ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第930話 告知

 ソレイユでの話し合いの後、ヒルダとアスモゼウスは連携し、

七つの大罪を内と外から見張っていたが、未だに該当する人物を見つけられないでいた。

よほど巧妙に擬態しているのだろう、何人か候補にあがる者はいたが、

確信を得るには至っていなかった。

 

「どうしよう、見つからない………」

「仕方ないよ、だって七つの大罪の連中、問題児が多すぎだもん」

「それはそうなんだけど、まったく人としてどうなのよ………」

 

 そのアスモゼウスの言葉通り、捜索が難航している一番大きい理由はそこであった。

とにかく怪しいプレイヤーが多すぎるのだ。

そもそも七つの大罪とはそういうギルドであるのだから、それは仕方ないが、

アスモゼウスの立場から言うと、愚痴の一つも言いたくなるのであろう。

 

「はぁ、トラフィックス関連のイベントの導入までに見つけておきたかったんだけどな」

「まあ仕方ないよ、これからも頑張ろ?」

「う、うん………」

 

 今の会話で分かる通り、もうトラフィックスの寄港は目の前まで迫っていた。

明日、その内容が発表されるはずである。

 

「あ、詩乃から連絡がきたよ、明日の昼に屋上に集合だって」

「ん、分かった、明日の昼ね、それじゃあ今日は落ちよっか」

「うん、そうだね」

 

 そう言って二人は()()()()()()()()()からログアウトした。

調査が進まないのは実はそういった理由もある。

あの話し合いの少し後に、七つの大罪とナイツを組んでいるスコードロン『ハレルヤ』から、

こんな申し出があったのである。

 

『ゾンビ・エスケープの無双モードの方が、経験値の取得効率がいいらしい、

そっちにコンバートして試してみないか?』

 

 ルシパーがその提案に乗り、試しにやってみたところ、

確かに効率が良かった為、最近はこちらに遠征する事が多く、

その為に仲間達が剣を振るう姿もあまり見られず、

より一層特定が困難になっていると、まあそんな訳である。

 

「もう、本当にタイミングが悪い………」

「仕方ないよ、確かにこっちの方が楽だもん」

「まあそれは否定しないけどさ………」

「確かに困っちゃうよねぇ………」

 

 そう愚痴りつつ二人はログアウトし、そして迎えた次の日の昼休み、

二人が連れ立って屋上に行くと、そこには詩乃しかいなかった。

 

「あれ、映子と美衣と椎奈は?」

「ああ、さっきザスカーから発表があったでしょ?だから今日は遠慮してもらったの」

「あっ、そうなんだ」

「どんな内容だった?」

「私も更新したって事しかまだ知らないわ、まあお昼を食べながら見てみましょ」

「うん、そうだね」

「それじゃあお昼にしよっか」

 

 あれから二週間、二人はもうすっかり詩乃グループのメンバーとして認識されていた。

さすがにそれだけ経つと、二人もそういった立場にすっかり慣れており、

なんら緊張する事なく、この状況に馴染んでいるのであった。

 

「さて、ムービーを見てみましょうか。え~っと………」

「長い旅を経て、トラフィックスは未知なる星にたどり着いた?」

「だがそこは太古の竜が闊歩する星であり、

その牙が今まさに、トラフィックスに迫ろうとしていた?」

 

 そしてその映像には、先日見た悪夢のような敵の姿が映っていた。

 

「げ………これって………」

「ラプトルが映ってる………」

「って事は、次の相手も恐竜なんだ」

「男の子って本当に恐竜が好きだよね………」

 

 三人はそう苦笑しながら映像に目を戻した。

 

「あ、四方の扉が解放されてる!」

「そこから敵がなだれこんできてるね………」

 

 その後はトラフィックス内部での戦闘映像が流れ続けたが、

不意に違うシーンがムービーに挿入された。

 

「これは………?」

「プレイヤーが扉を閉じてるね」

「で、ええと………うわ、本当にジュラ紀?白亜紀だっけ?そんな感じの場所だね」

「あ、見て、遠くに何かいる!」

「この前見たTーREXに似てるなぁ」

 

 そして画面が変わり、星から四つの柱が立ち上っている光景が映し出された。

 

「光の柱?」

「あ、中にプレイヤーっぽいのが見えない?」

「エレベーターみたいだね」

 

 そして再び場面が変わり、一帯が雲で覆われたような世界の中で、

妖しく光る二つの赤い光が表示され、そこでムービーが終わった。

 

「………………う~ん?」

「どういう意味だろ?」

「ちょっと八幡に電話してみましょうか、あっちも今は昼でしょうし」

「うん、お願い!」

 

 そして詩乃は八幡に電話をかけた。

 

『おう、こんな時間に何だ?』

「あ、八幡?もちろんザスカーのムービーは見たわよね?」

『その話か、今みんなでその事について相談してたところだ』

「あれってどういう事だと思う?」

『そうだな、あくまで推測だが、東西南北の四つの扉、

多分そこから敵がトラフィックスに攻めてくるんだろう。

で、俺達がその扉まで進撃して、扉を閉めて敵の侵攻を防ぎ、そのまま星に侵入するだろ?

