ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第950話 妄想と現実

(うん、これって大成功だったんじゃない?)

 

 リオンは今回の結果にかなり満足した。

自分の妄想が実現した事がかなり嬉しかったのだろう。

高校二年までは片思いを拗らせて毎日悶々としていた事を考えると、

実に立派に成長を遂げたと言っていい。

もっともその成長の方向性が正しいのかどうかはまた別の問題であるのだが。

 

「よ、よし、それじゃあ気を取り直して二人用ってのをやってみようぜ」

「あ、うん、そうだね」

 

 こちらはリオンにとっても初体験となる為、リオンは即座に頭を切り替えた。

 

「この下のレバーを引いて捻るってのは知ってるんだよね、

で、前のシートが操縦で、後ろのシートが火器管制」

「ほうほうそうなのか」

 

 そしてリオンがレバーを引くと、前方のシートの形状が変わった。

おそらく日本のいくつかのアニメに影響を受けたのだろう、

操縦用のシートはバイク型であった。要するに跨って前傾姿勢をとるタイプである。

 

「どっちがどっちを担当する?」

「どうせ後で交代するんでしょ?私はどっちからでもいいよ」

「そうか、それじゃあジャンケンでもするか」

「そうだね」

 

 その結果、リオンが前で操縦、ハチマンが後ろで火気管制を担当する事になった。

 

「よ~し」

 

 リオンはストレッチをしながらやる気に満ちた表情を見せた。

さっきの成功で気を良くしているのもあるが、単純に楽しみなのだろう。

 

「さて、それじゃあスザクをまた起動するね」

 

 リオンがそう言ってボタンを押した瞬間に、二人の視界が変化した。

 

「きゃっ」

「うおっ」

 

 二人は驚いたが、先に冷静さを取り戻したのはハチマンであった。

 

「リオン、こっちは自動でスザクと視覚同調したみたいだ、そっちも何かあったのか?」

「あ、うん、視界が三百六十度に広がったの」

「マジか、全天周囲モニターって奴か、それは俺が操縦する時が楽しみだな」

「とりあえず飛んでみるね、基本の操作方法は同じみたいだし」

「おう、頼むわ」

 

 そしてスザクは再び大空に舞い上がった。

操縦の基本は同じのようで、リオンは何も苦労する事なくスザクを操れている。

 

「やるじゃないかリオン、動きがさっきと変わらずスムーズだ」

「ふふっ、短い時間だったけど、バーサス・ジュラリオンでそれなりに練習したからね」

「いっそALOでもジュラリオンに改名するか?」

「もう、茶化さないで!」

 

 そう抗議しながらも、リオンはとても楽しそうであった。

 

(リオンは将来バイクの免許を取って、あちこち走り回るようになるのかもしれないな)

 

 ハチマンは何となくそう思い、

リオンのライダースーツ姿を想像し、ぶんぶんと頭を振った。

胸の部分が非常にけしからん状態になっている姿を想像してしまったからだ。

 

(いかんいかん、さっきの影響がまだ残ってるな、雑念を消さないと)

 

 そう思いながら、ハチマンはきょろきょろし、

何か標的になるような物が無いか探し始めた。

その瞬間に軽快に飛んでいたスザクが何故か急制動をかけ、空中で静止した。

油断していたハチマンは前のめりになり、()()()に手をついた。

 

「危なっ!おいリオン、どうかしたのか?」

「………………あ、う、うん、ちょ、ちょっと待ってて」

「お、おお、分かった」

 

 ハチマンは()()()から手を放し、周囲のチェックを再開する事にした。

 

(それにしても操縦席のシートって柔らかいんだな)

 

 ハチマンはそう思ったが、ハチマンが手をついたのは当然シートではない。

 

(ど、どどどどうしよう、思いっきりお尻を揉まれちゃった………)

 

 ハチマンからは見えなかったが、リオンは実はかなり焦っていた。

それはお尻を揉まれたからではなく、他に理由がある。

リオンはハチマンにお尻を揉まれる少し前に、

何となく後方の確認をしようと振り返ったのだが、それで気付いてしまったのだ、

スザクを操縦している時、自分のスカートがひらひらしている事を。

それはつまり、もし今ハチマンがスザクとの視覚同調を切ったとしたら、

ゲーム内とはいえ、自分のパンツがハチマンから思いっきり見えてしまうという事なのだ。

ヴァルハラの一般メンバーの制服として決まっているのは、

ヴァルハラ・アクトンという上着だけであり、

下に関してはメンバーの自由となっているのだが、

ヴァルハラの女性陣は基本、ハチマンへのアピールの為にミニスカートしか履かない。

リオンも当然そうしており、見られる事はむしろ望む所でもあるのだが、

問題は、現在のシチュエーションにあるのだ。

 

