ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第935話 知恵を絞って

「お、重い………」

「セラ、頑張って!」

「ご、ごめん、この重さはさすがにやばいかも………」

「じょ、徐々に押されてる?」

「ぐっ………」

  

 そのトリケラトプスはかなりの巨体を誇っており、

さすがのセラフィムも、その圧力に跳ね飛ばされそうになっていた。

それはまるで力比べをしているようであったが、

ややセラフィムの方が分が悪いように見える。

むしろあの突進を止めたのが奇跡なのだ、それくらい両者の体重には差がある。

おそらくこの力の均衡が崩れた瞬間に、セラフィムは派手に吹っ飛ばされるであろう、

最悪踏み潰されて死亡するかもしれない。

 

「まずいよ、姉さん、どうしよう?」

「ここは私に任せて、アスナちゃん」

「ね、姉さん、何か策があるの?」

「任せなさい、その代わり、怒らないでね?」

「えっ?」

 

 そしてソレイユは、セラフィムに向けて大きな声で言った。

 

「セラちゃん、もしその押し合いに勝てたら、

私が秘蔵していた『デレまんくん』をプレゼントするわよ!」

「デレまんくん!?ま、まさかそれは………」

「そうよ、はちまんくんのツンデレバージョンよ!」

「うおおおおおお!」

 

 その瞬間にセラフィムの体が大きくなったように見えた。

そしてセラフィムはトリケラトプスを押し返し、

まさかのまさか、トリケラトプスはその場に尻餅をついた。

セラフィムは尚もトリケラトプスをぐいぐい押しまくり続ける。

こうなると足の構造上、トリケラトプスは頭を前に出せないと起き上がれないが、

セラフィムのせいで、それは不可能である。

つまりトリケラトプスは、ほぼ無力化されたも同様な状態に追い込まれたのであった。

 

「今だよ!」

 

 セラフィムのその言葉に呆然としていたアスナはハッとした。

 

「みんな、攻撃開始!」

 

 そこから前衛陣の攻撃が始まった。

ソレイユは先ほどの魔法でMPをかなり使ってしまったようで、見ているだけであったが、

セラフィム以上に感情的になったとある三人が、

まるで憎しみをぶつけるかのように、トリケラトプスに攻撃を加えたのである。

 

「ああもう、怒るに怒れないけど、何か納得いかない!スターリィ・ティアー!」

「お前のせいで、もしかしたらこっちに回ってきてたかもしれないデレまんくんが!

この!この!リョクタイの錆になりやがれ!」

「くぅ、デレまんくん、私も欲しかった!本当に欲しかった!絶対に許さないんだから!」

 

 その三人とは、アスナ、フカ次郎、レンの三人である。

 

「ま、まあ私は別にいいんだけど………はちまんくんがいるし………」

「よ、よく分からないけど、とにかく攻撃すればいいよね?」

 

 それに比べてシノンと、はちまんくんの事をよく知らないシャーリーは普通であった。

だがこの二人は感情で攻撃の威力が代わったりはしない為、攻撃力に変化は無い。

まあそれを言ったらレンもなのだが、

レンはこの時短剣をトリケラトプスに突き刺しまくっており、

そんなアスナ、フカ次郎、レンの姿を見たコマチは、

恐れを抱いたのか、ソレイユの後ろに隠れていた。

 

「ソ、ソレイユ姉さん、デ、デレまんくんってのを放出しちゃって良かったの?」

「ああ、この前私用に、ペロまんくんが完成したから、まあいいかなって」

「ペ、ペロまんくんって………」

「どういう性格かは、大人のヒ・ミ・ツ?」

 

(うわ、それって絶対エロい奴だ!もし誰かに漏らしたらコマチ、殺されるかも!)

 

「そ、そうなんだ………」

 

 コマチは身の危険を感じ、そう答えるに留めた。

 

「あら、遂にやったみたいね」

 

 ソレイユのその言葉でコマチは我に返った。

見るとトリケラトプスが光となって消えていく最中であった。

まともに戦えばかなりやばい敵だったはずなのだが………

 

「あ、あれ、さっきレコン君が、

角竜系は凄く硬いからやばいってみんなに情報を回してたはずなのに………」

「恋する女の子って怖いわよねぇ」

 

(自分を棚に上げてる!?)

