ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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昨日はすみません、ちょっと発熱してしまいまして、
何とかこの話を書き上げましたが続きを書くのがつらいので、
次の投稿は月曜日くらいになると思います、申し訳ありません!


第942話 緑のドーム

 ユキノは肩口に噛みつかれたユミーの惨状を見て、一瞬で脳が沸騰するのを感じた。

 

「私の友達から離れなさい!アイス………」

 

 だがユキノが攻撃魔法を発動しようとした瞬間に、

ユミーの真横から魔法が人型バリオニクスに着弾し、その背中で爆発した。

どうやらレレイがすぐに気が付き、ユミーを巻き込まないように上手く調整し、

直線タイプの魔法で攻撃したようだ。

そのおかげでユミーから敵が離れたが、ユミーの肩口がえぐられたように欠損している。

それを見たユキノは慌てて詠唱を取り消し、回復に切り替えた。

 

「ヒール!」

 

 ユキノはそのままユミーに駆け寄ろうとしたが、当のユミーがそれを止めた。

 

「あーしは大丈夫、ヒールありがと。ユキノはユイユイをお願い」

「わ、分かったわ」

 

 ユキノは後ろ髪を引かれる思いがしたが、確かにより危険なのはユイユイの方なので、

大人しくそのユミーの言葉に従った。

 

「部位欠損は初めての経験だけど………」

 

 ユミーはそう呟きながら、右手に持った杖を掲げた。

 

「まああーしは前衛じゃないから関係ないかな」

 

 そのままユミーはまだ目の前で倒れている敵に、トドメとばかりに炎魔法を叩きこんだ。

 

「ごめん、油断した。ありがとうレレイさん」

「大丈夫?」

「ちょっと肩をえぐられただけだから大丈夫」

「間に合って良かった、それじゃあ次を片付けよう」

「うん」

 

 卵は全部で三つあった。つまり敵はまだ二体残っている。

その敵はやや後方から、丁度こちらに走ってくるところであった。

 

「人型だね」

「恐竜人って奴?」

「トカゲ野郎でいいんじゃない?」

「あはははは、そうだね」

 

 そして二人は迫り来るトカゲ野郎共に向け、次々と魔法を叩きこんだ。

 

 

 

「ふう、手こずらせやがって!なんちゃって」

「ユイユイ、お疲れ!」

「いぇ~い!」

 

 バリオニクスが倒れ、ユイユイとクリンはハイタッチをした。

この二人、実はたまに一緒に買い物に行ったりもして仲がいいようだ。

ちなみにどこに行っているかというと、主に下着や衣類の売り場である。

体の一部分の大きさが近い事もあり、悩みも同じな為、話し易いのだろう。

この頃には既にユミーの肩も元に戻っていた。

 

「さっきは本当に肝が冷えたわ、そしてごめんなさい、私がもっと注意していれば………」

「そんな事気にする事じゃないし、それを言ったらあーしもだし」

「それはそうかもだけど………」

「ああもう、あんたのそういうとこ、見ててイライラするわ。

あーしらは友達なんだから、気にしっこなしだってば」

「友達………」

 

 それでユミーが噛まれた時に自分が言った事を思い出したのか、ユキノは赤面した。

 

「え、ええと………」

「これからも宜しく、ト・モ・ダ・チ」

「え、ええ、こちらこそ」

 

 こんな照れたような顔をするユキノの姿は新鮮だったようで、一同から笑いがこぼれた。

 

「さて、これからどうする?」

「そうね、とりあえず周辺の探索をした後、進軍続行かしら。

その間に私は今起こった事をハチマン君に報告しておくわ」

 

「うん、お願い!」

 

 そして仲間達は散っていき、ユキノはハチマンに通信を入れた。

 

「ハチマン君?私よ、こっちはとりあえず片付いたわ」

『おう、お疲れ、敵は何だった?』

「バリオニクス、と言ったかしら、大きさは推定二十メートル程の個体ね」

『ほうほう、それは見てみたかったな』

「報告が終わった後に写真を送るわ。それと別に、

これは発狂モードに入った時に卵から孵化したようなのだけれど」

『ふむ』

「恐竜人、とでも言うのかしら、卵の中から二速歩行のバリオニクスが出現したわ」

『二足歩行だと?』

「ええ、写真を撮っている暇は無かったのだけれど、

多分ユミーが自動で記録している動画にその姿が映っているはずよ」

『それ、送ってもらえるか?』

「ええ、ちょっと待って頂戴」

 

 そしてユキノはユミーの所へ行き、動画を送る事を依頼した。

 

