「よぉ、サトライザー、ユキノ、そっちはどうだった?」
「あらキリト君、こちらは初戦は敵との相性が良かったせいで早かったのだけれど、
二戦目は結構手こずったわね」
「ああ、やっぱり相性ってあるよな」
「そうだね、初戦は誰もダメージをくらわなかったんだけど、
二戦目は結構ダメージをくらってしまったよ」
「ほうほう、何を相手にしたんだ?」
「初戦はモササウルス、二戦目はアンキロサウルスよ。
魔法があまり効かなくて大変だったの」
「アンキロかぁ、って事は、間違って手出ししちまった系か?」
「ええ、ちょっと慣れていなかったせいか、出会い頭にイロハさんがつい、ね」
「まあ仕方ないさ、女の子にはそういうの、分からないだろうしな」
「そうね、今は多少勉強したけれど、
私だって今回こういう事が無ければ、多分恐竜の事なんてまったく知らないままだったわ」
「ははっ、で、アスナ達は?先に着いてたよな?」
キリトはきょろきょろと辺りを見回しながらそう尋ねた。
「一番最初に着いて、今は一旦ログアウトしているところよ。
どうやら姉さんに乗せられたらしくて、精神的にかなりアップダウンさせられたらしいのよ」
「おう、それはアスナも災難だったな………」
「しかも連戦したらしいわ」
キリトはそのユキノの言葉に目を剥いた。
「え、マジかよ、何と何の連戦だ?」
「コンピーとトリケラトプスだそうだよ、
コンピーが凄く沢山いて、それをソレイユさんが魔法でなぎ払ったらしいんだけど………」
「その魔法が強力すぎて、一キロ先にいたトリケラトプスに命中してしまったらしいの」
「うは、それはまた豪快な………」
「相変わらず姉さんは規格外よね」
「ははっ、まあ味方なんだからいいんじゃないか?」
「ええ、そうね」
「だな!マジでそう思うわ!」
三人は微笑み合い、情報交換を続けた。
「で、キリト君は何を相手にしたの?」
「初戦はパキケファロサウルスで、二戦目はケツアルコアトルスだったわ」
「パキケファ………ヘルメット君の事だったかしら」
「かわいい呼び方だなおい!まあ合ってる合ってる、ケツアルコアトルスは空を飛ぶ奴な」
「ああ、プテラノドンよりも大きいっていう敵だったかしら」
「よく覚えてたな、それだよそれ」
キリトは感心したようにそう言った。
「どうやって倒したんだい?」
「パッキーは、とにかくカウンターで同じ所を削って、肉が露出した所でそこを爆破した。
地味にそれを繰り返して、最後はそのたくさんの穴に攻撃を集中させた感じだな」
「地味だけどまあ、王道よね」
「ケツアルコアトルスは簡単だったな、先ず俺が囮になるだろ?」
「お、囮?」
「ああ、そうしないと敵の足止めが出来なかったんだよ。
で、俺が囮になって、敵が俺を捕まえに来るだろ?それにちょっと抵抗してる間に、
翼を中心にゼクシード達に銃撃してもらって、で、空を飛べなくしてからボコったわ」
「そう、そうやって倒したのね」
ユキノは自分達のパーティならどう倒しただろうかと考えつつ、
とある疑問が頭に浮かび、ハッとした顔をした。それはサトライザーも同様であった。
「待って頂戴、簡単そうに言っていたけど、
それってキリト君にまで銃弾が浴びせられたのではなくて?」
「そうだよ、だから普通、そんな手段はとらないと思うんだけど」
「いや、まあトラフィックスも、弾道予測線が見えるから平気だったわ」
その言葉にサトライザーとユキノは顔を見合わせた。
「………ええと、と言う事はつまり弾丸を?」
「おう、全部斬ったわ、さすがに輝光剣と違って、刃筋を通すのが面倒だったけどさ」
「ははっ、さすがだね、次のBoBが楽しみだよ」
サトライザーは楽しげにそう言ったが、ユキノはその言葉に眩暈を覚えた。
