ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第968話 ユナの謎

「アスナ、無茶しすぎだろ」

 

 地上へと降り立ったキリトは、真っ直ぐにアスナの所に向かい、苦笑しながらそう言った。

 

「ごめん、自分でもその自覚ある」

 

 アスナは恐縮したようにそう答えた。

 

「まあここはSAOじゃないんだ、ハチマンもそれくらい大目に見てくれるだろ」

「そうだといいんだけどね」

 

 二人はそう言葉を交わしながら、次々と駆け寄ってくる他のナイツの者達と言葉を交わし、

最後に見知らぬ………いや、どこかで見たようなプレイヤーに声をかけられた。

ここまでビービー以上にまったく存在感を発揮していなかった、クラレンスである。

 

「あ、あの、き、今日はシャナさんは?」

「ん~?どちら様?」

「あっ、キリト君、この人確か、クラレンスとかいうGGOの女の人だよ、

要塞防衛戦で見た事あるもの」

「へぇ、そうなのか、って、女の人?」

 

 驚くキリトに、アスナがそっと耳打ちした。

 

「ロザリアさんから受けた報告だとね、この人って、実は女で男も女もイケる口。

小さくてかわいい子が好みで性格は昔のピトに似て奔放で自分勝手、

スコードロンで揉め事を起こして追い出されそうになったけど、

逆にメンバーの弱みを握って主導権を握って、

でもさすがに居心地が悪くなったから移籍先を探し中、って事だったよ」

 

 アスナは前にロザリアに教えられた事をしっかり記憶していたようだ。

 

「その後スクワッド・ジャムとかにも参戦して、シャナと敵対してたかな。

それとロビンとかから聞いた話だと、

GGOでは何とかシャナに取り入ろうと色々画策してたって」

「ほう」

「でもシャナは、あの人の事を悪くは思ってないみたいだね、

まあでもここまでの行いだけ見ると、完全に敵みたいな感じかな」

「分かった、ちょっと荒療治でもしておくわ」

 

 キリトはその情報に頷くと、クラレンスに向けて剣を抜いた。

 

「なっ………」

 

 その殺気の篭った視線を受け、クラレンスは腰を抜かした。

 

「生憎シャナはここにはいないし、多分お前と関わる気は無いと思うぞ。

もし関わりたいなら余計な欲を捨てろ、あいつはそういうのに敏感なんだよ」

 

 キリトはそう言って、クラレンスには一瞥もくれずに去っていった。

その後にヴァルハラのメンバー達が続いたが、ほとんどがクラレンスの方を見なかった。

 

「くそ、俺だって、道を間違えてきちまってるのは分かってるんだよ………」

 

 そんなクラレンスの肩をポンと叩く者がいた、闇風と薄塩たらこである。

 

「お前は決して悪い人間じゃないと思うけど、

前の大会ではレンを殺そうとしたり、ゼクシードを倒したりもしてたからな、

その敵対的イメージを改善する為にはかなりの努力が必要になる事だろうよ」

「同じ大会で、ゼクシードとユッコ、ハルカがシャナとレンの為に身を犠牲にして、

シャナからの信頼を不動の物としたからなぁ、違いが鮮明すぎるっていうか、

このまま埋もれていくか、ひと花咲かせる事が出来るかはまあ今後次第だな」

 

 二人はクラレンスを憐れに思ったのか、そうアドバイスのような物を残し、去っていった。

クラレンスは何も言う事が出来ず、ただじっとその場に蹲り、下を向いていた。

 

「よし、それじゃあウルヴズヘブンに帰るか」

「だね!」

 

 アスナとキリトは仲間達と共に、戦利品について話をしたりしながら仲良く去っていき、

クラレンスはその後姿を、羨ましそうに見送る事しか出来なかったのである。

 

 

 

「おうお帰り、無事に勝てたみたいだな」

 

 ウルヴズヘブンに戻ったゲンブ組を、ハチマンが出迎えた。

似合わない事に、ハチマンはエプロンを付け、料理を手に持ち配膳している。

 

