ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

984 / 1227
今後の展開を少し纏めるので明日の投稿はお休みします、すみません!


第977話 おばけのホーリーさん

 次の日の昼、昼食の席で、八幡は珪子に茅場晶彦の事を打ち明けた。

 

「という訳で、ヒースクリフがうちのメンバーになった、事前に相談出来なくてすまない」

「えっ?何で謝るんですか?

そりゃあ、世間には茅場晶彦を恨んでる人も多いと思いますけど、

本人はもう死んでるんですし、幽霊と付き合いがあっても別にいいじゃないですか」

「お、おう、そ、そうだな………」

 

 仲間達の物分りの良さに驚かされてばかりであったが、

それは普通に生き残った者の意見だからかもしれない。

それを踏まえて八幡は、彼によって失われた命の事は決して忘れてはならないと心に誓った。

 

 

 

 そして迎えた放課後、今日の戦闘に参加するヴァルハラのメンバー達が、

先乗りでヴァルハラ・ガーデンへと続々と集結してきたが、

予定していた全員が集まったところで、八幡は仲間達に声をかけた。

 

「あ~………特にエギルとクラインは、心を乱さないように聞いてくれ」

「はぁ?」

「何かあったのか?」

「え~っとな、これからみんなにうちの新人を紹介するんだが、

それが誰であろうととりあえず落ち着いていてくれると助かる」

「新人?」

「ほう?まあとりあえず紹介してもらおうか」

「分かった、ホーリー!」

 

 その声を受け、奥の部屋からホーリーが姿を現した。

髪型や髪の色はまだいじっていない為、昔のままの姿で、である。

 

「なっ………」

「お、お前………」

「やぁ二人とも、久しぶり、と言うべきかな」

「「ヒースクリフ!?」」

 

 その二人の言葉に周りの仲間達も即座に反応する。

 

「ヒースクリフって………茅場晶彦よね?」

「生きていたって事?」

「リ、リーダー、こりは一体………」

「あ~………このヒースクリフ、今はホーリーって名前なんだが………

あ、ちなみに名付けたのは俺だ」

 

 八幡はそこで一旦言葉を止め、全員の顔を見回した。

 

「まあ一言で言うと、おばけ………かな」

「えっ………?」

「も、もちろん冗談だよね?」

「と言っても、他に言いようが無いからなぁ………」

 

 確かに墓場を彷徨っているか、電子の海の中を漂っているかの違いくらいしかなく、

実体が無いという点においてはさほど変わらない。

 

「まあみんな事情は知ってると思うが、

人間の脳をスキャンして生まれた存在を定義する言葉は今のところ存在していない。

なのでまあ、ホーリーの事は便利なアイテムだと思ってくれればいい」

 

 ホーリーはその言葉に苦笑したが、特に何も言わなかった。

 

「クライン、エギル、二人は何か言いたい事はあるか?」

「キリト達が何も言わないって事は納得済みって事だろ?

なら俺から特には何も言う事はないな」

「俺もまあ一発殴りたい気はしないでもないけどよ、

静さんと出会うキッカケをくれたって事でチャラにしてやらぁ」

「そうか………ありがとな」

 

 他の者達は呆気にとられるばかりであったが、特に苦情が出る事もなかった為、

ホーリーの事を黙って受け入れてくれたのだろうとハチマンは判断した。

 

「ならまあそういう事で、たまにしか来ないと思うが、来たらこき使ってやってくれ。

これでもタンクとしての能力はおそらく史上最強クラスのはずだから、

特にマックス、ユイユイ、アサギさんは、色々教えてもらうといい」

「あの、ハチマン君、ところでホーリーと名付けた事に何か意味はあるのかしら」

 

 そのユキノの質問に、ハチマンは目を逸らしながらこう答えた。

 

「あ~………この前たまたまネットで見た大昔のNHKのアニメに、

そういうのがあったんでな」

「あらそうなの?何てタイトル?」

「お、おばけのホーリー………」

 

 ハチマンはそう答え、一同はしばらく沈黙した後、爆笑した。

 

「な、何それ、それが理由?」

「だからさっき、おばけって所を強調してたのか!」

「てっきり神聖剣からとったんだと思ってたのに、まさかのまさかだったよ」

 

 そして誰かがネットから画像を拾ってきてモニターに映し出した。

 

「じゃじゃ~ん、これがホーリーだよ!」

「こ、これか………」

「オバケ………なんだよね?これって何のオバケなの?」

「チョコレートみたい」

 

 そのやり取りを聞いたホーリーが、こんな事を言い出した。

 

「なるほど、なら私の髪の色はこの色に合わせようか、それでいいよね、ハチマン君」

「ああもう、お前がいいならいいって、もう好きにしてくれ」

 

 ハチマンは羞恥の表情でそう言い、それがまたみんなの笑いを誘った。

 

「も、もういいだろ、それじゃあみんな、ウルヴズヘブンに移動だ。

一応GGO組にはただの新人って事で紹介するつもりだから、

余計な事は言わないように頼む」

 

 ハチマンは、身内全員にこの事を拡散する必要は無いだろうと思い、

仲間達にそう指示を出した。当然その事で特に異論が出る事も無く、

一同はそのままウルヴズヘブンへと移動を開始した。

それに伴い、ホーリーは髪型を短髪にし、その色をチョコレート色に変更している。

 

「うわ、全然印象が変わるな」

「更にこれを装備してもらえば完璧だ」

 

