ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、明日の投稿はお休みします!


第959話 ビャッコ戦の裏で

「さて、仕方ない、やるか………」

 

 アルヴヘイム攻略団率いる西門チームがビャッコとの戦闘を開始しようとしていたその頃、

ハチマンは今日はシャナでログインし、

ジュラトリア方面から、西門へと通ずる東の門を潜っていた。

 

「西なのに東とか、まったく繋がりが四次元的なマップだよなぁ」

 

 シャナはそう呟きつつ、ドラゴニアンの集団が整然と並んでいる場所へとたどり着いた。

 

「お、いやがるいやがる、さて、こいつらはどう動くのかねぇ」

 

 シャナはじっとドラゴニアンの挙動を観察しながら、じっとその場で待機していた。

シャナが直接確認出来た訳ではないが、

丁度アルヴヘイム攻略団が戦闘を開始したその瞬間に、敵が一斉に歩き出した。

 

「お、反応したって事は、戦いが始まったんだな。それじゃあとをついていくか」

 

 シャナはそのまま敵の後を尾行していく。

しばらく歩くと遠くを飛び回る翼竜の姿が見えた。

 

「あれがビャッコか………」

 

 単眼鏡で覗き見ると、確かにビャッコはごつい外見をしていた。

 

「………俺のスザクの方が格好いいな、うん」

 

 シャナは微妙に対抗意識が刺激されたのか、そう呟いた。

丁度その時ドラゴニアン軍団の足が止まった為、

シャナもそこで足を止め、M82を取り出した。

 

「さて………」

 

 シャナはまだ銃を構える事はせず、遠くに見える戦場の様子を伺った。

見ると丁度ラキアが弓を番えている所であり、シャナは思わず息を呑んだ。

 

「ラキアさん、随分と綺麗な姿勢で弓を使ってるな、

あれは絶対に弓道か何かをやってたな、しかしあの顔………」

 

 ラキアは弓を撃つ時、とても不本意そうな顔をしており、

やっぱりごつい近接武器の方が好きなんだなと、シャナは含み笑いをした。

 

「アスモゼウスは………まだ動いてないか」

 

 自分の出番はまだ先かと思い、シャナはこの機会に七つの大罪の様子を観察する事にした。

 

「そういやあの中に、ロザリアの元部下の馬鹿どもが混じってるんだよな」

 

 シャナはそう思い、それっぽいプレイヤーがいないかのチェックを開始した。

だが今まで誰も見つけられていないだけの事はあり、特におかしな点は見つけられない。

 

「う~ん、分からん………」

 

 その時一人のプレイヤーが、剣を肩に担ごうとして、慌てて止めたようなそぶりを見せた。

 

「ん、何で構えを変えた?あんなに慌てる必要は無いはずだが………」

 

 そのプレイヤーは周囲をチラチラ見て、

誰も自分の事を見ていないことを確認してから戦闘に戻った。

 

「確かロザリアのデータだと、剣を肩に担ぐのが癖になってるって奴がいたな、

名前は確かフォックス、う~ん、根拠としては弱いが、

他に手がかりも無いし、あいつを徹底マークさせるか」

 

 シャナは視界と同調させてそのプレイヤーの姿を撮影し、調査をさせる事にした。

 

「さてと、そろそろか?」

 

 見ると遠くでアスモゼウスが無矢の弓を取り出したのが見え、

シャナはM82をキング・ドラゴニアンの頭に向けた。

 

「光る矢が視界に入った瞬間に………撃つ」

 

 スコープの奥の端に空中で静止しているビャッコの姿が見える。

そしてドラゴニアン軍団が動き出し、シャナは鼻歌を歌いながらその時を待った。

 

「………来た」

 

 スコープの端に光る矢が見えた瞬間に、シャナは引き金をコトリと落とし、

一瞬にしてキング・ドラゴニアンの頭を粉砕した。同時にドラゴニアンも全て消滅し、

シャナは遠くでまごまごしているアスモゼウスの姿を見てニヤリと笑った。

 

「ドロップアイテムは………これは銃か?しかも光学銃かよ、珍しいな。

名前は………デモンズガン?極限まで軽量化された小型のビームガン、

その弾数は無限、速射可?ほう?これはレン行きだな、名前もまさにそれっぽいしな。

レンがこれを使えば、モブ相手の戦闘だととんでもない事になりそうだ」

 

 これで三門全ての武器が出揃った。AS50、シャーウッド、そしてデモンズガンである。

 

「全部遠隔武器だな、って事は、スザクの所には何があったんだろうかな」

 

 実は誰も入手出来なかった時点で、そのドロップアイテムは、

ジュラトリアのクエストの報酬に変化しており、

レコン達が既に入手済なのであったが、当然シャナがその事を知る事はない。

ただそのアイテムが、実にハチマン好みの癖のあるアイテムだった為、

以後その武器~光の円月輪は、ハチマンの貴重な遠隔攻撃の手段となったのだった。

 

