ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第969話 祝勝会の裏で

「そういや俺のせいでちゃんと話が出来なかったが、そっちはどんな感じだったんだ?

あとドロップアイテムは?」

 

 そのハチマンの問いに対し、ドヤ顔で前に出てきたのはフカ次郎である。

 

「えっへん、フカちゃんが大活躍しましたよリーダー、褒めて下ちゃい!」

「アスナ、キリト、そうなのか?」

 

 ハチマンにそう問われ、二人は素直に頷いた。

 

「へぇ、一体何をやったんだ、フカ」

「よくぞ聞いてくれました!」

 

 そしてフカ次郎は自分が何を思いつき、どうやって実行したのかハチマンに説明した。

 

「ほうほう、お前、よくそんな事を思いついたな」

「ルーレットの事を思いついて、ピンときました!」

「お前も成長してるんだなぁ、よし、ここは素直に褒めてやろう」

 

 ハチマンはそう言ってフカ次郎の頭をなでなでし、フカ次郎はご満悦でレンの方を見た。

 

「どうだレン、羨ましいだろ!」

「ぐぬぬ………」

 

 だがハチマンは、そんなレンの頭も黙って撫で始めた。

 

「な、何ですと!?」

「レンもよく頑張ったな、えらいぞ」

「えへへぇ」

 

 レンは嬉しそうに微笑み、そんな二人にフカ次郎は納得いかないという表情を向けた。

 

「リ、リーダー!何故レンの頭を!?」

「いや、まあこれはいつも通りだろ?」

「そっ、そりはそうかもれすが!」

「何故お前は俺相手だと変な喋り方になるんだ、

まあお前とレンじゃ、最初のスタート地点が違うって事だ、

悔しかったらこれからも精進して、何もなくても俺がお前の頭を撫でたくなるようにしろよ」

「きいいいいいい、畜生、絶対にいつかそうなってやるんだから!」

 

 フカ次郎は悔しそうにそう言いつつ、レンを連れて端の方へと移動した。

他の人の報告を邪魔しない為だろうが、

そういった部分にも成長が見てとれ、ハチマンは含み笑いをした。

 

(あいつはこのまま叩いて伸ばした方が良さそうだな)

 

 要するにそれは、

フカ次郎が頭を撫でられるのが普通の事になる日は訪れないという事である。

頑張れフカ次郎、負けるなフカ次郎、君に明るい未来は訪れないが、とにかく頑張れ!

そして続けてアスナが今回の戦利品をハチマンに見せてきた。

 

「これがゲンブのラストアタックのドロップ品だよ、ウォールブーツ、だって。

これを履いてれば、壁を自由に歩けるようになるらしいよ」

「また移動系か、まあ今回はそういうコンセプトなんだろうな。

ってか、ラストアタックはアスナだったんだな」

「それが聞いてくれよハチマン、アスナの奴、最後にさぁ」

「わぁ、わぁ!」

 

 キリトがハチマンに説明しようとしたのを、

アスナは両手をぶんぶんし、慌てて止めた。

 

「何だアスナ、何をやらかしたんだ?」

「そ、それは落ちてからゆっくりと説明するから、ね?」

「そうか?まあ俺は別に構わないが………」

 

 アスナ的には、落ちてからハチマンの機嫌をとりつつ、

自分が何をしたのかそれとなく説明するつもりであった。

まあ今説明してもハチマンが怒る事は無いだろうが、一応という奴である。

 

「それじゃあその話はいいとして、多分明日は他のナイツとの話し合いで、

明後日にボスに挑む事になると思う。

そんな訳で、後で連絡を回すから、参加出来る者は俺まで連絡を頼む」

「明後日か」

「まあそうだよね」

「よっしゃ、さくっと勝って、気分良くイベントを終わらせようぜ!」

「それまでに必要だと思われる準備は進めておくわね」

「悪いなユキノ、頼むわ」

 

 そしてこの日の集まりは完全に終わりとなり、一同は順にログアウトしていった。

その後、マンションで八幡と合流した明日奈は、

同席した優里奈にもフォローしてもらい、無事に八幡への報告を終えたようである。

 

 

 

 ここで話は少し遡る。

ゲンブ戦を終えた後、ユナは自らの頭に差し込まれたプラグを自分で外し、

傍らでデスクに向かっていた重村徹大に話しかけた。

 

