ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第961話 この天然女たらし!

 続々と各人の明日の出欠状況が連絡され、

ハチマンは得られた情報を考慮しつつ、ウルヴズヘブンでうんうんと唸っていた。

その傍らにはレコンとリオンの姿もある。

レコンは今回得た情報と、タンクからの意見を伝える為、リオンは知恵袋であった。

 

「なるほど、それじゃあタンクはそんな感じで振り分けるか、

それにしても地面を転がるメカプテラとか、シュールすぎるだろ」

「翼竜の風上にもおけませんね」

「まったくだよね、大人しく飛んでればいいのに」

「しかし全体的に難易度が高いな、ALOのタンクの実情を理解していないっぽいし、

その事は一応ジョジョに伝えておいた方がいいかもしれないな」

 

 後に八幡からその話を聞いたジョジョは、

ALOがまさかそんな状態だとは思ってもいなかったらしく、

次のイベントのバランス調整をどうしようかと頭を抱える事になる。

 

「問題はゲンブの足止めを終えた後、防御力がどんな感じで変化するかだな、

さすがにビャッコよりは柔らかいと思うが………」

「あっちは鉄の塊みたいなものだったしね」

「まあさすがに甲羅以外は大丈夫じゃないですかね?」

 

 二人にそう言われ、ハチマンは頷いた。

 

「まあとりあえず、メンバーはゲンブ寄りにするか」

 

 ハチマンはそう考え、メンバーをどんどん二組に振り分けていった。

セイリュウチームに選ばれたのは、以下のメンバーである。

 

 ハチマン、シノン、シャーリーの狙撃組に加え、デモンズガンを持つレンと、

もしかしたら気円ニャンが翼への攻撃に使えるかもしれない為、フェイリスもこちらである。

そして氷系の魔法攻撃が出来るユキノ、イロハ。リオンもこちらに配置され、

タンクは予定通りセラフィムとテッチ、それに伴いS&Dが全員こちらに配置された。

 

 一方ゲンブ組は、タンクはこれまた予定通りにユイユイとアサギ、

ヒーラーとしては、アスナとリーファが加わる。アスナがハチマンと一緒ではないのは、

テッチとの絡みでユウキがセイリュウ側に参加してる為、攻撃力を考え、

単純にゲンブにスターリィ・ティアーを叩きこむケースを考慮しての事である。

ついでにリーファ一人がヒーラーだと、手が回らない可能性が高いからだ。

アタッカーはキリト、エギル、サトライザー、フカ次郎、ユミーであり、

クリシュナもタンクの強化の為にこちらに配置された。

GGO組からは闇風、薄塩たらこがこちらに配置され、

そこにGATEと探険部が加わる事になった。

Narrowからは今回はコミケとケモナーだけが参加可能であり、

探険部も、ナタクとスクナはお休みであり、店番が残る必要もあって、

今回参加するのはリョウとリク、それにリョクだけとなっていた。

SHINCは残念ながら全員お休みである。これは本番のラスボス戦に照準を合わせた為だ。

ゲンブ側の人数が多いのは、元の人数が少ないのと、打撃力を重視した結果である。

 

「セイリュウ側は、タンクも良し、ヒーラーもユキノとシウネーで良し、

アタッカーも申し分ないな、後は俺達が敵を地面に叩き落とせるかどうかか」

「ゲンブ側も問題ないね、うちからタンクが二人とそこにカゲムネさんが加わって、

ヒーラーもアスナさんとリーファさんで、

攻撃陣もランキング上位のキリトさん、サトライザーさん、エギルさん、リョウさんに加え、

ロウリィさんまで師匠が強化してくれるはずだし、

ゲンブが多少硬くてもきっと問題ないね」

「だな、それじゃあそんな感じで全員に送信だな」

「あ、それは私がやっておくね」

「悪いなリオン、頼むわ」

 

 そしてリオンが作業をしている間、

ハチマンとレコンはドロップアイテムについて話し合っていた。

 

「レコン、セイリュウとゲンブは何を落とすと思う?」

「そうですね、武器や防具じゃなさそうですよね」

「だよな、便利アイテムというか、そんな感じだろう」

「そんな感じのアイテムって今までありませんでしたよね?」

「GGOにはそれなりにあるんだよな、

ってかそうか、GGOで使えるアイテムの可能性もあるのか」

「そういえばそうですね、まあ僕にはさっぱりですが」

「移動系?う~ん、車はもうあるし、バイクやら自転車もある、ついでに馬もいる。

ドローンももうあるしな、航空機関係は………うん、まあ無いな」

「ヘリとかはありそうじゃないですか?」

「ヘリか………空から一方的に撃ちまくれる事になるし、難しいかもしれないな」

「そうなると、もう想像もつきませんね」

「まあ明日分かるさ」

「ですね」

 

 こうして明日の参加メンバー達に編成が伝えられ、迎えた次の日、ハチマン達は何故か、

アスモゼウスとヒルダとシノンと一緒に東門へと向かって歩いていた。

事の起こりはこの少し前、街で二人に出会った場面へと遡る。

 

「………あら?」

「あっ、ハチマンさん!」

「………お?」

 

 待ち合わせ時間の少し前に街を歩いていたハチマンに、二人がそう声をかけてきたのだ。

 

「お前ら、ジュラトリアの探索はどうしたんだ?まさかサボリか?」

「いやぁ、ジュラトリアに行っても何もなくて、ラスボスへのルートだけ見つけたんで、

他が追いつくまで今日はうちはお休みみたいな?」

「まあ街って言っても廃墟みたいな感じだったし、何も無くて当然よね」

「まあそうだな、あれは遺跡みたいなものだしな」

 

