「………という訳で、ヒースクリフ用の装備を作ってほしいんだ、
いい気はしないかもしれないが、そこを何とか………」
『分かりました、任せて下さい!』
八幡は断られるのを覚悟で駒央に頼んだのだが、
駒央は意欲を感じさせる態度でそう返事をした。
「い、いやいや、
『八幡さんこそさっきから一体何を………あっ、もしかして、
僕が茅場晶彦を恨んでるんじゃないとか、そういう心配ですか?』
「お、おう、まあそんな感じだ」
『なるほどなるほど、そう言われると確かにその心配はしますよね、
でも大丈夫です、僕にとってはもうとっくに終わった事ですし、
何より茅場晶彦はもう死んでるじゃないですか、
それを死んだ後までこき使おうなんて、八幡さん凄いとしか思いませんよ』
「………………そ、そうか」
何気にひどい言われようだなと思いつつも、八幡は駒央が引き受けてくれた事に安堵した。
『それじゃあ早速作っちゃいますね、デザインは他の人と同じでいいですか?』
「おう、あ、いや、あいつだけフルフェイスのヘルメットにしてくれ、
髪型とその色は変えさせるつもりだが、やはり素顔のままって訳にはいかないからな」
『確かにそうですね、分かりました、それじゃあ里香さんに連絡して作業に入りますね』
「おう、里香にな、里香に………里香………………あっ、やべっ」
八幡は、まだ里香にヒースクリフの事を話していない事を思い出し、顔を青くした。
『どうしたんですか?』
「まだ里香に、ヒースクリフの事を話してねぇ………」
『えっ、そうなんですか?それじゃあどうします?あれは僕だけじゃ作れませんよ?』
ヴァルハラのトップが持つ一部のハイエンドの装備を作るには、
一人が同時には所持出来ない複数の製作系スキルが必要である為、
リズベットとナタクが共同で作業に当たる必要があるのである。
「お前はとりあえず先にログインして製作の準備をしててくれ、
俺は今から里香に連絡するから、あいつがログインしてきたらそのまま作業を始めてくれ」
『分かりました、ご武運を!』
それで駒央との電話は終わった。
「………ご武運かぁ、もしかしたらすんなりいかないかもってあいつも思ったんだろうなぁ」
そんな事を考えつつ、八幡は里香に電話をかけた。
『あら、私に直接かけてくるなんて珍しいじゃない。もしかして厄介事?』
「おお、いい勘してるな、悪いが厄介事………かもしれん」
『ふ~ん、で、何があったの?』
「実はタンク用の装備の製作を頼みたい」
『それが厄介事?凄く普通な気がするけど』
「作って欲しいのはタンクのハイエンド装備なんだ、
素材は今日、スモーキング・リーフから届いてたはずだ」
『あら、また誰か新人でも入れたの?』
「お、おお、後日紹介する予定だ」
『ハイエンドって事は初心者じゃないわよね、なんて人?』
八幡は里香にそう問われ、覚悟を決めてその名前を口にした。
「………ヒ、ヒースクリフだ」
『………ごめん、聞き間違えたかも、もう一回お願い』
「ヒースクリフだ」
『オーケーオーケー、で、それは本人?それとも別人?』
「ほ、本人だ」
『え、嘘、本当に?』
「お、おう、本当だ。当時の姿のまま会いに来てな、
用件だけ言ってすぐに帰ろうとしたから、
せっかくだし嫌がらせも兼ねて便利に使ってやろうと思って、
そのままうちのメンバーとして戦う事を承諾させた」
その言葉に里香は答えなかったが、代わりにしばらくして、
里香が大笑いする声が聞こえてきた。
『あはははは、使える者なら死者でも使うって?さっすが血盟騎士団の参謀様だわ』
「お、怒らないのか?」
八幡はびくびくしながらそう尋ねたが、それに対する里香の返事は明快だった。
『だって私、ほとんど面識ないしさ。
それに今私は生きてるけど彼はもう死んでるじゃない、
さすがの私も死んで幽霊みたいになった人に文句なんか言わないわよ』
「そ、そうか、まあもし文句が言いたくなったら直接言ってやってくれ」
『そうね、そうするわ』
それから八幡は里香に駒央が待っている事を伝え、里香もALOにログインしていった。
「さて、最後は優里奈か………」
八幡は気が重くなるのを感じながら、優里奈に連絡を入れた。
『あ、ログアウトしたんですね、すぐにそっちに行きます!』
八幡がここからALOにログインしていた事を知っていた優里奈は、
電話で八幡にそう返事をすると、すぐにこちらの部屋に姿を現した。
「八幡さん、ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」
「その前に優里奈に大事な話がある」
その定番のセリフをスルーし、八幡は優里奈にそう声をかけた。
「えっ?あっ、はい」
優里奈は残念そうにそう言うと、八幡の正面にちょこんと座った。
「………実はな」
「はい」
「茅場晶彦が、ヴァルハラのメンバーになった」
「はい」
「茅場晶彦がどうやって死んだかは前に教えたよな、
そのスキャンされた存在がALOにログインしてきたから、
そのままうちのメンバーとしてこき使う事にした、俺からの話は以上だ」
