ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第944話 反撃の狼煙

 出発準備を整えながら、ランが心配そうな顔でハチマンに話しかけてきた。

 

「ハチマン、私達がいなくなった後、こっちは大丈夫かしら」

「クリシュナがいるんだ、問題にもならん」

 

 ランのその問いに、ハチマンはあっさりとそう答えた。

 

「凄い信頼ね………」

 

 驚くランに、リーファとフェイリスは肩を竦めた。

 

「まあ実際事実だもん、仕方ないよ」

「多分銃の威力も上がってるのニャ、ゲームならではなのニャ」

「えっ、そ、そうなの?」

「だな、あいつの使う支援魔法は謎チートだからな、

ユキノですら、どうしてそうなるのかたまに首を捻ってる事があるくらいだぞ」

「そ、そこまでなんだ………」

 

 クリシュナの使う支援魔法はデフォルト状態からかなりいじってあるのだが、

どうしてそういう結果になるのか分からない物が大半である。

現実世界で世界有数の天才と呼ばれる少女は、

ゲームの中でもその異常な天才性を遺憾なく発揮しているようだ。

 

「それにリオンも加わったからな。最近のあいつは板野サーカスに凝っててな、

ロジカルウィッチスピアから撃つ魔法の弾道がかなりえぐいんだよ」

「板野サーカス?」

「何それ?」

 

 ユウキとリーファはその聞き覚えの無い単語に首を傾げた。

だが昭和を愛するランと、秋葉原の萌えを体現するフェイリスは、

当然それが何を意味するのか知っている。

 

「嘘、本当に?」

「い、いつの間にそんな技を会得したのニャ?」

「あいつは凝り性らしくてなぁ、クリシュナに手伝ってもらって詠唱を研究したらしいぞ。

丁度今リオンが構えてるから、見てみるといい」

 

 そのハチマンの言葉通り、リオンが前に出てきた所だった。

 

「目覚めよ、我が娘よ!」

 

 そのお決まりのフレーズと共にロジカルウィッチスピアが光り出す。

そしてリオンはその先端を敵へと向けた。

 

「エネルギー充填百二十パーセント!」

 

 このリオン、どうやらノリノリである。

 

「何か色々混じってない?」

「みたいだな………」

 

 そんなリオンを見て、ランとハチマンがひそひそと言葉を交わす。

 

「ロックオン………一番から四番、軸線に乗った!」

「今のセリフ、必要なのかニャ?」

「まあ楽しそうだからいいんじゃないか?」

 

 更にノリノリなリオンに、ハチマンは必死で笑いを堪えているような表情を見せた。

そしてリオンの表情が、いかにもクールといった感じに変化する。

 

「ロジカル・ビーム」

 

 その瞬間にロジカルウィッチスピアの先端から四本のビームが飛び出し、

複雑な軌道を経て全て敵に命中する。この技を既に見た事があるハチマンは、

遂に堪えきれず、そのリオンの芝居じみた態度に思わず噴き出したが、

他の者達はそのビームらしき物の速度と威力に驚愕した。

 

「お、思ってたのと違うニャ!」

「まるで雷みたいだったわね」

「リオンも成長したねぇ」

「凄い凄い!」

 

 リオンはドヤ顔でハチマンの方に振り向いたが、

ハチマンが笑っているのを見て、頬を膨らませた。

 

「ちょっと、何で笑ってるのよ!」

「お、おう、悪い悪い、でも一つ言っておくと、クリシュナも笑ってるからな」

「えっ?」

 

 慌ててそちらを見ると、確かにクリシュナが、プークスクスという感じで笑っていた。

そしてリオンに見られている事に気付いたクリシュナは、リオンに向けてこう言った。

 

「中二病、乙!」

 

 リオンは顔を真っ赤にしながらクリシュナの所に向かったが、

クリシュナは笑いながらもリオンにMPが徐々に回復していく魔法をかけ、

しっしっというようにリオンを追い払うようなそぶりを見せた。

 

「ほら弟子、キリキリ働け働け」

「くっ、お、覚えてろよ馬鹿師匠」

 

 その会話から、二人の関係が良好な事が分かる。

 

「な?あいつらがいればこっちは大丈夫だろ?」

「う、うん、そうみたい」

「余裕あるよなぁ、それじゃあ俺達は行くか」

「え、ええ、頑張りましょう」

 

 まだ圧倒されているのか、ランは彼女らしくもなく、

何の捻りもなしにハチマンにそう答えた。

そのまま五人は階段がある方に向けて走り始めたが、

階段入り口への道中は、リオン達から援護射撃が来る為、それはもう楽であった。

 

「ね、ねぇ、さっきのリオンの魔法、どうすればあんな事が出来るの?」

「おう、俺にもよく分からないが、相対性理論的に、世界システムがカオス理論らしい」

 

