ログアウトした後ハチマンは、思わぬ人物から電話をもらい、歓談していた。
『やぁ八幡、やっと引越しが落ち着いたから、機会があったら今度うちに遊びに来てくれよ。
もちろんガブリエルも一緒で構わないからね』
「おっ、そうなのか、それじゃあ今度是非寄らせてもらうわ、ジョジョ」
それはザスカー日本支社長に就任した、ジョジョからの電話であった。
『ところでトラフィックスのイベントの方は順調かい?』
「ああ、今日やっと最後の都市にまでたどり着けたよ」
八幡のその返事を聞いたジョジョは、何故か無言になった。
「ん?どうかしたのか?」
『い、いや、聞き違いかな、今、ジュラトリアまでたどり着いたって聞こえたような』
(へぇ、あそこはジュラトリアって言うのか)
「ジュラトリアってのが最後の都市の名前なら、確かにそう言ったぞ」
『え?え?』
どうやらこの段階でそこまでたどり着いているというのは、
ジョジョにとっては想定外だったようだ。
「あれ、そんなにおかしいか?
まあ確かにあのでっかい翼竜をスルー出来たのも大きかったと思うが………」
『ええっ、スザクをスルー?い、一体どうやって………』
(翼竜ってだけで、スザクっていう個体名まで出てくるって事は、
他の三ヶ所には翼竜はいないんだな、差し詰め白虎と青龍と玄武って感じか)
八幡はそう思いつつ、事の経緯をジョジョに説明した。
『えっ、ドームで上に?ど、どうやって?』
「どうやってと言われても、普通に階段を上っただけなんだが………」
『いやいやいや、そこに行く前に一斉に卵が孵って、
階段からドラゴニアンが押し寄せてきただろ?
同時に天井に張り付いてた敵が襲ってきたはずさ、その状態で上に行くなんて無理だろ?』
「確かにその状態なら無理だったかもしれないが、
最初に天井に敵がいるって思って攻撃を仕掛けたせいで、
先に翼竜との戦いになったからな、その段階で手前の卵も全部破壊してたはずだ。
事実俺が上に行った時、手前の卵は全部破壊されてたからな」
『天井の敵に気付いただって?完璧に擬態してただろ?』
「いや、まあ色が違ったから敵かなって思って攻撃させたんだが………」
『ま、まさかそんな理由で………』
「な、なんかすまん………」
どうやら八幡達がとった行動は運営的にありえなかったようだ。
『そ、そうか、手前の卵が消滅したせいで、
階段まで行っても他の卵の孵化が始まらなかったって事か………』
「きっとそうなんだろうな、孵化が始まったのは俺達が上に行ってからだったしな。
で、敵を全滅させた後、俺も含めて上に四人残ってたんだが、
そのままスザクの体内に飲み込まれて、拉致されたんだよ。
で、どうしようかと調べてるうちに、オートとマニュアルの切り替えスイッチを見つけてな、
それをマニュアルに切り替えたって訳だ」
『そんなスイッチあったっけ!?あ、いや、あった、あったな………
確かあれのデザインは他のゲームからの流用のはずだし、
中身をいじるより楽だったから、キング・ドラゴニアンが操縦する設定にしたんだったか』
(中ボスの名前はキング・ドラゴニアンか、それよりも今の話、他のゲームからの流用ね、
もしかしたらそこから辿ればあれの操縦方法が分かるかもしれないな、
ちょっと調べてみる事にするか)
八幡はいい情報が手に入れられたと内心でほくそ笑んだ。
『まあそうなってしまったものは仕方ないね、
ラスボスの所には、全ての門から進軍してきたナイツが揃ってないと行けないから、
それまで適当に時間を潰しといてくれよ』
「ああ、街でも探索しておくさ。ところであのスザクって奴は、俺でも操作出来るのか?」
『可能なんだけど、出来ればボス戦に投入するのはやめてもらいたいかな、
攻略が楽になりすぎちゃうからね』
「そりゃそうだな、分かった、それ以外の用途で使う事にする」
『お、お手柔らかにね』
そして電話を切る瞬間に、ジョジョのこんな呟きが聞こえてきた。
