三人が連れ立って歩いていくと、前方にプレイヤーの集団が見えてきた。
ヴァルハラ・ウルヴズとその友好チームである。
「悪い、待たせたな」
「ハチマン君、こっちこっち!」
「まだ時間前だから気にするなって」
「もっとももう全員いるけどね!」
「あら?ヒルダとアスモも一緒なの?もしかして一緒に戦闘に参加するの?」
二人と親しいシノンがそう声をかけてきた。
「あっ、シノンちゃん!うん、一般のプレイヤーさんの蘇生役、みたいな?」
「って事はセイリュウの方に参加するのね」
「うん、亀さんじゃなくてドラさんの方!」
「そう、私もそっちよ、宜しくね」
シノンは嬉しそうにそう言うと、二人の手を引いた。
「それじゃあこっちに来て」
「えっ?どこに行くの?」
「勝負よ、勝負」
「な、何の!?」
「そんなのハチマンの隣を誰が歩くかの勝負に決まってるじゃない」
「「ああ~!」」
二人はそれで納得し、ジャンケン勝負に参加する事にした。
参加者は十四名、こちらに参加する事になった女性プレイヤー全員である。
「ジャンケンポン!あいこでしょっ!あいこでしょっ!」
その勝負を諦めたような目で眺めているハチマンに、アスナが話しかけてきた。
「それじゃあハチマン君、こっちは行くね」
「おう、そっちの事は頼むわ」
「うん!それにしても………」
そう言いながらアスナはジャンケンをしている十四人の方を見た。
「あれの決着、いつつくんだろ………」
「分からん………」
さすがに十四人の一斉ジャンケンとなると、決着がつくまでにかなり時間がかかる。
「まあいいや、それじゃあ後でね」
「ああ、後でな」
そしてゲンブ組が去ってしばらく後、ハチマンは我慢できずに声をかけた。
「お~い、まだか~?」
「一回勝ち負けが決まれば後は早いから待ってなさい」
「へいへい………」
それから五分後、ついに十四人の勝ち負けが分かれた。
最初に勝ったのは、シノン、レン、イロハ、ノリ、そしてアスモゼウスであった。
相変わらずシノンの勝負運が強い。毎回確実に決勝戦までは残ってくるのだから驚きだ。
「よし!」
「まず一勝!」
「ここからが本当の勝負!」
そこからは早かった。あっさりと勝負がつき、
ハチマンの右にアスモゼウス、そして左にはレンが並ぶ事となった。
「やった、やった!」
「勝っちゃった………」
その勝ち残った五人が、ハチマンの左右と後ろを固める事となり、
そして残りの九人も同時にジャンケンをしており、
ハチマンの前にユキノ、ユウキ、シャーリーが並ぶ事となった。
何故後ろが勝ち組の場所なのかというと、
振り返る必要が無い事と、常にハチマンの方を見ていられるからである。
残りの負け組は、大人しく後方をついてくる事になった。
「よし、それじゃあ行くか」
それなりに時間はかかったが、元々早めの時間に集まった事もあり、
ハチマンは特に急ぐ事もなく歩き始めた。
その道中の事である。アスモゼウスはとある事を思いつき、ハチマンにこう尋ねた。
「ハチマンさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど………」
「ん、何だ?」
「昨日の事なんだけどね」
「昨日………」
ハチマンは、おそらくシャナの事だなと推測し、
ぼろを出さないように気をつけようと身構えた。
案の定、その推測は正しく、アスモゼウスはきょろきょろと辺りを見回しながらこう言った。
「多分ヴァルハラの人なんだろうなって思ってたんだけど、
昨日ビャッコ戦をこっそり手伝ってくれてたGGO組の人は、今日はいないの?」
「ああ、あいつは非常勤でな、滅多な事じゃ参加してこないんだよ」
周りの女性陣が何か言う前にと思い、ハチマンは事前に考えていたのだろう、
アスモゼウスに早口でそう答えた。
周りの女性陣も、その答えを聞いて何も言わずに様子を伺う事にしたようだ。
当然全員が、シャナの事だと理解した上でだ。
「そう、それは残念ね、もし良かったら、
今度少しでもいいから会えるように呼んでもらえないかしら」
本来はそれで終わる話のはずだが、予想外にアスモゼウスが食い下がってきた。
「………会ってどうするんだ?」
「私、昨日何度も助けてもらっちゃったと思うから、
会ってちゃんとお礼を言いたいなって思って」
「ほう?随分と殊勝だな、まあでもあいつは面倒臭がりやだからな、
多分出てこないんじゃないかな。もし良かったら俺が伝言なり伝えておくが」
「そうなの?う~ん、伝言よりは、直接会ってお礼がしたいかな、
ちょっとエロい感じのお礼をしようと思ってたからさ、その方があの人も喜ぶと思うし」
そのアスモゼウスの言葉にハチマンは絶句し、周りの女性陣の耳はダンボのようになった。
そんな中、アスモゼウスとリアルで繋がっているシノンが、
一同の興味を代弁するかのようにこう尋ねてきた。
「ねぇアスモ、どうして普通にお礼を言うだけじゃ駄目なの?」
「え?いや、別に普通でもいいっちゃいいんだけど、ほら、私って色欲じゃない?
