ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第952話 情報交換

 その後、数時間は戦い続けたのだが、その結果、西門チームは敗北した。

とはいえ北門のように全滅したとかではなく、単純に火力不足である。

最初の攻撃の後、いくつか検証が行われ、

ラキアの全力攻撃で敵のHPが一ドット減るとして、

中堅プレイヤーの弓と魔法による攻撃では二ドット、銃での攻撃は三ドットくらい、

敵のHPが減るようだという観測が成され、

西門チームの参加プレイヤーのほとんどが近接アタッカーである為、

あまりにも削る速度が遅く、矢や弾丸、MP回復アイテムが全く足りないという事になり、

この日は無念ながら、撤退する事になったのである。

 

「ちっ、厄介な」

「面倒すぎるだろ、せめてこっちも飛べれば………」

「ムキー!」

「まあ敵は一体だけなんだ、次は勝てるっしょ」

「とりあえず戻って準備だな」

 

 幸い敵は、撤退する一同を追いかけてくるような事はなく、

一定距離を離れた段階で元の位置に戻った。

 

「平気みたいだな」

「敵の攻撃の威力が低いのは助かったけど、硬すぎだっての」

「あれで攻撃まで強かったら鬼でしょ鬼!」

 

 そう愚痴を言いながらも街に戻った後、西門チームは黙々と物資の補給を始めた。

そんな最中、アスモゼウスとヒルダがMP回復薬を買おうと店に入ると、

そこには偶然ハチマンとアスナ、それにシノンとリオンがいた。

 

「お?」

「あっ、ハチマンさん!」

「お、お疲れ様です」

「おう、二人ともお疲れ」

「相変わらずのハーレム状態なんですね」

 

 そう余計な事を言った瞬間に、ヒルダはハチマンから、ゴン!と頭に拳骨をくらった。

 

「い、痛っ………くない!」

「おう、知ってたわ」

 

 そんな二人に苦笑しながら、シノンがアスモゼウスに話しかけた。

 

「丁度良かったわ、はいアスモ、それじゃあこれ、約束の弓」

「えっ?」

 

 そう言ってシノンが差し出してきたのは無矢の弓であった。

シャーウッドが手に入った為に、用済みになったのである。

 

「い、いいの?」

「うん、代わりが手に入ったからもう大丈夫」

「攻略、順調なんだ………」

「まあうちはヴァルハラだしね、ところで今時間はある?

もしあるならこれから練習場に行かない?これの使い方を説明しないといけないし」

「あ、そうだね、うん、分かった。ごめんヒルダ、ちょっと行ってくるね」

「オッケーオッケー、行ってらっしゃい!」

 

 こうしてシノンとアスモゼウスは連れ立って練習場へと向かう事になった。

 

「そっちは苦労してるの?」

 

 そして残されたヒルダに、アスナが気さくに話しかけてきた。

 

「す、すみませんすみません、ほんのちょっと苦戦しております!」

 

 その何かを恐れるようなヒルダの話し方を見て、アスナは沈黙した。

 

「………ハ、ハチマン君、もしかして私って怖い?」

「ん?そんな事はまったく無いぞ、そもそもアスナが怖かったら、リオンなんか鬼だろ鬼」

「誰が鬼だっちゃ!」

 

 リオンはそうネタっぽい事を言って、即座にハチマンの足を踏みつける。

 

「お前、何でそんなネタを知ってるんだよ!」

「シノンちゃんの着信音がかわいかったから由来を聞いて、そこで知ったかな」

「くっ、ランとシノンのせいでヴァルハラに昭和が蔓延してやがるな、

っていうか咄嗟にそのセリフが出てくるなんて、やっぱりリオンは頭の回転が早いんだな」

「まあ師匠に鍛えられてるからね」

 

 その言葉にハチマンは、教えてもらってるのは勉強なのかネタなのかと、

一瞬頭を悩ませる事となった。

 