「さて、撤収撤収っと」

 

 シャナはそのまま去っていこうとし、ピタリと足を止めた。

 

「………待てよ、こうなったらいっそ、ビャッコのドロップアイテム狙いで、

ラストアタックを狙ってみるのもありかもしれないな、

攻略は手伝ってやったんだし、それくらいの権利があってもいいだろ、うん」

 

 シャナはそう理論武装し、戦闘中のプレイヤー達に見つからないように、

近くの茂みの中に移動し、そこに寝そべった。

 

「よし、とりあえず一発入れてみて、ダメージがどれだけ出るか確認するか」

 

 シャナは他のプレイヤーの攻撃と被らないように、慎重にタイミングを測っていたが、

丁度その時スコープの向こうで、アスモゼウスが思いっきり転んだ。

それを狙ったのか、ビャッコがアスモゼウスを掴み、空中へと舞い上がろうとした。

 

「………何をやってるんだあいつは」

 

 シャナはそう思いながら引き金を引き、その衝撃でビャッコはアスモゼウスを落とした。

そんなアスモゼウスにヒルダが慌ててヒールをかける。

 

「あいつ、ドジっ子属性でも持ってやがるのか?」

 

 今の攻撃で、M82が与えられるダメージがどのくらいか、

HPゲージを見て当たりをつけたシャナは、

のんびりとそのタイミングを待ち構えるつもりだった、だったのだが………。

 

「あっ、またあいつコケやがった、一体何なんだあいつは、

今までもてあそんできた男共に呪われてんのか?」

 

 もちろんアスモゼウスはただ色気を振りまくだけで、

男をもてあそべるような実力はまったく無いのだが、

イメージ的にはそんな感じなので、シャナはそう悪態をつきつつ、

その度にビャッコを狙撃し、アスモゼウスを助けていった。

 

「ったく手がかかる偽乳だな、っと、そろそろか………」

 

 そんなシャナの目の前で、ビャッコが発狂モードに入った。

だが削りは順調であり、シャナはそのタイミングを逃すまいと、

ビャッコのHPゲージに集中した。

折りしもそのタイミングでアスモゼウスが再び転ぶ。

だが今度はシャナは助けようとしない。

今助けてしまうと、ラストアタックが狙えるかどうか微妙になってしまうからだ。

アスモゼウスは今度こそ上空へと連れ去られ、

ビャッコはそのままシャナの丁度真上辺りに静止した。

 

「ちっ、上かよ、狙い辛いな」

 

 そしてついにその時が訪れた。おそらくあと一撃でビャッコは死ぬ。

丁度そのタイミングでラキアがビャッコ相手に弓を放った。

シャナもほぼ同時に引き金を引いたのだが、弾速の差でラキアに先んじ、

ビャッコのラストアタックを無事ゲットする事が出来た。

 

「よし、上出来だ」

 

 そう呟きながらシャナは両手を広げ、落ちてきたアスモゼウスを受け止めた。

 

「お前は転びすぎなんだよ、何回助けさせるつもりだよ、まったく」

「え?え?だ、誰?」

 

 その反応を見たシャナは、アスモゼウスがシャナの事を知らない事に気が付いた。

 

「あ~………俺は通りすがりのただの正義の味方だ、

何度も助けてやった恩を少しでも感じるなら、俺の事は他の奴には黙っておいてくれ」

 

 そう言うだけ言って、シャナはアスモゼウスを下ろすと風のように去っていった。

 

「ああ!最後以外は上空に連れてかれる前に落とされてたけど、あの人のおかげだったんだ、

きっとヴァルハラの関係者なんだろうし、うん、言われた通りにこの事は黙ってよう」

 

 アスモゼウスはそう判断し、勝利に沸きあがる仲間達の所に戻った。

 

「アスモちゃん、無事だったんだ!」

「うん、何とかね」

「アスモちゃんがいるのにみんな平気で攻撃するから気が気じゃなかったよ」

「私もいつ味方に殺されるかドキドキしてたわ」

 

 そう返事をしながら、アスモゼウスはシャナが去っていった方をチラリと見た。

 

(もしまた出会えたら、ちょっとエロい感じのお礼でもしようかな)

 

 そんなトラブル確定な事をアスモゼウスが考えている間に、ひと悶着あった。

誰もラストアタック報酬を得ていない事が分かったのだ。

一番疑われたのは最後に矢を放ったラキアだったのだが、

スプリンガーが気を利かせてラキアの戦闘ログを可視化して開示させた為、

ラキアがそもそも敵を倒していない事が判明した。

他にその時攻撃していた者はおらず、話し合いの結果、

おそらく継続ダメージが入って自然死扱いになったせいで、

誰にもアイテムがドロップしなかったのだろうという結論になり、

西門チームは一転してお通夜状態になった。

 

(きっとあの人がラストアタックを持っていったんだろうなぁ、まあこれも黙ってよっと)

 

 とにもかくにも、こうして遂に西門チームがジュラトリアに到達する事となった。


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