(こ、これは恥ずかしい、けどハチマンからは見えてない、そう、見えてるけど見えてない)

 

 リオンはその事実に激しい背徳感を感じ、そのせいで極度に興奮していたのだった。

ソレイユに入り、色々な事を学んできたリオンだったが、

ヴァルハラの女性陣と交流を深める過程で、余計な事まで学んでしまったようだ。

もしハチマンがその事を知ったとしたら、

真っ先にクックロビンとフカ次郎を締め上げたのは間違いない。

 

(これはかなりやばい、出来れば私だけの秘密にしたいけど、

でも他の人も乗るんだし、直ぐに分かっちゃうよね。

うん、やっぱりこの事もアスナさんに報告しなきゃ)

 

 リオンはそう考え、それで一応落ち着く事が出来た。

後日アスナが自らハチマンと一緒にスザクに乗り込み、

大興奮の末にこの行為自体には何の実害も無い事を認め、

ガス抜きと称してACSのヴァルハラ女性限定グループ内のチャットでその事を公表した為、

ハチマンはしばらく一部の肉食系女性陣に、

スザクの火器管制役を延々とさせられる事になるのだが、それはまた別のお話である。

 

「ごめん、もう大丈夫」

「そうか、それじゃあとりあえず南東に向かってくれ、

とりあえずあそこの岩を標的にして攻撃してみるわ」

「了解」

 

 そこから二人による岩への攻撃が始まった。

元々スザクはボスクラスの敵として設定されており、

その火力には凄まじいものがあった為、

遠目にそれを見た、街を探索していた仲間達は、その凄まじさに驚く事となった。

 

「よし、かなり満足したわ、それじゃあリオン、一度帰投して役目を交代しようぜ」

「分かった、一旦戻るね」

 

 リオンはスザクを見事に操り、スムーズに元の場所に着陸させた。

そしてハチマンにバレないようにそっとスカートを直し、何くわぬ顔でシートから下りた。

 

「どうだった?」

「おお、凄え興奮したわ」

「………そ、そう、まあ私もそうかな」

 

(ハチマンが興奮した、ハチマンが興奮した、ハチマンが興奮した………)

 

 リオンの脳内で、その言葉が何度もリフレインされた。

同時にハチマンがじっとリオンの下半身を見ている光景を妄想し、

リオンは再び極度の興奮状態に陥った。相対性妄想眼鏡っ子の面目躍如である。

 

「お、リオンもこういうのが好きなのか?また一緒に乗ろうな」

「う、うん、喜んで!」

「そんなに楽しかったのか、ならまあ良かったな」

 

 ハチマンは笑顔でそう言い、リオンはほんの少し罪悪感を感じたが、

これは人生のスパイスのような物だと思い直し、再び冷静さを取り戻した。 

 

「よし、それじゃあ今度は俺が操縦な!」

「はいはい、まったく子供みたいなんだから」

 

 ハチマンとリオンは場所を交代し、そしてスイッチを入れた瞬間に、ハチマンが絶叫した。

 

「うおおおお、マジで全天周囲モニターじゃないかよ、今俺は最高にニュータイプだ!」

「ごめん、言ってる意味が全然意味が分からない」

「まあ当然だな、これは男のロマンって奴だ」

「………まあ楽しそうだからいいけどね」

 

 そんなクールなリオンに、ハチマンは不満を述べようと振り返って硬直した。

よく考えて欲しい。ハチマンは前傾姿勢をとっている為にその視点はかなり低く、

リオンを見上げるような格好となっている。

そしてリオンはミニスカートを履いて、ハチマンの真後ろに座っているのだ。

その足は踏ん張っている為に若干開いており、つまり今のハチマンからは、

絶対に見えてはいけない布が丸見えになっているのである。

先ほどはリオンの妄想であったが、こちらは現実である。

 

「なっ………」

「ん、何?」

「い、いや、何でもない」

 

(やばいやばいやばい、これがバレたら絶対リオンに、

『ハチマンってブタ野郎だね』とか言われちまう。

というか問題はそこじゃねえ、これには俺以外の奴も乗るんだった。

残念だが、男同士で乗る時以外はスザクを男が操縦するのは禁止にするべきだな………)

 

 ハチマンは即座にそう決断し、この日のうちに、その旨を全員に連絡した。

当然疑問を抱く者もいたが、ヴァルハラにおいてハチマンの命令は絶対である為、

全員がその指示にちゃんと従ってくれた。

こうしてハチマンとリオンの思惑が上手く噛み合い、

女性陣はルールだからと言い訳しつつ、内心では喜んで操縦役を志願し、

ハチマンもやましさを誤魔化す為に指示を出したせいもあり、

女性陣の要求をまったく断れなくなってしまうという、

ある意味罰ゲームのような状況が出来上がったのであった。


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