ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第971話 まさかの来客

 茅場晶彦との面会を終えた八幡は、ログアウトしてすぐに、陽乃に詰め寄った。

 

「姉さん、危ない事はやめてくれ」

「それはこっちのセリフでもあるのよ、それを分かってる?」

「う………それは悪かったよ」

「あら、随分と素直ね、まあいいわ、無事に契約は成った、後はそれを実行するだけよ」

 

 見ると全員が既に動き出しており、この場には部屋の本来の主である、

次世代技術研究部の面々しか残っていなかった。

 

「あ~、レスキネン部長、俺のわがままのせいで何かすみません」

「いやいや、実に興味深かったよ、

こんなレアな経験が出来た事をゴッドに感謝したいくらいさ」

「あれが茅場晶彦、うちの紅莉栖以上の天才なのね」

「あの口ぶりだと、もしかして脳科学にも詳しいのかしら、

ねぇ八幡、彼をアマデウス化させたら、私にも彼と話をさせてね。

秘密を守る為に私とあなたの二人だけでって事になるけど、

もちろんちゃんと明日奈の許可はとるから」

「まあそれは構わないが、キョーマの許可もちゃんととれよ」

「分かってるわよ、それじゃあこっちの準備が出来たら連絡するから、後は任せて」

「おう、頼むわ」

 

 八幡はそう言って部屋を出ると、すぐに明日奈に連絡をとった。

 

「明日奈、悪いが明日、十六時までにヴァルハラ・ガーデンに来てくれないか?

ついでに悪いんだが、うちの女性陣に、

その時間にはヴァルハラ・ガーデンに絶対に来ないように伝えてくれ」

『何か訳ありかな?分かった、連絡しておくね』

 

 そして次に八幡は、和人にも連絡を入れた。

 

「お、和人か?悪いが明日、十六時までにヴァルハラ・ガーデンに来てくれないか?

面白い物を見せてやるからさ、頼むよ」

『別にいいけど、面白い物って何だ?』

「まあそれは明日までの秘密だ、後もう一つ頼みがある、

明日のその時間にはヴァルハラ・ガーデンを立ち入り禁止にしたいから、

うちの男連中に、その事を伝えてくれないか?」

『ん、分かった、訳ありなんだな、ちゃんと伝えておくよ』

 

 明日奈も和人も物分かり良くそう言ってくれ、八幡は最後の一人に連絡を入れた。

 

「あ、もしもし、俺ですけど、ちょっと頼みがあるんですよ」

『どうしたの?別に構わないけど………』

 

 

 

 そして次の日の夕方、ハチマンとアスナ、それにキリトは、

ヴァルハラ・ガーデンでのんびりと会話をしていた。

 

「で、ハチマン、今日はこれから一体何が起こるんだ?」

「もう少しの我慢だって、というか正直俺にも何が起こるのか分からないんだけどな」

「ふふっ、何それ?まあいいけどね」

「それにしてもこの三人だけでヴァルハラ・ガーデンにいると、何か昔を思い出すよな」

「懐かしむべきじゃないんだろうけど、でもやっぱり懐かしいね」

「ママ、私もいますからね!」

「ごめんごめん、そうだったね、ユイちゃん」

 

 どうやら今日のこちらの当番はユイのようだ。

ユイは三人分のお茶を入れると、小さくなってハチマンの肩にちょこんと座った。

 

「実はもう一人ここに来る事になってるんだよ、多分そろそろだ」

「誰が来るんだ?」

「それは………」

 

 ハチマンがその人物の名を言いかけた時、来訪者を告げるチャイムが鳴った。

 

「噂をすればだな、さてと………」

 

 ハチマンは壁にあるコンソールへと向かい、アナウンスを待った。

 

『プレイヤー、コリン、が、入室許可を申請しています、

コリン、に、許可を出しますか?』

 

「ぷっ………」

 

 ハチマンはそのアナウンスに思わず噴き出した。

アスナとキリトは首を捻ったが、

おそらくハチマンにしか分からない、笑う部分があったのだろう。

 

「イエスだイエス、ついでに入団登録もイエスだ、あ、正式の方な」

 

『了解しました、承認します。入館許可と同時に、プレイヤー、コリン、が、

ヴァルハラ・リゾートのメンバーとして正式登録されました』

 

「お、おいハチマン、一体誰なんだ?」

「すぐに分かるさ」

 

 そして三人が外に出ると、階段を一人の女性が上がってきた。

 

「ごめんなさいハチマン君、お待たせしちゃったかしら」

「いえいえ、別に平気ですよ、凛子さん」

「凛子さん!?」

「ああ、凛子さんか!」

 

 二人は、だからコリンなのかと思わず噴き出しそうになったが、

さすがにそれは失礼なので、笑わないように必死に耐えた。

 