「お父さん、今戻ったよ!」

「お、戻ったんだね、ユナ、どうだい?ALOは楽しいかい?」

 

 徹大は、ベッドの上にちょこんと座る()()()()()に向けてそう声をかけた。

悠那ではなくユナ、と呼んだのは、白ユナに今後はユナと名乗るようにと伝えたように、

悠那とユナの区別を自分もキッチリ付ける為である。

 

「うん、とっても!今日はゲンブっていう敵に運良く止めをさせてね、

そのおかげでザ・ルーラー様っていう、凄く有名な人と知りあえたんだ!」

「へぇ、それは二つ名って奴かい?そのプレイヤーは、何て人なんだ?」

「えっとね、ハチマンさんだよ!」

 

 その名前を聞いた徹大は、ハッとした顔で押し黙った。

 

(ハチマン君は、あの八幡君か、そうか、意図せず彼と知り合いになったのか………)

 

「そうか、せっかく知り合えたんだ、もしユナさえ良かったら、

もう一度ALOにログインして、彼と交流を深めてきてもいいんだぞ」

「いいの?やったぁ!」

 

 そのぬいぐるみはそう言って喜んだ。

これはもちろんソレイユの技術を参考にして徹大が作ったもので、

そのAIは、歌姫になるべく育てられている白ユナの情報を元にした、

はちまんくんタイプのものであった。

白ユナだけではなく、何故こんな物が作られたかというと、

まだ表に出す事の出来ない白ユナの代わりに、対人スキルを学ばせる為であった。

歌とは別々に学ばせて分業制にした方が効率がいいと考えたのだ。

その相手はずっと徹大が努めていたのだが、やはりそれでは限界がある。

その為に徹大が考えついたのが、ALOへの接続である。

AIがゲームにログインする事を可能にする為に、

徹大はアミュスフィアを分解してその構造を完璧に把握し、

プラグで直結する事によってそれを実現させ、

ALOで不特定多数のプレイヤーと話し、接する事によって、

限りなく人間に近い反応が出来るように、ALOを教育ツールとして利用していたのだ。

その目的を優先していた為、ハチマンの情報はぬいぐるみのユナ、

今後は仮に学ユナと呼称するが、学ユナにはまったく伝えていなかったのだが、

今回偶然接触に成功した為、その機会を存分に活用する事にしたのである。

徹大の調査の結果、ハチマンとユナがよく一緒にいた事が、

SAOサーバーのログの解析から確認されており、

徹大は偶然ながら、ユナの情報を多く手に入れられる機会が出来たと心を躍らせた。

だがここでいきなりSAOのユナの事を尋ねさせるのは怪しすぎる為、

徹大はまだ学ユナに、そういった指示をまったく与えなかったのである。

 

「それじゃあお言葉に甘えて行ってくるね、お父さん!」

「ああ、楽しんでくるといい」

 

 徹大はそう言って、学ユナがALOにログインした後、

PCを操作して、その様子をモニターに表示させた。

これもソレイユの使っている技術を参考にさせてもらい、

徹大が苦労して実現させたものであった。

特許の問題はあるが、商業目的ではない上に、

徹大は一切これに他の者を関わらせていない為、

ソレイユからクレームが来る可能性も皆無なのである。

 

 

 

『ハチマンさん、用事が無くなったのでもう一回ログインしちゃいました、

もし良かったらもう少しお話ししませんか?』

 

 ユナはハチマンにそんなメッセージを送り、直ぐに返信が来た。

 

『今からうちの拠点で祝勝会をやるんだが、そういう事なら参加してみないか?』

『はい、喜んで!』

『それじゃあ今から迎えに行くから、待っててくれ』

 

 ユナはハチマンからのその返信を見て、心を躍らせた。

もっともそれは学習した感情であったが、

高度に発達した科学技術が魔法と区別がつかないように、

高度に発達したAIによる事象への反応もまた、感情と区別がつかないのである。

ORでここまでやるには途轍もない努力が必要なのであるが、

最近の徹大は、鎌倉の病院で眠る悠那の復活については半ば諦めかけており、

その代わりとしてのAIのユナの製作に、心血を注いでいたのであった。

 

「やった、噂のヴァルハラ・ガーデンに入れるんだ!」

 