「オッケー、送っとくし」

 

 そのすぐ後にハチマンからユキノに連絡が入った。

 

『専門じゃないが、クリシュナとリオンに見てもらって、

何か分かったらそっちにフィードバックするから、そのまま探索を続けてくれ』

「了解、宜しくお願いするわ」

 

 そして産卵場の探索を終えたユキノ達第三軍は探索を再開し、

それから三十分くらい後に、ハチマンから全員に通達が入った。

 

『先ほど二速歩行タイプの敵が確認された。以後はこれを()()と呼ぶ事にする。

報告の際は、人型REX、人型ラプトル、みたいな呼び方で頼む。

その体の構造からして、武器を手にこちらに攻撃してくる可能性があるから注意されたし。

言葉を喋るという報告は入ってないが、その可能性は否定出来ない為、

敵からの魔法攻撃に関しても考慮しておく事』

 

 

 

「ユウ、人型が出たらしいわ」

「みたいだね、ラン」

 

 その通達を受けた頃、第二軍もまた、明らかに何かありそうな場所へと到達していた。

 

「ドームだね」

「ドームなのニャ!」

「これは………かなり広いね」

 

 ラン達スリーピング・ナイツの後ろで、リーファ、フェイリス、ゼクシードの三人は、

明らかに人工物に見える()を前に、そんな感想を漏らしていた。

その檻は先ほど三人が言ったようにドーム型をしており、内部はツタで覆われている。

 

「ダインさん、これって………」

「こんな感じのを昔、映画で見た記憶があるなぁ」

 

 ダインとギンロウもまた、そう囁き合っていた。

 

「みんな、ちょっといい?中に入る前に一応確認しておきたいのだけど」

 

 ランがそう言って仲間を集めた。

 

「これって………多分鳥かごよね?」

 

 その言葉に一同は頷いた。

 

「もちろんそうじゃなくて、ただのドーム球場の跡地みたいな設定かもしれないけどよ」

「警戒しておく必要はあるよね」

「中央を進むのはちょっと危険?」

「かもしれないわ、警戒しながら壁伝いに進みましょうか」

「その前にハチマンに報告だね!」

「そうね、そうしましょうか」

 

 ユウキにそう言われ、ランはハチマンに通信を入れ、これからドームに突入すると告げた。

 

『分かった、気を付けてな』

「何か注意する事はある?」

『そうだな、もし卵があったらすぐに連絡してくれ』

「は~い」

 

 そしてドームの中に踏み込んだラン達は、地面に何も無い事を確認し、ほっとした。

 

「とりあえず卵は無い………かな?」

「上はどう?」

「今確認するよ」

 

 そう言ってゼクシードが単眼鏡を覗き込む。

 

「暗くてよく見えないけど………」

「どれどれ………」

 

 ダインとギンロウも同じように単眼鏡を覗き込む。

その時きょろきょろと辺りの様子を伺っていたユウキが、ハッとした声で叫んだ。

 

「ちょっと待って、壁はあんなに緑のツタで覆われてるのに、何で天井だけ黒いの?」

「え?」

「た、確かに………」

 

 誰かがゴクリと唾を飲み込む音が、妙にハッキリと聞こえ、

一同はそれ以上前に進む事が出来なかった。

 

「ど、どう思う?」

「私、一同ハチマンに報告するわ」

「写真も添えておいた方がいいかもしれないね」

「分かった、そうするわ」

 

 ランはすぐにハチマンに連絡を入れ、ハチマンは検証すると言って一旦通信を終えた。

その少し後に、ハチマンから返事があった。

 

『俺の見立てだと、天井にびっしり敵が張り付いてると予想する。

これはクリシュナも同じ意見だ。そして卵だが、送られた写真の右下に白い物が見えている。

多分これが卵なんじゃないかと思う』

「えっ?………………本当だ、こんなのよく気付いたわね」

『とりあえず、すぐにドームの外に逃げられる位置で天井に向けて攻撃だな、

それで敵が動き出すだろう』

「分かった、やってみる」

 

 ハチマンのその指示を受け、ダイン、ギンロウ、ゼクシードにフェイリスが、

天井に向けて一斉に攻撃を開始した。

その瞬間にドーム中に、ギャァギャァという鳴き声が響き渡り、

天井がいきなり黒い雲のようなものに覆われた。

 

「なっ………」

「あれが全部敵!?」

「来るわ!」

 

 そしてその黒い雲~翼竜の集団は、こちらに向かって一斉に襲いかかってきたのだった。


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