ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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大変お待たせしました!


第980話 全軍、攻撃開始だ!

 さて、それではここで、戦闘開始までの詳細な流れを見てみよう。

開始予定時刻が訪れた時、ハチマンは全軍の正面に立った。

ホーリー、セラフィム、ユイユイ、アサギ、カゲムネがその後に続く。

ハチマンの戦闘開始の合図を今か今かと待ち構えていたプレイヤー達は、

だがタンク陣の中に見知らぬ者がいた為、ざわつき始めた。

 

「おい、誰だあれ」

「どこかのギルドのタンクなんじゃないか?」

「いや、でもあの装備はヴァルハラのタンクの装備だろ?」

「あれ、本当だ、って事は新人?」

「マジかよ、ただでさえ厚いタンクの層がまた分厚くなったのか」

「まあでもサブタンクだろ?メインは姫騎士か戦女神のどっちかだろ」

 

 先日の一件以来、ユイユイにも二つ名がついた。それが戦女神ブリュンヒルドである。

ユイユイはその事を恥ずかしがっていたが、広まってしまったものは仕方がない。

周囲では、どちらがメインを張るのかひそひそと囁かれており、

ハチマンがどちらをメインタンクに選ぶか注目されていたが、

そんなプレイヤー達の期待を裏切るかのように、

ハチマンが最初に口に出したのは魔砲使用の告知という名の要請であった。

 

「一番槍は、()()()()七つの大罪の魔砲に任せようと思う。

それが一番安全な魔砲の使い方だからな、任せたぞ、ルシパー」

 

 そう言われた時のルシパーの表情は見物であった。

最初にギョッとした後、すぐに苦々しい顔になり、

最後にややホッとしたような顔になったのである。

その時ルシパーは、魔砲をグランゼに渡された時の事を思い出していた。

 

 

 

「ルシパー、あんたさ、せっかく私が支援してやってるのに、何なのこの体たらくは。

目立つのはヴァルハラばっかだし、素材も全然取ってこれないし、

もっと存在感を示してくれないとこっちも困るんだけど?」

 

 そのグランゼの乱暴な言葉にルシパーは不愉快さを感じたが、

タンク育成の為にグランゼから支援してもらう必要がある為、怒りを飲み込んだ。

 

「タ、タンクを育てられればまだ盛り返せる、その為の装備を作ってもらいたい」

「は?あんた、自分が何か要求出来る立場だとでも思ってるの?」

「こ、今後の為にも必要なものだ、そこを何とかよろしく頼む」

 

 そう言ってルシパーは、何と頭を下げた。

そんなルシパーの姿を見るのは初めてだった為、グランゼは驚きのあまり目を見開いた。

 

「ふ、ふ~ん、どういう事か説明してもらってもいいかしら」

「ああ」

 

 ルシパーはこのイベントを通して痛感したタンクの重要性について、

拙い言葉ながらもグランゼに語り、

七つの大罪のタンクが強力なモブには通用しない事を伝え、

それでグランゼもやっと事情を理解した。

 

「なるほど、強力なモブが出てくると、今のままではどうあがいても太刀打ち出来ないのね。

そしてそれがヴァルハラが強い理由の一端だと」

「ああ、他のギルドの奴らもその事を実感したはずだ、

強力なタンクさえ育成出来れば、自力に勝るうちはまだまだ伸びる」

「………分かったわ、タンク装備を中心に支援してあげる」

 

 そのグランゼの言葉にルシパーはホッとしたが、

グランゼの言葉はそれで終わりではなかった。

 

「ただし」

「ぬっ」

「次のボス戦で、何か目に見える成果を私に見せてみなさい」

「成果、か」

「もちろんその為の装備は提供するわよ、そうね、魔砲なんてどうかしら」

「魔………砲?」

「魔砲銃の大砲版だと思えばいいわ、

超強力だけど、命中率が悪くて正直持て余してたのよ、

これを上手く運用出来たら合格にしてあげるわ」

「………分かった、やってみよう」

 

 これが七つの大罪が魔砲を持ち込んだ真相であった。

結局今日までどうやって運用すればいいのか全く思いつかなかったが、

ハチマンの言葉で逆にヒントをもらう事が出来た為、

ルシパーはホッとした表情を見せたのである。

 

 

 

「フン、おいお前達、さっさと準備を始めろ」

 

 七つの大罪のメンバー達は、その言葉によって弾かれたように動き始めた。

魔砲の魔力充填方法は、本体の宝石のような装飾部分に誰かが触れ続けるだけであったが、

今回は魔力は既に充填済みだった為、今やる必要があるのは、

ボスが現れるであろうフィールドの中央奥に大雑把に照準を合わせ、

射手が配置に着くだけであった。その射手は、まさかのアスモゼウスである。

何故アスモゼウスが選ばれたかというと、単に遠隔攻撃慣れしているからという理由である。

 

「ん、アスモが射撃担当か、ならメッセージの一つでも送っておくか」

 

 ハチマンはそう呟き、アスモゼウスに短いメッセージを送った。

その内容は、『戦闘終盤でやらかしたらどうなるかは分かってるな』という物であり、

それを見た瞬間、アスモゼウスは震え上がった。

 

『もちろん最初しか撃つ気はないわよ、ルシパーもそのつもりだから大丈夫』

 

 アスモゼウスは慌ててそう返信し、顔色を伺うようにチラチラとハチマンの方を見た。

ハチマンはアスモゼウスに見せるように肩を竦めると、味方のタンク陣に声をかけた。

 

「よし、行くぞ」

 

 その姿を讃えるかのように、プレイヤー達から地鳴りのような歓声が上がる。

そしてタンクチームがゆっくりと前に歩き出したが、

その先頭にいたのがホーリーだった為、その歓声はどよめきに変わった。

 