 

 アスナ、セラフィム、フカ次郎、レンの四人は、限界を超えてぶっ倒れていた。

シノンとシャーリーはそれを呆れたように眺めている。

 

「ソレイユ姉さん、これはやっぱり休憩だよね」

「う~ん、そうしたいのは山々なんだけど、

出来ればトリケラトプスがいた所よりも前に進んでおきたい所なのよねぇ」

「あっ、た、確かに………」

 

 この場所に留まっていると、またコンピーが沸くかもしれず、

前方にはトリケラトプスも沸くかもしれない。

その事に気付いたコマチはどうしようかと頭を悩ませた。

だがソレイユは、そのコマチの悩みをあっさりと解決してみせた。

 

「ところでみんな、この場所に留まるのはちょっと危ないのよね」

「う、うん、そうだよね、でもゴメン姉さん、ちょっと立ち上がれないっていうか………」

「はぁ、はぁ………」

「頑張りすぎちゃったね………」

 

 そんな三人に、ソレイユは満面の笑みを向けた。

 

「あ、ちなみにデレまんくんは二号機があるから、

そっちはクリスマスパーティーの景品として放出するつもりだからね」

 

 その瞬間に三人は立ち上がり、雄叫びを上げた。

 

「「「う、うおおおおおお!」」」

「元気になったみたいね、それじゃあ安全圏まで移動するわよ!」

「「「イエス・マム!」」」

 

 そんな三人の姿を見て、コマチとシノン、シャーリーはひそひそと囁き合った。

 

「うわ、人ってああも簡単に操れるものなの?」

「うん、コマチ、ちょっと怖いよ………」

「よく分からないですけど、凄いですね………」

 

 そして三人は、絶対にソレイユには逆らわないようにしようと心に決め、

先行する四人の後を追ったのだった。

 

 

 

 一方こちらはサトライザーチームである。

サトライザーチームはその編成的に、遠距離攻撃が主体のチームとなっていたが、

そんな彼らは今、道半ばで足止めをくらっていた。

川のその部分の横幅がかなり広くなっており、

前方には飛び石のように足場が配置されていたのである。

 

「ここからしばらく川が深くなってるみたいだね」

「川幅も広がってますよね………」

「どう考えても川の中にやばい敵が潜んでるんじゃね?」

「あの飛び石を渡るしかなさそうだけれど、

その瞬間に、パクッ、って感じで食べられてしまいそうよね」

 

 そのユイユイとユミー、そしてイロハの言葉にユキノも頷いた。

 

「う~ん、さすがにうちの編成だと、水の中を攻撃するのは無理かしらね………」

「とはいえこれはさすがに、どこのナイツも超えられないんじゃないか?」

 

 そう呟いたユキノに、レヴィがそう質問してきた。

 

「そうね、水中で戦闘をする必要があるのかもだけれど………」

 

 ユキノはそう言いながら闇風と薄塩たらこの方を見た。

 

「う~ん、銃はさすがに水中じゃ、使えなくもないが、威力がガタ落ちだと思うぜ」

「ああ、無理だな、試した事がある」

「確かに水中で戦うのは無理だろうけど、渡るだけなら手はあるだろう?」

 

 サトライザーのその言葉に、ユキノは頷いた。

 

「そうね、水面を私が凍らせて、その隙に走り抜ければ可能だと思うわ」

「ああ、その手があったか!」

「でもそれだとちょっと負けた気にならない?」

「そうね、でもまあここは仕方ないのではないかしら」

 

 そんな一同に、闇風がこう問いかけてきた。

 

「でもよ、まだここに敵がいるって決まった訳じゃなくね?」

「………確かにそうね、どんな敵かを確認しないで対応策を考えるのはナンセンスだわ」

「でもどうやって確認する?」

「そこは俺に任せてくれ!」

 

 闇風はそう言って、自らの胸をドン、と叩いた。

 

「どうするつもりなの?」

「思いっきり助走をつけて、トップスピードのままあの飛び石を俺が駆け抜ける!

もし何かいたら、姿を見せて攻撃してくるはずだぜ!」

 

 その闇風の言葉に一同は頷いた。確かにこの中でそれを実行出来るのは闇風しかいない。

 

「ごめんなさい、頼めるかしら」

「おう、任せてくれって!」

 

 そして闇風は後方に下がり、クラウチングスタートの格好から思いっきり走り始めた。

 

「うおおおおおおおお!」

 

 そして闇風は川が深くなっている場所まで到達すると、大きくジャンプするのではなく、

さすがと言うべきか、トントントンと細かく足を動かして飛び石をほんの少しだけ踏み、

ほぼ直線起動でその場所を駆け抜けた。

そんな闇風の背後を、凄まじく大きな何かがザパン!と横切った。

闇風は浅い部分に到達してすぐに振り返ったが、敵の姿はもうそこにはなかった。

 

「やっぱり何かいやがったな!」

 

 闇風はそう叫んだ後、同じようにして再び元の場所へと駆け戻った。

先ほどと同様に、再び何かが闇風の背後を通過したが、

さすがに闇風のトップスピードに合わせて動く事は出来ないらしく、

闇風は余裕で元の場所へと戻ってきた。

 