 そう言ってハチマンが取り出してきたのは、

以前トラフィックスがアスカ・エンパイアに寄港した時に、

ナユタが装備していたあの黒い布のマジックミラー風の目隠しであった。

最初はフルフェイスのヘルメットを常時装備させようと思っていたのだが、

ハチマンがたまたまアルンでそれを見付け、機能面も一緒だった為、

この際だからと使う事にしたのである。これならお洒落で通用するであろうし、

常時フルフェイスよりはまだマシであろう。そしてその道中、遂に今日、

GGOとの合同イベントのラスボス戦が行われるという噂が広まっていた事もあり、

ヴァルハラの一行は凄まじい注目を集めていた。

 

「おい、ヴァルハラだぜ」

「絶対暴君はいないみたいだな」

「きっとリアルが忙しいんだろ、基本ほとんど姿を見ないしな」

「それを差し引いても今日のメンバーはやばいな、ほとんどフルメンバーじゃないかよ」

 

 そんな彼らの目の前を、ヴァルハラのメンバー達が通過していく。

先頭は当然ハチマンである。その周りをアスナ、ユキノ、シノン、フカ次郎、リオン、

ユミー、イロハ、フェイリスがキャッキャウフフ状態で囲んでいた。

ウフフはしていないが、クリシュナもここで女性陣とキャッキャしている。

コマチとレコンは左右に分かれ、おかしなプレイヤーはいないか目を光らせている。

その後方にはホーリーが居り、セラフィム、ユイユイ、アサギが色々質問していた。

ナタクとスクナ、それにリズベットがその後ろに居り、

三人は合成の話題に花を咲かせていた。

そして最後方を進むのはキリトを中心とした旧SAOチームである。

キリト、エギル、クライン、シリカ、アルゴ、

SAO出身ではないが、リーファとサトライザーもここにいた。

今日この場にいないのは、ソレイユ、メビウス、クックロビン、レヴィ、クリスハイトの、

本当にリアルが忙しい組だけである。

それを言ったらアサギもそうなのだろうが、今は丁度仕事の谷間らしく、

ギリ参加が可能な状態であった。この時点で総勢二十六名である。

 

「さて、少し早いが全員集合までここで待機だ」

 

 予定されていた集合時間までまだ十五分ほどあり、

一同はフェンリル・カフェでのんびりと寛ぐ事にした。

時間的に、GGO組や他の友好ナイツも既に多数集合している。

ヴァルハラ・ウルヴズのGGO組は、既に全員揃っていた。

レン、闇風、薄塩たらこ、ゼクシード、ユッコ、ハルカ、シャーリー、ミサキ、

見事に全員集合である。そしてその横にはダインとギンロウ、そしてその仲間が四人。

更にはSHINCの六人の姿もある。

SHINCは今日の為にキッチリとリアルでやるべき事を終わらせてきたらしく、

その顔はやる気に満ちていた。当然スリーピング・ナイツも既に集まっている。

この時点で既に人数は五十三人にまで達していた。

そしてランとユウキがまるで子犬のように、ハチマンにじゃれついてきた。

 

「ワンワン!」

「ク~ン、ク~ン」

「………え、いきなり何」

「「わんこ」」

「いや、かわいいけど意味が分からねえから」

 

 どうやら昨日は興奮してあまり寝れなかったらしく、

二人は夜遅くまでわんこの動画を見ていたらしい。

何故わんこかというと、二人は昔、犬を飼っていたらしく、

元気になったらまた犬を飼おうと昔からよく話していたらしい。

そんな二人を見て、ハチマンはとある事に気付き、スリーピング・ナイツを全員集め、

ホーリーと共に別室へと移動した。

 

「ハチマン、どうしたの?」

「この新人を紹介したいと思ってな」

「あっ、新人さんなんだ!」

「初めまして!」

 

 一同は次々にホーリーに挨拶し、ホーリーも顔を綻ばせながら挨拶をした。

 

「初めまして、今度ヴァルハラ入りしたホーリーです」

「って事になってるが、中の人は茅場晶彦だ、

茅場晶彦が脳をスキャンしてた事は知ってるよな?要するにまあ、オバケみたいなもんだ」

「ハチマン君!?」

 

 突然のそのカミングアウトにホーリーは驚き、

茅場晶彦が死ぬ間際に自分の脳をスキャンした事を、

ニュース等で知っていたスリーピング・ナイツももちろん驚いたが、

ハチマンはどちらの反応も意に介さずに、スリーピング・ナイツに向けてこう言った。

 

「お前達が世話になってるメディキュボイドの開発者だ、よくお礼を言っておくといい」

 

 そのハチマンの言葉にハッとしたスリーピング・ナイツの一同は、

一斉に茅場晶彦に頭を下げた。

 

「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」

 

「ハチマン君、この子達は………?」

「メディキュボイドで終末医療を受けている子達です、

このランとユウキはいい薬が出来た事で完治しました。

残りの五人についても、まだ完治はしていませんが、症状を抑え込む事に成功しています。

いずれうちの製薬部門の手によって、全員完治させるつもりです」

「………………そうか」

 

 ホーリーは納得したような顔をし、一同に手を差し出した。

 

「僕が遺した物が役にたったなら良かったよ」

 

 そのままホーリーは七人全員と握手を交わし、そして七人が部屋を出た後、

ホーリーはぼそりとハチマンに言った。

 

「まさかこの僕が、人に感謝される日が来るとはね」

「感謝された気分はどうですか?」

「ふむ、そうだな」

 

 その問いにホーリーは、微かに笑みを浮かべながらこう答えた。

 

「思ったよりも悪くない気分だね」

 

 後に茅場晶彦について書かれた書物の中に、こんな一文がある。

 

『茅場晶彦は確かに許されざる大量殺人者ではあるが、

同時に彼が作ったメディキュボイドがそれ以上の人命を救った事は、

彼の偉大な業績としてフェアに評価しなくてはならない』と。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。