ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第928話 ピュアタンク

「さて、何を頼む?」

「あまり時間は無いよねぇ?」

「まあ少しくらいなら待ってくれるんじゃないかしら、

もしあれなら八幡も参加させればいいと思うし」

「うわ、詩乃、強い!」

「それくらい強引にいかないと、八幡はすぐ逃げちゃうの」

「そうなんだ、メモメモっと………」

 

 三人はこの短時間で、かなり仲良くなっていた。

 

「それじゃあ私は一番高いこのケーキを………」

「あっ、それじゃあ私もそれ!」

「う~ん、シェアした方がいいと思うし、高い方から順番に三種類でいいんじゃない?」

「そっか、それじゃあそうしよっか!」

 

 詩乃はそれなりに経済的余裕があるが、唯花と出海はそうでもない為、

こういった機会は逃す訳にはいかないのである。

そして三人は注文が来た後、それを食べながら再び八幡について語り始めた。

 

「というか八幡さんって、やっぱりソレイユの関係者なんだね」

「って事はヴァルハラ自体がそうなんだ?」

「まあバージョンアップの担当とかもうちの人間だしね。

でも攻略情報とかを聞くような事はしてないわよ」

「あっ、そうなんだ?」

「正直そんな事をしなくても、うちのトップは化け物揃いだから問題ないのよね」

「あ~、確かにそうかも」

()()()()()()()()()()の七人って確かに格が違うよね………」

「確かにそうかもだけど、でも武器の恩恵も大きいと思うわよ」

 

 詩乃はそう一言付け加えた。

 

「あっ、確かに!」

「ヴァルハラの職人って充実してるもんねぇ」

「その為に八幡が一番気を遣ってるのが、経験値稼ぎの効率ね、

正直あそこまで凄いとは、今でも時々驚く事があるわよ」

「それ、分かる!この前参加させてもらって本当に驚いたもん!」

「出海、それってもしかして、この前いなかった時の事?」

「あっ、まずい、私の悪事がバレた!?」

「それは別にいいんだけど、どのくらいの効率なの?

この前アルヴヘイム攻略団で狩りをした時は、一時間辺り五万くらいだったけど………」

 

 出海はその問いに対して口を開きかけ、すぐに閉じた。

言っていいのかどうか迷っているような、そんな感じである。

 

「そ、そうだね、いつもそのくらいだよね」

「ヴァルハラの狩りだとどのくらいなの?」

「えっと………」

 

 出海は困った顔で詩乃の方を見た。

 

「普通はそうなの?うちの狩りの効率は一時間だと、大体八十から百万よ」

「ひゃっ………百ぅ!?」

 

 唯花は思わずそう声を上げ、周りの客達が何事かと唯花の方を見た。

唯花はへこへこと周りに頭を下げ、二人に詰め寄った。

 

「えっ、本当に?何それ、一体どうやってるの?」

「どうもなにも、ただ思いっきり敵を釣ってきて、範囲攻撃を中心に全滅させるだけよ」

「それでも限度があるよね!?ってか敵を止められなくて終わりだよね?」

「うちは平気だけど………」

「何で!?」

「あ、多分タンクの力量と装備だと思うな」

 

 両方の狩りの事を知る出海が、二人にそう言った。

 

「ヴァルハラのタンクってそんなに強いの?」

「というか、世間一般のタンクが弱すぎるのよ」

 

 出海はさすが、現代遊戯研究部の部員らしく、そう分析を披露した。

 

「そうなの?」

「だってタンクって、必要能力値が相当高いスキルが無いと、

攻撃力が無さすぎてソロには不向きじゃない?」

「ソロは確かにそうだね」

「だからギルドで人を集めるにしても、強い人を募集すると、タンクって全然いないよね?」

「う、うん、確かにうちのタンクも専門じゃなくて、

ステータス構成的にまあタンクも出来なくはないって程度の人しかいないかも」

「でもヴァルハラのタンクはそうじゃない、

最初から全てのステータスをタンク向けに調整してる、そうでしょ?」

 