「よく見えなかったけど、何がいた?」

「写真を撮っておいたから今見せるわ」

「おお、さすがは先生だな!」

「ふふん、当然なのだ!」

 

 闇風はユキノの事を、まるでニャンゴローに対するようにそう呼び、

ユキノも思わずそう答えた。

そしてユイユイ達が、ぽかんとした顔で自分の事を見ているのに気付いたユキノは、

頬を赤くしながら闇風の背中を叩いた。

 

「もう、おかしな呼び方をしないで頂戴、さあ、これよ」

「痛っ!ヒーラーなのにマジで力が強いんだな!えっと、どれどれ………」

 

 そして見せられた写真を見て、闇風はこう呟いた。

 

「これってモササウルスって奴か?」

「多分そうだろうな、俺とサトライザーの意見も同じだ」

「って事はあれか、このまま俺が何度も往復して、

敵が水中から出てきた瞬間をみんなに狙ってもらえば、まあいけるんじゃね?」

「確かにそうかもしれないな」

「あーし達がうっかり誤射しないように気をつければいけそうだね」

「サトライザー、どうする?」

「そうだね、それでやってみようか」

「ちょっと待って頂戴、それならこういうのはどうかしら」

 

 その時ユキノがそんな事を言い出した。

そしてユキノの説明を聞いた一同は、目を輝かせた。

 

「そっか、その手があったね!さっすがユキノン!」

「私、タイミングに自信が無いですけど、大丈夫ですかね?」

「私が二人に合図を送るわ、闇風さんが走るところは二度見たから、多分バッチリなはずよ」

「おおう、さすがというか………」

「それなら私でもいけそうです!」

「そういう事ならあーしも使う魔法の事は気をつけないとだね」

「だね!これなら絶対上手くいくよ!」

 

 ユイユイのその言葉に一同は頷いた。ユイユイの明るさはこういう時に貴重である。

笑顔でそう言われると、何でも出来るような気になってしまうのであった。

その後、少し打ち合わせた後、一同は配置についた。そしてユキノとイロハの詠唱が始まり、

ユキノの右手が振り下ろされた瞬間に、闇風は全力で走り出した。

 

「うおおおお!」

 

 ユキノはそんな闇風の背中を見ながら詠唱を続けていく。

少し前から口調がゆっくりになったのは、微調整しているのだろう。

同様にイロハも自分なりにタイミングを合わせているのか、

まるで片言のようにゆっくりと呪文の詠唱を行っている。

そして右の水面に黒い影が映った瞬間に、ユキノが左手を振り下ろしながら叫んだ。

 

「アイス・フィールド!」

 

 その手の動きに合わせ、イロハも早口で呪文を完成させる。

 

「ブリザード・ウォール!」

 

 それとまったく同時に水面からモササウルスが飛び出し、闇風目掛けてジャンプした。

だがそこにはもう闇風はいない。あるのは分厚い氷に覆われた水面と、

イロハが作った氷の壁だけであった。

 

 ゴン!

 

 そしてモササウルスはその壁に激突し、氷の上へと打ち上げられた。

その瞬間に闇風は味方から撃たれないように大きく横に避け、

同時に既に詠唱を開始していたユキノの二つ目の魔法が炸裂する。

 

「ブリザード・ウォール!」

 

 その魔法によって、モササウルスは前後を完全に塞がれ、

そしてアタッカーの攻撃が開始された。

 

「ストーン・キャノン!」

「ウィンドアロー!」

 

 炎系の魔法ほど得意ではないが、ユミーの土魔法が炸裂し、

イロハが風の矢を撃ち込み続ける。

闇風は既に横に避けており、その射線上にはもう味方はいない為、細かい調整も必要ない。

そしてサトライザーとレヴィも、魔法銃による攻撃をモササウルスに叩きこんでいた。

当然薄塩たらこも銃弾を雨あられとモササウルスに降らせている。

 

「これで勝ったわね」

 

 そのユキノの言葉通り、基本的に皮膚が厚い訳でもないモササウルスは、

一分ほど耐えはしたが、そのまま光となって消滅した。まさに陸に上がった魚状態であった。

 

「はっはっは、余裕余裕!」

「よっしゃあ、やったな!」

「うん、完勝だね」

「完璧なタイミングでしたね!」

「あーし達の勝利!」

「ごめんね、今回私だけ役立たずで」

「ふふっ、ユイユイには他の場面で頑張ってもらうから別にいいのよ、

今回はたまたま必要なかっただけ、状況次第で戦いっていうのは、まったく変わるんだもの」

「お~い、やったな!」

 

 そこに闇風も合流し、一同は勝利を喜び合った。

 

「それじゃあ移動を終えてから少し休みましょうか」

「うん、そうだね」

 

 こうして楽な戦いやきつい戦いを繰り返しながら、

ヴァルハラの各チームは進軍を続けていった。

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