ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第966話 フカ次郎の知略

「どうやら一つモードを飛ばせたね」

「それがいい事なのかどうなのかは分からないけどな!」

「まあいい事だよきっと。さあ、最後まで油断しないでいこう!」

 

 そのゲンブはモードが変わるのと同時にユイユイ達から距離をとっていた。

それに伴い仲間達も一旦攻撃を中止する。

どんな攻撃をしてくるのかと警戒するタンク三人だったが、

ゲンブは甲羅に隠れたまま、フィールド中央から動こうとはしなかった。

 

「動かないな」

「何かを待ってるのかな?」

「んん~、っていうかあれ、何かの魔法の詠唱をしてるんじゃね?」

 

 魔法の専門家であるユミーの言葉にアスナとキリトはハッとした。

 

「もしかして今までずっと?」

「もしそうならちょっとやばいかもな」

「削っておいた方が良かったかな?」

「今からでも遅くない、今のうちに遠くから出来るだけ削っておこうぜ」

 

 そして攻撃指示が出され、魔法攻撃や銃撃、それに矢の攻撃が、

ゲンブの甲羅に開いた大穴に降り注いでいく。

 

「見てるだけってのは歯がゆいね」

「仕方ないさ、俺達が下手に近付いて、即死攻撃でもくらったら場が混乱するからな」

「ねぇねぇ、待ってる間、とりあえず戦う?」

「いや、戦わないから」

 

 リクやリョクは敵に向かって遠距離攻撃を放っているが、

リョウはどうやら暇なようで、キリトにそう絡んできた。

 

「もうちょっとしたら、多分大暴れする機会があるはずだから、

悪いがそれまで我慢してくれよな。もし我慢してくれたら、今度ハチマンと戦わせてやるよ」

「え~?まあそれなら我慢しても、まあいいかなぁ」

 

 キリトはハチマンを生贄に差し出し、それでリョウは大人しくなった。

 

「キ、キリト君、そんな約束しちゃっていいの?」

「いいっていいって、あの六人の担当はハチマンなんだからさ」

「ま、まあ確かにそうかもだけど………」

 

 アスナは、なんだかんだハチマン君が、キリト君にお仕置きをする事になるんだろうな、

などと思いながら、ゲンブへと目を戻した。

 

「あれ?キリト君、ゲンブの周りの水かさが上がってない?」

「言われてみるとそんな気がするな」

 

 それがフラグになったのだろうか、いきなりゲンブから、大量の水が噴き出してきた。

 

「おい、あれはやばくないか?」

「この辺りまで水没しちゃうかな?」

「さすがにそこまではいかないんじゃね?

ここは確かに窪地だけど、そんなに深い訳じゃないし、絶対に溢れちゃうっしょ」

 

 身を乗り出すエギルにリーファがそう尋ね、ユミーがそれを否定した。

 

「確かに………」

「そうすると腰くらいまでか?」

「かも?」

「それくらいなら余裕余裕、このフカちゃんにお任せあれ!」

「あっ、おいフカ、余計なフラグ立てんな!」

 

 キリトが慌ててそう言ったが時既に遅し、

ゲンブが高速で回転を始め、それに伴って周りに溜まった水が、ぐるぐると回転しだした。

そう、まるで洗濯機のように。

 

「げげっ」

「一時撤退だ!みんな、水から上がれ!」

 

 慌ててキリトがそう指示を出し、タンク陣やアタッカー達は慌てて敵から距離をとった。

だが当然逃げ遅れる者も出てしまい、

何人かがその濁流に飲まれ、水の中でリメインライトと化した。

 

「あれは近づけないね」

「水が引くまで蘇生も無理だな」

「というかあの速さじゃ、甲羅に開いた穴に攻撃するのも運任せになりそう」

「仕方ない………おいフカ、さっき余裕って言ってたよな、ここはお前に任せた」

「えええええええええ!?」

 

 キリトにそう言われ、フカ次郎は絶叫したが、これはそろそろフカ次郎にも、

こういった場合の対応を考える癖を付けさせようという意図からの発言であった。

 

「別に一人で突撃しろってんじゃない、対応策を考えろって事だ。

そのくらいは出来るようになってもらわないといけないからな」

「が、がってん!」

 

 フカ次郎は両手の人差し指の先端をこめかみに当て、

どうすればいいのか必死に考え始めた。

 

「う~ん、う~ん、要はあの穴に攻撃を叩き込めばいい訳でしょ?

でもその穴が高速で回転してる、つまり矢での攻撃は非効率。

それは銃も同じだけど、マシンガンなら?いやいや、ほとんどが弾かれちゃうよね、

遠隔攻撃は敵が動いてない時までとっておくべき。

今のままだとルーレットで一つの数字に単独賭けするような感じにしかならない………

ん?ルーレット?穴に入れる?」

 

 フカ次郎はどうやら何か思いついたようで、仲間達に色々質問し始めた。

 

「クリシュナ、支援魔法って武器にもかけられるじゃない?