『はぁ、楽をしようとするとバチが当たるって事か、
今度からはもう少し気をつけないと………』
そんなジョジョに、八幡は心の中でエールを送ったのであった。
そして次の日の朝、八幡は時間を見計らって理央に連絡を入れた。
「おう、相対性ナチュラルエロ眼鏡っ子か?ちょっと頼みがあるんだが………」
『誰が愛しい人よ、恥ずかしいからやめてもらっていい?』
その理央の返しに八幡は一瞬言葉を詰まらせた。
「お前、意外と図太いよな………
それに咄嗟にそう返せるなんて、やっぱり頭がいいんだな………」
『私だって、いつまでもやられっぱなしじゃないから』
そう返事をする理央に苦笑しつつ、八幡は昨日ジョジョと話した内容を説明した。
『あれって他のゲームのデータを流用してたんだ?』
「ああ、多分だけどな。そんな訳で、悪いが俺は今から学校なんで、
その間にそれがどのゲームなのか、軽く調べておいてもらいたいんだよ。
ゲームの名前だけ特定出来れば、後は俺の方で調べてみるから」
『分かった、調べてみるね』
「悪いな」
八幡はそのまま学校に行き、明日奈達に昨日得た情報を伝えた。
「へぇ、それじゃあ他の場所には、大きな虎と竜と亀がいるって事?」
「そういう事らしいな」
「ドラゴニアンにジュラトリア?へぇ、凝った名前だな」
「で、八幡、今日はどうするつもり?」
「そうだな、昨日中ボスを倒した西の奥を探索する班と、
南の中ボスを倒してそのまま奥を調べる班と、
数人で東、西、北門からの攻略がどうなってるのか調べてもらって、
最後にジュラトリアを探索する班に分かれる感じかな」
「あ~、結構やる事が多いね」
「ちなみに俺は、とりあえず理央の所に顔を出して、
スザクの操縦方法を調べてみるつもりだ。だからログインするとしても、少し後になるかな」
「八幡、俺にも動かさせてくれよ!」
「分かってるって、ジョジョはちゃんと操縦出来る前提で話してたからな、
絶対に動かせるはずなんだ、だから今日中に何とかしてみせるさ」
「いやぁ、楽しみだねぇ」
昼までに八幡のスマホに今日の出欠状況が報告され、
それを元に明日奈と雪乃がACSを使ってメンバー分けを行い、
そして迎えた放課後、八幡は一人でソレイユにいる理央の所へと向かった。
「あ、八幡、待ってたよ」
「それっぽいのが見つかったって言ってたよな?」
「うん、今から実際に私がログインして、その様子をこのモニターに映しながら説明するね」
「そこまでしてくれたのか、悪いな」
「ううん、大した手間じゃなかったよ、メーカーも分かってたし楽勝だったかな」
そう言ってリオンが見せてきたのは、『バーサス・ジュラリオン』というゲームであり、
そのタイトルを見た八幡は、思わず噴き出した。
「ぶはっ、タイトルがリオンじゃないかよ」
「そ、そんなに笑わないでよ」
「悪い悪い、つい、な」
「もう、とりあえず今からプレイしてみるから、そこのモニターで見ててよね」
「おう、分かった」
そんな二人を見て、他の者達もこちらに集まってくる。
「へぇ、これがあれの元になったゲーム?」
そう面白そうに画面を覗き込むのは紅莉栖である。
どうやら今日は外せない仕事があったようで、八幡と同じく少し遅れてログインする予定だ。
「これ、ロボットにダイブして戦うゲームとか、うちで作れたりしない?」
横から真帆がそんな意見を出してくる。
「う~ん、こういうのは操作が難しい方がオトコノコにはうけるかもしれないね」
「ですね、そっちの方が俺も興味が沸きます。
普通にロボットと一体化するんじゃ、ALOとかと変わらない気もしますしね」
レスキネンが真帆にそう言い、八幡もそれに同意した。
「へぇ、そういうものなのね、私にはよく分からない世界だわ」
「真帆さんはゲームとかはやらない方か?」
「そうね、やるとしても知能パズルとかかしら、そういうのは得意よ」
「ははっ、確かにそれっぽいな」
