ヴァルハラ連合が他のナイツに先んじて南門の渓谷付近の探索を終えた頃、
他のナイツはまだどこも門にすらたどり着けてはいなかった。
まずは一番参加ナイツが多かった東門である。
ここはメカニコラスが暴れるという事件もあったりしたが、鍵自体は取り易かった為、
ここの鍵だけ持っておけばいいやと考えたライト層が大量に押し寄せていたのである。
だがその分、統率などとれるはずもなく、各ナイツが好き勝手に暴れた結果、
当然雷竜『イーガイア』に手出しするナイツもいる訳で、そいつらが暴れ回った結果、
今東門前は、阿鼻叫喚の最中にあったのである。
「うおおおお、また尻尾の攻撃が来るぞ!」
「タンクは止められないのか?」
「無理に決まってるだろ、太さだけで軽く俺達の身長を超えるんだぞ!」
「GGO組、何とかならないのか?」
「ちゃんと当ててるよ!でもHPが多すぎて全然減らないんだよ!」
こうなるともう、マラソンしながら敵を引っ張りつつ、
遠隔ダメージを積み重ねていくしかない。
強力な魔法を放とうにも、ここの中心はライト層であり、落ち着いて詠唱が出来ない為、
魔法が不発に終わる事もしばしばである。
全力で走りながら詠唱を行える者も少なく、フレンドリーファイアも頻繁に起こっており、
更に奥からは、まだまだ敵が沸き出てきているのだ。
今もまたアンキロサウルスがのしのしと這い出てきている。
東門が落ち着くまでには、このままだと数日はかかりそうであった。
続いては北門である。北の巨人はそれなりに強敵ではあったが、
比較的倒し易い部類であった為、それなりに人は多い。
こちらは『エヌガイア』と共にパキケファロサウルスの群れが出現しているようだ。
ハチマン達が門を超えた先で相手にしたものよりもサイズはかなり小さい。
だがとにかく数が多い上に、とても素早い。
それに加えて投射面が著しく狭い為、GGO組が少ないナイツは苦戦しているようだ。
もっともこちらも問題はフレンドリーファイアである。
正面からだと弾が弾かれてしまう為、どうしても横から銃撃を加える事になり、
流れ弾が四方八方をとびかっている。こちらも落ち着くまでには数日かかる事だろう。
そして問題の西門である。アルヴヘイム攻略団が中心になり、
他に五つ程のナイツが参加していたが、
肝心のアルヴヘイム攻略団がまともにナイツを組んでいないのである。
というか、組んでくれる所が無かったのである。
『おいお前ら、うちと組ませてやろう』と言って誘っていたのだから、それも当然だろう。
その為どうしたかというと、彼らは傭兵を雇う事にしたのである。その名をベヒモスという。
ベヒモスはミニガンを個人で運用しているある意味化け物と呼べるプレイヤーであり、
それ故に移動速度が致命的に遅いという欠点を抱えているが、
少なくともその攻撃力は、GGOでは有数の強さを誇る。
そんなベヒモスをもってしても、今西門で行われている戦闘は、
どうしようもなく絶望的なものとなっていた。
「また来たぞ!」
「なんて大きさだよ………」
「くそっ、まともに近寄れねえ!」
今西門で暴れているのは、スーパーザウルスが三体程である。
その中の一匹のサイズは四十メートルに達しており、まるでビルのようだ。
ちなみにその固体名を『ウィガイア』という。エスガイアと比べてもかなり大きい。
ウィガイアも他の固体と同様ノンアクティブな敵であるが、
七つの大罪のメンバーがいきなり攻撃を仕掛けた為、今は絶賛大暴れ中である。
他の二体はそれよりやや小さく三十メートルクラスだが、それでもかなり大きい。
(これじゃあミニガンはまともに使えねえな………)
ベヒモスは、リメインライトとなった状態のまま心の中でそう呟いた。