 ハチマンは自然な態度でそう答えた。

色々あったが、先に全部探索しちまった、などとは言えなかったからである。

 

「それよりもハチマンさんはこんな所で何を?」

「仲間と待ち合わせだな、今からセイリュウを倒しに行くんでな」

「えっ、それっていいんですか?」

「………何がだ?」

「複数の四神ボスに挑む事ですよぉ!」

 

 ヒルダはそう言ったが、ハチマンはそれの何が問題なのか、さっぱり分からなかった。

 

「俺達が手伝わないと、一生あそこは突破出来ないと思うぞ。

そもそも俺達は東門の鍵を持ってて自由に中に入れるんだ、

セイリュウを倒して何の問題があるんだ?」

「た、確かにそう言われると………」

「最初に選択した所以外は行っちゃ駄目、みたいに思ってたわね………」

 

 二人はその言葉にあっさりと納得した。確かにその通りだからである。

 

「そもそも一ヶ所しか行けなかったら人数が偏った時にクリア不可能になるだろ、

それくらいは常識として考えろよ、アスモ」

「な、何で私だけ!?」

「そんなのヒルダが素直でいい子だからに決まってんだろ、常識で考えろ常識で」

 

 相変わらずアスモゼウスに対しては当たりが強いハチマンであった。

 

「ちょ、ちょっとは私にも優しくしなさいよ!」

「ああん?何でお前に………いや、待てよ」

 

 ハチマンはそんなアスモゼウスに何か言おうとして途中で止めた。

 

「何よ」

「いやいやいや、うんうん、確かにお前の言う通りだ、

よく考えたらシノンの友達のお前に、そんな常識が無いはずがないよな、

これは俺が悪かった、お前は常識のあるいい女だ、うん、間違いない」

 

 そのハチマンの豹変ぶりに、アスモゼウスは気味が悪くなった。

ヒルダは一体何が起こるんです?という顔で興味津々に二人を見ている。

 

「い、いきなり何?」

「いやいや、別に何もないさ、ただ俺がお前の魅力に気付いただけだ、

今まで悪かったな、アスモゼウス」

「わ、分かってくれたなら別にいいのよ」

 

 アスモゼウスは戸惑いながらもとりあえずそう答えた。

おそらくハチマンが心にもない事を言っているのだろうと推測はしたが、

例え嘘でも褒められると悪い気はしないのである。

 

「ああ、本当にすまなかった。俺はこういう所が駄目な男だから、

俺が困ってる時は助けてくれよ、アスモゼウス」

「べ、別にそれくらいはいいけど………」

「あっ、ハチマンさん、もちろん私も助けますから!」

「お、そうか、ありがとな、二人とも。ところで………」

 

 その瞬間にハチマンの表情が変わった。真面目な表情から一転してニヤニヤしだしたのだ。

 

「今俺は非常に困っている、

これから行く戦場には千人からのプレイヤーがひしめいてるらしいんだが、

戦闘中に死んだ奴らを蘇生する人手が足りないんだ、という訳で当然助けてくれるよな?」

 

 アスモゼウスはその言葉に絶句した。

 

(や、やられた!)

 

「人手が足りないんですか?分かりました、もちろん行きますよ!」

「おお、さすがはヒルダだ、本当に助かるわ」

 

 ハチマンはそんなヒルダに心からの笑顔を向けた。

元々最初から、ヒルダは手伝ってくれると確信していたのだろう。

 

「それじゃあ行くか」

「はい!」

 

 ハチマンは、アスモゼウスの答えは分かりきっているという風に、

特に答えを求める事もなくそのままヒルダを伴って歩き出した。

アスモゼウスも仕方なく歩き出してハチマンを追いかけたが、

歩幅が違う為に中々追いつけない。

アスモゼウスは仕方なく、やや後方からハチマンに声をかけた。

 

「し、仕方ないわね、私も手伝ってあげるわよ」

 

 そのアスモゼウスの言葉に、ハチマンは足を止めずにこう答えた。

 

「何を当たり前の事を言ってやがるんだお前は、ほら、遅れずついてこいよ」

「くっ………」

 

 アスモゼウスは悔しそうにそう呻いたが、後の祭りである。

困った時は助けると明言してしまったのは自分なのだから仕方がない。

 

(いつか絶対仕返ししてやるんだから!)

 

 そう言いながらハチマンの隣に並ぼうと走ろうとしたアスモゼウスは、

自分がいつの間にかハチマンの隣に並んでいる事に気が付いた。

 

(あ、あれ?いつの間に………)

 

 戸惑うアスモゼウスに、ハチマンはポーションのような物を差し出してきた。

 

「これは………MPポーション?」

「おう、どうせひたすら蘇生って事になるだろうからな、

今のうちにあるだけ渡しておくわ、二人で適当に分けて好きなだけ使うといい」

「うわぁ、ハチマンさん、ありがとうございます!」

「あ、ありがと………」

 

 アスモゼウスは戸惑ったが、素直にお礼を言った。

そしてそのまま歩いているうちに、ある事に気が付いた。

ハチマンの歩く速度が明らかに遅くなっているのだ。

 

(まさか私に合わせてくれてるの?)

 

 この三人の中ではアスモゼウスが一番足が遅い。

身長や足の長さから言えばヒルダとアスモゼウスは同じくらいだが、

普段からスタスタ歩くヒルダとは違い、アスモゼウスは基本のんびりと歩くタイプであった。

そのアスモゼウスがいつも通りに歩いているのにハチマンに置いていかれる気配が無い為、

つまりはハチマンが自分に合わせてゆっくり歩いてくれているのは間違いない。

 

(くっ、こ、この天然女たらし!)

 

 アスモゼウスはそう思いながらも、今日は真面目に蘇生を頑張ろうと心に決めた。


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