「さて、うちの世界戦略の話をしよう」
そう言って八幡が語ったのは、ニューロリンカー絡みの一連の計画であった。
「そ、そんな事出来るの?」
「出来るのというか、実際にやってるっての」
「ぐぬぬ、八幡はもっと早く私に声をかけるべき」
「今更そう言われてもな、それを言うならお前はもっと敏感に世間の情報を集めて、
早めに自分の足でうちに来るべきだったろ」
「くぅ、後で姉さんに抗議する」
「凛子さんに迷惑かけんな」
ここで凛子の名前が出た事で、八幡は先ほど感じた違和感について尋ねる事にした。
「そういやちょっと聞きにくい事を聞いていいか?」
「もう私は部下なんだから、命令すればいいじゃない」
「いや、業務に関する事じゃないからな」
「それじゃあ聞くだけ聞く、答えられる事なら答える、それでどう?」
「オーケーだ、さっき寝てるお前の顔を見て思ったんだが………」
「寝てる間に視姦されていた!?」
「見て思ったんだが、お前と凛子さんって似てないよな?
もしかして片方の親が違うとかだったりするのか?」
「はい、スルーですね、サーセン」
フラウは八幡に恨みがましい目を向けながら、呟くように言った。
「私は今の両親に拾われた子だから、そもそも姉さんとは血の繋がりは無いというか?」
「そ、そうか、つまらない事を聞いてすまなかった」
「ちなみにフラウというキラキラネームは姉さんがつけてくれたんだお」
「………俺はいい名前だと思うが、それじゃあ下の名前まで変えたのか?」
八幡は凛子をフォローしつつ、そう尋ねた。
「拾われた時はかなり衰弱してたんで、しばらく自分の名前も出てこなかったんだお。
引き取られてしばらくしてから本当の名前を思い出したけど、
その時にはもう神代フラウって名前になってたから、そのままでいいかなって」
「へぇ、ちなみに本当は何て名前だったんだ?」
「フヒヒ、それが知りたかったら私を身も心も夢中にさせてみるといいお」
「あ、そういうのはもう間に合ってるんで、ごめんなさい」
八幡に即座にそう言われ、フラウは屈辱的な表情をした。
「ああ、そういえば彼女持ちだったっけ、ヴァルハラのアスナさん?
まあ別に羨ましくなんかないですし?私だってこれでもモテモテですし?」
「そうか、まあフラウが今幸せならそれで良い」
その八幡の暖かい言葉に罪悪感を感じたのか、フラウはすぐに自分の発言を訂正した。
「嘘です、サーセン、年齢イコール彼氏いない歴の喪女ですが何か?」
「いやいや、お前はかわいいんだから、
街とか歩いてたら普通に声をかけられたりするだろ?」
「ファッ!?」
相変わらず女性関係に迂闊な八幡は、何の躊躇いもなくそう発言し、
フラウは八幡に聞こえないように、ぶつぶつと呟いた。
「か、勘違いしないでよね、別に私の事が好きな訳じゃないんだからね………」
そしてフラウは深呼吸した後に八幡にこう答えた。
「声をかけてきた相手に普通に喋ってるだけで、その相手は逃げていきますが何か?」
「………ま、まあ言葉遣いには気をつけような」
「ずっとこうだからもう無理ゲー」
「そ、そうか、まあそういうのが平気な奴もいる、俺だって平気なんだし、
探せばいくらでも条件のいい奴はいると思うから、頑張れ」
その八幡の言葉でフラウは気付いた、気付いてしまった。
今目の前にいるこの男が、とんでもなく優良物件だという事を。
(ソレイユの次期社長でおたくに偏見がなくて、いい体をしてるし顔もいい、
これって最高の相手すぎてテラヤバス)
フラウはそう思ったが、現時点では思っただけである。
そもそも相手は彼女持ちだし、自分に興味を持つはずもない。
「まあいいや、それで結局私は何をすれば?」
