迫り来る翼竜達に対し、やはり一番有効なのは遠隔攻撃であった。
今ここにいる中で遠隔攻撃が行える者は四人、
ダイン、ギンロウ、ゼクシード、そしてフェイリスである。
「おらおらおらおら!」
「撃てば当たるって感じっすね!」
「気円ニャン!もう一丁、気円ニャン、ニャ!」
「やるねぇフェイリスさん、でもさすがにこのままだと厳しいかな、
弾丸の残りを計算しておかないと」
とりあえず今の状況からすると、とにかく撃ちまくるしかないが、
さすがゼクシードは冷静に今の自分達の状況を把握しようとしていた。
一方ラン達も前に出て戦っていたが、さすがに空を飛ぶ相手だと、
近接アタッカー陣には分が悪い。
「ジュン、テッチ、大丈夫?」
「今のところは大丈夫だけど、問題はあの卵がどうなるかだな」
「まったく面倒よね」
「単純に敵の数が倍になるもんね」
「もしあの卵の中身が人型だったら、最悪魔法攻撃もしてくるかもね」
「そうなったらかなりやばいね」
「なるべく今のうちに卵を破壊しておきたいのだけれど………」
「難しいよね………」
遠隔攻撃チームも頑張っているのだが、いかんせん天井を塞ぐ金網が曲者だ。
かなりの弾丸が金網に弾かれてしまう為、下から卵を破壊するのはかなり困難だ。
それでもまぐれで当たる事はあるのだが、その数はたかが知れている。
「ラン、何か手は無いかな?」
「そうね………せめてドームの中がもう少し奥まで見通せればいいのだけれど」
ドーム内は敵が溢れている為、外からの光も満足に入ってこず、
今はかなり暗い状態となっているのだ。
その会話が聞こえたのか、突然後方から何かが飛んできた。投げたのはゼクシードである。
「ランさん、それを使えば照明弾を上げる事が出来る、使ってくれ」
「照明弾!?そうか、その手があったわね、ありがとうゼクシードさん、さすがね」
「いやいや、こちらこそ任せてしまって申し訳ない」
「ううん、気にしないで。タイミングを見計らってやってみるわ」
ランは笑顔でゼクシードにそう答えたが、そのタイミングを計るのが中々難しい。
敵はまだまだ大量に残っており、次から次へとこちらに押し寄せてくる。
「まったくキリがないわね」
「すぐ逃げちゃうし、ストレスたまるなもう!」
情勢はかなり厳しいと言えるだろう。
そしてゼクシードから、更にまずい報告が上がってきた。
「ランさん、このままだと多分三十分後には弾切れだ」
「分かったわ、報告ありがとう」
その言葉にランはかなり悩んだ。
リーダーとしてこの後どうするか、最善の方法を選択しなくてはならない。
(撤退も視野に入れるべき?もしくは援軍要請を………)
そんな事を考えていたせいか、ランに隙が出来た。
とはいえそれは本当に一瞬の隙であり、通常ならば戦闘に何の影響も及ぼす事はない。
だが今回は運が無かったのか、
その隙を突いて、敵の一匹がランの武器を持つ手をガシッと掴み、宙へと舞い上がった。
同時にもう片方の手も、もう一本の足で拘束される。
「しまった!」
「ラ、ラン!」
「むむむ、これは手が出せないニャ」
「そうだね、下手に撃ったらランさんに当たってしまう」
こうなるともう他の者にはどうする事も出来ない。
下手に攻撃すると、ランをフレンドリーファイアに巻き込んでしまうからだ。
(くっ、こんなのリーダー失格じゃない、しっかりしなさい、私!)
ランはせめて冷静であろうと心を落ち着かせ、
自分がどこに連れていかれようとしているのかしっかり見極めようとした。
(エサとして卵の所に連れていくつもりかしら、
雛に啄ばまれるだなんて、さすがにぞっとするわ。
でもそれ以上にまずいのは、それがトリガーになって卵が一気に孵ってしまう事ね)
ランはそう分析しつつ、
何かこの状況を打開出来る物はないかとドーム内をきょろきょろと見回した。
(あら?あんな所に階段が………)
見るとドームの中央あたりの壁に階段があった。
下を見ると、その入り口はツタに覆われ、仲間達がいる方からは見えないようになっている。
「上は………」
続けて上を見ると、その階段はしっかりとドームの天井部分まで繋がっているようだ。
前述したように天井部分は金網で覆われているのだが、
その金網からドームまでの高さは、下から見た時と比べてかなり余裕がある作りに見える。
(金網の上に普通に立てるくらいのスペースはあるのね。
丁度この翼竜が羽根を畳んだくらいの高さかしら)
それはランにとってはかなりの朗報であった。
要するに上に侵入さえしてしまえば、少なくとも成竜達の動きはかなり制限される事だろう。
(何とかあの階段を上れさえすれば、勝機が見えてくるわね)
ランはそう結論付け、思考を一旦切り替えた。
今自分が最優先でしなくてはいけないのは、仲間達の所に無事に戻る事である。
(卵の所に運ばれた瞬間に大暴れすれば、階段から下に降りられるかもだけど………)
地面に足さえつく事が出来ればそれも十分可能だと思うが、
おそらく金網の上に連れ込まれたら、
その高さからすると翼竜は羽根を畳んで歩くはずであり、
ランは敵の足で踏みつけられるようにずるずると引きずられていく事だろう。
(今私が使えるのは足だけね、孵化のリスクも高いから安易に上には行きたくない。
そうするとチャンスとなるのは………金網を超える瞬間!)
