「総員戦闘準備!私に続け!」
セラフィムがそんな叫びと共に、セイリュウ相手に実体の無い光る盾を飛ばす。
タンクのスキル、シールドスローである。
これは敵の敵対心を大幅に上げる効果があり、反面敵に与えるダメージは無いに等しいが、
その効果は絶大であり、セイリュウは雄叫びを上げて飛び上がると、
一直線にセラフィムに向けて急降下した。
「セラ!」
背後からユキノの声が聞こえ、敵の攻撃を受けようとしていたセラフィムは、
ステップを踏んで軽やかに横に飛び、
今まさにセラフィムをその足の爪で攻撃しようとしていたセイリュウは、
そのまま地面に着地する格好となった。
「アイス・フィールド!」
その瞬間にユキノの魔法が炸裂し、セイリュウの足は氷によって地面に縫い付けられた。
だがセイリュウはそれを物ともせずにそのまま飛び上がり、
やや警戒するように上空をぐるぐると回り始めた。
だがその足にはまだ氷の塊が付着しており、
少なくとも誰かが敵に掴まれて上空に運ばれる事は無くなったのである。
だがユキノの狙いはそれだけではなかった。
「イロハさん、セイリュウの足にとにかく氷魔法を集中させて頂戴。
そうすればあのデカブツはいずれ地に落ちるわ」
その言葉に従い、イロハは氷系の魔法をセイリュウの足に向けて放った。
その結果、ユキノの言葉を証明するかのように、
セイリュウの足に纏わりついている氷が若干大きくなった。
「先輩、いけそうですね!」
「ええ、私はヒーラーとしての仕事があるから、後はイロハさんにお任せするわ」
「任せて下さい、今日の私は絶好調ですよ!」
そんな二人の会話にリオンが割り込んできた。
「わ、私もやります!」
「リオンもいけそう?」
「任せて下さい!目覚めよ、我が娘よ!」
リオンはロジカルウィッチスピアを展開させ、セイリュウの足目掛けて氷の弾丸を飛ばす。
百発百中とはいかなかったが、その中の何発かが見事に命中し、
セイリュウの足の氷が更に大きくなった。
「このペースだと結構かかりそうですね」
「ええ、でもそろそろ翼への攻撃も始まるはずだから、そちらの効果も期待出来ると思うわ」
「あっ、ですね!」
「相乗効果を狙って、こちらとあちらで頑張りましょう」
「「はい!」」
イロハとリオンがそう返事をした瞬間に、氷魔法を使える他のプレイヤーが、
同じように敵の足目掛けて魔法を放ち始めた。
だが空を飛ぶ敵の足にピンポイントで魔法をぶつけるのはかなり難易度が高い。
更に敵が風魔法で防御を行っているが、それによって物理攻撃程ではないものの、
魔法攻撃も若干影響を受けて曲がってしまうので性質が悪い。
その為どうしても、数撃ちゃ当たる戦法をとらざるを得ないのだが、
さすがに戦闘に参加している人数が多い為、本当に僅かずつではあるが、
他のプレイヤー達による攻撃も足元の氷を大きくするのに役に立っている。
そんな中、セイリュウはその事が気に入らないかのように、
セラフィム目掛けてその氷を叩きつけてきた。
当然セラフィムはそれを避けるように動くが、いつまでも避け続けるのは負担が大きい。
「セラ、受け止めても大丈夫よ!」
そこにユキノからそんな言葉が届けられ、
セラフィムは何の疑問も持たずに足を止め、盾を構えた。
ガゴン!
という音と共に氷が盾に激突するが、氷が砕けるような事はまったく無い。
「あの氷は私が私が作ったそのままの強度を保っているわ、
他の人に氷魔法を当ててもらうのは、あくまで魔力を成長の糧にさせてもらってるだけで、
強度はずっと変わらないから安心して!タイムリミットは一時間よ!」
「了解!」
そこからセラフィムは、とにかく敵の攻撃を受け止め、
例え一瞬でもセイリュウを空中で静止させるように動き始めた。
「さて、そろそろこっちの出番だな」
その動きを見て、ハチマンはそう呟いた。シノン、シャーリー、レンがその言葉に頷く。
「とりあえず順番に試すか、最初は………シャーリーさんからだな」
「はい!」
シャーリーはその場に寝そべり、愛銃となったAS50を構えた。
そしてセイリュウの動きが止まるその瞬間、
つまり氷がセラフィムの盾に激突した瞬間に引き金を引く。
ドン!