最初ベヒモスは、ミニガンで普通に攻撃していたのが、
他のプレイヤーが中々ダメージを与えられないせいで、敵にターゲットにされ、
足の遅いベヒモスは、それはもうあっさりと、
スーパーザウルスの尻尾によって叩き潰されたのであった。
「ごめんなさい、今蘇生しますから」
ベヒモスはそんな声と共に蘇生した。蘇生魔法をかけたのはヒルダである。
「すまん」
「いえ、こちらこそ守りきれなくてごめんなさい。しばらく安全な所で休んでいて下さいね」
「分かった」
ベヒモスはヒルダに短くそう答え、一旦後方へと下がった。
(ふむ………)
ベヒモスの見るところ、三十メートルクラスのスーパーザウルスはそこまで脅威ではない。
攻撃もそれなりに通っているように見えるし、HPバーも三本しかないからだ。
(だがあの大きいのとやるには準備が足りない、か)
ベヒモスは自らの装備を省みて、ミニガンではなく別の武器を選ぶ事も考慮しつつ、
戦場をぐるっと見回した。見ると七つの大罪のヒーラーであるアスモゼウスが、
コンソールを開いて何かを操作しているのが見えた。
その事は別に気にならなかったが、その数分後、アスモゼウスが再びコンソールを開き、
「きいいいいい!」
と叫びながら地団駄を踏んでいるのが見え、ベヒモスは肩を竦めた。
(残念美人って奴か)
この時アスモゼウスはハチマンに送ったメッセージの返信を受け取っていたのである。
『草食恐竜強すぎやばい』
というアスモゼウスからのメッセージに対してのハチマンの返信は、
『プークスクス』
というたった一言であった。これではアスモゼウスが発狂するのも当然であろう。
その時横から凄まじい音がし、ベヒモスは慌ててそちらに目を向けた。
見るとスーパーザウルスの小型種の一匹が地面に倒れている。
(ほう?)
その横では七つの大罪の幹部連と、小さな体で巨大な斧を振り回す少女が座りこんでいた。
(あれがALOのトップ連中か………)
ベヒモスは、もしやり合う事になった時にどう戦えばいいか考え出したが、
ルシパー達はともかくラキア相手にはまったく勝てる気がしなかった。
これは強さのせいではなく、武器の差である。
ラキアの体はその手に持つ斧にすっぽりと隠れてしまう為、
おそらく銃撃は跳ね返されてしまうだろう。その上でラキアはかなり機敏に動く。
ベヒモスは、弾切れになった瞬間に真っ二つにされる自分の姿を想像し、再び肩を竦めた。
「お疲れ様!今回復するわ!」
そんな幹部連に、発狂状態から回復したアスモゼウスが駆け寄り、回復魔法を唱え始めた。
そして回復してからしばらくした後、幹部連とラキアは次の小型種へと向かっていった。
どうやら一番巨大な固体は後回しにする事にしたらしい。
(そろそろ俺も働くか)
ベヒモスはそう考えながら立ち上がった。
結果から言うと、アルヴヘイム攻略団の西門攻略は、次の日へと持ち越しとなった。
もう一体の小型種は倒す事が出来たが、もうかなり遅い時間となっており、
街まで追いかけてくる事も覚悟の上で、一か八か全員で撤退したのだが、
幸いウィガイアが追ってこなかった為、この日の活動はそこで終わりとなったのだった。
「ラキアさん、ちょっと三人でお茶していきませんか?」
街に戻った後、そのヒルダとアスモゼウスの誘いにラキアはこくこくと頷いた。
「ラキア、あんまり遅くなるなよ、お前、ただでさえ毎日寝不足なんだからな」
スプリンガーはそう言いながらもラキアの参加を認めてくれ、
三人は連れ立って酒場へと入った。まあ酒場とはいえ実際にお酒を出している訳ではないが、
トラフィックスの街はGGOの基準で設計されている為、
カフェも酒場扱いになっているのであった。
「それじゃあお疲れ様!」
「お疲れ様」
「むふぅ」
