ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第960話 セイリュウとゲンブ

 自分達以外でジュラトリアに到達したプレイヤーが出た事で、

ヴァルハラは今日、関係ナイツを集め、参加可能な者で会議を行っていた。

とはいえそんな堅苦しいものではなく、宴会を兼ねた報告会のようなものである。

 

「それじゃあドロップアイテムの報告からだな。

キング・ドラゴニアンから取れた武器は三つ、対物ライフルAS50、

自在弓シャーウッド、そしてデモンズガンだ。

このうちAS50はシャーリーさんへ、シャーウッドはシノンへ既に渡っている。

他に適役がいないからな。問題はデモンズガンだが………」

「それっでどんな性能なんだ?」

「とても軽い、弾数は無限、速射可、の光学銃だな」

 

 その説明にGGO組は顔を見合わせた。

 

「光学銃か、って事は、威力はそこまでじゃなさそうだね」

「対人相手じゃ目くらまし以外の役には立たないか、モブ相手ならいけそうだけど」

「使いどころを選ぶ武器だよなぁ、まあ荷物の負担にはならないだろうけど」

「俺としては、名前からしてもレン行きかなと思ってるんだが、どう思う?」

 

 ハチマンにそう言われたGGO組は、じっとレンの方を見た。

 

「ああ、確かにな」

「Pちゃんと両手持ち出来るんじゃないのか?」

「かく乱には最高かもな」

「どうせなら色もピンクにしようよ、文字通りピンクの悪魔って感じで。ね?ナタク君?」

 

 話を振られたナタクは、嬉しそうに頷いた。

 

「そうですね、久々にイコマで腕を振るいますか、大した手間がかかる訳でもないですしね」

「決まりだな、レン、それでいいか?」

「う、うん、ありがとう!」

 

 レンは嬉しそうに頷いた。持てる武器の重さにかなり制約がかかるレンにとっては、

負担無しで戦いの選択肢が増える事はとても喜ばしいのだ。

 

「続けて報告だが、デモンズガンを取得した際、せっかくだからと思って、

調子に乗ってビャッコのラストアタックも狙ってみたんだが………成功した」

「おお」

「マジか!」

「知り合いからノードロップだったって聞いたけど、そういう事だったんだ」

「さすがはハチマン様です!」

「さすが悪よのう!」

「で、何を落としたんだ?」

 

 それが一番気になるのだろう、一同はわくわくしたような顔でハチマンを見た。

 

「いや、それが期待してもらってるとこ悪いんだが、ALOの移動用アイテムだったわ」

「移動用?」

「どんなアイテム?」

「これだな」

 

 そう言ってハチマンが取り出したのは、何の変哲もないハシゴであった。

 

「え、小さっ!」

「それ、何の役に立つんだ?」

「実はこれ、二十メートルくらいまで伸びるんだ、しかも重さがまったく無い」

「二十メートルって小さなビルくらいだな」

「しかも一度設置すると解除するまでその場に完全に固定されて壊れない。

ぐらぐらしたりもしないから、安全に上り下りする事が可能だ」

 

 その言葉が徐々に脳に染み入るに連れ、仲間達の顔に理解が広がっていった。

 

「なるほど、トラフィックスとかヨツンヘイムとかの飛行禁止エリアで力を発揮するのか」

「選べるルートの自由度がかなり高くなるね」

「壁に立てかけて、上から一方的に攻撃とかも出来そうだねぇ」

「川とかを渡るのにも便利そうじゃない?」

「ちょっと歩きにくいけどな!」

 

 派手さはないが、堅実に運用出来そうないいアイテムだという事が分かり、

仲間達はその獲得を素直に喜んだ。

S&Dや探険部、それにGATEにも適宜貸し出される事も決まり、

特に探険部にとっては、思わぬ場所で思わぬ素材が手に入る可能性が増えた為、

実に有用なアイテムと言えよう。

 

「とりあえずこれは………リョクが管理しておいてくれ。

普段の採集活動の時も、あった方が楽だろうしな」

「オッケー、分かったじゃん」

「他に特筆すべきドロップアイテムは無いかな、それじゃあ次、ジュラトリア関連だな」

 

 その言葉でレコンが立ち上がり、説明を始めた。

 

「一応ジュラトリアのほぼ全てのエリアを回り、

いくつかあったクエストも全部クリアしてみました。

その過程で、ラスボスのいる所に通じてると思われる入り口も発見しましたが、

そこはどうやら四門からジュラトリアへのルートが開かないと、行けないみたいです」

「門に登録だけして、裏から行き来したらフラグが解放されるって可能性は?」

「試してみたけど無理でした、多分道中のどこかを通過しないといけないんだと思います」

 