「ふふっ、何その格好」

「いや、ケータリングの料理をみんなで並べている最中だったんだが、

イロハがこれを着てみてくれってうるさくてな、まあノリだ」

 

 そのイロハは、ハチマンと同じようにエプロンをつけて、あくせくと働いている。

ペアルックでもしたかったのだろうか、その顔は満面の笑みを浮かべていた。

 

「イロハちゃん、かわいい………」

「あいつはああいう格好が案外似合うからな、イメージと違って結構家庭的なんだよ」

 

 ハチマンはそう言いながらアスナ達に席につくように伝え、

イロハを呼んでエプロンを脱ぎ、定位置へと座った。

このフロアには六人掛けのテーブルがいくつも置いてあったが、

一番奥のテーブルだけは幹部専用となっており、

普段はハチマン、アスナ、キリト、ユキノ、サトライザー、ソレイユの席となっているが、

今日はソレイユがいない為、席が一つ空く事になっていた。

そういった場合、通常はその席を巡ってジャンケン勝負が行われるのだが、

今日に限ってはそこに見知らぬ少女がちょこんと座っていた。

しかもハチマンの隣に、である。

 

「あれ、誰だ?」

「どれ?………えっ?あ、あれ?どこかで見たような………」

 

 そんなアスナにエギルが焦ったように耳打ちしてきた。

 

「おいアスナ、あれってユナなんじゃないのか?」

「ユナちゃん?あっ、本当だ!ど、どうして?」

 

 そこにキリトとレン、それにフカ次郎も横から話に加わってきた。

 

「あれってもしかして歌姫か?生きてたんだな」

「前にエギルさんに聞いた名前と同じだったからもしかしたらって思ってたけど………」

「やっぱり本人だったんだね」

「三人とも、ちょっと話がある」

「うん、みんな、ちょっとこっちに来て」

「ん?二人とも、どうした?」

 

 キリトにはまだ歌姫ユナの詳細は伝えられていなかった為、

アスナとエギルはそのまま三人を端の方に呼んで、ハチマンとユナの関係を説明した。

 

「おお、それなら知ってる知ってる、前にハチマンがぽろっと漏らした事があったからな」

「キリト君も知ってたんだ」

「ああ、もし街で危ない目に遭ってたら、助けてやってくれって頼まれてたんだよ。

もっとも大体ハチマンが一緒だったから、そんな必要は無かったんだけどな。

だから俺はあの子の顔を知ってるし、向こうも俺がハチマンの仲間だって事は知ってるけど、

話した事は無いって感じかな」

「なるほどな」

 

 そしてキリトはチラリとユナの方を見た。

 

「まさかあの子もALOをやってたなんてな」

「いや、それなんだけどよ」

「ユナちゃんの性格なら、今までハチマン君に接触してこないなんてありえないの」

「そうなのか?」

「それにあの顔………SAOのユナとまったく変わってない、

ナーヴギアを使ってキャラを引き継いだ俺達ですら、

微妙に見た目が変わってるってのに、あれは明らかにおかしいだろ」

「ああ、そう言われると確かに………」

「それにさっきここに着いた時、ハチマン君がユナちゃんについて何も言わなかったのも、

よく考えるとすごくおかしいよ、これはしばらく様子見で余計な事を言わない方がいいかも」

「分かった、俺も気をつけるよ」

 

 そしてエギルやレン、フカ次郎にはどんな会話があったか後で報告すると約束し、

アスナとキリトはハチマンのいる席へと向かった。

 

「よぉハチマン、今戻ったぜ」

「おう、お疲れ、こちらはユナ、セイリュウに止めを刺した勇者様だ。

一旦落ちたんだが、戻ってきたからこの会に誘ってみた」

「ハ、ハチマンさん、あれは偶然ですから!」

 

 恥ずかしそうにそう言うユナに、アスナとキリトは自己紹介をした。

 

「ヴァルハラの副長をやってます、アスナです」

「同じく副長のキリトだ、宜しくな」

「はい、()()()()()!お二人のお噂はかねがね!」

 