 出海にそう言われた詩乃は、その言葉に頷いた。

 

「ええそうよ、でも出海の話がよく分からないんだけど、普通はそうじゃないの?」

「残念ながら普通は違う、タンクは上級者に上がる為のハードルがとにかく高くて、

最初から装備に金はかかるし仲間がいないと何も出来ないし、

やりたくてもやれないってのが現状だな」

「あれ、八幡?」

「「八幡さん!?」」

 

 その詩乃の疑問に返事をしたのは、いつの間に来ていたのだろう、八幡であった。

八幡は空いていた詩乃の隣に座り、ウェイトレスに飲み物を注文して三人に向き直った。

 

「面白い話をしてたな、お前達」

「あっ、は、初めまして、山花出海です」

 

 この中で唯一八幡に顔を知られていない出海が、そう自己紹介をした。

 

「おう、知ってる知ってる、全部調べたからな」

「そ、そうですよね………」

 

 出海は確かにそうだったと気が付き、引きつった笑いを浮かべた。

 

「八幡、説明の続き」

「おう、つまり出海が言いたかったのはこういう事だろ?

なので専門にタンクをやれる人間は、よほど仲間に恵まれた奴だけだ、

そして現状その環境が完璧に整えられているのはヴァルハラしかない」

「は、はい、そうです」

「正解だ」

 

 八幡はそう言って、出海に笑いかけた。

 

「確かにそれは正解だ。例え仲間内で始めたとしても、タンクの有用性を知らなければ、

どうしても序盤には、キャラを育成するのが容易な編成にしちまうもんだ。

せっかくタンクを育てても、そのタンクがやめちまったりしたら大損だからな。

なので今いるタンクはアタッカーから転向した奴がほとんどだ。

だがうちは違う、セラフィムもアサギもピュアタンクだからな」

「あれ、ユイユイは?」

「ユイユイは俺の手柄じゃないから今は言わなかったんだよ。ユイユイは少し特殊でな、

ユキノ、コマチ、ユイユイ、イロハの四人でしか動かなかったから、

その分ピュアタンクとして育成する事が可能だった。資金は全部ユキノが稼いでたしな。

ちなみにその四人の中で、比較的単独行動もしてたのはユキノだけらしい」

「そう聞くと、全部ユキノの手柄に聞こえるわね」

「手柄ってか、何かに打ち込んだ時のユキノがやばすぎるってだけの話だ」

 

 八幡はそう話を締めくくった。

 

「なるほど、だから敵の攻撃をそこまで受けられるのね」

「何の話だ?」

「今は狩りの効率の話をしてたのよ、タンクの話はそのおまけね」

「なるほど」

 

 八幡はそう頷いた後、何でもないかのようにこう呟いた。

 

「まあうちのタンクはスキルキャンセラーとか能力向上薬も使ってるけどな」

「えっ?あれって凄く高くない?」

 

 スキルキャンセラーとは、スキルのクールタイムを強制的にゼロにする薬である。

その値段はとてもお高い。能力向上薬はそうでもないが、

効果時間が短い分使う量が増える為、金がかかる。

 

「確かに高いが、その分敵も多く倒すんだから、チャラみたいなもんだろ?」

「う、で、でもそれじゃあ金策が!」

「それが間違ってるって言うんだよ、金策は金策としてやった方が遥かに効率がいい、

両立出来るような狩り場ならそれでもいいと思うが、

そういった狩り場は大体混んでるからな」

「そ、それはそうかも」

「まあ狩りの話はそんなもんだ、よし、それじゃあ行くか」

 

 三人がケーキを食べ終えたのを見て、八幡はそう促した。

 

「よし、それじゃあ勝負ね」

「勝負?何のだ?」

「助手席に誰が乗るかの勝負に決まってるじゃない」

「………さっさとすませろよ、俺はお会計をしてくるからな」

 

