「俺の判断ミスのせいで心配させちまった、本当にすまん」
シャナの第一声はそれであった。
「結局あれからどうなったの?」
「リオンがAUTOとMANUALって書いてあるスイッチを見つけてな、
それをMANUALに切り替えたら俺達にも操作可能になったかな。
目を開けられたのもそのおかげだな、おかげでユキノの姿が見えたんだが、
実はあの目、中がシャッターになってるんだぜ、笑っちまうよな、ははっ」
シャナはそう言って楽しそうに笑い、翼竜に目を向けた。
「へぇ、あんな外見だったのか、あれはプテラノドンか?
例えて言うならメカプテラって感じか」
「おいおい、まさかゴリラとクジラのあいのこみたいな奴まで出てこないだろうな」
「版権の問題もあるし、それは大丈夫じゃないか?」
シャナにあっさりとそう否定され、キリトはしょぼんとした表情を見せた。
「ちぇっ、あいつとは一度戦ってみたかったのに」
その言葉に一同、ドン引きである。
「いやぁ、それは無い、無いわぁ」
そう言う闇風に、ロウリィが同意する。
「私も大概だと思っていたけれど、上には上がいるものよねぇ」
「ええっ?シノンなら俺の気持ち、分かってくれるよな?」
「どうしてそので私の名前が出てくるのか意味不明なんだけど、
私はヘッドショット出来ない相手に興味は無いわよ」
それはそれで物騒なセリフである。
「じ、じゃあコミケさん達!」
「アレと戦うのは確かにうちのお家芸だけど、もし本当にそうなったら俺は逃げるかな」
他の三人、ケモナー、クリン、ブラックキャットもその言葉にうんうんと頷く。
「ぐぬぬ………じゃあフェイリスはどうだ?」
「アレのどこに萌え要素があるのニャ?」
「正論すぎて何も言い返せない………」
そんなキリトの肩を、リズベットがポンと叩いた。
「キリト、バトルジャンキーもいい加減にしなさいよ、私が恥ずかしいんだからね」
リズベットに怒られ、キリトはしょぼんとした。もう完全に尻に敷かれているようである。
「操作可能になったって事は、あれの操縦が出来そうなの?」
今までの流れを完全に無視してアスナがハチマンに問いかけてきた。
さすがにハチマンとキリトと付き合いが長いだけの事はある。
「どうかな、まあリオン任せだな、別に無くても困らん」
「困るって、俺が乗るメカが無くなっちまうじゃないかよ!」
再びキリトが突っ込んできた為、ハチマンはちらっとリズベットの方を見た。
「頼むリズ」
「オッケーオッケー、ほらキリト、あんたはこっち」
「あっ、ちょっ、待てって!」
リズベットも心得たもので、そのままキリトを遠くに引きずっていった。
「まだ外には出れないの?」
「それがなぁ、もしかしたら自爆スイッチとかもあるかもしれないし、
下手にいじれないんだよな」
「確かにそうなったら全滅だね………」
「全滅はしないだろ、アスナは俺が守るからな」
「え~?一人だけ生き残っちゃっても、それはそれで困っちゃうよ」
微妙にいちゃいちゃする二人に、たまらず他の者達が割って入った。
「はいはい、分かったから私達も出来るだけ守ってね」
「とりあえずあの翼竜がもう襲ってこないのなら、このまま奥に行ってみるか?」
「おっと、すまんすまん、あの洞窟の奥か………もういい時間だし、どうするかな」
シャナは少し迷っていたが、攻略を明日に回すとしても、
中の様子は見ておいた方がいいだろうという事になり、一部で洞窟に突入する事になった。
クリシュナとフェイリス、それにリーファとレンはその場に残り、
リオン達が出てきたらそのフォローをする事になった。
このメンバーなら何かあっても十分対応出来るだろう。
「よし、それじゃあ行こう」
いつも先頭にいるハチマンだが、今はシャナなので後方に陣取っていた。
その隣にはセラフィムが控えている。代わりに前を行くのはレコンであり、
そのすぐ後ろにユイユイと、キリト、アスナが続いている。
「敵の姿は無い………か?」
「この辺りで出ないという事は、奥に固まっているのかもしれませんね、シャナ様」
「確かにそうだな………」
だがいつまで経っても敵は出てこず、一同は戸惑っていた。
「何で何も出てこないんだろ」
「もしかして俺達が翼竜を抑えてるからか?」
「その可能性は高いな………」
実はあの翼竜はガーディアンのような役割を果たしており、
もしモードがオートのままだったら今ごろこの辺りは敵で溢れていたのだが、
マニュアルにスイッチが切り替わった瞬間に敵は消えていた。セーフモードという奴である。
そして戦闘は結局起こらないまま、シャナ達は次のポータルへと到着してしまった。
「………どうする?」
「今日はここまでだな、俺は一応もう少し先まで見てから一旦ハチマンに戻って落ちるわ」
「それじゃあ僕もお付き合いします」
「私も行くわ、もし何かあった時にヒーラーがいれば楽でしょうしね」
「それじゃあ俺も行くか、今日は特に用事も無いしな」
「そういう事なら私も行くよ、レコン君と副長でピクニックだね」
レコンとアスナ、それにキリトとユキノがシャナに同行を申し出た為、
四人はそのまま奥へと向かった。
だが奥はそれほど深くなく、五分程で出口へとたどり着く事が出来た。
「うお、これは………」
「まさかこうくるとは思ってませんでしたね………」
「うわぁ、凄いねぇ」
「随分と近代的な町並みね」
