ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第967話 アスナ、突撃!

 ゲンブはぶるぶると震え、立ち上がって大きく翼を広げた。

どうやら甲羅にはもう篭らないようだ。

そのまま飛び上がったゲンブは、体のあちこちからまるでビームのように水を飛ばしてくる。

そのせいで地面がライン状にえぐられていく。

 

「ウォーターカッターみたいなもんか」

「もしくは高圧洗浄機だね」

「アスナ、そんなマイナーな機械、見た事あるのか?」

「うん、前に軽井沢で一度、ね。多分あれでスパッと斬られる事は無いと思うけど、

かなりの衝撃があるから、部位欠損くらいは起きるかも」

「出来るだけ避けるしかない、か」

「まあそうだね」

 

 ゲンブはしばらくして放出を止め、高く舞い上がって適当な相手へと突っ込んでくる。

タンク三人は散らばって狙われたメンバーをフォローするが、やはり取りこぼしも出てくる。

そのせいで犠牲者が徐々に増えていくが、この状態だと遠隔攻撃以外はあまり役にたたない。

その矢弾も敵の水流攻撃に弾かれてしまう事が多い為、

敵のHPがほとんど減らない状態が続いていた。

 

「みんな、もうしばらく耐えてくれ!」

 

 キリトはそう叫んだ後、傍らにいるクリシュナに相談を持ちかける。

 

「クリシュナ、どう思う?」

「そうね、手が無い訳でもないけど………」

 

 アスナがヒールや蘇生に追われている為、

今のキリトの相談役はクリシュナが努めていた。

 

「何か手があるのか?」

「ええ、さっきみたいにリョウさんの武器に何人か捕まって、

一気に伸ばしてもらって敵に飛び移るってのはどうかしら」

「あの弾幕の中をか?そりゃ決死隊になるな」

「それに関しては、アサギさんを先頭にすれば大分マシになるんじゃないかしら。

彼女は盾を持っていない分軽いはずだしね」

「なるほど、よし、その手でいくか」

「それなら俺も参加するぜ!」

 

 二人の横からリクがそう志願してきた。

 

「今度こそ俺の魔法の出番だろ?別方向から乗り移ってみせるぜ!」

 

 リクの魔法は空中に雷属性の足場を作り、その上を滑るように移動出来るものだが、

リクの持つコピーキャットの回数制限の関係もあり、

その最大航続距離は五十メートルとなっていた。その為に先ほどの手榴弾の時は、

行くのはいいが戻れない状態になる為にリョウに出番を譲ったが、

今回のように戻ってくる必要が無い場合は全く問題がない。

 

「ちなみに一人なら運べるけど、どうする?」

「それなら私!」

 

 キリト達が相談しているのを見て戻ってきたアスナが横からそう志願してきた。

最後の局面という事もあり、これ以上回復に手を裂く必要もないと判断したのだろう。

 

「オーケー、俺がお姫様みたいに運んでやるぜ!」

「あ、う、うん、お願い」

 

 アスナは一瞬そういうのはハチマン君にしてほしいな、などと考えてしまい、

ぶんぶんと頭を振ってその考えを散らせた。

 

(女同士なんだし、問題ないかな)

 

 こうしてリクとアスナの突撃が決定した。

 

「それじゃあリョウの側は誰を送り込むかだが、当然一人は俺な」

「まあ妥当じゃないかしら」

「それなら俺も頼む、俺は今回ほとんど活躍出来てないからな」

 

 そう言い出したのはユージーンであった。

 

「まあそうだよな、俺達二人にアサギさんか、リョウ、大丈夫か?」

「武器をストレージにしまって突撃するなら、

何人かに手伝ってもらえばもう一人くらいはいけるかも?」

「それなら私も志願しようかしら」

 

 そう言って歩み出てきたのはロウリィであった。

 

「ロウリィさんなら軽そうだし、まあ大丈夫かな」

 

 これがALOとGGOの大きな違いである。

GGOだと例え武器をストレージに入れようとも全体重量が重くなってしまうが、

ALOだとそんな事は無いので移動に関しては優遇されていると言っていい。

 