それって爆弾系のアイテムにもかけられたりする?」

「可能だけど、例えばどんな魔法?」

「えっとね、今考えているのは………」

 

 そのフカ次郎の説明を聞いたクリシュナは、大丈夫だと太鼓判を押した。

 

「それなら平気よ、効果時間を調節すれば、問題なくいけるわ」

「よっしゃ、それじゃあ次!」

 

 次にフカ次郎は、闇風達GGO組に話しかけた。

アスナとキリトはそれを興味深そうに見ている。

 

「ごめん、ヤミヤミ、たらちゃん、あとコミケさんとケモナーさん、

ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「ロビンみたいな呼び方すんな」

「誰がたらちゃんだ、フグタ様と呼べ」

「いやいやたらこ、お前も何言ってんだよ」

「冗談だっての、で、俺達に何を聞きたいんだ?」

「手榴弾ってどのくらいある?もしくはそれ系の爆発物」

 

 四人はそう言われ、コンソールを開いてアイテムの確認を始めた。

その結果、四人合わせて三十個の手榴弾と、吸着式の地雷が三つ、

それに通常の地雷が十個ある事が分かった。

 

「うわぁ、結構あるねぇ、ちょっと手榴弾だけもらってもいい?」

「何か思いついたのか?」

「うん、上手くいくかは分からないけどね。あとドローンはもちろんあるよね?」

「ああ、持ってるぞ」

「それもレンタルよろ~!」

「分かった、好きにしてくれ」

 

 フカ次郎はそのまま簡単な工作に入り、ドローンにロープと袋を結びつけ、

その袋の中に、その辺りに転がっている石を入れた。

 

「実験実験っと」

 

 そしてフカ次郎はドローンを操作し、ゲンブの真上にそれを持っていくと、

釣り下げた袋を回転する穴の中に入れようとし始めた。

 

「う~ん、細かい操作が難しいな………気流も結構激しいのか」

 

 フカ次郎も頑張っているが、中々位置を合わせる事が出来ない。

 

「なるほど、そうやって手榴弾を甲羅の穴に入れて、爆発させるつもりか」

「うん、衝撃で爆発しないように、クリシュナに衝撃耐性魔法をかけてもらう予定。

起爆はユミーさんに任せればいけると思うんだよね、物理系耐性魔法じゃ火は防げないし」

 

 そう言いながらフカ次郎はユミーの方を見た。ユミーは任せろという風に力強く頷く。

 

「でもこれ、素早く穴に入れられないと、耐性魔法の効果が切れちゃって、

甲羅に当たった衝撃で爆発しちゃうかもしれないんだよね」

「それならちょっと私にやらせてみな~い?正直退屈で仕方ないのよねぇ」

 

 リョウが自信ありげにそう言い、フカ次郎は目を輝かせた。

 

「何かいい方法でもあんの?」

「簡単よ、私の神珍鉄パイプでグンッとしてスルッ、ってなったらドーン、みたいな?」

「………よ、よく分からないけど任せたぜ!」

 

 同じ感覚派でも、リョウとフカ次郎の感覚は微妙に違うようだ。

リョウはそのまま神珍鉄パイプの先にロープを結び、そのまま敵の真上まで延ばした。

 

「はい、グ~~~~~~~ン!」

「おお、一本釣り!いいねいいねぇ!」

 

 パイプの長さはかなり長くなり、支えるだけでも大変そうだが、

リョウは大変そうなそぶりをまったく見せず、ピタリピタリと位置を決めていく。

さすがはセブンスヘヴンランキング十四位の実力といった所か。

 

「このくらいかな、そしたらスルッ、と」

 

 リョウはそのまま袋を下げ、甲羅に当てるように操作した。

途端にその袋が見えなくなる。どうやら無事に穴に入れる事が出来たようだ。

 

「あ、ロープを外す方法を考えるの忘れてた」

「そんなのついでに燃やしちゃえばいいんじゃね?そろそろあーしの出番っしょ?」

「かな、それじゃあお願いします、先生!」

「うむ、任せるし」

 

 リョウは石を引っ張り上げ、手榴弾に付け替えると、

先ほどと同じようにスムーズにそれを穴に放り込んだ。

ユミーはそのまま詠唱に入り、ゲンブの真上に巨大な炎の玉を生み出すと、

そのままゆっくりと下に下ろしていった。

 

「ゲヘナ・フレイム!」

 

 その炎は、かなり濡れている甲羅の部分には、

やはりダメージはあまり与えられていないように見えたが、

おそらく穴の中は炎で激しく焼かれている事だろう。

その直後に起爆に成功したのか、ゲンブの甲羅の一部分が激しく火を噴いた。

遅れて凄まじい爆発音が辺り一帯に響き渡る。

 

「よし、成功!」

「やるじゃないかフカ、正直見直したぞ」

「もっと褒めて下さい副長!」

「おう、えらいえらい」

「むふふ、これでリーダーにもご褒美がもらえるはず、私えろい!じゃなかった、えらい!」

 

 フカ次郎は鼻高々にそう言ったが、誰もそれについては異論はなかった。

実際敵のHPは、今の一撃で一気に残り二割近くまで減っていた。

よほど内臓深くまでクリティカルぎみにダメージを与えたと判定されたのだろう。

フカ次郎は実に立派な戦果をあげたと言っていい。

 

「よし、後は発狂モードを乗り切るだけか」

「ここからが本番だね」

「みんな、残り後少しだ、絶対に勝つぞ!」

 

 キリトの叫びに仲間達が笑顔で答える。

戦いはいよいよ最終局面を迎えようとしていた。


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