 二人はその言葉に一瞬変な顔をしたが、何事もなかったかのようにすぐに取り繕った。

そもそもアスナはユナとはハチマンを巡るライバル的な存在ながらとても仲良しであり、

キリトもSAOでは有名人であり、ユナがその名前に全く反応しない事はありえないのだ。

 

(これって記憶喪失?ありうるね………)

(う~ん、これはまあハチマンがどんな態度をとるか次第だな)

 

 二人はそう考え、しばらくハチマンの様子を観察する事にした。

 

「よし、フカ次郎、何か芸を見せろ」

 

 和やかに会が進行する中、ハチマンが唐突にそんな事を言い出した。

 

「えっ、それってマジで?」

「おう、マジだマジ、期待してるからな」

 

 ハチマンがそんな事を言うのは初めてだったので、一同は仰天した。

 

「おいレン、リーダーに一体何が!?」

「私に聞かれても分からないよ………」

「もしかしてこれはアレか?」

「あ~、うん、もしかしたらそうかも?」

 

 戸惑うフカ次郎はレンに相談したが、レンにハチマンの意図が分かるはずもない。

ただ二人は以前、ユナの話をエギルから聞いていた為、

それ絡みなんだろうなと薄々感じてはいたが、今回のハチマンの意図が分からず、

まごまごする事しか出来なかった。そんな二人の姿を見てハチマンが立ち上がった。

 

「まあいきなりじゃ無理だよな、よし、ここは俺が一曲歌を披露する事にする。

これは俺の()()()()()()()作った曲で、完全なオリジナルだが、

下手なのは勘弁してくれよ」

 

 その言葉にユナの事を知る者達はハッとした。

そしてハチマンが歌い始め、その歌に聞き覚えのあったアスナ達三人は頷き合った。

ハチマンの歌声は拙く、決して上手いとは言えなかったが、

とても心が篭っているように聞こえ、歌が終わった後、一同から大きな拍手が巻き起こった。

 

「いい歌だろ、いつも昼寝をする時に聞いてたから何となく覚えちまったんだよな」

 

 そう言ってハチマンはユナの方を見たが、ユナはただ賞賛するだけで、

ハチマンの歌そのものについて、何も反応する事はなかった。

 

(反応は無しか、記憶喪失だとしても、歌が好きだったって部分は変わらないはず、

これはまさかの別人か?)

 

 ハチマンはそう思い、他の者達も同じような事を考えた。

そのまま会は進行していき、クリシュナが円周率を百桁以上まで言ったり、

セラフィムがレンとリョク、それにイロハをお手玉したりという芸を披露したりもし、

盛り上がったまま終了する事になったが、遂にユナは何の手がかりを示す事なく、

会は平穏に幕を閉じる事となった。

 

「それじゃあハチマンさん、今日はありがとうございました」

「ここへの登録はしておいたから、また暇な時にでも遊びにくるといい」

「はい、ハチマンさんがいる時に、色々教わりに来ますね!」

 

 そうにこやかに挨拶をしてユナが去った後、

ハチマンは途端にヴァルハラのメンバーに囲まれる事となった。

 

「で、ハチマン君、さっきのは一体どういう事?」

「ん?おお、驚いたよな、今から経緯を説明するわ」

 

 ハチマンはそう言って、ユナの事を一同に語ってきかせた。

 

「………なるほど、そんな子がいたのね」

「ユナについてはとにかく謎だらけでな、

特にクリスハイトが何も知らないってのが問題なんだよ」

「でも確かに存在してたのは間違いないんだよな」

「ああ、元SAO組のほとんどがあの子の歌を聴いた事があるはずだ」

「そんなに有名人だったのね」

「で、ハチマン君、これからどうするの?」

「そうだな、ここに出入りさせて、ゆっくり探っていくしかないだろうな」

「まあそれしかないか………」

「そんな訳でみんな、ユナと話す時は必ず録画して、後で俺に見せるようにしてくれ。

街で見かけた時とかもそんな感じで宜しく頼む」

 

 ハチマンのその頼みに一同は頷いた。

こうしてユナは、ヴァルハラの監視下に置かれる事になったのだった。

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