ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第953話 七天乱入

 次の日の夜、ユージーンは今日こそはという思いを胸に、

仲間達と共に北門へと向かっていた。

 

(とにかく俺が、俺が何とかしないと………)

 

 ヴァルハラが草食恐竜と戦っていない事は知らなかったが、

もっと人数が少ないはずのヴァルハラが、

既にかなり先まで行っているという噂を聞いたユージーンは、

いつまでもヴァルハラの後塵を拝する訳にはいかないと唇を噛み締めていた。

昨日一度は全滅したものの、後半は多少取り戻す事が出来た為、

今日のユージーンはかなり気合いが入っていた。

そして戦場に着いたユージーン達は、そのまま戦闘配置についた。

 

「タンク隊は前へ」

 

 ユージーンは配置についた仲間達にそう指示を出す。

それを受けて立派な装備を身につけたタンクが数名前に出て、フォーメーションを組んだ。

昨日の反省を元に強化された、ユージーン肝いりの部隊である。

 

「よし、斥候は敵を釣ってくれ、ビービー、そちらの指揮は任せるぞ」

「ええ、昨日でかなりコツが掴めてきたし、何とかしてみせるわ」

 

 そして斥候が敵の感知範囲内に入った瞬間に、

いつものように全ての敵が一斉に動き出した。

 

「これで何とかなればいいんだが………」

 

 タンク陣は昨日かなり痛い目に遭わされたたはずなのだが、

怯む事なく敵に立ち向かっていた。昨日は腰が引けていたのだが、今日はそんな事はなく、

それが幸いしたのか、こちらにぶつかってきた雷竜の突進を止める事に成功した。

 

「よし、今日はいけるぞ!総員攻撃開始!」

 

 すぐに攻撃の指示が出た為、アタッカー陣が敵に集中攻撃を開始する。

他の敵は斥候と足に自信があるアタッカーが担当し、マラソンしていく。

ここまでは実にスムーズであったが、問題はここからだ。

いつも崩れるのはこの後からだからだ。

 

「そろそろ尻尾の攻撃が来るぞ!」

 

 アタッカー陣はその言葉を受け、タンクの後方へと移動する。

尻尾がどちら回りで来るか見極め、そちらに移動する為だ。

敵の尻尾の攻撃は一周もしくは半周の二択となっており、

半周の攻撃ならば、そうする事で避ける事が出来る。

これは昨日の戦闘の映像を分析して得た情報であり、

ユージーンはそれを見てしっかりと対策を練っていたのだ。

だが一周攻撃だった場合、タンクがそれを受けきれるかどうかはまだ未知数であった。

そして轟音と共にしなる尻尾がタンクに迫る。

 

(半周か?一周か?)

 

 息を呑んで見守るユージーンの目の前で、

その尻尾はぐるりと一周し、タンクが抗えずにぶっ飛ばされた。

 

「だ、駄目だったか………」

 

 昔から対人、もしくは小型のモブ狩りばかりを繰り返してきたユージーンは、

ここにきて初めてボスクラスの巨大な敵と戦う事の大変さを知った。

だがここで戦う事をやめる訳にもいかない。

 

「体勢を立て直せ!治療班はタンクに癒しを!」

 

 ユージーンは、せめて昨日より一匹でも多くの敵を倒そうと、そう声を張り上げた。

 

 

 

「もしかしたら自力でいけるかと思ったが、あのタンク達じゃ無理だったか」

「ハチマン様、あれは転向組ですから、このクラスの敵の相手は無理です」

「装備はまともに見えるんだがなぁ」

「確かにそうですが、とても使いこなせているとは言えませんね、

多分必要ステータスがギリギリなんでしょう」

「やっぱ余裕がないと駄目か?」

「はい、自在に操る為には、最低限のステータスがあるだけでは駄目です。

それに敵の攻撃を受け止めるのも、敵に合わせたステータスが無いと無理ですね」

 

 ユージーン達の戦いを丘の上に腹ばいになって見ていたハチマンとセラフィムは、

そんな会話をしつつ立ち上がった。

そしてハチマンは少し丘を下り、後方でのんびりと寛いでいた仲間達に声を掛けた。

 

「どうやら戦況が思わしくない、予定通り乱入だ」

「お、ユージーンには悪いが待ってましただな!」

「やっと暴れられるわね」

「本当は介入する事なく自力で突破して欲しかったのだけれど」

 

 キリト、シノン、ユキノがそう言って立ち上がる。

 

「まあ仕方ないさ、防御がしっかりしていないと、消耗戦になってしまうからね」

「強いタンクの人って、他のギルドには中々いないよね」

「確かにうち以外で見た事がないですよね」

 

 そんな三人に、サトライザー、アスナ、シャーリーがそう感想を述べる。

 