「まさかあいつがメインタンクなのか?」

「もしかして凄い奴だったり………?」

「いやいや、もしそうならとっくに噂になってるだろ」

「顔を隠してるから何ともだが、それっぽいプレイヤーに心当たりが無え………」

「ザ・ルーラーは何を考えてるんだ?」

 

 そんな疑問の声にハチマンは反応せず、

タンクチームもそのままゆっくりと前に進んでいく。

そしてフィールド中央の少し手前まで到達した時に、

前方に闇のようなエフェクトが現れ、ラスボスがゆっくりとその姿を現した。

 

「お、おい、あれ………」

「西洋竜だな」

「ドラゴンか!」

「確かに恐竜の親玉って言ったらドラゴンだよな!」

 

 実際はまったく違うのだろうが、プレイヤーにとってそんな事は関係ない。

巨大なトカゲだという事に変わりはないからだ。

そんな中、アスモゼウスが許可を求めるようにハチマンの方に視線を送ってきた為、

ハチマンはそちらに向けて頷いた。

 

「外してもいいからまあ、気楽にいけよ」

 

 ハチマンにしてみれば、アスモゼウスの肩の力を抜いてあげるつもりでそう言ったのだが、

臆病なアスモゼウスはその言葉を絶対に外すなという意味だと受け取った。

 

「う、うぅ………胃が痛い………」

 

 アスモゼウスはかなりのプレッシャーを感じながらも、

とにかく敵の腹部の中心に狙いをつけ、トリガーを引いた。

 

「当たれぇ!」

 

 だが無情にも魔砲から放たれたレーザーは、かなり上へと向かって放たれた。

 

「ぎゃっ!」

 

 それを見たアスモゼウスは、現役女子高生とは思えない悲鳴を上げたが、

その時奇跡が起こった、敵が空中へと飛び上がったのだ。

そのおかげで、ズガン!という音と共に、敵にまともにレーザーが命中した。

 

「おおっ」

「やるなあいつ」

「今ので一パーセントくらいは削れたか?」

「思ったより威力があるな」

 

 遠くからそんな賞賛の声が聞こえたが、攻撃を放った当のアスモゼウスは、

当然今のが偶然だという事を理解していた。

 

(ラ、ラッキー!これでハチマンさんにお仕置きされずに済む!)

 

 アスモゼウスはホッとしたが、それと同時に空中に文字が現れた。『黄龍』と。

 

「ははっ、なんだこの演出」

「アメリカ~ン、ってか?」

「まあでも斬新でいいかもな」 

 

 黄龍は空中で身をよじり、そのままアスモゼウス目掛けて突撃を開始したが、

そんな黄龍目掛けてホーリーが走っていく。

 

「ハイレオン、展開!」

 

 その言葉と共に、ホーリーの手に剣と盾が現れる。

 

「シールドスロー!」

 

 直後に放ったそのスキルは見事に敵に命中し、敵がホーリーの方に向きを変えた。

 

「これは中々良い装備だね、それにしてもこんな緊張感は久しぶりだ、来たまえ!」

 

 その突撃を、ホーリーはアイゼンも使わずに見事に受け止め、

周囲から賞賛の声が巻き起こった。

 

「おお!」

「凄いなあの新人!」

「一体何者だ?」

 

 それを後ろで見ていたセラフィムやユイユイも感嘆していた。

 

「凄い、あれをあっさり止めるなんて………」

「あたしももっと修行しなきゃ!」

 

 カゲムネとアサギは何も言う事なく、その姿に見入っている。

 

「む?」

 

 だがその直後に敵が三つの光に分裂して突進してきた為、

ホーリーは戸惑ったような声を上げた。

だがそれも一瞬だった。ホーリーは微妙に体の向きを調整する事で、

その三連撃をも完璧に防ぎきり、その場から一歩も引かなかった。

 

「腕は落ちちゃいねえな、さすがだよなぁ………」

 

 ハチマンはそう感心しつつ、即座に指示を出した。

 

「マックス、右!ユイユイ、左!アサギはマックスの、

カゲムネはユイユイのフォローに入れ!」

「「「「了解!」」」」

 

 その指示を受け、セラフィムとユイユイは左右の敵にシールドスローを放つ。

それによって光は三方に分かれ、光量が下がるのと同時に敵が徐々にその姿を現していった。

 

「どうやらこの敵は、天竜というようだね、ちなみに黄龍とは竜の漢字が違うようだ」

「こちらは地竜です、ハチマン様!」

「こっちは人竜だよ!」

「ジョジョの奴、龍と竜の違いを理解して使い分けてる訳じゃなさそうだな………」

 

 ハチマンがそう呟くのと同時に、その三頭の竜はまたたく間にその姿を変えた。

天竜は巨大な翼をはためかせ、天空へと舞い上がる。

地竜は外殻からトゲを生やし、まるで要塞のように大地にずしりと根を下ろす。

人竜は二足で立ち上がり、両の翼を巨大な剣に変え、構えをとる。

 

「なるほどそうくるか、ははっ、面白い」

 

 ハチマンは楽しそうにそう言うと、各プレイヤーに向けてこう叫んだ。

 

「遠隔物理攻撃は天竜へ、魔法攻撃は地竜へ、近接攻撃は人竜へ!」

 

 そこで一拍置き、プレイヤー達にその言葉を理解させた後、

ハチマンは再び大音声を放った。

 

「全軍、攻撃開始だ!」

 

 その言葉にフィールドに居た全プレイヤーが応える。

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」

 

 そんな大地を揺るがすような凄まじい咆哮と共に、

プレイヤー達は、それぞれのターゲットに向けて攻撃を開始した。

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