「そもそも明日奈達はどうしてここに?」
「えっと、たまたま遊びに来たんだけど、
そしたら八幡君が、しのノン達を連れてくるって聞いから、ちょっと見学しようかなって」
「ふ~ん、まあいいか、好きにしてくれ」
「うん、ありがとう八幡君!」
明日奈はそう言いながら、とても自然に八幡の隣に座り、その肩に頭をもたれかけさせた。
いきなりのマウント取りである。反対の隣はクルスが確保し、理央はその隣に座った。
この辺りに力関係が出ていて面白い。
そして明日奈達三人は、興味津々で唯花と出海の観察を始めた。
二人にしてみれば、まるで蛇に睨まれたカエル状態である。
「ね、ねぇ詩乃、あの三人って………」
「アスナとセラフィムとリオンよ」
「アスナさんは分かったけど、残りはその二人かぁ!」
「は、計り知れない戦闘力を感じる………」
「いやいや待って待って、セラフィムさんのスタイルもやばくない?」
「それを言ったらアスナさんも、ゲームの中より遥かに胸が大きくない?
普通はゲームの中の方が盛ってるものだよね?」
そう言いながら二人が見ていたのは、当然明日奈、クルス、理央の胸であった。
やはり二人もお年頃という事なのだろう。
「あ~、明日奈はちょっと特殊なのよ、あまり言う事じゃないんだけど、
少し前まではちゃんと栄養が取れない状態だったから、
ここにきて栄養状態が改善させたせいで、その、ね?」
「「あ、ああ~!」」
二人はその言葉だけで事情を察したようだ。
「そっか、そういう事か………」
「やっと栄養がもらえた胸が、喜びの声を上げてるんだ………」
二人はそう言いながらじっと明日奈の胸に注目し、
それに気付いた明日奈はやや恥ずかしそうに頬を染めた。
「「か、かわいい………」」
「まあ明日奈を悲しませるのはうちじゃご法度だから、
あんた達も一線は超えないようにしなさいよね」
詩乃のその言葉に二人は頷いた。
「よし、それじゃあ小猫、あいつらの事をこの二人に説明してやってくれ」
八幡にそう言われた薔薇は、頬をひくひくさせた。
「あ、あの、八幡さん、さっきから言ってるその小猫って何の事ですか?」
「お、良く聞いてくれたな、小猫というのはこいつの本名だ、
薔薇小猫、どうだ、嘘みたいにかわいいだろ?」
「あ、そうだったんですか!確かに凄くかわいいですね!」
「お、大人をからかうんじゃないわよ」
薔薇は複雑そうな表情をしながらも、やはり悪い気はしないのだろう、
顔を真っ赤にしながらそう言った。
「そ、それじゃあ私が知る限りのあいつらの事を教えるわね」
「あの、あいつらって………」
「遠藤が遭遇したあいつらだな、あいつらは元々、
SAO時代に小猫の部下をやってたんだ」
「えっ?薔薇さんもSAOサバイバーだったんですか?」
「え、ええ、実はそうなの」
八幡も明日奈もそれ以上、余計な事は言わなかった。
もう更生している薔薇の過去の心の傷をえぐるつもりはまったく無いのだ。
そして薔薇は、二人にそれぞれの口癖や剣を振るう際の癖などを、
身振り手振りを交えながら説明した。
二人はそれを熱心に聞き、時には情報をスマホにメモっていった。
「私が知っているのはこれくらいかしら、また思い出したら教えるわ」
「ありがとうございます!」
「この情報を元に、もっとよく観察してみます!」
「ええ、お願いね」
薔薇は激しく動いたせいか、パタパタと手で顔に風を送り、
それでも足りないらしく、上着を脱ぎ始めた。
「ふう、さすがに暑いわね」
「「あっ!」」
その時唯花と出海が驚いたような声を上げた。
そう、二人は気付いてしまったのだ、薔薇が着やせするタイプであり、
胸部装甲の防御力が凄まじく高い事を。
「ど、どうしたの?」
「あ、いえ、凄いなって思って………」
「どうすればそうなれるんですかね………」
「え?昔の事を必死に思い出しただけだけど、そんなに凄い事だったかしらね?」
薔薇は二人が何に感心しているのか分からず、そうズレた答えを返した。
「お前は何を言ってるんだ?」
「え?何かおかしかったかしら?」
「その二人はお前の胸を見て言ってるんだよ、相手の視線くらい読………い、痛ててて!」
「八幡君、どこを見てるのかな?かな?」
薔薇にそう突っ込んだ八幡の頬を、明日奈が即座につねり、強引に自分の胸元に向けた。
「八幡君が見るのはこっち!」
「お、おう、どうもありがとう?」
「どういたしまして」
明日奈は貫禄たっぷりにそう答え、クルスが横から八幡に声をかけた。
「八幡様、思い切って振り向けば、私と理央の谷間も見えますよ?」
「え、えっと………そ、そのお気持ちだけで」
八幡はまさかそちらに視線を向ける訳にもいかず、そう答えるしかなかった。
代わりにそちらに視線を向けたのは明日奈である。
「むぅ………やっぱりまだ負けてる………」
「それはそうだよ、八幡様に谷間を見せつけてその目を喜ばせるのが私達の仕事だもん、
ですよね?室長?」
「そ、そうなの?」
