その日の放課後、詩乃が一人で唯花を迎えに教室に現れた時、
クラスメート達は、唯花が完全に詩乃のグループに所属する事になったのだと理解した。
「うわぁ、姫の派閥が益々強大に………」
「いいなぁ、入れるものなら私も入りたいよ」
「唯花ってば一体どうやったんだろうね」
そして詩乃が何か言い、唯花はとても驚いたような顔をした。
僅かにこちらにその声が聞こえてくるが、クラスメート達には何の事かさっぱり分からない。
「嘘、アスモちゃんもここにいるの?」
「ええ、確かな情報よ。本当は観察するだけにするつもりだったけど、
昨日の事で事情が変わったから、今から突撃よ」
「分かった、でも味方に付くように説得なんか出来るの?」
「それはもう済んでるみたい、誰がやったのかは分かるわよね?」
「あっ、そういう事なんだ、確かにこの前、一人だけいなかったのはそういう事なんだね、
うわぁ、さすがというか何というか………」
そして二人は連れ立って去っていった。
「明日も、とか何とか言ってたね、発音が少し変だったけど」
「お昼の相談かな?もう随分と仲良しになったみたいね」
クラスメート達はそんな会話をしつつ、二人を見送ったのだった。
そして数分後、二人は現代遊戯研究部の部室前に立っていた。
「ここよ」
「あ、ここなんだ?確か部員が一人しかいなくてこのままだと来年で潰れちゃう部だよね?」
「さすがは生徒会、よく知ってるわね」
「予算会議の時にその唯一の部員ちゃんは見た事があるよ、
でも本当に?とてもあんな色気のある子には見えなかったんだけど」
「つまりあれは全て演技だという事になるわね、もしそうなら凄い才能じゃない?」
「演劇部とかに入れば良かったのにね」
「直接人と話すのが苦手なのかもしれないわね、
ゲームの中ならそういうの、平気じゃない?」
「それはありそうだねぇ」
そう言いながら唯花は部屋をノックした。
「………はい?」
中から怪訝そうな声が聞こえてきた為、唯花は躊躇いなくドアを開けた。
「失礼しまっす!」
「あ、あなたは確か生徒会の………な、何か御用ですか?」
「うん、まあ御用ですね」
そう言って唯花は部屋の中に入った。その後に詩乃が続く。
「あっ、あ、朝田さん………」
「へぇ、私の事、知ってるんだ」
「え、だ、だって朝田さんはうちの学校じゃ有名だし………」
そう言ってもじもじと髪の毛をいじるその姿からは、
これがあのアスモゼウスと同一人物だとは想像も出来なかった。
服装こそ普通であったが、とにかく表情が暗い。
化粧もおざなりで髪型も適当な為、よく見ると美人そうに見えるのだが、
とにかく印象に残りにくい、山花出海とは、そんな女生徒であった。
「ねぇ、それ、わざとやってるの?」
「え?そ、それって?」
「美人なのにそれを隠すような振る舞い?」
「そ、そんな事は………それに私は別に美人なんかじゃ………」
あくまでもそう主張する出海を見て、詩乃と唯花は顔を見合わせた。
「………これ、どっちかしら?」
「どっちだろ、天然なのか、はたまた演技か………」
「まあいいわ、とにかく腹を割って話さないといけないしね」
そう言って詩乃は後ろ手に部屋の鍵を閉めた。
それを確認した出海が小さく悲鳴を上げる。
「ひっ………い、一体何なんですか?」
「私がわざわざ来た事で分からない?私はシノン、必中のシノンよ」
「私の事はちゃんとは覚えてないかもだけど、私はアルン冒険者の会のヒルダだよ」
二人は敢えてそう自己紹介をし、出海は驚愕のあまり、目を見開いた。
「えっ?えっ?な、何で………」
そんな出海の両隣に座った詩乃と唯花は、出海を逃がさないように、
その肩を両側からガシッと掴んだ。
「ふふっ、初めまして、アスモゼウスさん」
「アスモちゃん、八幡さんを甘く見すぎたね、
教えたのが電話番号だけでも、直ぐに身元を特定されちゃうらしいよ?」
「嘘っ、そ、そうなの!?」
本当はACSの導入が決め手だったのだが、別に電話番号だけでも、
