ソレイユを尋ねてきたその三人に気付いたのか、奥からハチマンもこちらにやってきた。
その後ろを、アスモゼウスが涙目でついてくる。
「あなたがハチマン君?宜しく、私はロウリィよ」
「テュカです、宜しくお願いします」
「レレイ」
「お話は姉さんから伺ってます、初めまして、宜しくお願いします」
どうやらハチマンは、ソレイユからこの三人の事を事前に聞き、
今日ここで待ち合わせをしていたようだ。
「ここにスプリンガーさんがいたら、全員集合だったのにね」
「そうねぇ、まあ今更言っても仕方がないわ、ここは女子会と洒落込みましょう」
「そうだね、みんな、久しぶり!」
全員集合という言葉からお分かり頂けるだろうが、実はこの三人、
元ソレイユのパーティメンバーである。
ソレイユをリーダーとして、スプリンガー、ラキア、ロウリィ、テュカ、レレイの六人は、
かつては恐怖の象徴として、ALOに君臨していた最強パーティである。
もっともブランクが長い為、三人に往年の力はもう無いのだが、
それでもステータス的にはセブンスヘヴンランキングで言えば、
余裕で三十位以内には入っているのだ。
「それで早速だけど、例の件、相応しいスコードロンはあったのかしら?」
「あ、はい、二つ当てがあったんですが、片方は試験前という事で無理でした。
もう片方は、二つ返事でオーケーをもらえました。
もうすぐ代表の方がこちらに来るはずです」
「そう、それは良かったわ。復帰を決めたのはいいものの、
どうしても私達に釣り合う腕の持ち主が見つからなくて、正直困ってたのよ」
「お役に立てて何よりです」
今回ハチマンがソレイユに頼まれたのは、
この三人と組めるだけの力があるGGOのスコードロンを紹介する事であった。
その事を頼まれた時、ハチマンの脳内に浮かんだスコードロンは二つ。
一つはハチマンが手塩にかけて育てた現役女子高生スコードロン『SHINC』
そしてもう一つは………
「やぁハチマン君、待たせちゃったかな」
「いえ、コミケさん、いいタイミングでした」
そう、現役自衛官の伊丹が率いるスコードロン『Narrow』である。
「そちらが私達のお相手なのかしら」
「はい、『Narrow』のコミケさんです」
「どうも初めまして、コミケです!」
「ふぅん」
ロウリィはそう言って、品定めするようにコミケをじろじろと見回し、
何故か舌なめずりをしながら言った。
「うん、いいんじゃないかしら、
テュカとレレイもこの人でいいわよね?」
「うん、問題ないんじゃないかな」
「大丈夫」
「それなら決まりね、コミケさん、私達は『ザ・スターリー・ヘヴンズ』よ、
これから宜しくお願いするわ」
「はい、こちらこそ宜しく!」
こうして新しいナイツ『GATE』が結成される事となった。
ここからは親睦を深める為の時間である。
ラキアはソレイユ達に合流し、ハチマンはラキアの代わりにヒルダ達のテーブルに移動した。
「ハチマンさん、あの人達って………」
「おう、知ってるかどうかは分からないが、元ソレイユパーティのメンバーだな」
「あ、『モノトーン』のメンバーなんですね、さすが強そう………」
「というかあの二人に突撃してこられたら速攻逃げ出すわ」
「威圧感ありますもんねぇ」
ラキアとロウリィの武器は、共に巨大な戦斧である。
二人はそれをブンブン振り回し、敵をまったく寄せ付けなかったという。
「ハチマンさんは、今日はあのスコードロンの人を紹介する為にここに?」
「ああ、まあそんな感じだな、お前らもあそことは敵対しないように気をつけろよ」
「モノトーンのお三方は分かりますけど、あの男の人も強いんですか?」
「強いんですよね?だってハチマンさんが、あのモノトーンに紹介するくらいだし」
二人はコミケの方を見ながらハチマンにそう尋ねてきた。
確かにぱっと見た感じだとコミケは強そうには見えない。
「おう、あまり大きな声じゃ言えないが、本職だからな」
「えっ?」
「それって………」
「まあこの話はここまでだ」
ハチマンはそう言って会話を打ち切った。これ以上深入りするのは良くない話題だからだ。
「それよりお前達、かなり苦戦してたみたいだが、結局どうなったんだ?」
「あ~………」
「思い出したくないですね………」
「そんなにかよ………」
二人の落ち込んだような表情を見て、ハチマンも渋い顔をした。
「というか、何が相手だったんだ?」
「スーパーザウルスって奴みたいです」
「ビルくらいはあったよね?」
「そんなにか………そりゃやばいな」
「それでも取り巻きっぽい小さめの奴は倒しました!」
「後はそのボスっぽいのだけだよ!」
「ほう、それは頑張ったな」
ハチマンは感心した顔で頷いた。
「ハチマンさん、ヴァルハラはもう門は突破したんですか?」
「ん?ああ、門の次のエリアまで制覇したぞ」
「えっ、早くない?」
「門の前の敵はあっさり倒しちゃったんですか?」