「………さすがはセブンスヘヴンランキングの二位という事なのかしら」
「え、俺、何かおかしな事を言ったっけ?」
「いいえ、何でもないわ、
とりあえずランさん達がまだだから、しばらくここで休みましょう」
「今どの辺りにいるって?」
「ここだね、ハチマン達も合流したらしい」
そう言いながらサトライザーは地図の一点を指差した。
そこは渓谷エリアの最終地点であるこの場所からそんなに離れていない場所であった。
「結構近いな、ヘルプに行った方がいいか?」
「私もそう尋ねたのだけれど、必要ないそうよ。もう探険隊を呼んだから平気らしいわ」
「なのでまあ、もうちょっと休憩しておくべきだね、
もっとも時間的に、今日はここまでかもしれないけどね」
「違いない、まあ事情は分かった、それじゃあ休憩しておくかね」
「先にあのポータルに登録しておくといいわよ、そうすれば街と一瞬で往復出来るわ」
「おう、そりゃまた親切な事だな」
そう言ってキリト達は、そのポータルへと向かった。
その頃S&Dとハチマン達三人は、まさかの敵と遭遇し、戦闘中であった。
「ここでアンモナイトとか、本当にまさかだな………」
そう、敵はまさかのアンモナイトであった。
ちなみに初戦は巨大なカエルであったらしい。ハチマンも知らない生物であったが、
その名前はトロフィーから、ベールゼブフォと言う事が分かった為、
報告を受けてアルゴが調べた所、確かに恐竜時代に生息していたカエルであるらしい。
その名前の由来が悪魔『ベールゼブブ』から来ているのが何とも面白い。
そして仲間達の進行具合を見て、最初に渓谷を抜けたアスナ達から、
ポータルへの登録が必要だと聞いたハチマン達は、
一番進み具合が遅かったラン達と合流して、一緒に渓谷を抜ける事にしたのだった。
ちなみに合流した時、ジュンが疲れた顔でハチマンにこう言った。
「兄貴、俺達ってつくづくカエルに縁があるみたいだよ」
ハチマンはそんなジュンを慰めながら、こう答えたものだ。
「何、次はまともな恐竜に出会えるさ」
だが結果はアンモナイトである。もちろんそれはそれでレアだからいいのだが、
ジュンやテッチ、タルケンの男の子組が、
やはり正統派の肉食恐竜と戦ってみたかったらしく、
少し残念そうな顔をしていたのはまあ仕方がない事だろう。
とにもかくにもアンモナイトとの戦闘は開始され、そして今、絶賛苦戦中であった。
「くそ、攻撃がまったく通らねえ!」
「この殻、硬すぎだって!」
「ハチマン、私達の攻撃でも通らないわ」
「うん、あれはもう絶対に無理無理!」
「おう、俺も無理だったわ、破壊不能オブジェクトなんじゃないかってくらい硬かったな」
そう、アンモナイトの背負う殻が、
ハチマンやランやユウキでもどうしようもないくらい硬かったのである。
「ハチマン、魔法も効かないのニャ!」
「そっちも無理か、やっぱりこいつをひっくり返すしか手が無いのか………」
このアンモナイト、魔法使いが多ければ、実は倒すのはそこまで大変ではない。
要するに倒してしまえばいい訳で、地面を隆起させる手もあれば、
単純に敵の真下から、アースランスなりで串刺しにしてしまえばいい。
もしくは敵がアクティブな間に、殻の隙間からその中に侵入してしまう手もある。
体が邪魔でこちらに攻撃してくるのは不可能だし、
敵が殻に篭っても、柔らかい部分を好き放題攻撃出来るのだ。
だがさすがにそんな事は、さすがのハチマンでも思いつく事は出来ず、
結果ハチマンが選択したのは、探険部をこの場に呼ぶ事であった。
それを待っている為に、攻略が遅れているのである。
「あいつらはまだか………」
「ハチマン、また殻に篭ったわ、今は絶賛回復中でしょうね。もういい加減面倒なんだけど」
そう、しかもこのアンモナイト、
