そのユナの反応は、どこからどう見てもハチマンの事を知らないように見えたが、
そんな事はハチマンには関係なかった。
「お前、生きてたんだな!」
「きゃっ!」
ハチマンは感極まったようにユナに抱きつこうとしたが、
ユナは咄嗟に平手打ちを繰り出し、ハチマンの頬にクリーンヒットさせた。
パチーン!
という音が辺りに響き渡る。
「あっ、ご、ごめんなさい!つい反射で………」
それでハチマンも混乱しつつもやや冷静さを取り戻し、ユナに頭を下げた。
「こ、こっちこそすまない、キミが俺の昔の知り合いにそっくりだったから、つい………」
「あっ、そうだったんですか!
凄い偶然もあるもんですね、その人の名前もユナっていうんですか?」
「あ、ああ、そうなんだ、あっと、俺の名前はハチマン、ヴァルハラのハチマンだ」
ハチマンは混乱しつつも、相手の反応を伺う為に、自分の名前を名乗った。
その言葉にユナは目を見開き、ハチマンは一瞬期待した。
「もしかして、ザ・ルーラー様ですか?うわぁ、声をかけて頂いて光栄です!」
だがその反応は、残念ながらハチマンが期待したものではなかった。
(………やっぱり別人なのか?でもこんな偶然ってあるのか?)
「あっ、アイテムの話でしたよね、えっと、『フローティング・シューズ』っていう、
水の上を歩ける足装備みたいです!」
「ほう、それは面白いな」
ハチマンは平静を装ってそう返事をしたが、
そんなハチマンにユナは、思わぬ事を言ってきた。
「あ、あの、ハチマンさん、良かったらこのアイテム、買ってもらえませんか?」
「………いいのか?」
「はい!見ての通り、私はまだALOを始めてからそんなに経ってないんで、
こんな特殊なアイテムよりは、装備を揃える為のお金の方が欲しいんです!」
「なるほどな」
ハチマンはその答えに納得し、フローティング・シューズを購入する事を承諾した。
「分かった、喜んで買わせてもらう」
「ありがとうございます!店売りでも良かったんですけど、
やっぱりこういうのは、上級者の方に役立ててもらった方がいいと思いますしね!」
ユナは笑顔でそう言い、ハチマンとユナはフレンド登録を行い、
記念撮影という名目で、ハチマンは戦利品を見せながら微笑むユナと一緒に写真を撮った。
その後、ユナがいくつかの店を回って買い取り価格を調べてから売り値を決めると言った為、
ハチマンはそれを承諾し、取引自体は後日行われる事となった。
ユナはそのまま用事があると言って、ジュラトリアに入って直ぐにログアウトし、
残されたハチマンに、仲間達が話しかけた。
「ハチマン君、あの子って………」
「前に話した事があるかもしれないが、
あれがSAO時代の俺の弟子、歌姫『ユナ』………の、はずだ」
「それにしては、ハチマンの事をまったく覚えてないみたいだったわね」
シノンがそう訝しげに感想を述べる。
「ああ、もしかしたら記憶喪失なのかもな」
「別人かもしれないじゃない?」
「どうかな、少なくともあそこまで似ているとなると、偶然って事は無いと思うんだが」
「これは調査が必要かもしれないわね」
「そうだな、とりあえずどこからログインしているのか、アルゴに調べてもらうか」
その後、ゲンブ組と合流したハチマンは、ユナの事をアスナ達に話し、
そのままログアウトしてアルゴに連絡をとったが、
その後日に返ってきた返事は、調査不能、であった。
「アルゴでも分からないのか?」
「接続経路が妙に複雑でな………それにしても、写真を見せてもらった限りだと、
どこからどう見てもあのユナっちに見えるよナ」
「だろ?やっぱり記憶喪失なのかね?」
「それならこんな面倒な方法で接続はしないと、オレっちは思うけどナ」
「当面はとりあえず接触してみて、色々と聞いてみるしかないか」
「かもナ」
この日からハチマンは、昔と同じくユナに色々と手ほどきをしていく事となる。
ここで話を一旦戻そう。ゲンブ戦である。
ユージーンと合流したアスナ達は、軽く打ち合わせをした後、ゲンブの下へと向かった。
「お前達、今日こそは必ず勝つぞ!」
ユージーンはそう檄を飛ばし、サラマンダー軍を中心に、歓声が巻き起こった。
「おう、やってやろうぜジンさん!」
「仕方ない、ジンさんを男にしてやるか!」
「いつまでもヴァルハラより下に見られるのも癪だしな!」
ユージーンはそんな仲間の声に満足しつつ、先陣をきる予定のユイユイに場所を譲った。
「では頼む」
「うん、任せて!」
ユージーンに代わって前に出たユイユイは、まったく気負った様子も見せず、
集まった仲間達に声をかけた。
「それじゃあ行っくよぉ!」
その軽い調子の掛け声に、おおおおお、という地鳴りのような大歓声が沸く。
その声は明らかにユージーンに向けられた歓声よりも大きく、