「はい」
優里奈はそのまま八幡の言葉を待っているようなそぶりをしており、
あるいは優里奈が激高するかもしれないと思っていた八幡は、逆にぽかんとした。
「お、怒らないのか?」
「え?何にですか?」
「そ、その、茅場晶彦はお前の兄さんの仇だろう?」
「ああ!それでさっきから八幡さん、凄く緊張してたんですね!」
優里奈は合点がいったという風にうんうんと頷いた。
「まあそういう事だ」
「なるほどなるほど、確かにそう言われるとそうですね、
でも私、困った事に、今とっても幸せなんですよ」
優里奈にそう言われた八幡は、何と答えていいのか分からずに押し黙った。
「確かに兄の事は悔しいですけど、
でもここで怒ったからって兄が帰ってくる訳じゃないじゃないですか。
まあそれでも兄が死んだ事で私が今、不幸のどん底にいたなら怒ったかもしれませんけど、
うちの両親が死んだのはあくまで事故ですから関係ないですし、
そもそも八幡さんのおかげで生活にはまったく困ってないですし、
というか余裕ありまくりですし、毎日楽しいですし、
私、困った事に今はまったく不幸にはなってないんですよ」
「ま、まあそうなのかもしれないが………」
「という訳で、私に気を遣って下さるのは有難いですけど、
八幡さんが何か気に病むような必要はまったくありませんよ。
でもそうですね、それじゃあ気が済まないという事でしたら………」
そこで優里奈は、八幡が気付かないくらい微妙に口の端を上げた。
「八幡さん、私をもっと幸せにして下さいね」
優里奈が輝くような笑顔でそう言い、八幡は当然のように頷いた。
「もちろんだ、俺に任せろ」
相変わらず迂闊な八幡であるが、この場合は優里奈を褒めるべきだろう。
そもそもこの場面では、それ以外の返事が出来るはずもない。
だが先ほど言っていた通り、優里奈は今、とても幸せなのだ。
現状のままでも物質的、精神的に恵まれた状態の優里奈の更なる幸せといえば、
残るは愛する男性と結ばれて幸せに暮らす、くらいしか無い。
同じような事は何度もあったが、その度に八幡は迂闊に返事をしてしまっており、
その言葉を全て纏めると、八幡は既に、優里奈が三回くらい輪廻転生した後も、
優里奈を幸せにしなくてはいけないくらいの言質をとられていたのだ。
「ありがとうございます、八幡さん」
優里奈は笑顔でそう答えたが、そんな優里奈の心の中には、
確かに茅場晶彦への憎しみの感情も、僅かではあるが確実に存在している。
だが優里奈はそれを表には出さず、自分の幸せを確固たる物にする為の発言を行った。
その可愛らしい外見と仕草からは想像もつかないくらい、
優里奈は現実的で、かつ強かな女性なのである。
「ふう、これでやっと肩の荷がおりたわ」
「ふふっ、本当に気にしすぎですよ、八幡さん。
さて、それじゃあご飯にします?それともお風呂にします?
私としては、それともわ・た・し?の方をお薦めしますけど」
「大人をからかうんじゃない、とりあえず、ご飯にしよう」
「は~い!………………むぅぅ、本気なのになぁ………」
八幡には当然その言葉は聞こえていたが、普通にスルーした。
だが八幡にとっての今日の厄介事は、それで終わりではなかった。
いきなりかおりから着信が入ったのだ。
「ん、かおり、どうした?今日は遅番だったから、そろそろ上がる時間だよな?」
時計を見ると、時刻は夜七時五十分となっており、丁度遅番があがる時間であった。
『いきなりごめんね、ねぇ、さっき顔を出してくれたから、今マンションにいるよね?』
「ん?ああ、いるぞ」
『今受付に、神代フラウってこの前面接に来た子が来てるんだけど、
ALOのハチマンに会わせろ、絶対にここの社員だからって引かないのよ』
「え、マジかよ、姉さんは?」
『社長は今いないの、で、とりあえずガードマンを呼ぶか迷ってて、
その前に八幡の指示を仰ごうかなって思って………』
「ふむ………」
(確か履歴書には、堂々と引きこもりって書いてあったはずだが、
随分とまあ行動力がありやがるな)
八幡はそう思いつつ、かおり達に残業をさせるのも忍びなかった為、
フラウを直接この部屋に来させる事にした。そもそもフラウが怒鳴り込んできたのは、
おそらく先ほどのALOでのやり取りが原因であるはずだし、
会社の業務と無関係ではないが、主に自分の責任だと判断したからである。
「フラウはそのまま俺のマンションに来させてくれ、
あ、ついでに俺の専属用の契約書も持たせてな。
そしたらかおり達は通常通り、業務を終えてしまっていい」
『私もついていこうか?』
「大丈夫だ、こっちには優里奈もいるし、何かあっても問題ない」
『オッケー、それじゃあそう伝えるね』
そして電話を切った後、八幡は優里奈に声をかけた。
「悪い優里奈、飯を三人分に増やしてくれないか?」
「あっ、はい、誰か来るんですか?」
「俺の専属になる予定の問題児がソレイユに怒鳴り込んできたらしくてな………」
この日の八幡の苦労は、まだまだ終わらないようである。