 さすがのランも、相対性理論の事は知っている。もっとも内容までは知らないのだが、

少なくとも世界システムやらカオス理論よりはまだイメージし易いようだ。

もっともそういった方面に詳しい者でも、

それらがどういった理屈でああなるのかは分からないであろう。

 

「な、何それ?」

「さあ………俺にもさっぱり分からん」

 

 二人は走りながら顔を見合わせてため息をつき、

一同はそのまま階段入り口へとたどり着いた。

 

「さて、ここからは援護無しで上る事になる、みんな、気をつけてな」

「う、うん」

「頑張らないとね!」

「気円ニャンをお見舞してやるのニャ!」

「私も魔法で援護するね」

 

 五人は周囲に気を配りながら階段を上っていく。

当然翼竜達が激しく攻撃を加えてくるが、ここにいる五人は精鋭である。

リーファが敵を風魔法で押し返し、貫通性の高いフェイリスの気円ニャンが敵を貫き、

ハチマン、ラン、ユウキの三人は、そんな二人に敵をまったく寄せ付けない。

そして遂に頂上までたどり着いた時、ランが一同をストップさせた。

 

「ハチマン、このまま上のフロアに足を踏み入れたら、一気に卵が孵化するとかないかしら」

「それはまああるかもしれないな、そうすると………

よし、フェイリス、この位置から可能な限り卵を破壊してくれ」

「了解ニャ!気円ニャン!」

 

 フェイリスはすぐさま気円ニャンを放ち、光の輪がフロアを蹂躙していく。

翼竜も何匹かいたが、まとめて真っ二つである。

どうやら一度の気円ニャンで、卵も含めて五匹程度倒すまでは、魔法が持続するようだ。

 

「フェイリスの気円ニャンも大概チートよね」

「だな、あれもリオンの中二ビームみたいに曲がるしな」

「そんな言い方したらリオンに怒られるわよ。

ところで気円ニャンってどうやって曲げてるの?」

「ニュータイプ能力………とでも言いたいところだが、

実際は短い音節の追加詠唱をする事で、コントロールしてるらしいぞ」

「あ、そうなんだ?」

 

 見ると確かにフェイリスの口が細かく動いている。

 

「要するに昔のラジコンみたいなものなのね、もしくは今で言うとドローン?」

「まあそんな感じだろうな、しかしこういう地形だと気円ニャンは強いな」

「ええ、凄く楽だわ」

 

 その言葉通り、確かにこの場所は高さが限られている為、

フェイリスの独壇場と言っても過言ではない地形となっている。

そしてフェイリスは、一人で見える範囲の卵を全て破壊した。

 

「とりあえず掃除完了ニャ!でもMPがきついから、しばらくは節約ニャね!」

「後は覚悟を決めて踏み込むしかないか」

 

 ハチマン達は頷き合い、天井フロアへと足を踏み入れた。

その瞬間にハチマンは、空気が変わった気配を感じた。

 

「これは、ランが言ってたのが正解っぽいな………」

 

 その言葉を肯定するかのように、

階段から死角になっていた辺りから小柄な影がたくさん姿を現した。

 

「予想通りだったわね」

「卵の中身はやっぱり人型かよ、これでほぼ確定だな。

まあ俺はそっちの方が得意だから、別に構わないけどな」

「ねぇハチマン、あいつら何か、口を開けてない?」

「ん?そうだな、だがあれは………」

 

 次の瞬間に、ハチマンは仲間達に向けて叫んだ。

 

「伏せろ!」

 

 さすがに四人は心得たもので、その指示に即座に従った。

一人立ったままだったハチマンは両手に持った雷丸を構え、

そちらの方から飛んできた何かを叩き落とした。

 

「これって………矢?」

「みたいだな、あいつら全員弓使いだ。

もしかしたら敵の種類ごとに職業みたいなものが割り当てられてるのかもしれないな」

 

 よく観察すると、敵が縦に開いたクチバシは、全て弓のような構造になっていた。

そして体内で生成されているのか、口の中から矢が出現し、それがこちらに飛んでくる。

弓の弦はどうやら舌によって引かれているようで、不気味な事この上ない。

 

「何だありゃ、気持ち悪いな」

「アメリカ人の発想ってたまにぶっ飛んでるわよね」

「日本人がそれを言うのはどうなのって突っ込まれそうだけどね」

「違いない」

 

 ハチマンはそう言いながら、尚も敵から放たれる矢を叩き落としていく。

 

「ハチマン、どうする?」

「見た感じ他に攻撃手段があるのかどうかは分からないが、

遠隔攻撃を行う敵に対してのセオリーなら決まってる………接近戦だ」

「確かにそう言われるとそうね」

「リーファ、フェイリス、援護を頼む。ラン、ユウ、俺達は突っ込むぞ」

「了解よ」

「任せて!」

「あまり時間をかけると何が起こるか分からないから、早速行くぞ」

 

 そう言ってハチマンは走り出し、ランとユウキはその後に続いた。


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