「いや、倒してない」
「「ほえ?」」
戸惑う二人にハチマンは、エスガイアと話した内容を語ってきかせた。
「ちょっと待ってちょっと待って、それじゃあ私達、
あの化け物と戦う必要なんかなかったって事!?」
「まあ、ぶっちゃけるとそうだな」
「あれ、ちょっと待って下さい、普通敵を釣る段階で、遠隔攻撃なり何なりしますよね?」
「そうとは限らないだろ、
実際うちはタンクのアビリティに反応しなかったから攻撃しなかった訳だしな」
「あ、ああ~、タンク!」
「一応言っておくが、斥候にも似たようなスキルはあるからな」
「………えっと、つまりうちの釣り役死ねって事でいいんですかね?」
「そういう事だな、まあドンマイだわ」
本当は今から南門の鍵を取れば加護の入手は可能である。
聡明なヒルダはその事に気付いたようで、ハチマンに何か言いかけたが、
直後に思い直したように黙りこんだ。
「ヒルダ、今何を言おうとしたんだ?」
「あっ、はい、今から南門の鍵を取ればいけるんじゃないですかねって言おうとしました」
「まあそうだな」
ハチマンはその言葉に頷いた。
「あっ、その手があった!」
「アスモちゃん、でもそれ、絶対無理だから。
七つの大罪の連中が、ヴァルハラの後追いで棚ボタ加護ゲッツなんてやる訳ないから」
「あ、た、確かにあいつらプライドだけは高いしね………」
「でもまあお前達二人が加護をとっておくのは悪くないと思うぞ。
もし単独行動をしないといけなくなった時、
草食恐竜に襲われなくなるってのはかなり重要なんじゃないか?」
「そ、それも確かに!」
「でもあれ、釣りなんですよね?私の周りに釣りスキルを上げてる人なんかいたっけかな」
「それなら心配ない、GATEが鍵を取る時に、一緒についていけばいい」
「あっ」
「そんな裏技が!」
二人はその言葉にぱっと顔を明るくし、早速交渉を始めた。
ロウリィ達はその頼みを快諾し、
せっかく戦力が揃っているんだしという事で、今すぐ向かう事となった。
「それじゃあ俺は、他の奴らを呼び出してきます、一応待機はさせてあるんで」
コミケはそう言ってどこかにメールを送り、
少しして、Narrowのメンバーが全員揃った。
「それじゃあ行きますか、釣りは俺がやりますね」
この中で唯一釣りスキルが巨人を釣れるレベルに達しているハチマンがそう言い、
一同はそのまま南門方面へと向かった。
「さて、生贄を誰にするかだな………」
「ねぇハチマン君、それなんだけどさ、
ほら、前にスカベンジャートードの肉を沢山取ったじゃない?あれ、使えないかな?」
「ああ~、確かに囮の代わりにはなりそうですね、やってみますか」
そしてハチマンはソレイユの提案通りにスカベンジャートードの肉をエサに使い、
沖合いへとキャスティングした。驚いた事にすぐに反応があり、
何の犠牲を払う事もなくあっさりと巨人を釣り上げた。
後は仲間達の独壇場である。
「………こんな簡単で良かったのか、お、俺の苦労は………」
「まあまあハチマンさん、ドンマイですよ」
「そうそう、ドンマイドンマイ、プークスクス」
少し前の仕返しのつもりなのか、アスモゼウスがそう言い、
その瞬間にハチマンは、アスモゼウスのこめかみをぐりぐりし始めた。
「ハチマンさん、痛くないけどじわっとくるからやめて!」
「自業自得だ」
「ごめんなさいごめんなさいもうしません」
「まったく、謝るくらいなら最初からやるんじゃねえ、お前はもっとヒルダを見習え」
「前から思ってたけど、ハチマンさんって絶対にヒルダちゃんに甘いよね!?」
「そうだな、少なくともお前よりはな」
「もっと私にも優しくしてよ!?」
「え?やだよ」
「ひ、ひどい………」
ともあれ棚ボタ的に、二人は無事に加護を得る事が出来た。
この事がいずれ何かの役にたつかもしれないし、そうではないかもしれない。
先の事は分からないが、まあ持っていて損になるものでもないだろう。
「それじゃあ俺達は明日の夕方から攻略を再開しますんで」
「分かったわ、私達も合流するわ」
「俺達も大丈夫だ、最低でも毎日三人は確保出来るようにしておくしね」
要するにコミケ達男性陣は、ローテーションで最低一人はログイン出来るという事である。
クリンとブラックキャットはソレイユに出向中なので、時間には融通がきく。
「ところでハチマン君、何かあの三人が、妙に俺にくっついてくるんだけど………」
三人とはもちろん、ロウリィ、テュカ、レレイの事である。
「そうなんですか?気に入られたんですね、さすがコミケさんです」
「いや、嬉しくない訳じゃないけど何でなのかなって」
「男女の仲ってのはそういうもんです、理由なんか無いんです、まあ頑張って下さい」
ハチマンはニヤニヤしながらそう言い、コミケは肩を落とした。
「マジかよ………」
この日からコミケは三人に振り回されて苦労する事となる。
明日からまた12時投稿に戻します!