若干時間がかかるだけで、身バレする結果となったのは同じである。
今回は詩乃が唯花に番号だけでも特定出来ると色々端折って説明した為に、
唯花もそれをそのまま口にしたのであるが、同時にその驚きによって、
出海は自分がアスモゼウスだという事を自白してしまった。
「何かごめんね、こんな風にあなたが身バレしてる事をバラす予定じゃなかったんだけど」
「状況が変わっちゃったんだよ、アスモちゃん」
「が、学校でその呼び方はやめて!わ、私の事は出海でいいよ」
「分かったわ、それじゃあ私達の事も名前で呼んでね」
「私は岡田唯花だよ!」
「う、うん」
正体がバレた後も、普通の女子高生らしい振る舞いを続ける出海を見て、
詩乃と唯花はぼそりと呟いた。
「どうやら天然の方だったみたいね」
「うん、それはそれで凄いね」
そして二人は出海に、何故ここに来る事になったのか説明を始めた。
「それじゃあ順を追って説明するわね」
「お、お願いします」
出海はそう言って居住まいを正した。
「この前出海は八幡に連絡先を教えてたでしょ?ベル君とプリンさんを守る為に」
「う、うん、正直八幡さんにはめられた!って思ったけど、
それならそれでって開き直って、必死に連絡先を交換するように説得したの」
「あら、あれって開き直りだったのね」
「どうしてそんなに必死に?」
「だって、朝田さん………し、詩乃が八幡さんの正式な彼女じゃないって分かったから、
彼女じゃない人でもあれだけ大事にしてもらえるなら、私にもワンチャンあるかなって……」
出海はそう呟き、そんな出海の手を唯花はガシッと握った。
「うんうん、そうだよね!私もそんな感じだったよ!」
「やっぱり文化祭の時の私と八幡の会話を聞いていたのね」
「う、うん、ごめんなさい………」
「ううん、いいのよ、あれは私と八幡が迂闊だったわ」
詩乃はそんな出海を快く許した。
「つまり私達三人は、似た物同士って事になるわね」
「あ~、そういう事になるのかも!」
「ど、同士みたいな?」
「ええ、そうね」
それでどうやら三人には仲間意識が芽生えたらしく、
この後から出海の態度もかなり軟化する事になった。
「それじゃあ説明を続けるね、で、その後に私も八幡さんと連絡先を交換する事になって、
色々あって、夜のスーパーで一緒に買い物をする事になったの」
「ど、どうやったらそんな風に話を持っていけるの!?」
「あ、う~ん、自分で持ってったんじゃなく、八幡さんが優しさを発揮してくれて、
そのせいで結果的にそうなった感じなの。で、そこにたまたま貴子………遠藤さんがいてさ」
「遠藤って、あの遠藤さん?」
そう言いながら出海はチラっと詩乃の顔を見た。
「うん、あの貴子で合ってるわ」
「で、私達が帰った後、貴子がALOのプレイヤーらしき人達と遭遇して、
頑張ってその会話を録音してくれたのね」
「へぇ?」
「とりあえずこれがその会話よ、聞いてみて」
そして詩乃は、スマホをテーブルに置き、音声の再生を開始した。
「は、はぁ?うちのメンバー?誰?」
「ああ、やっぱり七つの大罪の幹部の出海でも、これだけじゃ分からないみたいね」
「でもこの人達の正体は分かってるわ、元連合の残党よ。
ゴーグル、コンタクト、フォックス、テール、ビアード、ヤサ、バンダナ、
この中に知ってる名前はある?」
「あ~、そういえばゲームを始めたての時、そんな人達の噂は聞いたかも………」
「その程度か、まあ仕方無いわよね、小物だもの。
まあそんな訳で、そいつらが七つの大罪に潜入して、中から色々引っ掻き回そうとしてる訳」
そこまで説明が進んだ時点で、出海はやっと、
何故二人がこうして自分にコンタクトをとってきたのか理解した。
「そっか、だから私の所に来たんだ」
「そういう事」
「分かった、私がうちのメンバーをしっかり監視すればいいんだね」
「うん、お願い」
「頼んでいい?私も手伝うからさ」
二人のその頼みを、出海は快く引き受けた。
「うん、任せて!どうでもいいゲームの仲間よりもリアルの方が大事だもんね!
