ハチマンとホーリーがフェンリル・カフェに戻ると、
そこには既に残りの参加者が到着していた。
ザ・スターリーヘヴンズの三人、ロウリィ、テュカ、レレイと、
Narrowのコミケ、ケモナー、トミー、クリン、ブラックキャットの全員である。
ハチマンはコミケ達が、よく全員の休みを合わせられたなと感心した。
「コミケさん、よく休みが合いましたね」
そんなハチマンの耳元でコミケが囁いた。
「いや、というかこれさ、閣下の指示なんだよね。
どうやらイベントに関する情報収集も独自にしてるみたいなんだよ、あの人」
「え、マジですか、まさか本人が来るとか言いだしませんよね?」
「さすがに忙しいから無理じゃないかな、
それにほら、閣下は門の鍵を持ってないから来てもジュラトリアまで行けないしね」
「あ、確かにそうですね、ならまあ安心しても良さそうですね」
それでハチマンは安心し、最後のひと組である、
スモーキング・リーフの六人の所に向かった。
(バトルジャンキー二号のリョウも、
さすがにこの状況で、ちょっと戦う?とは言わないだろうな)
そう思ったハチマンであったが、それはかなり甘かった。
「ねぇ、あの目隠ししてる人、凄く強そうに見えるんだけど、ちょっと戦っていい?」
(さすがというか、あっちに反応したか………)
「悪い、あいつは色々と難しい奴でな、ちょっと遠慮してくれると助かる」
「え~?仕方ないなぁ、それじゃあとりあえず戦おっか」
「………は?何でそうなる」
「だってこの前キリト君が、
『ちょっと戦うのを我慢してくれたらハチマンと戦わせてやるから』って言ってたしぃ?」
「えっ、マジかよ」
(い、一号の野郎、いつの間にそんな約束を………)
その思考から分かる通り、ハチマンの中でのバトルジャンキー一号はキリトである。
ちなみに三号はラキア、四号はロウリィなのだが、当然本人達の前で口に出した事はない。
「まあ待てリョウ、俺とキリトがガチでやり合ったらキリトが勝つ。
つまり俺とやるよりもキリトとやる方がお前にとっては楽しいはずだ、違うか?」
「まあ確かにそうだわねぇ、でも………」
リョウは、ハチマンの目を見ながら続けて言った。
「たまにはゲテモノ料理もいいと思わない?」
「ちゃんとした料理の方が美味いに決まってる」
だがハチマンは、自分をゲテモノ扱いしたリョウの挑発には乗らず、淡々とそう答えた。
「熱くなると思ったのに、かわいくな~い」
「いや、お前にかわいい認定されても困るから。
とりあえず事情は分かった、今日のボス戦の後、
いきなりキリトに襲いかかっていいからそれで手を打て」
「え~?本当に~?」
「ああ、本当だ。大丈夫、ケツは俺が持つから思いっきりやってやれ」
「それじゃあお言葉に甘えるとしよっかなぁ」
こうしてキリトはハチマンによってリョウに売られたが、
元はといえば自業自得なのでこれは仕方がないだろう。
「リクもリンも今日は頼むぞ」
「ハッ、任せとけっての!」
「ああ、分かった」
「リツとリナ………今日はリナコか、
二人は後方でなるべく広い範囲に注意を向けて、他の三人が囲まれないように注意してくれ」
「任せてにゃ」
「はいなのな」
「あとリツ、ちょっとリョクを借りるぞ、
俺の近くでボスの情報を分析するのを手伝ってもらうからな」
「はいにゃ」
「も、もう、仕方ないなぁ」
そう答えつつも、リョクは嬉しそうであった。
これで参加者の全員が揃った。総勢六十七名の大軍団である。
「よし、出陣!」
一同はそのままジュラトリアに飛び、街の北側にある、ボス部屋入り口へと向かった。
そこには三つのランプがあり、北門、西門、東門に対応する入り口が解放されると、
そこが点灯するようになっている。
時刻は夜七時半であり、戦闘開始予定時刻まであと三十分というところだ。
ところが既に、北門に対応しているランプが光っていた。
つまりユージーン達が現地に先行している事になる。
「あいつ………真面目か」
「人は見かけによらないものよね」
「まあ早い分にはいいじゃない」
「まあそうだな、今のうちにユージーンと少し話をしておくか」
ヴァルハラ一行はそのまま転移し、ラスボスの待つフィールドへと移動した。
見ると目の前に、サラマンダー軍の者達がたむろしている。
どうやらどの門から入っても、出口は同じ場所のようだ。
そしてハチマン達に気付いたユージーンがこちらに声をかけてきた。
「ハチマン、遅いではないか」
「お前らが早すぎんだっての、遠足前の小学生かよ!」