 ユナはそう声に出して喜んだが、

迎えに来たハチマンに案内されたのは、ウルヴズヘブンであった。

だがユナはそれで気落ちしたりはしない、何故ならウルヴズヘブンもまた、

ヴァルハラ・ガーデンと同様に、一般プレイヤーの憧れの地だったからだ。

 

(うわぁ、ここがウルヴズヘブンなんだ、ビル一つを丸ごと拠点にするなんて凄いなぁ)

 

 ユナはそう思いつつハチマンの後に続き、ハチマンの仲間達に自己紹介され、

名高いヴァルハラのメンバー達と知り合えた事を単純に喜んでいた。

そしてアスナとキリトにユナが自己紹介された時、

画面のこちらでそれを見ていた徹大は息を呑んだ。

 

「この二人が『閃光』と『黒の剣士』か………、

閃光は少なくともユナと関わりがあったのは分かっているが、黒の剣士はどうかな………」

 

 徹大はそのまま観察を続け、ハチマンがいきなり歌を歌うと言い出した時、

これはユナに探りを入れようとしているなと直感した。

同時にアスナだけではなくキリトが硬直したのも見逃さず、

キリトも確かにユナの事を知っていると確信した。

だがハチマンの歌を聞いた瞬間に、徹大はそんな事は全て忘れ、思わず涙を流していた。

 

「こ、これは昔ユナが、自分で作ったと言って歌ってくれた………」

 

 更に徹大は、次のハチマンの言葉に注目した。

 

『いい歌だろ、いつも昼寝をする時に聞いてたから何となく覚えちまったんだよな』

 

 徹大の知る限り、SAO時代のユナのレベルはハチマンとはかけ離れており、

ログの解析から攻略後半でよく一緒に行動していたのは分かっていたが、

いつも、とハチマンが表現するくらい、歌を聞かせていた事は確認していなかった。

 

「どういう事だ………?」

 

 徹大は独自に作ったシステムを起動させ、二人の行動ログを同時に表示させると、

時間の流れを速めてそれを順に追っていった。

それで分かったのは、おそらくハチマンが昼寝をしていたのだろう、

街中で長めに静止していた場所にユナの方から近付き、

そこで歌を歌っていたという事実であった。

 

「これは………偶然にしては出来すぎているな、

ハチマン君に自分の歌を聞いてもらう事で、

採点でもしてもらっていたという事なんだろうか」

 

 父親である徹大は、娘のユナを、恋愛にあまり興味のない、

活発ではあるが、奥手な娘だと思っていた。

だが年頃の少女が恋をしない事などありえず、

それでいて、父親に自分の恋愛について安易に相談する事などはありえない。

その為徹大は、恋に積極的な本当のユナの性格について、

全く把握出来ていなかったのである。

なので徹大は、この一連のユナの行動の意味を理解出来なかった、というよりも曲解した。

とりあえず学ユナがログアウトしてきた後に、徹大が行ったのは、

ハチマンが歌った歌を白ユナにフィードバックさせ、再現してもらう事であった。

 

『この歌を歌えばいいんだね、うん、任せて』

 

 VRの歌姫を目指して教育されているモニターの中の白ユナは、

その力量で完璧に歌を再現してくれ、徹大は懐かしさに再び涙した。

だが徹大は気付かなかった、自分が昔聞いた歌と、歌詞の一部が違った事を。

かつては見知らぬ誰かの気持ちを歌っていた歌が、

今は自分の気持ちを誰かに伝える歌へと変わっていた事を。

その事に気付ければ、徹大は悠那が八幡に恋していたのだと気付き、

八幡に今の悠那の現状を伝え、助けを求める事も出来たかもしれないが、

実際にはそうはならず、徹大は悠那が決して望まないであろう、

犯罪行為に手を染める事となったのであった。

運命とはかくもままならず、それに関わる者達を翻弄していく。




第545話「鼻歌」で八幡が歌っていたのは今回の歌とは別のものです。
ORについての説明は、第665話「麻衣のお願い」に、
白ユナの説明は第635話「産声」に、
はちまんくんの存在を知ったのは第632話「生命の碑、再び」の紅莉栖との会話から、
その実物を実際に見たのは詩乃と接触した第879話「もう無茶苦茶だ」で、
SAOサーバーからプレイヤーの行動ログを得たのは第633話「調査を終えて」での出来事です。
こうして見ると、一年前からフラグが乱立してましたね!
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