 さすがはレコン、その辺りもしっかり検証済のようだ。

 

「なるほどなぁ、で、クエストの他には何も無かったのか?」

「くまなく回ったつもりですが、特に何も発見出来ませんでした。

まあ消耗品の類は結構落ちてたんで、回収しておきましたが」

 

 どうやらそういう事らしいが、消耗品の類、いわゆるポーション系と、

自分の使っている銃で使える弾丸が出てくるボックスがほとんどであったが、

それはかなりの量が確保出来たらしく、各ナイツに人数割で均等に配られていた。

 

「それとクエスト報酬ですが、ほとんどが店売りの高級品って感じで、

一般プレイヤーには使える物も多かったですが、

正直うちのメンバーには必要ない物ばかりでした。

一応リスト化したので今全員に送りますね」

 

 だが当然のように、誰からも取得希望は出なかった。

一番装備的に古いタイプの物を着用していたであろう、GATEのロウリィ達も、

このイベント中に職人組に新しい物を作ってもらっており、

それより劣る商品などお呼びではなかったのである。

 

「まあそれなら全部売って、全員に配ればいいな」

「はい、そうしますね」

 

 特に反対意見も出なかった為、その話はそれであっさり終わった。

 

「で、ほとんど以外の報酬ですが、中に一つだけ面白い物がありました」

「ほう?」

「これです」

 

 そう言ってレコンが取り出したのは、銀の円盤であった。

 

「それは?」

「光の円月輪、って名前の投擲武器らしいです」

「マジか、それは面白いな」

 

 ハチマンは興奮したようにそう言った。どうやら興味津々のようである。

 

「投擲って事は、ナタクが得意そうだな」

 

 そのハチマンの言葉にナタクがぶんぶんと首を横に振った。

 

「ハチマンさん、今の僕にはそんな能力は無いですから。僕達は魔法銃で十分ですって」

「う~ん、そうか?そうすると………」

 

 ハチマンは最初にキリトの方を見た。

 

「いや、確かに面白いと思うけど、俺はそういうタイプじゃないから」

 

 ハチマンは、むぅ、と唸り、順に他の者の顔を眺めていった。

 

「私は杖と細剣だけで十分かな」

 

 アスナは両手を前に出して首を振った。

 

「それが私に必要だと思う?」

 

 ユキノは相変わらず辛辣であった。

 

「俺のスタイルには合わないな、

サムライとしては、刀以外に選択肢があるとすれば槍か弓だろうしな」

 

 クラインはそれに全く興味を示さなかった。

 

「斧で戦いながら投擲?無い無い」

 

 エギルもあっさりとそれを否定する。

 

「手榴弾を投げるのは得意だけどね」

 

 サトライザーはそう言いながら肩を竦めた。

 

「私が弓を手放してそれを使う意味があるとでも?」

 

 シノンはジト目でハチマンを睨んできた。

 

「間違ってピナに当たったら困っちゃいますし………」

 

 シリカは傍らにいたピナを撫でながらそう答えた。

 

「私にも必要無いわね、そもそも当たらないわよ」

 

 リズベットも断固拒否の構えを見せた。

 

「ハチマン様、タンクはそれを持つ余裕はないです」

「そうそう、そもそも両手が塞がってるしね」

「私も」

 

 セラフィム、ユイユイ、アサギも当然のようにそれを断る。

他のアタッカー陣も似たようなもので、結局光の円月輪の引き取り手はいなかった。

 

「それじゃあこれはハチマンさん行きって事で」

「い、いいのか?」

 

 その態度から、どうやらハチマンが、使ってみたくてうずうずしていた事が分かる。

こういう場合にハチマンは、基本仲間を優先する為に、

自分が欲しい物でもそれを主張する事はしないのだ。

仲間達は最初のハチマンのわくわくしたような顔を見て、

おそらく最初から遠慮するつもりだったのだろう。

こうしてハチマンの手札に新しい武器が増え、

ハチマンはしばらく光の円月輪に習熟する為に、訓練場に通う事となる。

 

「さて、残る問題は、セイリュウとゲンブのドロップアイテムを狙うかどうか、だな」

 

 確かにそちらのアイテムも気になる為、一同はその言葉に頷いた。

 

「でもアイテムをうちが総取りってちょっと気が引けるよね」

「まあいいんじゃないか?その分ちゃんと努力したんだし」

「特にルール違反は何もしてないもんね」

「それ以前に、北門と東門の連中は、単独でその二匹を倒せるのか?」

「キング・ドラゴニアンはもういないんだ、強化はされないと思うが、

敵がどんな特性になってるのかが分からない以上、正直何ともだな。

東門のプレイヤーは実力不足、北門はユージーンがいるとしても戦力不足だ」

 