うちの幹部共って本当に馬鹿だから、事が起こっちゃったら止められないかもしれないけど、
出来るだけそうならないように、早めに正体を突き止められるように頑張るよ!」
「ありがとう出海、下手をしたらALOを続けられなくなっちゃうかもしれないけど………」
そんな出海に感謝しつつも、申し訳なさそうにそう言う詩乃に、
出海はドンと自分の胸を叩いてみせた。
「大丈夫、その時は別ゲームからキャラをコンバートさせて、
そっちでヴァルハラに入れてもらうから!」
「あはははは、逞しいのね。分かったわ、その時は私が何とかするわ」
「調子が出てきたのかな?行動力あるねぇ」
「リアルじゃ全然そんな事はないけどね、ほら、私って別に色気とかまったく無いし」
「そう?でも微妙にエロい仕草をしてる時があるわよ?」
突然詩乃にそう言われ、出海はぽかんとした。
「え、嘘、本当に?」
「うん、本当に」
「き、気をつけなきゃ………リアルじゃ大人しい理系少女で通してるんだし。
まあ通してるって言っても、その正体はこの程度でしかないけどね」
「大人しい理系少女………まるで理央ね」
「理央ってリオン?あの子そういう子なの?」
「ええ、しかもかなり胸が大きいの。正直最近の八幡の一番のお気に入りは、あの子かも」
「うわ、ライバルが強力すぎる………」
「あら、唯花だってそこそこあるじゃない」
「それを言ったら詩乃だって出海だって同じくらいはあるじゃん!
その詩乃がかなり胸が大きいって言うんだから、その戦闘力は計り知れないよ!」
その言葉に詩乃は、難しい顔をした。
「う~ん、でも八幡の周りには、それクラスの子は結構いるわよ」
「ええっ、ほ、本当に?」
「ってか八幡さんの周りには、どのくらい女の子がいるの?」
「聞かない方がいいわよ、もしかしたらくじけちゃうかもしれないしね」
「えっ、ま、まさかそんなに?」
「聞きたい!教えて、詩乃!」
「う~ん………まあいいけど」
そして詩乃はぶつぶつと女性の名前らしきものを呟きながら指を折っていった。
その数が十を超え二十を超え、三十を超えた時に、二人はギブアップした。
「もういいや、分かった、いち、じゅう、とてもたくさん、って奴だね!」
「うわぁ、うわぁ、八幡さんってエロい大人なんだ………」
「誤解しないで欲しいんだけど、八幡は多分、彼女の明日奈以外には手を出してないわよ」
「えっ、そうなの?」
「あっ、分かるそれ!八幡さん、私が何でも一つ言う事を聞くって言ったのに、
何もしてこなかったもん!」
「ああ、そういえばそんな話もあったわね、その話を詳しく………
と言いたいところだけど、今日は時間が無いわね、この後生徒会長の所に行かないとだし」
「そう言えばそうだったね、まあその話は明日のお昼って事で!」
「何、唯花はその事を自分から喋りたいの?」
「うん、だって愚痴にしかならないもん!」
「なるほどね、出海もそれでいい?」
「えっ?えっ?お、お昼って?」
「屋上に私の縄張りがあるのは知ってるでしょ?お昼にそこに集合よ」
「わ、分かった、明日だね!」
こうして相談を終えた三人は、その足でファーブニルこと雨宮龍の所に向かい、
同じように事情を説明し、協力を取り付ける事に成功した。
「ふう、とりあえずはこれでオッケーかな」
「それじゃあ八幡に事情を説明しておくわね」
「うん、お願い」
そして詩乃は八幡に電話を掛け、事情を説明した。
その電話中に詩乃は、何ともいえない表情で二人に言った。
「ねぇ、八幡が話し合いをしたいから、今から迎えに来るって。
そのままソレイユに集合って言ってるんだけど、どうする?」
「へっ?」
「ソ、ソレイユに?」
二人は迷ったが、結局その申し出を承諾した。
「それじゃあ学校近くの喫茶店で待機って事で」
「八幡さんが自分で迎えに来てくれるの?」
「そうみたい、喫茶店のお金も払ってくれるから、好きな物を頼んでいいって」
「うわ、行動力………」
「さすが八幡さんだねぇ」
「遠慮せずに高い物を頼みましょう」
そのまま仲良く下校しようとした三人は、当然注目を集める事となった。
「見られてる………」
「これで出海も詩乃グループの仲間入りだね!」
「そ、そうなの?」
「絶対そういう事になるって!という訳で出海にも、多少は見た目を気にしてもらわないと。
ほら、詩乃グループってば、トップカーストだしね!」
「ええっ?わ、私、あまり自信が無いんだけど………」
「大丈夫、私に任せて!」
「う、うん、お願い」
こうして詩乃グループに、更にもう一人、山花出海が加わる事となった。