「いずれは次世代技術研究部に入ってもらう事になるかもしれないな、
お前、人格破綻者だけど、天才プログラマーなんだろ?」
「あながち間違ってない」
「認めるのかよ………まああいつらならお前とも気が合うだろうさ。
ひと通り紹介して配属先が決まるまでは、
とりあえず俺を手伝ってくれ、調べたい事があるんだ」
「というか、専属なのに他の部署に配属されるとか聞いてない」
「そういえば言ってなかったな、専属ってのは、俺を優先して動くってだけで、
基本はどこかの部署で普通に仕事をしてもらう事になってるんだ、
まあお前が希望するなら、秘書室の端っこにでも席を置いて、
ひたすら俺の言う通りに動いてくれてもいいんだが………」
「じゃあそれで」
「決断早いなおい、まあ希望は分かった、
ただし他の部署が修羅場な時に、手伝いくらいはしてもらうぞ」
「フヒヒ、サーセン」
丁度そこに優里奈が戻ってきた為、仕事絡みの話はそこで終わった。
そしてこのままのんびりしようという事になり、
優里奈にお茶を入れてもらい、三人は寛ぎはじめた。
その最中、フラウはスマホを取り出して、凄い早さで手を動かしていた。
「フラウ、何してるんだ?」
「@ちゃんねるの愛すべきクソコテどもに、お別れの挨拶だお」
「へぇ」
八幡はそう言ってチラリとフラウのスマホを覗き込み、直後に噴き出しそうになった。
「ぶはっ、危ねえ、お茶を噴き出すところだった」
「八幡さん、何かあったんですか?」
「いや、知り合いの名前があったからついな」
そして八幡はスマホを取り出し、どこかに電話をかけた。
「おい、栗悟飯とカメハメ波、お前が今煽ってるのはうちの新人だからほどほどにしとけよ」
「ファッ!?」
いきなりの八幡のその言葉に、フラウは目が飛び出さんばかりに驚いた。
「く、栗カメとお知り合いで?」
「おう、うち一番の天才だな」
「え、ま、まさか栗カメって、牧瀬紅莉栖!?」
「紅莉栖の事は知ってんのか」
「あ………ありのままに、今起こった事を話すぜ、
今まで散々煽り煽られてきた相手があの牧瀬紅莉栖だった。
な、何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何を言っているのか分からねえ………
ソレイユに入っていきなり、恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………」
「おい、フラウ、お~い?」
「八幡、不意打ちすぎるお!」
「てか今思ったが、お前、もう俺の事呼び捨てなのな」
「そんなのお互い様だお!」
フラウはエキサイトしながらそう言い、続けて八幡にこう尋ねてきた。
「こ、この中に他に知り合いは?」
「鳳凰院凶真、DaSH、あれ、多分こいつらもだな、ネズミネコと電子系EVE」
「な、なん………だと………?」
鳳凰院凶真は岡部倫太郎であるが、DaSHとはダルのハンドルネーム、
そしてネズミネコは当然アルゴ、電子系EVEは岡野舞衣である。
「だ、だからこいつら最近馴れ合ってやがったのか………」
「ん、そうなのか?」
「当初のギスギスした雰囲気が無くなってて、ツマランワロエナイって思ってたんだお!」
「お前もその仲間入りをするんだけどな」
「おぅふ………」
フラウは嘆息し、何故か八幡に手を伸ばしてきた。
「ん、何だ?」
「く、栗カメとの電話キボンヌ」
「それは別に構わないが………紅莉栖も俺の専属だからな」
八幡はフラウにスマホを差し出し、フラウはそのスマホを耳に当てた。
途端にスマホから、紅莉栖の絶叫が聞こえてくる。
『ちょ、ちょっと八幡、さっさと返事をしろと言っとろうが!
フローラ工事が新人ってどういう事?というかあんたもここに書き込んでるの?