「むぅ、名前は適当なんだから突っ込まないでよ」

「な、何故それを!?」

「二人の顔を見れば分かるわよ!………ってのは嘘、

実は外のアナウンスを聞いて、自分でも思わず噴き出しちゃったのよね」

「そういう事ですか!まあとにかくこちらにどうぞ、コリンさん」

「ええ、お邪魔させてもらうわ」

 

 こうして凛子ことコリンは、初めてALOに、

そしてヴァルハラ・ガーデンに足を踏み入れる事となった。

 

「うわぁ、凄いじゃない、これ全部ハチマン君達が作ったのよね?」

「ええ、まあそうですね、拡張した後にかなり手を入れました」

「まさに王様のお城って感じね、あっ、ユイちゃんは初めましてだね」

「はい、こちらこそです!それじゃあ私はお茶を入れてきますね!」

「ふふっ、ありがと」

 

 ユイはそう言って、台所へと消えていった。

 

「それにしてもギリギリになってしまって本当にごめんね?

実は出がけに妹に捕まっちゃって、絡まれてたのよ」

「え、コリンさん、妹さんがいたんですか?」

「ええ、名前は神代フラウよ」

「あ、ああ~!」

 

 ハチマンはその名前に覚えがあった。

何故なら今年、将来のハチマンの専属候補として雇った人の中に、その名前があったからだ。

 

「あの人ってコリンさんの妹だったんですか!」

「まあ履歴書にもそんな事は書いてないからね、

あの子は天才だけど、扱いが難しいから注意してね」

「………どう扱いが難しいんですか?」

「そうね、ダル君と同じ人種だって言えば分かるかしら」

「ああ、確かに面接の時、デュフフ、とかダルみたいな変な笑い方してましたっけ」

「………姉の私が言うのも何だけど、あの子のそんな笑い方を見て、よく採用したわね」

「勘ですかね、理央を採用した時みたいに、ピンときたんですよ」

「………まあ姉としてはあの子が片付いてくれて助かったからいいんだけどね」

 

 コリンは少し嬉しそうにそう言った。なんだかんだ、妹の将来が心配だったのだろう。

 

「それにしても、やっぱりヴァルハラ・リゾートって凄いのね、

外で登録を待ってる間、周りにいる沢山の人達から凄く注目されちゃったわよ」

「それは誰もが通る道です、コリンさん」

「そうなんだ、それじゃあすぐに、

私の名前がヴァルハラの新メンバーとして拡散しちゃうかもしれない」

「かもしれませんね、ってかもう掲示板とかに出てそうです」

 

 ハチマンはそう言って苦笑した。

有名税と思い、この事についてはシステム上仕方ない為、もう諦めているのだ。

 

「さて、そろそろ時間だけど、あの馬鹿は一体何をするつもりなのかしら?」

「分かりません、ただ晶彦さんに、この時間に連絡するって言われただけで………」

 

 その言葉にアスナとキリトは仰天した。

 

「はぁ?何だそれ?」

「ここに茅場晶彦から連絡が入るの?」

「まあそういう事だ、晶彦さんと面識があるのは、ここにいる四人だけだろ?

だから呼んだんだよ」

「あ~そっか」

「そういう事だったか………」

 

 四人はそのまま黙り込み、じっとその時が訪れるのを待った。

そして十六時になった瞬間に、来客を告げるチャイムが鳴った。

 

「むっ」

「誰か代理でもよこしたのかな?」

「かもしれないな、え~っと………」

 

 その時システムアナウンスが喋り出した。

 

『プレイヤー、ヒースクリフ、が、入室許可を申請しています、

ヒースクリフ、に、許可を出しますか?』

 

「おい?」

「え?」

「何の冗談だ?」

「晶彦は、一体誰をここに寄越したのかしらね」

 

 そのシステムの声を聞き、奥で凛子の分のお茶を用意していたユイが、

慌ててこちらに向かってきた。

 

「パパ、今のって………」

「ユイ、何か感じるか?」

「そういえば微かにグランド・マスターの気配が………」

 

 その言葉を受けてハチマンは立ち上がり、システムに向かってこう呼びかけた。

 

「許可だ許可、さっきと同じく入団も許可する」

 

『了解しました、承認します。入館許可と同時に、プレイヤー、ヒースクリフ、が、

ヴァルハラ・リゾートのメンバーとして登録されました』

 

 その言葉を聞き終える前に、四人は館を飛び出した。

正面にある階段からコツコツという足音が聞こえ、そして遂に、その人物が姿を現した。

 

「おい………」

「え、嘘………」

「これってマジか?」

「あ、晶彦?」

「グランド・マスター!」

 

 その声を受け、かつてのままの姿で現れたのは、ヒースクリフ、その人であった。

 

「君は………まさか凛子かい?ハチマン君、やってくれるね」

「それはこっちのセリフだよ、これはどんなからくりだ?ヒースクリフ」

「とりあえずここでする話じゃないから、中に入れてくれないか?」

「………分かった、こっちだ」

 

 そしてヒースクリフと共に、四人は再び室内に戻った。


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