ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第949話 謀略のリオン

 ハチマンはそのままインするとスザクのコックピット内に単独で出現してしまい、

外との連絡も取れなくなってしまう為、最初にシャナでログインし、ユキノに連絡を取った。

 

「ユキノか?今の状況は?」

『あら、思ったより早かったわね、こっちは順調よ。

シャーリーさんが早速新しい武器で狙撃に成功して、ジュラトリア南の中ボスを撃破したわ。

結果は同じく敵の全部隊の消滅、戦利品は弓だったらしいわ』

「弓だと?それじゃあシノンにしか使えないな、無矢の弓と比べてどうなんだ?」

『性能は上みたいね、これで無矢の弓はアスモさん行きになるわね』

「へぇ、そうなのか、名前は?」

『シャーウッド、というらしいわ』

「なるほど、それは強そうだ」

 

 シャナは、いかにもな名前だと納得した。

 

『それと各門の状況なのだけれど、西門に関しては、アルヴヘイム攻略団が突破して、

今次のエリアの中盤くらいまで攻略が進んでいるようね。

東と北はまだ無理みたい、特に北がまずいわね、どちらもぐだぐだなのだけれど、

東はまだ人数が多いから何とかなりそうらしいわ。

でも北は東より人数が少ないせいで、昨日全滅して敵のHPが全快してしまったらしいの。

なのでかなり時間がかかる事になると思うわ』

「そうなのか、どうしても駄目そうなら手伝うしかないだろうな。そうしないと、

下手をするとALO単独のバージョンアップに間に合わなくなっちまうかもしれないしな」

 

 ヴァルハラとしては、それは避けたいところである。

というかおそらく他のギルドにとってもそうであろう。

 

『なのでとりあえず、ジュラトリアの西に関しては後回しにして、

南の調査を優先させる事にしたの。そちらに戦力の六割を動員して、

探険部にもそちらに向かってもらったわ』

「各門の鍵が無くても行けたのか?」

『ええ、裏からなら平気のようね。六人を二人一組で各門の偵察に出していたのだけれど、

チェックが終わったから今は居残り組と一緒にジュラトリアの調査をしてもらっているわ』

「状況は分かった、引き続き調査を頼む」

『任せて頂戴、そっちの調子はどう?』

「幸いリオンがスザクの元ネタを見つけてくれたんでな、

とりあえずこいつの入り口を開けて、それからリオンと合流して、

スザクを乗りこなせるように頑張ってみるわ」

『分かったわ、気をつけてね』

「おう、操縦に失敗して落ちて壊すとかが無いように注意するわ」

 

 仲間達の活動が順調なようで安心したシャナは、そのままハチマンでログインし直した。

 

 

 

「さてと、とりあえずここから出るとするか、操作は確かここだったな」

 

 ハチマンがそう呟きながらコックピット下のレバーを引くと、

ガコン、という音と共に壁の一部が開き、そこから下に階段が伸びていった。

 

「ここが出口だったのか………」

 

 ハチマンはそのまま下に降り、う~んと伸びをした。

 

「あっさり出れて良かったな、さて、リオンを待つか」

 

 収納されていく階段を見ながらハチマンはそう呟き、その場に腰を下ろした。

だがのんびりする暇もなくリオンはすぐに現れた。

これはまあ、ポータルを使って街から飛ぶだけなので当然だろう。

リオンはハチマンの姿を見付け、真っ直ぐこちらに駆け寄ってきた。

 

「無事に出られたんだね」

「ああ、いけたいけた、それじゃあちゃんと操縦出来るか試してみようぜ」

「うん」

 

 リオンは尻尾の裏を調べ、バーサス・ジュラリオンと同じように、

そこに搭乗用のスイッチがあるのを見付け、そのボタンを押した。

すぐに上から階段が下りてきた為、二人は簡単にコックピットに乗り込む事が出来た。

 

「よし、順調だな」

「う、うん」

 

 先日四人がここにいても余裕だったように、コックピットは意外に広いのだが、

それでも密室には違いない。リオンとしては、どうしてもその事を意識してしまう。

 

(こ、こんな所で二人きり………)

 

 だがハチマンがそんな事を意識するはずもない。

ハチマンはコックピットの座席に腰掛けながら、指をポキポキと鳴らした。

 

「さて、それじゃあ動かしてみるか、先ず俺がやってみるから間違ってたら教えてくれ」

「分かった」

 

 分かってはいたものの、あまりにも平然としたハチマンの態度がリオンは恨めしかった。

 

(あ~あ、せめて逆ラッキースケベでも起こらないかな)

 

 リオンはそんな不穏な事を考えつつも、

やるべき事はしっかりやろうとハチマンの操作に間違いがないか、チェックし始めた。

 

「よし、起動スイッチを入れるぞ、ここで間違いないよな?」

「うん、合ってる」

 

 ハチマンの操作は実にスムーズであった。多分動画を何度も見返したのだろう。

スザクの目が光を放ち、羽根が広がっていく。

 

「問題なくいけそうだな」

「そうだね、とりあえずサブシートを出して、私はそこに座るよ」

「そんなのがあるのか」

「うん、このレバーをこう引っ張るとね………」

 

 リオンがレバーを引くと、ハチマンの後方の一段上がった所に別のシートが出現する。

 

「そんな所に………」

「私も始めて知ったよ、二人で操作する場合はこっちが火器管制かな、

まあやった事ないけど」

「なるほど、後でやってみようぜ」

 