殻に篭ってくらったダメージを回復させてしまうのである。
「だよな、まあもう少しの辛抱だ、もうすぐリョウが来るからな」
その言葉通り、しばらくして、探険部の面々がS&Dに合流を果たした。
「お待たせなのにゃ!」
「はぁ、せっかく採掘が絶好調だったって言うのに困ったものじゃん」
「ハチマン、この殻食べていい?」
「俺の敵はこいつかぁ?」
「あらぁ?これはまた強そうなアカムシだわねぇ」
「すまんハチマン、少し遅れた」
ハチマンは六人の姿を見るなり満面の笑みを浮かべ、リョウに向かって走っていった。
「リョウ、お前を待ってたぞ!」
ハチマンはそのまま抱きつかんばかりに両手を広げてリョウに向けて走っていき、
他の者達は仰天した。
「えっ、えっ、どういう事じゃん?」
「まさかのリョウ大勝利かぁ?」
「ハチマン、リナも、リナも!」
「これはどういう事だ………」
「ハチマンってそうなのにゃ?」
当のリョウは、その細い目を大きく開き、珍しく狼狽していた
「え~?と、とりあえず戦う?肉弾戦?みたいな?」
だがハチマンはその直後にリョウを素通りして、
感動したようにリョウの持っていた神珍鉄パイプに頬ずりした。
「会いたかったぞ、神珍鉄パイプ!」
「「「「「「そっち!?」」」」」」
六人だけではなく、他の者達も驚いていたが、
ハチマンは一瞬で真面目な表情に戻り、リョウに指示を出した。
「リョウ、やってもらいたい事がある」
そしてハチマンはリョウに何か囁き、リョウは戸惑いながらも頷いた。
「それくらいならお安い御用だわねぇ」
リョウはそのまま壁を器用に駆け上り、
アンモナイトの殻の頂点近くの壁に神珍鉄パイプを突き刺した。
「やっていい?」
「おう、頼む!」
「オーケー、それじゃあ行くよぉ?」
そしてリョウは神珍鉄パイプを伸ばし始めた。
それにより、アンモナイトの殻が神珍鉄パイプに押されてどんどん傾いていく。
「よし、そのままそのまま!ラン、ユウ、後は分かってるな?」
「え、ええ」
「そういう事かぁ!オーケー、追いっきりやるよ!」
そして地響きを立ててアンモナイトは倒れ、無防備な腹が剥き出しになった。
「よし、さっさとやっちまえ!」
ランとユウキはそのまま大技を連発し、
アンモナイトは苦しげにじたばたと触手を伸ばして暴れ始めた。
だがこうなってはもうどうする事も出来ない。
「ラン、ユウ、離れろ!ダイン、ギンロウ、やれ!」
「よしきた!」
「了解っす!」
そのままダイン達は、敵の腹めがけて銃弾を雨あられと浴びせかけた。
だがアンモナイトはかなりしぶとく、中々消滅しない。
「ハチマン、私、欲求不満なんだけど、後でちょっと戦う?」
「おいダイン、ギンロウ、リョウと代わってやってくれ!」
そうリョウに微妙に脅され、ハチマンは即座にそう叫んだ。
「あはははは、オーケー!」
「リョウさん、宜しく頼んます!」
「お、それじゃあ俺も!」
そこにリクも便乗し、二人はアンモナイトに全力で攻撃を始めた。
「おらおらおらぁ!くらいやがれ!」
「ここでこう、こうきたらこう!そこから、バッツ~ン!」
その攻撃で遂にアンモナイトは沈黙し、そして光の粒子となって消えていった。
「よし、それじゃあポータルの所まで移動して、今日はそこまでだ!」
「おお、渓谷完全制覇?」
「おう、後は細かい資源の調査くらいだな、どこにどんなボスが出るかも分かったし、
編成を変えれば討伐も簡単になるだろう」
「次はどんな場所なんだ?」
「ジャングルだ、そのつもりで準備してきてくれ」
「そりゃまた厄介な………」
「だな、まあ何とかなるだろ、みんな、これからも宜しくな!」
こうしてヴァルハラ連合軍は、ポータルで少し話し合いをした後、
今日はそこで解散する事にした。明日からはジャングル探検である。