 そう言って八幡はさっさとカードで支払いを済ませ、三人の勝負の行方を見守った。

その勝負に勝利したのは、さすがというか、詩乃であった。

 

「ふっ、私の勝負強さは健在ね」

「そういえばお前、去年のクリスマスの時も勝ってたよな」

「ふふん、これからは私の事を、勝利の女神と讃えて大事にしなさいよね」

「な?詩乃はこういう奴なんだよ、お前らも騙されるなよ」

 

 その言葉に唯花と出海はうんうんと頷き、詩乃はじろっと二人を睨んだ。

 

「何か言いたい事でも?」

「「別に無いよ!」」

 

 二人はそうハモり、そのまま後部座席に乗り込んだ。だが詩乃は動こうとしない。

 

「おい詩乃、何やってる、行くぞ」

「いつもみたいに助手席にエスコートしなさいよ」

「そんなのした事無いだろ、さすがに盛りすぎだろ」

「学校でしてもらったと記憶してるけど?」

「う………」

 

 確かに昔、そんな事もあったかもしれないと八幡は思い当たった。

 

「いいからさっさと乗れ」

「い・や・よ」

「じゃあお前はここに置いていく事にする、必要なのは唯花と出海だからな」

「八幡、早く出発するわよ、ほら、乗って乗って!」

 

 自分が形勢不利だと察するや、素早く助手席に乗り込む詩乃であった。

 

「はぁ………最初から素直にそうしろっての」

 

 そう言って八幡は運転席に乗り込み、車をスタートさせた。

 

「詩乃、凄いね………」

「八幡さんと対等に渡り合ってるね………」

 

 二人はそう呟き合い、そして十五分ほどのドライブを経て、四人はソレイユへと到着した。

そんな四人を受付でかおりが出迎えた。

 

「八幡、お帰り!」

「おう、ただいま」

「あれ詩乃、制服なんて珍しいね、凄くかわいい!」

「ふふっ、ありがと」

 

 そう明らかに年上に見えるかおりにタメ口で応対する詩乃を見て、

唯花と出海はひそひそと囁き合った。

 

「詩乃って姫っていうより女王様っぽくない?」

「あと何年かしたら、いい女王様になるかもですなぁ」

「だろ?あいつはああいう奴なんだよ」

 

 そこに八幡も加わり、三人はじっと詩乃の後ろ姿を見つめた。

 

「ん?何?」

「いや、何でもない、こっちだ」

 

 そう言って八幡は奥へと歩き出し、三人はその後を追った。

 

「どこに行くの?」

「秘書室だ、小猫も交えて相談した方がいいと思ったからな」

「ああ、だからソレイユなんだ、薔薇さんは仕事中は動けないものね」

「まあそういう事だ」

 

 そして秘書室に入った四人を薔薇が出迎えた。

 

「八幡、おかえりなさい」

「おう、連れてきたぞ、小猫」

「初めまして、秘書室長の薔薇よ」

 

 二人に突っ込まれるのを避ける為か、小猫呼ばわりしてきた八幡を無視し、

薔薇は二人に向けて苗字だけを口にした。

 

「は、初めまして、岡田唯花です」

「山花出海です」

 

 そう頭を下げる二人の横で、詩乃が何かに気付いたように誰もいない方に声をかけた。

 

「あれ、三人ともそこで何してるの?」

「「「うっ」」」

 

 詩乃の呼びかけに答えて薔薇のデスクの向こうからそんな声が聞こえ、

そこに三人の女性が立ち上がって姿を見せた。

 

「お?三人ともいたのか?そこで何をしてたんだ?」

「あ、あは………えっと、サプライズを演出しようと思ってたんだけど………」

「詩乃、どうして分かったの?」

「あそこの鏡に映ってたわよ」

「あ、ああ~!」

「くっ、不覚………」

「あちゃ、失敗しちゃったね」

 

 そこにいたのは明日奈、クルス、理央の三人であった。

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