いきなりのユージーンの苦情に、ハチマンは即座に反論した。
今は開始予定時刻の三十分前であり、ハチマン達はむしろ早めに到着したと言える。
「しかし凄いメンバーを揃えたものだな」
ユージーンは更に反論するような事はせず、あっさりと話題を切り替えた。
おそらく最初から、ハチマンを責める気など無かったのだろう。
「ああ、まあ攻略の途中から結構増えたからな」
ハチマンの背後にたむろしている猛者達を感心したように見ながらユージーンが言い、
ハチマンはどうという事はないといった感じでそう答えた。
「しかし今回のイベントは色々考えさせられる事が多かったな」
「今までのALOは対人戦がメインだったからな、まあGGOは今でもその傾向が強いが、
今後の事を考えると、強力なモブに対する備えは必要になってくるだろうな」
「ああ、今回は特にそれが身に染みた、
だがそのおかげでうちにも立派なタンクが誕生したんだ、
これからはそう簡単にはやられはせん」
「カゲムネは意欲もあるしセンスも悪くない、立派なタンクになってくれるだろうさ」
ハチマンはそう太鼓判を押し、後ろにいたカゲムネは恐縮したような顔をした。
それを見たユージーンはとても嬉しそうに頷いていた。
「で、この戦い、どう見る?」
「どうだろうなぁ、敵の種類も何匹出るかも分からないが、
まあこっちは千人を超える大軍団だ、うちのタンクも全員いるし何とかなるだろ」
ハチマンにそう言われたユージーンはチラリとカゲムネを見た。
「むぅ、今日はカゲムネはお前に預けた方がいいか?」
「そうだな………敵の数によってはもしかしたら出番は無いかもしれないが、
今日はうちのもう一人のタンクも参戦するから、
その動きを見ているだけでもカゲムネにはいい勉強になるだろうな」
「ほう?隠し玉?」
「ああ、今のうちに紹介しておくか、お~いホーリー!」
ハチマンに呼ばれ、セラフィム達と何か話していたホーリーがこちらにやってきた。
「どうかしたかい?」
「これはサラマンダー軍のトップのユージーンだ、
今後も絡む事が多くなると思うから、今の内に紹介しとくわ。
あとこっちがサラマンダー軍のメインタンクのカゲムネ、
タンクとしての能力は充分だが、圧倒的に経験が不足してるから、
今日は色々お手本を見せてやってくれ」
「なるほど、ホーリーです、今後とも宜しく」
ホーリーはそう言って手を差し出し、カゲムネとユージーンは順にその手を握り返した。
その時ユージーンは驚いたような顔をしたが、ホーリーはにこやかな笑顔を崩さず、
ハチマンも特に何か言う事はなかった。
丁度その時他の門から大量のプレイヤーが押し寄せてきた。
東門と西門から来た者達が一斉に入場してきたらしい。
その中にはルシパーの姿もあり、ハチマンは一応顔を出しておこうと、
ユージーンに断りを入れてホーリーと共にそちらに向かった。
「さっき握手の時、ユージーンが思いっきり手を握ってきてただろ?」
「そうだね、まあでも特に問題はないよ、むしろ元気があっていいじゃないか」
「まあステータス的にはSAOをクリアした時の俺達にはまだ届いてないだろうしなぁ」
「そういう事さ、おや?キリト君とアスナ君もこちらに来たようだね」
そんな二人にキリトとアスナが合流してきた。
どうやらハチマン達がルシパー達の所に向かおうとしているのに気付いたらしい。
ユージーンと違い、七つの大罪は敵性ギルドである為、
一応といった感じで同行する事にしたのだろう。
「ハチマン、必要ないかもしれないけど、俺達も行くぞ」
「ふふっ、SAOの四天王が揃っちゃったね」
「四天王とか言われちゃいたが、この四人だけで動いた事ってあったか?」
「ははっ、確かに記憶にないね」
四人はそんな会話を交わしながらのんびりと歩いているだけだったが、
そんな四人の迫力に押されたのか、他のプレイヤー達が自然と横によけていき、
いつの間にか、ルシパー達へと繋がる道が出来ていた。
それを遠くで見ていたヴァルハラの元SAO組は、ひそひそと囁き合っていた。
「四天王が揃っちまったな」
「本人達は分かってないみたいだけど、凄い迫力よね」
「私、昔一度だけパワーレベリングしてもらいましたけど、
あの四人だけで動いてるのって、相当レアですよね?」
「まあ攻略組だった俺も見た事は無いからな」
道を空けた者達も、ホーリーの姿を見て、あれは誰だと囁き合っており、
ルシパー達もそれで気付いたのか、幹部を全員集合させ、
仁王立ちして四人を待ち構えていたのだった。