「リョウ、俺も支えるのを手伝うからな」

「うん、お願いねぇ?」

 

 エギルがそう申し出る。他にもサラマンダー軍の力自慢が何人か志願してくれた為、

これで決死隊の編成が決まり、あとはタイミングを計るだけとなった。

 

「突っ込むのは敵がこちらにダイブした直後がいいと思うわ、

その後なら弾幕が張られるまでに、ほんの少しだけ間があくもの」

「オーケー、それじゃあアサギさん………失礼します」

 

 キリトはそう言って遠慮がちにアサギの腰に手を回したが、

アサギはあまり気にした様子がない。

 

「この程度、撮影中にはいくらでもあるから気にしないで」

 

 アサギはキリトが顔を赤くしているのを見て笑顔でそう言った。

そしてキリトの後ろにはユージーン、その後ろにロウリィが座り、

神珍鉄パイプをリョウとエギルが支え、その後ろにサラマンダー軍の何人かがついた。

 

「本当は私が突っ込みたい所だったけど、まあ仕方がないわよねぇ」

 

 リョウは不満そうにそう言いつつ、タイミングを見て神珍鉄パイプを伸ばした。

その瞬間にキリト達は凄まじい勢いで敵へと向かい、

エギル達も歯を食いしばってそれを支えた。

 

「うおおおお、思ったより怖い!」

「水流来ました、止めます」

 

 アサギは鉄扇公主を開いて見事にそれを防ぎきる。

 

「みんな、飛びおりるわよぉ?」

 

 恐怖心を感じさせないのんびりとした声でロウリィがそう言い、真っ先に飛び降りていく。

その着地をする姿は実に軽やかであり、まったく重さを感じさせない。

 

「行くぞキリト!」

「お、おう!」

「行きます」

 

 三人はそのままゲンブの首筋、甲羅との境目辺りに飛び降りた。

甲羅のおかげで滑り落ちる事なく、体も問題なく安定する。

その直後に背後からリクとアスナが突っ込んできた。

どうやら二人は五メートル程下に開いている、甲羅の裂け目に飛び込むつもりらしく、

その軌道がキリト達よりもかなり低い。

 

「キリト君、そっちはお願い!」

「おう、任せろ!」

 

 六人が無事にゲンブに取り付いたのを見て、サトライザーが攻撃の指示を出す。

 

「撃て!」

 

 遠隔攻撃陣を統括していたサトライザーの、そのシンプルな叫びと同時に、

ゲンブの腹部辺りから下目掛けて一斉に攻撃が開始された。

もうこれで終わってもいいというくらいの勢いである。

リーファも回復役を放棄して風魔法を連続して撃っており、

その隣では闇風や薄塩たらこ、そしてコミケとケモナーが銃撃を行い、

その向こうではM&Gの面々も狂ったように攻撃を行っている。

この戦いではまったく目立っていないビービーもそこにいた。

反対側ではユミーとリョクが、魔法攻撃を行っている。

フカ次郎は出番が無くそれを見ているだけだったが、これは仕方がない。

この状態だと近接アタッカーに出番は無いからだ。

本当はフカ次郎も決死隊に志願するつもりであったが、

先達のロウリィに先を越されてしまった為、遠慮したのであった。

エギルとリョウは、そのままクリシュナのガードに入った。

そのクリシュナは、この距離からキリト達に支援魔法を飛ばしている。

戦場は今、まさに最後の力を振り絞った総力戦といった感じになっていた。

 

「やっとお前の出番だ、この中じゃお前のソードスキルが一番攻撃力が高い、

頼んだぞ、ユージーン!」

 

 キリトがユージーンにそう檄を飛ばし、ユージーンは高笑いしながらドンと胸を叩いた。

 

「わはははは!任せろ!くらえ!ヴォルカニック・ブレイザー!」

 

 ユージーンはそう叫びながらいきなりソードスキルを放ち、キリトはニヤリとした。

 

(よし、これでユージーンのラストアタックはほぼ無いな)