クルスにそう話を振られ、薔薇は自分の胸を見ながらぶつぶつと呟き始めた。
「って事は、私も服装をもう少し考えた方が………」
「おい馬鹿猫、んな訳ないだろ、真に受けるんじゃねえ」
「あっ、そ、そうよね?」
「でもアピールしないと置いてかれますよ、室長。ほら、理央を見て下さい」
当然一同の視線は理央に向く。理央は先ほどから盛大に頬を赤らめていたが、
胸の谷間に関しては、むしろ強調するようにやや前のめりになっており、
しかもそれをさりげなく八幡の方に向け、まったく隠そうとはしていなかった。
「くっ、さすが手強い………クルスは今胸のサイズはいくつくらい?」
「私は九十四かな」
「理央は?」
「きゅ、九十二………」
「小猫さんは?」
「私は九十五ね、ギリギリ勝ったわ」
「私が今八十八か、う~ん、でもまあさすがにそろそろ限界っぽいし、
後は八幡君にもっと揉んでもらうしかないのかなぁ」
「おい明日奈、人前でそういう事を言うのはやめような」
その赤裸々な会話を聞きながら、高校生チーム(正確には理央もだが)は、
顔を赤くしてひそひそと囁き合っていた。
「カップとの兼ねあいもあるんだろうけど、
八幡さんの周りの子って、基本的な戦闘力が高すぎる………」
「一応言っておくけど、ここにいるのは特に戦闘力の高い子達だからね」
「えっ、そうなの?」
「ええ、例えばさっきの受付のかおりさんは普通だったでしょ?」
「あ、確かに」
それで二人は一応納得はしたものの、
尚も繰り広げられる大人達の会話を聞いていると、やはり複雑な気持ちになったらしい。
「ねぇ詩乃、大人になるってああいう事なのかな?」
「わ、私に聞かないでよ!」
「でも私達、明らかに足りてないよね」
「私はそこまで気にしないけど、まあこれからよ、これから」
「そうだといいんだけどねぇ………」
「お前達、さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ」
そんな三人に八幡が声をかけてきた。
「あ、ううん、何でもないわ」
「私達ももっと頑張らなくちゃって話ですね」
「ん、そうか、まあ頑張ってくれ」
おそらく八幡は、経験値稼ぎとかそういったものを想像してそう言ったのだろうが、
実際は胸の事について言っている為、三人は複雑な気持ちになった。
丁度その時部屋のドアがノックされ、新たに二人の女性が入室してきた。
「はぁ~い、どう?やってる?」
「姉さん!」
「おっ、この二人が八幡の新しい女か?」
「おいこらレヴィ、風評を撒き散らすんじゃねえ」
現れたのは陽乃とレヴェッカだった。どうやら様子を見に来たらしい。
「ちょ、ちょっと詩乃、あ、あちらのお二人は?」
「ソレイユの社長とその護衛」
「い、いや、待って待って、戦闘力がおかしくない!?」
「嘘、まだ上がいるというの………」
唯花と出海は陽乃とレヴェッカの胸を見て絶望的な表情をしていた。
どんなに頑張っても自分達があの領域まで行ける気がしないからである。
「む、胸って高校を卒業してから大きくなるのかしら………」
「そ、そうだよ、きっとそう!」
「ん~?胸の事が気になるの?」
陽乃はその二人の言葉を聞き、部屋にいるメンバーの
「………ああ、この中にいたらそう思うかもしれないわね、
でも私は高校の時とそんなに変わってないし、理央ちゃんは現役の高校三年生よ?」
「えっ?」
「嘘………」
二人の視線は当然理央に集中し、理央は恥ずかしそうに胸を隠した。
「わ、私よりも優里奈の方が大きいし………」
「ゆ、優里奈?誰?」
「優里奈は八幡が親代わりをしてる子で、私達と同い年よ」
「あ、足長おじさん!?いや、むしろ光源氏!?」
「それよりも同い年!?」
二人は驚愕したが、詩乃は案外落ち着いていた。
おそらくこれは、付き合いの長さが関係しているのだろう。
詩乃は既にそういうものだと悟っており、無いものねだりはしない事にしているのだ。
「はいはい、どうどう、落ち着いて落ち着いて」
詩乃は二人をあやすようにその肩をぽんぽんと叩き、
八幡はそれを呆れたように眺めていた。
「何だこれ………」
そこに再び来訪者があった。部屋のドアがノックされたのだ。
「あっ、いた、八幡、ちょっと見てほしいデータがあるんだけど………」
そう言いながら入室してきたのは紅莉栖であった。
二人は紅莉栖を見てビクッとしたが、その胸が視界に入った瞬間に、
二人は感動したように紅莉栖に抱きついた。
「女神様!」
「ああ、死ぬほど安心する………」
「えっ、い、いきなり何!?」
そんな三人の様子を、周りの者達は生暖かく眺めていた。
その後紅莉栖が同い年だと知った二人は紅莉栖とすっかり打ち解け、
女子高生チームとして優里奈やフェイリスも交え、交流していく事になる。
こうしてこの日の話し合いは、一応抑えるべきところは抑えた形で終わりとなり、
唯花と出海は与えられた情報を元に、
密かに協力して七つの大罪のメンバーを監視する事となったのである。