ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第940話 アルバム

 次の日の夕方、ヴァルハラとその友好チームが街の南に集結していた。

今日の参加者は昨日よりも若干少ない。ハチマンはそれを全部で三チームに分けていた。

 

第一軍は、アスナ、キリト、リズベット、シリカ、セラフィム、シノン、イロハ、レコン、

レン、シャーリーに、初参加のエギルとクラインが加わる布陣である。

第二軍には、ラン、ユウキ、ジュン、テッチ、タルケン、ノリ、シウネー、

ダイン、ギンロウのS&D組に、リーファとフェイリスとゼクシードが加わる。

今日はダインのスコードロンの四人がいないが、人数的にもバランス的にも申し分ない。

第三軍が、ロウリィ、テュカ、レレイ、コミケ、ケモナー、クリン、

ブラックキャットのGATE組と、ユイユイ、ユミー、ユキノ、闇風、薄塩たらこである。

こちらはGATEの弱点であるタンクとヒーラーをフォローしつつ、

Narrowと一緒に戦った事がある闇風と薄塩たらこが加わる組み合わせとなっている。

今日の各軍団には、タンクとヒーラー、それに魔法使いが適度に振り分けられているのだ。

ハチマンとリオンは今日も全体の管理をする事となっているが、

今日はアルゴがいない為、その代わりをこれまた初参加のクリシュナが努める。

ちなみに探険部は今日は先にログインし、渓谷地帯で資源調査の続きを行っている。

もし必要があれば、すぐにこちらに合流してくる事になっていた。

 

「それじゃあ南門に移動して、初参加組の鍵を門に登録しよう」

 

 時間がもったいないので簡単に自己紹介を済ませた後、

ハチマン達は南門に向けて出撃した。

第一軍と第二軍は街の中の特設転移門から南門に直接ワープしても良かったのだが、

南門に着くまでに敵がそれなりに出現する為、歩き組と同行する事になった感じである。

これだけの人数がいても、さすがに門の近くまでは敵の数が多く、

それなりに時間がかかる行軍となったが、それも初参加組が南門に鍵を登録するまでだ。

次からは街から飛べばいいだけなので、この苦労も最初だけである。

だがGATE組はブランクがあり、事前に何回かは戦闘を経験しておきたかったので、

この行軍はその為にとても都合が良かったようだ。

まだ連携は上手く取れないかもしれないが、そこはコミケが上手く調節してくれるだろう。

 

「GATEの皆さん、あれが南門です、ここからはもう南門の鍵持ちしか入れません」

 

 ハチマンはそう言いながら、次に門の前を闊歩している草食恐竜の群れを指差した。

 

「あの草食恐竜はノンアクティブです、一番大きいのはエスガイアっていう長老で、

こちらに祝福を与えてくれるので、話しかけてもらっておいて下さい。

そうすれば門の向こうでも、草食恐竜には襲われません」

「へぇ、あれが門なのね」

「まさに俺達GATEの始まりの地って感じっすね!」

 

 ロウリィの言葉にケモナーがそう調子を合わせた。

名前の通りケモナーであるケモナーは、ケットシーであるロウリィと仲良くなりたいのだ。

だがロウリィはケモナーに頷きつつも、それをスルーしてコミケの腕を抱いた。

 

「それじゃあコミケ、一緒に行きましょう」

「あっ、ロウリィ、ずるい!私も!」

「それじゃあ私も」

 

 テュカとレレイもコミケを囲み、それを見たケモナーは思わず絶叫した。

 

「隊長、羨ましいっす!」

 

 同じくその光景を見たクリンとブラックキャットはとても驚いていた。

 

「あ、あの隊長がモテてる………」

「本当にまさかよね、今は隊長の人生の最初で最後のモテ期なのかもしれないわ………」

 

 そしてエギル、クライン、クリシュナも無事に登録を終えて加護をもらい、

一同はそのまま門を使ってジャングル地帯の入り口のポータルへと飛んだ。

南門で登録さえすれば、その後のポータルは、一度使えば南門から飛べるのだ。

これは前の日に既に検証済みである。

 

「さて、今日の攻略はここから始まりです。

道の無いジャングル地帯になるので慎重に進んで下さいね。

変わった物を見かけたら俺に連絡してくれれば、

マップに書き込んで全員にフィードバックしていきますので、

たまにマップを見てもらってもいいかもしれません。他のチームの状況も分かると思います」

 

 ハチマンは丁寧にそう説明をし、そしてジャングル地帯の探索が開始された。

 

 

 

「ここ、結構やばいな」

 

 キリトは周りの地形を見ながらアスナに向け、そう囁いた。

 

「うん、道が無いジャングルって、本当に危険だよね」

「不意打ちされて死ぬ奴が出る可能性も否定出来ないよな」

「あっ、みんな、ちょっと止まって」

 

 その時アスナがそう言って行軍を止めた。

 

「アスナ、どうしたんだ?」

「見て、ここから沼地みたいになってる」

「お、マジだな、まさか底無し沼じゃないよな?」

「どうだろう、でももしそうなら、沼にはまって死んだら蘇生も出来ないね」

「確かにそうだな、キリの字よ、ちょっとはまって死んでみてくれよ」

「何で俺だよ、自分でやれよ!」

 

 クラインのその冗談に、キリトがそう突っ込んだ。

相変わらず誰からもボケられ、いじられてしまうキリトであった。

 

「まあ冗談はさておき、大体の深さは調べておきたいよな」

「うん、そうだね、誰か長い棒みたいなアイテムは無い?」

 

 アスナにそう尋ねられ、各人は自分のアイテム欄をチェックした。

 

「棒はないけどロープならあるよ」

 