 

 さすがはキリト、ユージーンの性格を実に良く分かっている。

その時下からリクの高笑いが聞こえてきた。

 

「あはははは、くらいやがれ!この鳥モドキが!」

 

(あっちも順調みたいだな)

 

 そう考えながらキリトは、ロウリィと肩を並べながら敵の首筋に斬りかかっていった。

 

「あはははは、あはははははは!」

 

 キリトはそんなロウリィの叫びを聞きながら、大技を放つタイミングを慎重に計っていた。

おそらくアスナもそうしているのだろう、下からスターリィ・ティアーを放った気配はない。

 

「どうしたキリト、大人しいではないか!」

「これからだっての!」

  

 キリトはそう答えつつ、尚も冷静にタイミングを計っていた。

だがその時下からアスナの声が聞こえてきた。

 

「スターリィ・ティアー!」

 

(アスナ、ちょっと早くないか?)

 

 直後に大きな衝撃が巻き起こり、敵のHPが残り数ドットまで減った。

それに合わせてキリトも大技を放とうとしたが、その直後に足場がぐらりと揺れた。

どうやらゲンブが再び地上にダイブしようとしているらしい。

 

(しまった!慎重に狙いすぎた!)

 

 キリト達は振動に耐えられず、そのまま落下していく。

その四人の体がいきなり光を帯び、落下速度が急激に収まった。

 

「フォールン・コントロール!」

 

 どうやらクリシュナが助けてくれたらしい、

そう理解した直後に、キリトの視界に宙に立つリクとアスナの姿が映った。

その目の前で、リクがその手に持つコピーキャットを振り下ろし、

リクの足元から敵の背後に向けて、真っ直ぐ紫色の光が伸びていく。

 

(一体何を………)

 

 その瞬間に、アスナの叫び声と共に、アスナの姿が消えた。

 

「フラッシング・ペネトレイター!」

 

 キリトだけではなく全員が見守る中、紫の光の上を輝く白い光が流れていく。

リクの作る足場にはリクしか乗れない為、おそらくアスナは最初だけリクの足を踏み台にし、

そのままの勢いで敵に突っ込んでいるのだろう。

そしてその光は敵に追いつき、その体を見事に貫通した。

 

(アスナの奴、無茶しやがって………)

 

 直後にゲンブが動きを止め、爆散していく。

その後に残されたのは、そのままユイユイの方に突っ込んでいくアスナの姿であった。

 

「フォールン・コントロール!」

 

 ここで再びクリシュナの魔法が発動し、アスナの落下速度が若干弱まった。

そこに装備を解除したユイユイがアスナに向かって手を広げる。

 

「アスナ!」

「ユイユイ!」

 

 ユイユイはアスナを見事に受け止めたが、

さすがにその勢いを全て殺す事は出来なかったようで、ぐらりとした。

 

「うわっ、倒れちゃう!」

「おっと」

「危ない危ない」

 

 そんなユイユイを、背後からエギルとリョウが支えた。

四人はそのまま地面に倒れたが、ちゃんと勢いを殺せたようで、全員無事であった。

ちなみにアスナはユイユイの胸に顔を埋めており、実に百合百合しい。

 

「勝ち鬨をあげろ!我らの勝利だ!」

 

 そこですかさずサトライザーがそう宣言し、辺りは大歓声に包まれた。

 

「アスナ、大丈夫?」

「ごめん、ちょっと無茶しちゃった、ありがとう、ユイユイ!」

 

 アスナはそう言いながら立ち上がり、味方に向けて片手を上げ、

そのおかげで歓声は更に強まった。

 

「キリトよ、アスナに全部持ってかれたな」

「まあ勝ったんだからいいじゃないか、お疲れ、ユージーン、アサギさん、ロウリィさん」

「キリトさん、お疲れ様です!」

「お疲れ様ぁ!さあ、この後はセイリュウ組と合流して祝勝会と行きましょう!」

 

 こうしてゲンブは討伐され、ラスボスへの道が遂に解放される事となったのであった。

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