「………まあいい、おいヒルダ、もしかしてアスナが怖いのか?」

「う、ううん、緊張しただけ、今の会話で力が抜けちゃったからもう大丈夫」

「そうか、だそうだぞ、アスナ」

「そっか、それなら良かった」

 

 そうはにかむアスナの表情を見て、ヒルダは心臓がドクンと跳ねるのを感じた。

気が付くとヒルダはアスナの手を握り、こう叫んでいた。

 

「け、結婚して下さい!」

 

 その瞬間に再びハチマンの拳骨がヒルダの頭を襲う。

 

「い、痛っ………くない!」

「お前、それはさっきやったからな。で、今日の攻略はどうだったんだ?」

「えっと、ビャッコっていう名前の鳥が出てきて………」

「えっ?と、鳥?」

「お、おいちょっと待て、いきなり突っ込み所満載なんだが」

 

 当たり前だがさすがのハチマンとアスナも、

さすがにそんな事態は想定していなかったらしい。リオンも隣でぽかんとしていた。

 

「しかも敵の装甲が厚くて、ラキアさんでも手も足も出なかったというかですね………」

「マジかよ、あのラキアさんがその状態だと、どうしようもないんじゃないか?」

「でも遠隔攻撃全般はそれなりにダメージが通ったんで、

明日はそういう方向で戦う事になると思います、はい」

「ふうむ、でもドラゴニアンも同時に攻めてきてただろ?そっちの対策はどうしたんだ?」

「え?」

「え?」

 

 そのハチマンの言葉にヒルダは首を傾げ、ハチマンもそれに釣られて首を傾げた。

 

「いや、だって出てきたよな?ドラゴニアン」

「い、いえ、出てきてませんけど………」

「あ、あ~?あ~………」

 

 ハチマンはキョトンとしながらも、自分の中で何か折り合いをつけたのだろう、

何事も無かったかのように話題を変えた。

 

「ところでお前、試験結果はもう出たのか?赤点はとってないか?」

「ちょ、ちょっと、露骨に話を逸らさないで下さいよ!

赤点なんかもちろん一つもありません!

っていうか今のはどういう事ですか?もしかして色々と隠してませんか!?」

 

 ヒルダはハチマンの胸倉を掴み、ブンブンと前後に振った。

 

「い、いや、そうは言っても実際何が出現するのか俺達も知らないからな………」

「何でですか!ハチマンさん達は、スザクってのと戦ったんですよね?」

「え?」

「え?」

 

 今度は立場を逆にして、先ほどと同じ光景が繰り返された。

 

「まさか戦ってないんですか!?」

「ま、まあ大人の事情って奴だ」

「くっ、十八禁の壁が………」

 

 まだ十七歳のヒルダは、悔しそうにその場に崩れ落ちた。

 

「とりあえずお前さ、一度は絶対に大量の卵から産まれたドラゴニアンと戦ってるよな?」

「確かに戦いましたけど、ドラゴニアンが出てきた時は、別に卵なんて見ませんでしたよ?」

「………その時はどういう状況だったんだ?」

「えっと、ドーム球場みたいな場所があって………」

 

 その言葉にハチマンとアスナ、それにリオンは顔を見合わせた。

 

「で?」

「えっと、中を覗いても何もいなかったから、

そのまま進んだらいきなり上から翼竜が沢山襲ってきて………」

「「「あ~………」」」

 

 三人はその光景を思い浮かべ、何が起こったのか理解した。

要するにヒルダ達は、開発の想定通りに動いたのだろう。

 

「な、何かおかしいですか?」

「いや、おかしくない、それが普通だ」

「ですよね、で、その場で戦ってたら、横の階段からドラゴニアンがこう、わらわらっと」

「「「あ~………」」」

 

 三人は、やっぱりそれが普通なんだなと嫌でも理解させられた。

 