四人がそんな感じで談笑している間に、どうやら理央がマシンに乗り込んだらしい。
そこに表示されているコックピットは、昨日見た物とまったく同じであった。
「お?確かにスザクとまったく同じだな」
『それじゃあ操作方法を説明するね』
こちらの声は向こうに聞こえない為、偶然なのだが、
理央がタイミング良くそう言い、八幡は画面に見入った。
「なぁ紅莉栖、これって録画出来るよな?」
「心配しないで、もうやってるわ」
「お、サンキュー」
そして画面の中で、理央が具体的に操縦方法を説明していく。
おそらくかなり頑張ってくれたのだろう、その説明は実にスムーズだ。
「あれがこうなってこれがこうなって………う~ん、全部覚えられる自信はないな」
「ALO内で見れるように、後で動画を送っておいてあげるわよ」
「何から何まで悪いな、サンキュー紅莉栖」
「いえいえ、どういたしまして」
『こんな感じだね、外の風景を普通に窓から見るのも出来るけど、
今回は視覚を同調させるね』
直後に画面が再び切り替わった。
「これが外の風景か、普通に訓練場だな」
「自分の姿が見にくいわね、まあ当たり前なんだけど」
「横に見える羽根は完全に金属っぽいし、多分全身そうなんじゃないか」
「あっ、見て、向こうから何か来るよ」
「敵か?」
どうやら向こうからやってきたのは戦闘機のようだ。
『敵発見、攻撃するね』
「あれと戦うんだ?」
「みたいだな、さて、お手並み拝見か」
理央は敵に向かって普通に飛んでいたが、途中で大幅に減速し、
スッと下に下がると、そのまま胸を反らすように飛び、
背中を地面に向けた状態で敵の背後に回り、攻撃を始めた。
その最中に画面が百八十度回転し、天地が元の状態に戻る。
そのまま理央はあっさりと敵を撃破し、基地のような所へと帰投した。
『ふう、こんなもんかな』
「おお、あっさり倒したな、やるもんだなおい」
「というか、同じような武器がスザクにもついてるのかしら」
「どうなんだろうな、まあその可能性は高そうだ」
『ログアウトは専用スポットからしか出来ないんだよね』
画面の中の理央は、そう言って歩き出したが、
画面の下の方で腕を交差させているように見え、
更に言うと、視点がかなり下向きとなっていた。
「理央の奴、あの手は何だ?腕組みでもしてるのか?」
「これ、かなり猫背になってると思うわよ、私もそうだから分かるもの」
「おかしな奴だな、まあそんな事はどうでもいいか」
「さて、私達は仕事に戻りましょうか」
「そうだね、いやぁ、他社製品も中々キョウミ深いね」
三人はそのまま自分のデスクに戻っていき、八幡はぼんやりと画面を眺めていた。
理央はログアウト用のスポットにまもなく到着するようだ。
その扉が綺麗に磨きあげられていた為、そこに一瞬今の理央の姿が映し出される。
『あっ』
「あ」
二人は同時にそう声を上げ、他の者達が何事かとこちらを見た。
「どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
そこに一瞬映し出された理央は、初期装備なのだろう、
下はアーミータイプの短パンで、上は黒のタンクトップ一枚という、
女軍人のような姿をしており、それで八幡は、
何故理央が猫背で腕組みしながら歩いていたのか理解する事となったのだった。
そして八幡は、ログアウトしてきた理央の肩を叩きながら申し訳なさそうに言った。
「悪かった、もうこのゲームはやらなくていいからな」
「あっ、う、ううん、他の人に見られるのが嫌だっただけで、
別に八幡が一緒なら構わないの。二人で一機を操作するモードとかもあって、
もしかしたらそれもスザクに反映されてるかもしれないから、
れ、練習しないといけないかもだし、今度一緒にやってみよ?」
「そ、そうか、まあスザクがまともに動かせるようになったらな」
「うん」
そして二人は動画を送信した後、そのままALOへと乗り込んだのだった。