そうすると多分、その奥には中ボスがいて、倒すと光のエレベーターが生成されて、

で、四体のボスを全て倒すとラスボスのいるフィールドに行けるようになって、

それを倒すと終わり、みたいな感じじゃないかって、今話してたところだ』

「なるほど、参考になったわ、ありがとう」

『おう、どういたしましてだな、その事で今夜メンバーに召集をかけるから、

まあまた後で連絡するわ』

「分かったわ、それじゃあね」

『しっかり飯は噛んで食えよ』

「お父さんか!」

 

 電話を終えた詩乃は、二人に今言われた事を説明した。

 

「あっ、なるほど!」

「鍵って前に取った奴だよね?」

「アルン冒険者の会はいくつ鍵を持ってるの?」

「うちは北と東の二つだけかなぁ」

「七つの大罪は?」

「南以外はあったと思う」

「ああ、やっぱり南の釣りがネックなんだ………」

「そういえば公式ページにトータルの鍵の取得状況が載ってた気がする」

「あら、そうなの?」

「うん、確かここに………」

 

 唯花はそう言ってザスカーのトラフィックス特設ページを調べ始めた。

 

「あったあった、ええと、JPサーバーはっと………」

 

 そこに表示されていた南の鍵の本数は、たった一本であった。

 

「うわ、ヴァルハラしか持ってないわ」

「って事は、必然的にうちがそこを担当する事になるわね」

「そういう事だねぇ」

「ねぇ、他のサーバーだと南の鍵がゼロって所もあるんだけど」

「へぇ?それじゃあ敵がずっと来襲し続ける事になるのかしら」

「どうなんだろうね?」

「まあJPサーバーには関係ないから別にいいんじゃない?」

「詩乃ってそういうとこ、ドライだよね………」

 

 実際は南には、かなり苦労する事になるが、東西から回り込んでいけば到達出来る。

そして光の柱を解放すれば扉を閉める為の鍵も同時に手に入るのだが、

確かにJPサーバーにはまったく関係がない事である。

 

「ふふん、まあそんな訳で、うちに感謝するのよ」

「詩乃のドヤ顔がひどい!」

「でも確かにヴァルハラのおかげではあるんだよね、

鍵が無かったら、絶対に苦労させられる事になるんだろうし」

「まあそれはそうだよね」

 

 そう話が落ち着いた所で、詩乃が二人に言った。

 

「そんな訳で、獅子身中の虫を探すのはしばらく持ち越しね、攻略に集中しないと」

「そうだね、まあ一応おかしな動きをする人がいないか見張っておくよ」

「ええ、お願いね」

「ヴァルハラは今夜集合して話し合い?」

「そうね、そう言ってたわ」

「うちは多分直前かな」

「うちも多分そうかなぁ」

「導入にはまだ三日もあるじゃない、別に急ぐ必要はないわよ」

「まあそうなんだけどね」

「あっ、それじゃあ今日、詩乃の家でお泊り会をしない?」

 

 そこで唯花が突然そんな事を言い出した、実に唐突である。

だが詩乃はその理由を察したようで、スッと目を細めた。

 

「唯花、あんたははちまんくんと遊びたいだけでしょ?」

「速攻でバレた!?」

「まあ別にそれは構わないけど、私は話し合いに行くからね」

「それで全然問題ないよ!出海はどうする?」

「う~ん、ま、まあ大丈夫」

「よし、決まりだね!」

「………はぁ」

 

 こうして唯花と出海は詩乃の家にお邪魔する事になった。

お昼の話はここで終わりという事になり、迎えた放課後、詩乃は自宅に二人を迎えた。

 

「お邪魔しまっす!」

「お、お邪魔します………」

「おうお前ら、よく来たな、まあ上がってくれ」

「はちまんくん!」

 

 先週実は、この三人は詩乃の家に集まっており、

それ以来唯花は、はちまんくんが大のお気に入りなのである。

ちなみに出海もそうなのだが、性格の違いだろう、

ここまでおおっぴらに動いたりはしない。

 

「ハイ、いらっしゃい、早速だけど、夕飯の買い物にでも行く?」

「うん、そうだね!」

「今日は何を作ろっか」

「今日は寒いし鍋とかどう?」

「いいね!出海もそれでいい?」

「う、うん、大丈夫」

 

 こうして仲良く買い物に行った三人は、帰ってから仲良く鍋を堪能し、

その後詩乃は話し合いをする為に一人でログインしていった。

 

「はちまん君、遊ぼっ!」

「わ、私も八幡さんの話をもっと聞きたい」

「………やれやれ、まあ話せる範囲でな」

 

 こんな感じで二人とはちまんくんは、どんどん仲良くなっていっているようだ。

そこに話し合いを終えた詩乃も合流し、三人は深夜まで色々な話をし、交流を深めた。

 

 トラフィックスでの戦いが、まもなく幕を開ける。


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