ユージーンは狼狽した様子で仲間達に問いかけた。
「お、お前達、俺の時より気合いが入ってないか!?」
「あはははははは」
「ジンさん、何の事かさっぱり分からねっす!」
「さあ、勝利の女神に続きましょう!」
その問いかけを否定してくれる者は誰もおらず、ユージーンは心の中で号泣した。
「ははっ、ユージーン、ドンマイ」
そんなユージーンの肩を、キリトがポンと叩いた。
「全部ユイユイに持ってかれてたな、ユージーン」
「ふ、ふんっ、別にオレが目立つ必要はないからな」
「必要というか、相当頑張らないと、もう目立てないんだけどな」
「なっ、何故だ!?」
「それは俺達がここにいるからさ」
そうニヤリとしながらキリトは彗王丸を抜いた。
「ユイユイ!」
「うん、任せて!」
キリトに名を呼ばれたユイユイは、一瞬振り返ってそう言うと、
そのままゲンブへと突撃した。
「お願い、ハロ・ガロ!」
その言葉がキーワードとなり、ユイユイの両手に剣と盾が装備される。
「シールドスロー!」
ユイユイもまた、セラフィムと同じように光の盾を飛ばす。
それは奇しくもセイリュウ戦が始まったのと同じタイミングであった。
「GGGGYYYYYAAAAAOOOUUUUUU!」
その瞬間にゲンブが吼え、大空に舞い上がったかと思うと、
空中に水の玉が無数に出現し、辺りを水浸しにした。
その水はすぐに引いたが、周辺はもう泥のフィールドと化している。
そしてゲンブは空中で丸くなり、地上へと落下した。
「みんな、来るよ!」
「はい!」
「こちらはいつでも!」
ユイユイの後ろには、いつの間にかカゲムネとアサギがスタンバイしており、
ユイユイとカゲムネは盾を、そしてアサギは鉄扇公主を構えた。
そんな三人にゲンブが凄い勢いでぶつかっていく。
ズンッ
という重い音と共に、ゲンブが三人にぶつかり、
一メートル程前進したところでその動きを止めた。
「うおおおお!」
「三本の矢だな!」
「キリト君、先に行くよ!」
「おう!」
アスナはまだぬかるんでいない位置で構えを取り、
ドンッ、という音が聞こえそうなくらい、凄まじい勢いで敵に向かって飛び出した。
最上級突進技、フラッシング・ペネトレイターである。
その速度は足元が泥に覆われていても何ら変わる事はなく、
アスナの暁姫は、深々と敵の甲羅の下、わき腹に当たる位置に突き刺さった。
「次!」
「任せろ!」
そしてキリトも突進技、ヴォーパル・ストライクを放つ。
これがハチマン達が考えた作戦の一つであった。
その狙いは見事にはまり、突進技を使える者達が、次々と敵のわき腹に武器を突き刺し、
ヒット&アウェイよろしく、すぐにその場から離れていく。
「行くぜ!」
「次は私達よぉ?」
第二陣は重量級の武器を持つ者達であった。
その代表格であるエギルとロウリィが、甲羅を破壊出来ないかと、
そちらに向かって全力で斧を叩きつける。
「くそっ、やっぱり硬いな」
「でも何となく、このまま何度も繰り返せば行けそうじゃない?」
「ああ、俺もそんな気がする。でもとりあえずここは………離脱だ!」
経験豊富なエギルは、敵が動こうとしているのを敏感に察知し、
ロウリィにその事を伝え、二人は後方へと飛び退った。
その直後にゲンブが鳴動し、後方へと転がっていく。
「まあここまでは問題ないな、しばらくはこれの繰り返しか」
「どうしても犠牲になっちゃう人が出るのは避けられないわね」
「まあ仕方ないだろ、あいつ、でかいくせに素早いからな」
ゲンブが後退する際に巻き込まれた者がかなりいた為、
アスナやリーファなどのヒーラー陣は大忙しであった。
なので今は、クリシュナがキリトの相手をしていた。
「問題はこの後どんなパターンで攻撃してくるかだよな」
「色々想定して対策は練ったけど、いくつ当たってる事やらって感じよね」
そんな二人の目の前で、ゲンブが再びユイユイに体当たりを敢行し、
しばらくはそのパターンが続く事となった。
この状態は結構長く続いたが、それにはからくりがある。
エギル達は徹底して甲羅を攻撃していたが、
その行為自体にはダメージは発生していなかったのだ。
それさえ破壊出来れば、ダメージの通りも良くなって、一気に削りが進むはずである。
そして遂にその時が訪れた。敵のHPがまだ二割も削れていないうちに、
敵の甲羅にぽっかりと大穴を開ける事に成功したのである。
「よし、やっと俺達の出番だな!」
「あそこに銃弾を叩きこめ!」
その穴目掛けてGGO組が射撃を開始し、ゲンブのHPが一気に減った。
八割を通り越し、六割に到達しようかという勢いである。
八割の時、ゲンブの行動パターンが変化する兆候があったが、
あまりに一気に削った為にその時は何も起こらず、
残りHPが六割で変化する、次の兆候がすぐに始まったのであった。