「な、何かおかしいですか!?」

「いや、おかしくない、それが普通だ」

「ハチマンさん達が普通じゃないみたいに聞こえるんですけど………」

 

 再び繰り返されたそのやり取りに、ヒルダは訝しげな視線をハチマンに向けた。

 

「いつから俺達が普通だと思っていた?」

「た、確かに普通だった事なんか一度もありませんね」

 

 そう断言するヒルダの顔を見て、アスナが落ち込んだような表情をした。

 

「私、自分の事普通だって思ってたんだけどな………」

 

 ヒルダはそんなアスナの仕草に母性本能をくすぐられたが、

余計な事を言うとまたハチマンに拳骨をくらうので、何も言わないように必死に耐えていた。

 

「アスナ、ヒルダが普通じゃないって言ったのは褒め言葉だから気にする事はないぞ」

「そ、そう、もちろん褒め言葉ですよ!」

「そうだったんだ、ごめんね、一人で落ち込んじゃって」

 

 ヒルダは全力でそれに乗っかり、アスナも笑顔を取り戻した。

 

「それでハチマンさん、さっきの………」

 

 続けてハチマンに色々質問しようとしたヒルダを、その時ハチマンが止めた。

 

「ちょっと一旦ストップだ、おいアスナ、リオン、見てみろよあれ」

 

 そう言ってハチマンが指差した先には、とぼとぼと歩くユージーンの姿があった。

 

「あれって………」

「ユージーン君だね、でもどうしたんだろ、凄く疲れたような顔をしてるね」

「よく見たら後ろにビービーもいるな」

 

 ハチマン達が目にしたのは、成す術もなく敗走してきたユージーン達の姿であった。

その少し後ろをカゲムネが歩いていた為、

ハチマンはこっそりとカゲムネにメッセージを送った。

 

『カゲムネ、左だ』

 

 そのメッセージを見たカゲムネが、バッと顔を上げ、ハチマンの方を見た。

ハチマンはそんなカゲムネに手招きし、

カゲムネはユージーンに気付かれないようにそっとこちらに移動してきた。

 

「ハチマンさん………」

「カゲムネ、何があったんだ?明らかにユージーンの様子がおかしかったが」

「それが、俺達は北門にいるんですけど、

人数が少ないせいもあって、まだ門を突破出来てないんですよ」

「………北門でプレイヤーが全滅してたって話は聞いたが」

「あ、はい、俺達です、サラマンダー軍の人数も、今は三十人くらいになっちまってて、

俺達も一緒に行動してるM&Gも、他のプレイヤーからはまだちょっと敬遠されてるんで、

戦力が東門の方にばっか集中しちゃったみたいなんですよね」

「敬遠?そうなのか?」

「はい………」

 

 そのカゲムネの自虐めいた言葉でハチマンは事情を知り、苦い顔をした。

確かに自業自得ではあるが、今のユージーン達は、

決して他のプレイヤーに嫌われるようなプレイはしていないからだ。

M&Gについてはまあ、ビービーはともかく、

ZEMALの連中についてはそう思われても仕方ないだろうなと感じていた。

 

「それで、突破は出来そうなのか?」

「今のペースだと一週間くらいかかるかもしれません」

「そうか、分かった、そっちは明日、俺達が何とかするから」

「いいんですか?」

「おう、あまり攻略が遅くなると、ALOのバージョンアップに被っちまうからな」

「すみません、ご迷惑をおかけします」

「何、お前達のせいじゃないさ、まあユージーン的には複雑な気分になるかもしれないが、

このまま無駄に時間をかけるよりはいいだろ」

「すみません、宜しくお願いします!」

 

 そしてカゲムネが去った後、ハチマンはアスナと話し合い、

明日北門に戦力を派遣する事を決めた。

このせいでヒルダのドラゴニアン絡みの話がうやむやになってしまったが、

そのせいで明日、西門チームが更なる混乱状態に陥る事となる。

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