三人はそう言って乾杯をし、今日の戦闘について話し合った。
「スーパーザウルスって言うんだっけ?あいつ、やばいね………」
「うん………」
「むぅ………」
三人は思い出したくもないという感じで疲れたようにそう言った。
「特にあの大きいの、やばいよね」
「ヴァルハラはどうやってあれを倒したんだろうね」
「ああ、そういえば私、ハチマンさんに戦闘中にメッセージを送ったのよ、
『草食恐竜強すぎやばい』って。倒すヒントでももらえないかなって期待してたんだけど、
返信がさ………『プークスクス』だったの」
「あはははは」
「ハチマンさんらしいね。もう一回ちゃんと聞いてみたら?」
「そうだね、そうしてみる」
そしてヒルダは丁寧な文章でハチマンに質問メッセージを送った。
返ってきたのはこんな短いメッセージであった。
『ヒ・ミ・ツ』
それを見たアスモゼウスは再び発狂した。
「うがああああ、ハチマンさんめ!ちょっとかわいいのがまたむかつく!」
「あ、あは………ど、どうどう、落ち着いて、アスモちゃん」
ラキアもそんなアスモゼウスの肩をぽんぽんと叩く。どうやら慰めてくれているようだ。
「まったくもう、まったくもう………」
「ど、どんまいだよ」
そこからは、アスモゼウスがハチマンの悪口を言い、それをヒルダが宥める展開となった。
ラキアはそれを楽しそうにニコニコと眺めている。
そんなアスモゼウスの肩を、ポンと叩く者がいた。
「ほうほう、そのハチマンって奴はそんなに悪い奴か」
「そうなのよ、もう本当に意地悪なの!って、え?」
慌てて振り向いたアスモゼウスの目の前に立っていたのは、
とてもいい笑顔でニコニコしているハチマンであった。その隣にはソレイユもいる。
「あ、あ………」
「よしアスモゼウス、ちょっと二人で話そうか」
「あ、いや、今のはもちろん冗談、冗談だからね!」
「ははははは、そんなの分かってるって、俺は今日の戦闘がどうだったのか聞きたいだけだ」
「お、お手柔らかに………」
「何を怯えてるんだ?おかしな奴だな、ほれ、あっちのテーブルに移動するぞ」
「は、はひ………」
アスモゼウスはそのままハチマンに連行されていき、
残された二人のうち、ラキアがソレイユに飛びついた。
「むふっ!」
「ラキアちゃん、元気?」
ラキアはその問いには答えず、ソレイユをぎゅっと抱きしめた。
もうどちらが年上なのか分からない程の甘えっぷりである。
「ソ、ソレイユさんですか?初めまして、アルン冒険者の会のヒルダです」
「話は聞いてるわ、宜しくね、ヒルダちゃん」
「は、はい!」
「えっ、ソ、ソレイユだって?」
「ぜ、絶対暴君だ!」
その言葉が聞こえたのか、店内の他のプレイヤーが一斉に逃げ出し始めた。
「………失礼しちゃうわね」
そして店内には誰もいなくなった。GGOプレイヤーも全員いなくなっている。
どうやらソレイユの名は、ナイツを通じてそちらにも周知されているようだ。
「さ、さすがというか………」
「最近は大人しくしてるんだけどねぇ」
「で、ですよね」
「それにしても丁度良かったわ、ラキアちゃん、もうすぐここに知り合いが来るわよ?」
「ん~?」
ラキアはその言葉に、誰?といった感じで首を傾げた。
「噂をすれば………ほら、来たわよ」
「!」
ソレイユの言葉通り、店の入り口に三人組の女性プレイヤーの姿が見え、
その瞬間にラキアはその先頭にいたゴスロリ少女に抱きついた。
「あらぁ?ラキアじゃない、久しぶりねぇ」
「ラキアさん、ソレイユさん!」
「こ、こんばんわ」
そこにいたのはゴスロリ風の衣装に身を包み、
猫耳カチューシャを付けて巨大な斧を持った少女と長身のシルフの弓使い、
それにいまにも後衛っぽいローブを来て杖を持った幼い少女であった。