という音と共に発射された弾丸は、少し曲がりはしたものの、見事に敵の翼に穴を開けた。
翼が巨大な為、それは蟻の一穴とも言うべきスケールでしかなかったが、
これを続けていけば、いずれ敵の翼を破壊する事も可能だとハチマンは確信した。
「ちょっと曲がりましたね」
「だな、レンはどうだ?」
「うん、やってみるね!」
レンは何度か練習はしたが、
敵相手にデモンズガンを使うのは初めてなのでやや緊張していた。
「あれだけ練習したんだから大丈夫、大丈夫」
レンは自分にそう言い聞かせながら呼吸を落ち着かせた。
もっとも今回レンに射撃を教えたのはシャナとゼクシードであり、
その二人がこのくらいなら大丈夫だと太鼓判を押していた為、
実際にはレンが不安がる必要はまったく無い。
レンはそのまま引き金を引き、一条の光が敵の翼に向かって真っ直ぐ突き進んだ。
風の防壁の影響は………まったく受けない。
「当たった!けど………効果無し?」
「いや、敵の翼が若干えぐれてる、効果ありだ」
そのレンの不安そうな言葉に、単眼鏡を覗いていたハチマンがそう返事をした。
「そっか、やったね!」
「それじゃあ最後にシノンだ、自在弓とやらの力を見せてくれ」
「誰にものを言ってるのよ、余裕よ余裕」
シノンはそう言ってシャーウッドに矢を番え、あっさりと引いた。
「「早っ!」」
レンとシャーリーがその躊躇いの無さに驚いたような声を上げる。
そしてその矢は唸りを上げて敵に向かって真っ直ぐ飛んでいき、
当然のように風の防壁に逸らされた。
「「あっ」」
だがそこからその矢は不自然な動きをした。
風の層を突きぬけたと思った瞬間におかしな曲がり方をし、
見事に敵の翼の付け根に突き刺さったのだ。
「「おお」」
二人は感嘆の声を上げ、
静かに様子を眺めていたハチマンは、チラリとシノンに目をやった。
「なるほど、その右手の指で操作してるのか」
その言葉に二人が慌ててそちらを見ると、シノンの右手の人差し指と中指が立っていた。
おそらくその二本の指で、矢の向かう先を操作出来るのだろう。
「ふふん、軽いもんよね」
「よし、それじゃあその調子でさっさとあのでかぶつを地面に叩き落としてくれ」
「「「了解」」」
他のプレイヤー達もそれを見て歓声を上げ、積極的に攻撃を開始した。
普段は使わない光学銃を使っている者もちらほら見える。
その大部分は命中していなかったが、中にはまぐれで当たるものもあり、
魔法部隊同様、遠隔部隊もじわりじわりと敵の翼を削っていった。
「ダメージも少しずつ入ってるが、このペースだとちょっと遅いな」
ハチマンは敵のHPを見ながらそう呟き、暇そうにしているラン達の所に向かった。
「お~いお前達、もう少し敵の動きが鈍ったら、
俺があいつを一瞬だけ地面に追い落とすから、その隙に一気に敵の翼を削ってくれ」
「あら、そんな事出来るの?」
「おう、まあ長くは持たないが、一瞬だけならな」
ハチマンはランに頷き、そのままユウキに言った。
「チャンスだと思ったら躊躇わず、マザーズ・ロザリオを使うんだぞ、ユウ」
「任せて!」
「テッチは俺の守りに入ってくれ、その時になったら俺は無防備になっちまうからな」
そこからは持久戦とも呼べる状況となり、四十分が経過した。
敵のHPはまったく削れておらず、まだ八割をキープしたままだ。
このままでは明らかに時間が足りず、敵の足元の氷が解除されてしまう。
そうなると敵の速度が上がり、遠隔攻撃を当てる効率も大幅に下がってしまう。
だが現在、敵の動きは目に見えて遅くなってきていた。
「よし、そろそろか………マックス、ユキノ!」
ハチマンはそう二人の名前を呼んだ。二人はこちらに振り向きこそしなかったが、
そのままの体勢で軽く頷いた。それを確認したハチマンは、
ストレージから光る輪のような物を取り出した。光の円月輪である。
「あっ、それを使うんだ」
「お前達、いつでも突撃出来るようにしておけよ」
「分かった!」
「任せて」
そのままハチマンは無造作に光の円月輪を投げ、目を瞑ってその場に仁王立ちした。
それを見たテッチが、即座にハチマンのガードに入る。
一同が見守る中、宙を舞う光の円月輪が、いきなり八つに分かれた。
「えっ?」
「おお?」
「何か格好いい!」
そのまま八枚の光の円月輪は、敵の防壁をものともせずに敵に迫っていく。
それに気付いたセイリュウは回避行動をとるが、
八枚のリングはそれを囲むように別々に動き、セイリュウを追い詰めていく。
そしてハチマンが術者だと気付いたのだろう、セイリュウがハチマンに突撃してきたが、
テッチがその攻撃を弾き返した。
「兄貴はやらせない!」
セイリュウはそのまま通り過ぎ、ハチマンとテッチの横を、
光のリングが唸りを上げて通過していく。
そのままセイリュウは逃げ続けたが、上空を完全に囲まれ、
どんどん地面近くへと追われていく。
「ラン!」
「ええ、分かってるわ、ユウ」
そのまま二人は駆け出し、ジュン、ノリ、タルケンもその後に続いた。
その五人の目の前で、地面に限りなく近付いたセイリュウの背に八枚のリングが突き刺さる。
その衝撃でセイリュウは堪らず地に伏し、その瞬間に、五人が敵の翼に一斉攻撃を加えた。
「くらいなさい!」
「ここしかないね!」
「うおおお!」
「兄貴、見ててね!」
そして最後にユウキが叫んだ。
「マザーズ・ロザリオ!」
その一撃で、セイリュウの翼は破壊された。
戦闘開始から四十五分、遂にセイリュウはその翼を失い、地面へと這い蹲る事となった。