たみたい、それじゃあ行ってくるね!」

 

 唯花は弁当箱を手にし、そそくさと入り口の方へと向かった。

 

「あ、うん、行ってらっ………って、ひ、姫が!?」

「もう姫に食い込んでるの!?本気ってそういう事!?」

「さすが唯花、行動が早い、ってか早すぎ!」

 

 そんな友人達の前で、詩乃と唯花はとても仲が良さそうに話していた。

 

「ハイ、ごめんね、いきなり誘っちゃって」

「ううん、いいよいいよ、あ、貴子も一緒なんだ、嬉しいな」

「それじゃあ詳しい話は屋上でね」

「うん!」

「「「「「もう仲良し!?」」」」」

 

 こんな感じで唯花は驚く友人達に見送られ、詩乃達と共に屋上へと向かった。

 

 

 

 屋上に上がると、詩乃達はいつも利用してるお気に入りの場所へと向かった。

そこはこの屋上で唯一風が直接当たらず、一番日当たりのいい場所であり、

詩乃達専用の場所だと認識されている為、他に誰も使う者はいないのだ。

 

「今日はお招き頂いてありがとう、詩乃」

「ううん、私も色々と聞きたい事があったからね」

 

 二人は表面上はニコニコと、そう言葉を交わしていた。

だが実はお互い牽制し合っているのは間違いない。

 

「貴子もまた会えて嬉しいよ、昨日ぶりだね」

「あ、う、うん、昨日ぶり」

「あら貴子、唯花と随分仲が良くなったのね」

「そ、そそそそうかな、わ、私としては、詩乃との方が仲良しだと思ってるんだけど」

「だってよ唯花、ふふっ」

「あら残念、貴子、これから私とも、もっともっと仲良くしましょうね」

「も、もちろんだよ!………う、うぅ」

 

 貴子は詩乃と唯花に挟まれて座っている為、

両側からのプレッシャーに押し潰されそうになっていた。

そんな貴子を救ったのは椎奈であった。

 

「ほら、時間も無いし、食べながらさっさとお話しよ?」

「そうね、そうしましょっか」

「うん、そうだね!」

 

 そして六人は仲良くお弁当を広げ始めた。

その様子を遠くから他の生徒達が、固唾を飲んで見守っている。

 

「お、おい、書記ちゃんが姫と一緒にいるぜ」

「何か二人の間に火花が見えるのは気のせいか?」

「間に挟まれてるのって、昔姫をいじめてた子だよね?」

「もう完全に許してもらったんだな、良かった良かった」

 

(そう言ってもらえるのは有難いけど、この状況は本当に勘弁してほしいんだけど!)

 

 その言葉が聞こえた貴子は心の中でそう絶叫した。

食事を始めてからも、左右からのマウントの取り合いが凄いのである。

 

「あら唯花、そのお弁当、とても美味しそうね。まるで既製品みたい」

「うん、既製品だもん!まあそう見えるとしたら、

これが全部八幡さんに買ってもらった物だからじゃないかな」

「へぇ、ちなみに今私が食べてるのって、前にうちで八幡に作ってあげて、

評判が良かった物ばかりなのよ」

「へぇ、そうなんだぁ、どれどれ………あ、それなら私にも作れるよ、

そっかぁ、今度八幡さんに食べてもらって感想を聞いてもらおうかな」

「ふふっ、八幡が喜んでくれるといいわね」

「そうだね、八幡さんが喜んでくれるといいなぁ」

 

 二人は顔を見合わせ、おほほほほほ、と笑い合った。もちろん貴子を挟んでである。

 

(う、うぅ………胃が痛い)

 

 貴子はそう思いながら椎奈達の方を見た。

だが椎奈達は三人でマイペースに会話をしており、貴子は再び内心で絶叫した。

 

(私もそっちの仲間に入れてよぉ!)

 

 だが残念ながら、この針のむしろは全員の食事が終わるまで続いた。

 

 

 

「さて、それじゃあ話をしましょうか」

「貴子がここにいるって事は、昨日の話をすればいいのかな?