コラ、さっさと返事をしなさい!』
「クソコテの栗カメパイセン、
という訳で、このフローラ工事が、今度パイセンの同僚になった訳なのだが、
でも一言だけ言わせて欲しい、中二病、乙!」
『え、女の子!?』
「そんな訳でパイセン、以後4649!」
その瞬間にフラウは通話を切り、スマホを八幡に差し出してきた。
「挨拶おk」
「………お前、本当にいい性格をしてるよな」
「そ、そんなに褒められると照れる」
「………ちょっと一発殴りたくなってきたな」
「そ、そんなドSの八幡も、その時がきたら、
『くっ、悔しいけど、でも感じちゃう、ビクンビクン』ってなるんですね、デュフフ」
「そういえばお前、腐ってもいたんだったな………」
「早く八幡の薄い本をキボンヌ」
「ふざけんな、ぶっ飛ばすぞ」
「いやいや、ホモが嫌いな女子などいないから!」
フラウはそう言って、とてもいい顔で優里奈の方を見た。
社交性の高い優里奈は即座に否定する事が出来ず、
その視線に対して愛想笑いを浮かべながらこう答えた。
「は、八幡さんの薄い本ならもうあるらしいですよ」
「ばっ、ゆ、優里奈、そんな事こいつに言ったら………」
その瞬間に、フラウは唇が触れ合う寸前くらいまで八幡の顔に自分の顔を近付け、
真顔でこう言ってきた。
「その話、KWSK」
「だが断る!」
「ぐぬぬ………八幡、今いくつ?」
「人に年齢を聞く時は自分から先に言え、そうしたら答えてやってもいい」
「二十四」
「なっ………ま、まさかの即答だと!?」
八幡はどうやら、フラウが年バレを躊躇うと予想していたようであるが、
かくも腐った女子の執念というのは恐ろしいものなのである。
「年齢はよ」
「くっ………二十二だ」
「二十二………ふむ、春夏秋冬、ミーちゃん、薔薇太郎」
「………ん?何だそれ?」
「メスハイエナ、腐海のプリンセス」
その名前が出た瞬間に、八幡はピクリと反応してしまった。
「………腐海のプリンセスktkr!まさかのビッグネーム!」
「お、お前、何故それを………」
「八幡が題材にされているのならば、多分同級生が書いていると予想した。
なので私の知る限りの同い年の作家の名前を上げてみただけ、情弱乙」
「くっ、言うだけの事はありやがる………」
(知られてもらったものは仕方がない。
ここは一つ、フラウが俺の求める情報を必死に探してくれるように仕向けるか………)
八幡はそう考え、フラウにこう話しかけた。
「おいフラウ、お前が俺の出す課題をクリア出来たら、
腐海のプリンセスを個人的に紹介してやってもいい」
「課題はよ!はよはよ!」
(よし、かかった)
フラウは一も二もなくその提案に飛びつき、八幡はニヤリとした。
「ちょっと待ってろ」
そして八幡は、夕方会社に寄った時にもらった茅場晶彦のアマデウスを起動させた。
その為に八幡は、夕方にソレイユに寄っていたのである。
『おや、八幡君、早速呼んでくれてありがとう』
「晶彦さん、頼みがあります、晶彦さんが拾ったっていう、
例のユナの音声データってもらったり出来ますか?」
『ああ、別に構わないが、何をするつもりだい?』
「こいつに調査させます、本当は晶彦さんにもお願いしたい所ですが、
多分本体は、色々な所をうろうろしてて忙しいと思いますので、
こいつに専属で調査させた方がいいかなと思って」
「おや?君はフラウ君かい?久しぶりだね」
だがその言葉にフラウは反応すらしなかった。その目が驚愕に見開かれている。
「なるほど、適任だろう、それじゃあ今データを送るよ、活用してくれたまえ」
「ありがとうございます、今は忙しいので、今度ゆっくり話しましょう」
「ああ、楽しみにしているよ。フリーズしたままのフラウ君にも宜しく」
それで晶彦との会話を終わらせた八幡は、フリーズしているフラウの顔をペチペチと叩いた。
「お~いフラウ、お~い?」
「はっ!?あ、ありのままに、今起こった事を話すぜ………」
「それはさっきやったからもういい」
「ちょ、ちょっと八幡、さっきのって姉さんの元カレの茅場晶彦っしょ?
な、ななな何で生きてるの!?」
「そのうち教えてやる」
「くっ、悔しい、でも感じちゃう、ビクンビクン」
「………そこで捧読みか、余裕あるなぁ」
八幡は呆れたが、フラウにユナの音声データを渡して調べさせる事には成功した。
「わ、分かった、やってみる」
「頼むぞフラウ」
結局この日はかなり遅くまでかかってしまった為、
フラウはこのままこの部屋に泊まる事となった。
「は、八幡、ジャージありがと」
「おう、まだ寒いからな、風邪ひくなよ」
「だ、大丈夫、寒さには強いから」
そして優里奈と二人で寝る事になったフラウは、八幡絡みの色々な話をした。
「………じ、じゃあ、八幡の事を狙ってる女子がそんなにいると!?」
「はい、でも誰も諦めてないんですよ、ふふっ、おかしいですよね」
「リアルハーレム野郎がここにいた………」
「ふふっ、フラウさん、八幡さんにかなり興味深々でしたよね?
フラウさんもハーレム入り、狙ってみます?」
「そ、その話kwsk」
「はい!」
優里奈はフラウに請われるままに話をした。
「なるほど、正妻様に認められればいいと………でも優里奈たんはそれでいいの!?」
「いいも悪いも、何人になろうがきっと八幡さんが全員幸せにしてくれますよ」
「ぐぬぬ………ち、ちょっと真面目に考えさせて………」
「はい!」
こうして色々あったこの日は終わりを告げた。明日はいよいよラスボス戦である。