そんな五人の目の前に広がっていたのは、摩天楼という程ではないが、
十分な広さをもつ都市であった。
「ここはどの辺りなんだ?」
「どうなんですかね」
二人はそう言ってマップを開いたが、いつの間にかマップは新しい物に更新されており、
二人がいる位置は、そのマップの北に表示されていた。
「中央の空に、フィールドみたいな物が浮かんでいるわね」
「あそこにラスボスがいるんじゃないか?」
「って事はここが最終目的地か」
「見ろよ、他の方角からも、道が繋がってるぜ」
「これは、そっちにも行けるって事なんですかね?」
「どうなんだろうな、まあ近くにポータルも無いし、行けないと街に戻れないはずだが」
「というか、あっちってもしかして、他の門から来る道なんじゃない?」
その言葉にシャナは少し考え込んだ後、ニヤリとした。
「………って事はもしかして、他のエリアのボスを食い放題か?」
「可能性はあるな………外周を進めば危険も無いだろうし、ちょっと見てみるか」
「だね」
「どっちに行く?」
「多分西門が一番進行度が早いだろうから、そこはやめておこう。
あんまり早くここに来られると、うちの取り分が減っちまうからな」
「って事は一番近いのは東門に対応してる西の方角かな」
「だな、よし、行こう」
五人は街に近付きすぎないように慎重に外周をぐるりと回っていった。
「ここか」
「それじゃあ奥へゴー、だな」
五人はそのまま西通路を進んでいく。と、前方でざわざわと何かが蠢いているのが見えた。
「あれは………」
「人型の集団?」
「肉食竜だってのは分かるけど、種類が分からないわね」
「本来なら俺達の方にもあれが出現してたって事なんだろうな」
「見て、一匹だけ姿が違う敵がいるよ」
アスナの指摘通り、その敵は他の人型よりも一回り大きく、
金属鎧のような物を身に纏っていた。
「あれが中ボスみたいな?」
「そうみたいだな、だが………運が悪かったな」
そう言いながらシャナはM82を取り出し、床に寝そべって狙撃の体勢をとった。
「シャナ、外すなよ!」
「こんなもん余裕だ余裕」
そしてシャナはコトリとトリガーを落とすように引き、
M82から放たれた弾丸は、そのボスらしき敵の頭をふっ飛ばした。
その瞬間に他の雑魚敵が、崩れるように消えていく。
「おお?こんな仕掛けになってたのか」
「手間が省けたね」
「一応この奥も見ておくか………」
一同はそのまま進み、翼竜こそいないが、ポータルがあった広場までたどり着いた。
「お、ポータル発見、登録登録っと」
「ボスっぽいのはいないわね」
「そういやシャナ、さっきの敵、何か持ってなかったのか?」
「ああ、そういや確認してなかったな」
シャナはストレージを操作し、驚いたような表情を浮かべた。
「おお?マジか?」
「何か落としてた?」
「これだな」
そう言ってシャナが取り出してきたのは、まさかの対物ライフルであった。
「それって何だ?」
「AS50って書いてあるな、確かアメリカの特殊部隊が使ってる奴だ」
「おお、いいじゃないか」
「これを使えるのは………シャーリーさんだな、よし、シャーリーさんにあげるとするか」
「これでまたうちの戦力が増えたね!」
「これは他のボスも狙撃しないといけないな」
「まあ今日のところはここまででいいんじゃないか?
他の門の連中は、一日や二日じゃここまで来れないだろ」
「だな、よし、今日はここで落ちるか」
一同はポータルを使って街に戻ったが、
そこには予想外にランとユウキ、それにリオンがいた。
「うお、お前らあそこから出られたのか?」
「うん、それなんだけどね………」
「あのね、ランがよろけて押しちゃったボタンが緊急脱出用のボタンだったらしくて、
ボク達空に打ち上げられちゃったんだよ」
「たまたま師匠がまだ残っててくれたから助かったけど、危うく死ぬところだったよ………」
「まあ脱出出来て良かった、どのボタンを押したら発動したんだ?」
「それが確認出来てないの、ごめんなさい」
ランが気まずそうにそう言った。
要するにハチマンだけが、あの場に取り残されたという事になる。
「まあ気にすんな、その辺りは最悪死ねばいいだけだ。そうるれば街に戻れるからな。
あ、あとシャーリーさん、ちょっといいか?」
「は、はい、シャナさん!」
シャナ大好きのシャーリーは、
名前を呼ばれるとまるで犬のように嬉しそうにシャナの下に駆けつけた。
「な、何ですか?」
「実はこれを手に入れたんで、シャーリーさんに使ってもらおうと思ってさ」
そう言ってシャナはAS50を取り出し、シャーリーに手渡した。
「お、おぉぉぉおおぉおぉおおぉぉお………」
それを受け取ったシャーリーは、顔を紅潮させた。
「い、いいんですか?」
「ああ、俺にはM82があるし、シノンにはヘカートIIがあるしな」
「あら、格好いいじゃない、私にもちょっと見せて」
「う、うん!」
シノンもどうやら興味津々なようで、二人はわいわい言いながらAS50を手に、
話に花を咲かせていた。
「ありがとうございます、一生の宝物にします!」
「ああ、頑張って使いこなしてくれ」
「今からGGOの射撃場に行ってきますね!」
「分かった、頑張ってな」
「はい!」
こうしてこの日の探索は終わり、
ヴァルハラ・ウルヴズはまた戦力を増強させる事となった。