だから、やっぱりお礼もそれっぽいやり方の方がいいかなって」
「具体的にはどんな?」
「う~ん、そこまで深く考えてなかったけど、とにかくエロい感じの奴!」
「いらんわそんなもん!」
ハチマンは思わずそう突っ込み、慌てて誤魔化すようにこう付け加えた。
「………と、あいつなら言うだろうな」
「え~?男なら普通に喜ぶと思うんだけどなぁ」
そう言いながら、アスモゼウスは観察するかのように、じっとハチマンの顔を見た。
アスモゼウスは馬鹿ではなく、昨日一日考えて、あの喋り方とあの態度は、
ハチマン本人なんじゃないかと疑いを持っていたからである。
その後、色々調べてシャナというプレイヤーの事を知り、
ハチマンとの関係が色々と噂されていた為、
丁度いい機会だと思い、ハチマンに鎌をかけたのである。
そして今の態度でアスモゼウスは確信した、ハチマンとシャナが同一人物だという事に。
そう、これは自分にきつく当たるハチマンへの、
アスモゼウスなりのかわいい意趣返しなのであった。
「それじゃあ試しに今ハチマンさんにやってみるから、
それで嬉しいかどうか試してみるってのはどう?」
「必要ない、絶対にあいつは喜ばないし、俺も喜ばない」
「そんなの試してみないと分からないよね?」
「そんな事はない、試さなくても分かる」
「え~?本当にぃ?」
その口調で、周りの女性陣は、
アスモゼウスが全て分かっていてハチマンをからかっている事に気が付いた。
(((((((この子、意外とやるわね………)))))))
その後、ハチマンは守勢に回り、周りの女性陣が便乗してハチマンをからかうという、
ハチマンにとっては苦行のような時間が延々と続く事になったのだった。
だがそれもセイリュウが見える所までであった。
前方にはかなり多くのプレイヤーがひしめいており、
ハチマン達の姿が見えた瞬間に大歓声が上がった。
「うお、ザ・ルーラーだぜ!」
「フルメンバーじゃないけどヴァルハラだ!」
「さすが、いい女が揃ってるなぁ」
「やったぜ、これなら勝てる!」
「お前、今日もあんな大変な戦闘になるかと思ってかなり落ち込んでたもんな」
聞こえてくるそんな声に、ヒルダとアスモゼウスは圧倒されていた。
だがヴァルハラのメンバー達はまったく動じず、GGO組も慣れているのだろう、
まったく驚くようなそぶりは見せなかった。
そしてハチマンが一歩前に出て、演説が始まった。
「東門のみんな、昨日はかなりあいつに苦労させられたみたいだな、
だが今日はそんな事には絶対にならない、みんなであいつをフルボッコにしてやろう!」
その瞬間に、おおおおおという声が地鳴りのように響き渡る。
「とりあえず遠隔攻撃が使える者は、敵の向かって右の翼を狙ってくれ、
魔法使いの中で、氷魔法が得意な奴は、敵の足におもりをつけるつもりで魔法を放ってくれ、
俺達もそこを狙ってとにかく敵を地面に叩き落とすつもりだ。
中々攻撃が相手に届かないと聞いているが、こっちはこれだけの人数がいるんだ、
数の力で押して押して押しまくるぞ!
地面に落としさえすれば、後はうちのタンクが敵を抑えるから、
そうしたら近接アタッカーの出番だ、調子に乗っているあの馬鹿鳥に、
俺達の強さを思い知らせてやれ!」
再び、おおおおお!という大歓声が上がり、
ヒルダとアスモゼウスは、ヴァルハラの持つ影響力を嫌というほど思い知らされた。
「俺が合図をしたら、一斉に翼に向けて攻撃だ!セラフィム、後は任せたぞ!」
「はい、ハチマン様」
そしてセラフィムが前に出ると、再び大歓声が上がる。
今や味方のテンションは留まる事を知らない。
「総員戦闘準備!私に続け!」
そのセラフィムの叫びと共に、セイリュウ戦は開始された。