私が八幡さんに告白されちゃった経緯とか?」

 

 その言葉にABCはギョッとしたが、詩乃は表情を変えなかった。

 

「その話は後ね、それよりも優先しないといけない事があるの。

貴子、昨日の録音を唯花に聞かせてあげて」

「う、うん!」

 

 詩乃が真面目な表情でそう言った為、貴子も自然と気が引き締まった。

そして貴子はスマホを取り出して、昨日録音した音声を一同に聞かせた。

 

 

 

「ねぇ詩乃っち、これって私達が聞いてもいいもの?」

「うん、映子達にも何か手伝ってもらう事があるかもしれないからね」

 

 一方思ってもいなかった内容に、唯花は絶句していた。

 

「こ、これ………」

「昨日貴子があなたと別れた後に偶然入手したものよ、

その為にちょっと怖い目にあってしまったのよね?

貴子、凄く感謝してるけど、あまり危ない事はしないでね?私、心配だもの」

「う、うん、ごめん、あの時はもう必死でさ………」

「ごめん貴子、私達と別れた後にこんな事があったなんて」

「大丈夫、私、八幡さんのためにと思って頑張って、上手く誤魔化したから!」

「確かにいい演技だったわね、つい昔を思い出しちゃったわ」

「うぅ、詩乃、それは言わないでってば」

 

 その詩乃の冗談に、一同は微笑んだ。

 

「まあ冗談は置いておいて、今日の話し合いが終わった後、

八幡には私が纏めて報告しておくから、その時にたくさん褒めてもらうといいわ」

 

 詩乃にそう言われた貴子は嬉しそうに下を向いた。

 

「う、うん、この音声ファイルは後で渡すね」

「ええ、お願いね」

 

 そんな貴子をABCの三人が囲み、讃え始めた。

それを横目で見ながら詩乃と唯花は横に避け、深刻そうな顔で話し始めた。

 

「さて、事情は分かった?」

「うん、七つの大罪の中に、やばい人達が混じってるって事よね」

「さすがに特定は出来ないわよね?」

 

 詩乃にそう言われた唯花は難しい顔をした。

 

「うん、これだけだとちょっと無理かも」

「やっぱりそうよね。まあそんな訳で、アルヴヘイム攻略団、

特に七つの大罪の動向に、注意して欲しいの」

「分かった、何かあったらすぐに伝えるね」

「話が早くて助かるわ、そっちの事はお願いね。

まったくあいつら、手を変え品を変え、本当にうざいったらありゃしないわ」

「もしかして詩乃は、この人達の事、何か知ってるの?」

「ええ、会話の内容からして、こいつらは元連合のかなり上の方のプレイヤーで、

名前は確か、ゴーグル、コンタクト、フォックス、テール、ビアード、ヤサ、バンダナかな」

「あ、ああ~、いたいた、確か連合にそんな人達がいた!」

 

 どうやら唯花も彼らの姿を街中でみかけた事があるらしい。

その時はまだヒルダは初心者同然だった為、有名人とトラブらないように、

ファーブニルに言われて危ない人達の顔と名前だけは事前に覚えていたらしい。

 

「あらそうなの?それじゃあうちのメンバーの事も覚えてるの?」

「ううん、先ずは危ない人達だけ覚えておけって先輩に言われたから、

もちろんその中にはヴァルハラは入ってなかったよ」

「そう、先輩って会長の事よね、放課後にでも一緒に話を通しに行きましょうか」

「うん、そうだね!」

「時間的にお昼はここまでね、八幡絡みの話はまあ、明日にでもしましょうか」

「うん、そうだね、八幡さんについていっぱい語り合おう!」

 

 唯花があっけらかんとそう言った為、詩乃はやや毒気を抜かれたような表情をした。

 

「そ、そうね、それじゃあ放課後にまた、今度は私一人で迎えに行くわ」

「うん、分かった、待ってるね!」

「それじゃあみんな、今日のお昼はここまでよ」

 

 詩乃の女王様的号令で、一同は荷物を纏めて腰を上げた。

 

「そんな訳で、明日もここでみんなでお昼を食べるわよ、

というか、しばらくそうしましょっか」

「うん、そうだね、そうしよ!」

 

(えっ、し、しばらくこれが続くの!?)

 

 貴子は目の前が暗くなったが、明日をピークとして、

明後日からはプレッシャーがかなり軽減した為、

貴子の胃の調子がこれ以上悪くなる事は無かったのであった。

こうして詩乃グループに、新たな人物が加わる事となったのである。


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