 ハチマンはそう分析し、最終的には手を出す事が決定したが、

とりあえず明日は敵がどんな行動を取るのか観察する為に様子見という事になった。

同時にスリーピング・ナイツやGATE、それに探険部は南門の鍵しか持っていない為、

ジュラトリア側から侵入する事が決められた。

そして次の日、街の中を探索する西門チームに見つからないように、

隠密を得意とするメンバーが選抜され、

近いという理由でジュラトリア側からセイリュウとゲンブの偵察に向かった。

セイリュウ側はハチマン、レン、シノンの三人、ゲンブ側はコマチ、レコン、闇風の三人が、

それぞれの戦場へと向かって進んでいった。

 

「お、丁度戦闘が始まってるな」

「あれがセイリュウ?スザクと外見が変わらないね!」

「どんな攻撃をしてくるのかしら」

 

 そんな三人の目の前で、セイリュウは辺り一面に竜巻を起こし、

弓や銃での攻撃のほとんどを吹き飛ばしていた。

 

「風系だな」

「遠隔武器があんまり効いてないわね、どうすればいいのかしら」

「何とか地上に落としてフルボッコ、しかないかもしれないな」

「どうやって落とす?」

「竜巻を起こす時は止まってるから、その時に片方の翼を狙って総攻撃だな、

同時に足元を凍らせまくって、その重みで落とせるか試してみてもいい」

 

 シノンはその言葉にニヤリとした。

 

「そうね、私のシャーウッドとシャーリーさんのAS50、あとあんたのM82なら、

風にも負けないでいけるかもしれないわね」

「あるいはレンのデモンズガンも、風に影響されずに行けるんじゃないか?」

「ああ、光学銃!それは盲点だったわね、確かにそうかもしれないわ」

「今試してみる?」

「う~ん、目立っちまうからまた後日だな」

「そっか、そうだね」

 

 そんな話をしているうちに、千人からなる討伐部隊は蘇生が間に合わず、

どんどん数を減らしていった。

 

「こっちは多分、しばらくしたら全滅だな、とりあえず引き上げるか」

「うん、そうだね、今日は編成だけ決めて、明日の準備をして終わりかな」

 

 三人はそう話をし、撤退していった。一方ゲンブ方面は、これまた大混乱に陥っていた。

 

「くそ、攻撃が通らん!」

「すみませんジンさん、ふんばりがきかなくて、俺一人じゃ止められません!」

「こんなのはヴァルハラのタンクでも一人じゃ無理だろう、

仕切り直しだな、明日ヴァルハラに援軍を要請するか」

 

 ユージーンは驚くほど素直にそう言った。これは無理だと早々に見切りをつけたからだ。

戦闘が始まってすぐに、ゲンブは水魔法を使い、辺り一面を水浸しにした。

そのせいで味方の機動力が大幅に低下し、そしてゲンブは飛び上がったかと思うと、

空中で丸くなってそのまま味方が集中している場所に突っ込んできた。

 

 ドカン!

 

 という音と共に複数の味方が潰され、そのままゲンブはそこら中を転がり始めた。

その背には何と甲羅が背負われており、敵が転がっている間は中々攻撃が通らない。

それをカゲムネが何とか止めようと努力したのだが、

足元のぬかるみの為に通常より踏ん張りが利かず、

そのまま押しきられて敵がフリーになり、どんどん味方がやられていると、

今はそんな状態であった。

ゲンブがぬかるみの影響をほとんど受けていないように見えるのが実に憎たらしい。

 

「撤退、今日は撤退だ!」

 

 そしてユージーンは全滅するよりはと撤退の指示を出し、

ビービーやもう一つのナイツの代表と話し合って、ヴァルハラに援軍を求める事を決めた。

その様子を録画していたレコン達は、その映像を拠点で公開し、タンク達の意見を求めた。

 

「この攻撃、タンクから見てどうですか?」

「これだとアイゼンもヒールアンカーも使えないね」

「あたし、カゲムネ君にタンクの事を教えたからその実力は知ってるけど、

カゲムネ君でこうなるなら、多分三人くらいで行かないとこれは止められない気がする」

「セイリュウの方に一人、ゲンブの方に二人行く?」

「そうだね、弟子の面倒は見ないとだし、あたしとアサギちゃんとカゲムネ君でゲンブかな」

「了解、それじゃあ私はセイリュウに回るね、

テッチ君もこっちで、サブタンクをしてもらおう」

「分かりました、ハチマンさんにそう報告しておきますね」

 

 こうしてゲンブ側の情報もハチマンに渡り、ハチマンは頭を悩ませつつ、

メンバーを二組に分け、その日のうちに連絡を回したのだった。


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