 ハチマンはそう言いつつ操作を続け、リオンはそれを、

ハチマンの背中越しに、後ろから覗き込むような格好で確認していく。

リオンが意図してやった訳ではなかったのだが、

その過程でハチマンの後頭部にリオンの胸が軽く触れる。

それに気付いた瞬間に、リオンの目がキラリと光った。

 

(あっ、このシチュエーションってあれを試すチャンスなんじゃ………)

 

 思春期をこじらせつつあるリオンは、どんな小さなチャンスでも決して見逃さない。

 

(でも『当ててんのよ』をやっただけじゃ、すぐ座れって言われるのがオチなんだよね。

まあ前から考えてた通りにやってみよっと)

 

「それじゃあ飛んでみようよ」

「そうだな、やってみるか」

 

 ハチマンが左にあったレバーを引くと、スザクがふわっと舞い上がる。

 

「おお、飛んでるな」

「こういうのも楽しいよね」

 

 ハチマンはまるで子供のようにはしゃいでいた。

リオンはそれを微笑ましく思いながらも、転ばないように慎重に立ち上がり、

ハチマンの頭のすぐ後ろに自分の胸を持っていく。

 

(このくらいかな、うん、覚えた)

 

 リオンはそのまま何もせず、ハチマンと一緒にスザクでの飛行を楽しんだ。

窓から外を見ると、下に仲間達の姿が見える。どうやらこちらに手を振っているようだ。

ハチマンとリオンはそちらに手を振り返し、一旦元の場所に戻る事にした。

 

「これくらい飛べれば問題ないな、次は二人での操縦がどんな感じなのか試してみよう」

「うん、そうだね」

 

(よし、ここで勝負!)

 

 先ほど考えた通り、仮にリオンが飛行中にハチマンの頭に胸を押し付けても、

ハチマンはおそらく、『はぁ、まったくお前らときたら………』

などと言うだけで済ませてしまうはずだ。

それはかつて、多くの仲間達が通ってきた道でもある。

そうさせない為には、ハチマンに先に手を出させる必要がある。

リオンはそう分析し、以前からそれに対する対策をいくつか考えていた。

その対策は、実は驚くほどシンプルなものであった。

リオンは下手に凝った事をするよりその方が効果が高いと考えたのである。

そしてついに今、その作戦のうちの一つを実行するチャンスが訪れた。

リオンは着陸のタイミングでそれを実行する事を決め、

スザクが無事に地面に降り立った直後、ハチマンが視覚の同調を解き、

こちらに振り向こうとした瞬間に、シートの頭を乗せる部分の上に胸を突き出した。

その作戦はまんまと成功し、無事に飛行を終えた興奮状態のまま、

リオンに話しかけようとしたハチマンの顔が、とても柔らかい物に埋まった。

 

「おわっ」

「きゃっ!み、見ないで!」

 

 リオンはそう叫び、ここぞとばかりにハチマンの頭を抱え込んだ。

見ないでも何も、見られて困るような状態ではまったく無いのだが、

ハチマンの頭を抱え込む口実を、無理やり口にした格好である。

だがそれにより、思わぬ副次効果が発揮された。ハチマンが混乱したのである。

 

(え?やべ、リオンの奴、見たらまずいような状態になってたのか?)

 

 そんな事はまったくない、あるはずもない。

だがパニック状態のハチマンが選んだのは、とりあえず謝る事、であった。

 

「す、すまん!」

 

 素直に謝ればリオンが許してくれないはずはなく、

それで落ち着ければ事情も分かるだろうと考えたからだが、

ハチマンのその選択はリオンに読まれていた。

 

(このまま押し切る!)

 

「も、もう、いきなりだったからびっくりしちゃった、

こ、この事はみんなには内緒だからね」

 

 リオン必殺の、二人だけの秘密攻撃である。

その時リオンは頬を赤らめて恥らっていたが、これは演技では無い為、

ハチマンは先ほどのリオンの言葉にまったく疑問を持つ事が出来ない。

 

「え?あ、いや、そ、そうだな、悪かった」

 

 ハチマンはどこか納得出来ないながらも、とりあえず丸く収まりそうだと安心した。

少なくとも事の起こりはハチマンが急に振り向いた事であるのは間違いなく、

一歩間違えばアスナからお仕置きを受けてしまう可能性もあったからだ。

 

(こういうのにも慣れちまったな、まあよくある事だ、多分)

 

 実際ハチマンに限って言えばそうなのだが、

そう納得してしまう時点でハチマンは既に、

周りの肉食系女性陣にかなり毒されてしまっている。

とりあえず闇風はハチマンにキレていい。薄塩たらこも材木座もキレていい。

 

 それはさておきリオンの攻撃は完璧に成功した。

今後多少エスカレートしても、二人だけの秘密が増えるだけであり、

その分ハチマンの負い目が増えていくだけであろう。

だがその事でハチマンがピンチになる事はない。

何故ならこの事をリオンがアスナに律儀に報告するからである。

この事でリオンが得る利益は、アスナの中でのリオンの序列上昇である。

正妻の座が望めない以上、いくら二人だけの秘密を作っても意味がないのだ。

それならこれこれこういう攻撃が成功し、こういう感じになりましたと自らアスナに報告し、

ハチマンに対するアスナの手札を増やすのに貢献した方が、将来ワンチャンあった時に、

それをモノにする為にアスナの後押しが得られる可能性が高まる。

 

 ちなみにスザク絡みの今日の出来事は、これで終わりではなかった。




すみません、頭の悪い話になったのはきっと熱のせいですorz

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