 そう言い出したのはシャーリーであった。

さすがはリアルで現役のハンターをやっているだけの事はある。

こういった応用のきくアイテムは常備してあるのだろう。

 

「やったね、それじゃあちょっとそのロープを借りるね、

後はその辺りに落ちてる大きめの石をこの先に縛り付けてっと」

「それも任せて、そういうのは慣れてるから」

「さっすがシャーリー!」

 

 こういった探索で、シャーリーの存在は実に輝く。

基本的にサバイバルっぽい局面だと、彼女がリアルで持つその技術がとても役に立つのだ。

 

「それじゃあ測ってみるね」

 

 そう言いながらシャーリーは沼にロープを投げ込んだ。

ロープがスルスルと沼の中に飲み込まれていく。

 

「あ、この感触、今底についたね、大体五メートルくらいかな?」

「五メートルか、結構深いな」

「これ、もしはまっちゃったとして、自力で上がれるものなのかな?」

「どうだろう………試してみるべき?」

「う~ん、もしもの為に調べておきたいよね」

「だな、それじゃあ男連中でジャンケンしようぜ!」

 

 クラインの提案で、キリト、レコン、エギル、クラインがジャンケンをした。

その勝負に敗北したのは………………キリトであった。

 

「やっぱり俺かよ!何となくそうかなって思ってたよ!」

「キリト、ドンマイだぜ!」

「キリト、とりあえずロープを腰に縛り付けてから飛び込んでね。

やばいって思ったらロープをちょんちょんって引くのよ。

そうしたら全力で引っ張ってあげるから」

「お、おう、リズ、頼むな」

「任せなさい!」

 

 そしてキリトはそろりそろりと沼に歩いていった。

一定程度進んだ段階で、その足がぐぐっと沈む。

 

「お?おお?やばい、これ、やばいわ!」

「キリト、どう?上がれそう?」

「今やってみる!」

 

 そう答えたキリトはバタバタともがき始めた。

だがその行動を笑う者は誰もいない、これは真面目な検証だからだ。

キリトの体はずぶずぶとそのまま沈んでいったが、それも一定程度で止まり、

今キリトは首だけを地上に出した状態で安定していた。

 

「どう?」

「これ、下の方はそんなに泥っぽくないな、普通に立ち泳ぎが出来る感じだわ」

「そうなのか、そのまま岸に上がれるか?」

「やってみるよ。う~ん………お、案外硬いな、そこまで滑らないし、これならいけるわ」

 

 そう言ってキリトは自力で岸まで這い上がった。だがその体は完全に泥に覆われている。

 

「ちゃんと服も汚れるみたいね」

「ALOだと平気のはずだけど、ここを作ったのがGGOの開発だからかな?」

「あ、確かにGGOだと顔を汚したりもするもんね。

水の中から出るのは濡れたままにならないけど、判定が違うのかも」

 

 レンがGGOの事情をそう説明した。

 

「なるほど」

「とりあえずハチマン君に、今の状況を報告しておくね」

「おう、頼むぜアスナ」

 

 そしてアスナはハチマンと通信を始めた。

 

「うん、うん、そんな感じ。そうそう、キリト君が泥だらけのままになってるの。

え?リズ?うん、分かった、今代わるね。リズ、ハチマン君が話があるって」

「え?私に?何で?」

「さあ………」

 

 首を傾げつつも、リズベットはアスナから通信機を受け取った。

 

「ハチマン、どしたの?え?キリト?うん、うん、ああ~、そういう事か、

オーケー、分かったわ、私に任せなさい!」

 

 リズベットは通信を終え、泥だらけなままのキリトに言った。

 

「キリト、ハチマンが、装備を一度全解除してから戻せば、一発で綺麗になるってよ。

顔はまあ仕方ないから、一度しまって綺麗にした装備で拭いてからまたそれだけしまえば、

ちょっと面倒だけど綺麗になるってさ」

「あ、その手があったか!」

「それじゃあ女子はみんな後ろを向いておいてくれよな」

「え~?別にいいと思うけどなぁ?」

「まあいいじゃない、それじゃあ後ろを向きますね」

 

 リズベットは別に必要ないと思っていたようだが、それでも後ろを向いてくれた。

 

「さてと、えっと………うん、キリト、いいわよ!」

「悪いな、すぐ済ませるよ」

 

 そしてキリトが装備を全解除した瞬間に、何故かクラインとエギルがぷっと噴き出した。

 

「ん、二人とも、どうかしたか?」

 

 そう言って顔を上げたキリトの目に、

何故か一人だけこちらを見ているリズベットの姿が映り、

キリトはぽかんとした顔でフリーズした。

その瞬間にリズベットが空中でボタンを押すような動作をした。

 

「いただきぃ!」

 

 直後にカシャッという音がした、どうやらSSの撮影をしたようだ。

 

「なっ、おいリズ、何してるんだよ!」

「ハチマンが、今のキリトの姿を写真にとっておいてくれって言うからさ」

「ええっ?そんなのどうするんだよ!」

「今回のイベントの写真を、イベント終了後にアルバムみたいにしてみんなに配るみたいよ。

実はその為の撮影係が昨日から各パーティにいるとか何とか」

「え、そうだったのか?」

「あ、私、撮ってますよ」

「僕もです」

 

 シャーリーとレコンがそのキリトの疑問に答えるように、そう手を上げて申告した。

 

「うわ、マジでいた」

「だからキリトのその姿もアルバムに載る事になるわね」

「やめてくれよ!リズ、頼むから今すぐ消してくれ!」

「え~?もうハチマンに送っちゃったわよ」

「ノオオオオオオオオオオ!」

 

 キリトは絶叫したが、もう後の祭りである。

毎回こんなゆるい感じではないが、ジャングル地帯の探索は続く。


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