「私達は他のゲーム出身だから、テッチが純粋なタンクとして育ってくれてて助かったわね」

「そうだね、もし全員アタッカーとかなら詰んでたかも」

「本当は誰か一人、魔法攻撃か遠隔攻撃が出来ればベストよね」

「だねぇ」

「ちょっと考えてみようかしらね」

 

 ランとユウキのその言葉にクリシュナが横からそう言い、

二人は腕組みをして考えるようなそぶりを見せた。

 

「さて、それじゃあ行きましょっか、ハチマン君、作戦はどうする?」

 

 最後に立ち上がったのはまさかのソレイユであった。

どうやらここにはセブンスヘヴンランキングの上位陣全てが揃っているらしい。

こういった戦場でこのメンバーが全員揃うのは、滅多にある事ではない。

 

「そうだな、初手はサトライザー、シノン、シャーリーさんだ。

攻撃をぶち当てたら敵の動きが一瞬止まるだろうから、

そうしたらセラフィムが突撃して敵のターゲットを保持、

そしたら残りの全員で一気に攻撃だ、あのHPの減り具合なら、

それだけで今ユージーン達が戦っている敵は倒せるはずだ。

後はどんどん釣ってどんどん倒す、以上だ」

「はぁ、大雑把よねぇ、私はどうする?」

「姉さんは大規模な魔法を準備して、俺から合図があり次第ぶっ放してくれ」

「はいはい、今から詠唱を開始すればいいのね」

「そういう事だ」

 

 話はそんな感じで簡単に纏まった。ここにいるのは歴戦のつわものばかりであり、

連携もとれている為に余計な説明は必要ないのだ。

そんな中、この中では一番経験が浅いシャーリーは、極度に緊張していた。

 

「シャーリー、大丈夫?」

「う、うん、ちょっと緊張はしてたけど、先鋒を任されたから、今はちょっと、ね」

「大丈夫よ、むしろシャーリーはモブ狩りの方が得意じゃない、

今回はただ敵に弾を当てて、後はみんなに任せるだけよ、簡単でしょ?」

「そう言われると確かにそうかも、移動する必要もないし、

敵の攻撃に備える必要もないね」

 

 そうシャーリーをリラックスさせようとするシノンを、ハチマンが茶化す。

 

「お前こそ外すなよ、シノン」

「もしそうなったらそれは私の()()の教育が悪いという事よ。

というか私が外す訳ないじゃない、し・しょ・う?」

 

 この言葉からお分かり頂けるだろうが、

今日のシノンはGGOのシノンとしてここに参加していた。

なので厳密にはセブンスヘヴンのシノンではないのだが、

そんな余計な突っ込みを入れる者はいない。

 

「ははっ、まあここには対物ライフルが三本もあるんだ、一人くらい外したって問題ないさ」

 

 そう言って笑ったのはサトライザーである。

そして三本という言葉から分かる通り、今回サトライザーも、狙撃手として参戦していた。

その手に持つのはシャナから託されたM82である。

これでシノンのヘカートII、シャーリーのAS50と合わせ、

三本の対物タイフルがここに揃った事になる。

 

「何よサトライザー、やる前から外した時の言い訳?」

「バレットラインが無いんだ、それくらいは勘弁してくれ、

まあそう簡単に外す気はないけどね」

 

 そう答えるサトライザーが着ているのはオートマチック・フラワーズ、

つまりここにいるのはGGOではなくALOのサトライザーである。

これは試験的な試みであり、一応事前の射撃試験で、

バレットラインが出ないだけで撃つ事は可能という事は確認済である。

 

「まあ確かにそれは大きいわよね、でも心臓の鼓動の影響が無くなる分、

腕がいい人には関係ないんじゃない?腕がいい人にはね」

「絶対外すなって?まあ努力はするよ」

 

 サトライザーはそう言ってM82を持ち上げてみせた。

 

「それじゃあ私達はあの高台に移動するわ、こっちの方が早いと思うから、

そっちの配置が終わったらさっさと連絡しなさいよね、ハチマン」

「この中で一番年下のお前が一番えらそうだよな………」

 

 ハチマンのその言葉に一同は笑い、シノンは顔を赤くしてハチマンの足を踏んだのだった。

どうやらシャーリーの緊張もそれで解けたようで、ハチマンは安心した。

それから五分後、ヴァルハラの一同は戦闘配置を完了し、ハチマンはシノンに連絡を入れた。

 

 

「こちらハチマン、配置が完了した、ヒトキューサンマル丁度に始めてくれ」

「了解、ヒトキューサンマルね」

 

 そのシノンの言葉を聞いて、シャーリーとサトライザーはシステムの時計を見た。

GGOとは違い、全員の時計をあわせる必要はないのが楽である。

そして十九時半ジャストに、轟音と共に、

三発の弾丸がユージーン達が相手をしている敵に見事に突き刺さった。

ここから戦場の様相は大きく変わる事となる。


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