ランはそう決断してじっとその時を待った。
案の定敵はランを金網の上に連れていくつもりだったらしく、金網に開いた穴を通過する。
そしてランの体が金網を超えようとする瞬間に、
ランは思いっきり膝を曲げ、金網に引っ掛けた。
「あ、足が千切れそう………」
だがここで奇跡が起きた。いきなり足が後ろに引っ張られる格好になった為、
ランを掴んでいた翼竜が前方へと倒れこんだのだ。
その瞬間にランの腕の拘束が外れ、ランは自由の身になったのだが、
今ランがいるのは金網に開いた穴の縁であり、
当然ランの体は空中へと投げ出される事になる。
「きゃあああああああああああ!」
ランは悲鳴を上げながら落下していく。
そんなラン目掛けて別の翼竜が、クチバシを広げて襲いかかってくる。
「こ、このお!」
ランは食われるまいとブンブンと刀を振り回し、そのおかげて敵は途中で方向を変えた。
「食べられずには済んだけど、さすがにこれは詰んだかしら………」
まあ下で死ねば、上で死ぬよりは蘇生も容易だろう。
ランはそう考え、とにかく空中で敵から攻撃を受けないように、防御だけに集中した。
おかげで敵からの攻撃で死ぬ事は無かったが、
延々と敵から攻撃はされていた為、ランはかなり体勢を崩しており、
このままだと背中から地面に打ちつけられる格好となる。
「まあいっか、別に痛くはないんだし」
ランはそう覚悟を決め、なるべく原型を残したままで死ねるようにと、
祈るように胸の前で手を組んだ。
そんなランの耳に、どこかで聞いたような女性の声が飛び込んできた。
「フォールン・コントロール!」
その瞬間にランは、体にブレーキがかかるような感覚を覚えた。
というか、明らかに落下速度が減少している。
この魔法を使えるのは支援術師だけであり、ランの知り合いだとクリシュナしか存在しない。
そういえばさっき聞こえた声はクリシュナの声だった気がしたので、
ランはクリシュナが助けに来てくれたのだと確信した。
ちなみにこのフォールン・コントロールは主に崖を下ったりする時に使う移動用魔法だが、
クリシュナはそれを攻撃にも応用する。
ストレージに大量の剣をしまっておき、それを一気に外に出して、
落下速度を増加させて敵の頭上から降らせるのだ。名を『デス・レイン』と言う。
この恐るべき広域殲滅魔法は支援術師なら誰でも使えるはずなのだが、
実際にはクリシュナ以外は使う事が出来ない。その理由は簡単で、
複数の物体の落下速度を同時にコントロールするのがとても難しいからである。
さすがは世界有数の頭脳というべきなのだろう。
(これなら地面に叩き付けられても生き残れそう)
ランはそう考えながら落ちるに任せてその時を待っていたが、
そんなランの体はポスッという音と共に誰かに受け止められる事となった。
「大丈夫か?」
その声を聞き違えるはずもなく、ランは即座にその人物の名前を呼び、抱きついた。
「ハチマン!」
「援軍に来たらいきなりお前が落ちてたから肝を冷やしたわ。
これに懲りたら集中しろよ、集中」
「ごめんね、油断してたわ」
「まあ無事だったんだから問題ない、とはいえ確かに俺達が加わっただけじゃ、
この状況を打開するのは難しそうだな」
見ると後方ではリオンも攻撃に加わってくれているが、焼け石に水状態であった。
「そう、それなんだけど、ハチマン、あそこに上に行ける階段があったの」
「あそこに?それなら何とかなるか………」
ハチマンは即座に決断したのか、一旦仲間達の所に戻った。
「ユウ、リーファ、フェイリス、五人で階段から上に行く、ついてきてくれ」
「上に?うん、分かった!」
「おっけ~、それじゃあ行きましょ」
「任せるのニャ!」
ついでにハチマンは、ストレージから弾丸を取り出して、ダイン達の横に置いた。
「あと弾の予備も置いておく、しばらくは俺達に当てないように気をつけてくれよな」
「おう、サンキュー!」
「ハチマンさん、あざっす!」
「助かったよ、これでもうしばらく戦える」
「それじゃあ行ってくる」
こうしてハチマン、ラン、ユウキ、リーファ、フェイリスの少数精鋭チームは、
階段から天井フロアを目指す事となった。