ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第983話 おいジョジョ………

 敵の黒い霧攻撃が収まった後は、もうプレイヤー達の独壇場であった。

それぞれがパフォーマンスを遺憾なく発揮し、敵のHPがガンガン削れていく。

HPが二割減少するごとの特殊攻撃は一種類しか設定されていなかったらしく、

残り四割、更には二割になっても通常の挙動以外何も起こらなかった。

もっとも光の槍は発生していたので、それによってかなりのダメージを負ったり、

場合によっては死亡するプレイヤーもいたが、それによって戦線が崩壊する事もなく、

残るリスクはHPが残り一割になった時の発狂モードくらいとなっていた。

そしてその時が、まもなく訪れようとしている。

 

「もうすぐ敵が発狂モードに入る、敵がおかしな動きをしたら全員攻撃やめ!

何が来ても対応出来るようにナイツ単位で固まってくれ!」

 

 ハチマンからそう指示が飛び、プレイヤー達はその時に備え始めた。

離れていたGGO組とALO組も、ゆっくりとではあるが合流していく。

そして敵のHPが遂に残り一割になった時、いきなり屍黄龍の体が崩れ始めた。

 

「うおっ」

「撤退、撤退だ!」

 

 このままでは敵の腐った肉片に飲まれてしまう為、

近接アタッカー達は慌ててその場から逃れた。

何人かは巻きこまれて死亡してしまったが、それは仕方がないだろう。

そして敵がいた場所を中心に肉片の海が出来、中心には骨だけが残された。

その骨もすぐに崩れ、バラバラになって地に落ちた。

 

「まさかこれで終わりじゃないよな?」

「当たり前だろ、骨になってもHPが一割残ってるじゃないかよ」

「となると、これからどうなるんだ?」

「ここまでの感じだと多分………」

 

 そんな会話を交わしながら、プレイヤー達は思わず空を見上げた。

先ほどまでの例だと、必ず何かしらの演出があるはずだ。

ハチマンもその例に漏れず、上空をじっと観察していた。

 

「さて、ジョジョの奴、今度は何をしてくるんだか」

「ハチマン、カゲムネさんにはサラマンダー軍に一旦戻ってもらったよ、

うちも再編が完了、ホーリーさんを先頭に、四人のタンクを四方に配置して、

何があっても対応出来るようにしておいたから」

「サンキュー、リオン」

 

 リオンがハチマンにそう報告し、そしてアスナとレンがこちらにやってきた。

本隊の指揮はキリトとユキノ、それにサトライザーがいれば十分だと思ったのだろう。

GGO組もシノンがいれば何の問題もなく動かせるはずだ。

 

「ハチマン君!」

「ハチマン!」

「おう、二人とも、お疲れ」

 

 ハチマンがアスナとレンにそう声をかけた時、いきなり変化が訪れた。

いきなり空が光ったかと思うと、屍黄龍の残した骨に、

極太のレーザーのような物が着弾したのだ。

 

「うおっ」

「きゃっ」

「あ、危ない、骨が!」

 

 同時に上空にこんな文字が表示された。『闘魂注入』と。

それを見てハチマンだけでなく他の者達も若干腰砕けになった。

 

「おいジョジョ………」

 

 その闘魂注入によって、屍黄龍の全身骨格は、パーツに分かれて四方へと飛び散った。

同時に腐った肉片の海が、まるで浄化でもされたかのように美しい泉へとその姿を変える。

ハチマンとアスナは三人を守る為にこちらに飛んでくる骨片を叩き落とし、

本隊もタンク陣が飛来する骨片を完璧に防いだが、

一般プレイヤーの中には直撃をくらってしまった者もおり、

場は若干混乱する事になってしまった。

 

「くそっ、急いで蘇生だ!」

「ヒーラー以外は敵から目を離すなよ!」

「おい、あれ!」

「まだ頭蓋骨だけ残ってる、多分また何か来るぞ!」

 

 その言葉通り、泉の中央にはポツリと屍黄龍の頭蓋骨が残されていた。

当然プレイヤー達の注目はそちらに集まる事になる。

更にそのタイミングでいきなり曲が流れ始めた。

 

「これは………」

「ベートーベンの、『月光』?」

「おいジョジョ………」

 

 そして荘厳な雰囲気の下、屍黄龍の頭蓋骨が上空へとゆっくり上っていき、

地上から二十メートルくらいの所で静止した。

プレイヤー達は一体何が起こるのかと固唾を飲んで見守っており、

ハチマンもそちらに注目していたが、

さすがというか、視界の隅で何かが動いたと思った瞬間、ハチマンは大声でこう叫んだ。

 

「敵襲!」

 

 その言葉でその場にいた全員は、慌てて周囲に視線を走らせた。

見るとそこには今まさに受肉して立ち上がろうとしている人型の龍の姿があった。

どうやら飛び散った骨片から生成されたらしい。

 

「ぎゃっ!」

「うわ、マジかよ!」

「これ、何体いるんだ?」

「骨の数だけいるんじゃないか?」

「落ち着け、落ち着いて対処しろ!」

 

 いくらハチマンが神反応で叫んだとはいえ、

全てのプレイヤーが対応出来たはずもなく、今の奇襲でまたかなりの犠牲が出ていた。

敵の数はおよそ三百といったところだろうか。

敵が複数で、かつ散らばっている為、プレイヤー達はナイツ単位で敵に対抗し始めた。

敵の大きさは多種多様に渡っており、おそらく骨の大きさを基準にしているのだろうが、

大型の敵は大手のナイツが引き受け、小規模ナイツは小型の敵へと向かっていった。

ハチマン達の近くにも、先ほど叩き落とした骨片が二つあり、

それぞれ受肉した為、ハチマンとアスナが一体ずつ相手をしていた。

 

「これならタンクがいなくてもどうとでもなるな」

「でもハチマン君、この敵、思ったより攻撃力があるかも」

 

 そのアスナの指摘で周囲を見ると、

確かに多くのナイツが若干犠牲を出しているように見えた。

 

「これでもボスのはしくれって事か、確かに中々強いな」

『お褒めに預かり恐悦至極』

 

 その時突然どこかで聞いた事があるような男性の声が聞こえてきた。

 

「いや、褒めてねえから」

 

 ハチマンは思わずそう突っ込んだ後、今自分は何に突っ込んだんだろうかと疑問を抱いた。

だが周囲にはハチマンの他に男性プレイヤーはいない。

 

「何だ?」

『さて、何でしょうな』

 

 その声が明らかに目の前の敵から聞こえてきた為、

ハチマンはぽかんとしながらも敵から距離をとった。

 

「お、お前、もしかして喋れるのか?」

『そのようですな』

 

 同様に戦場のあちこちから声が上がる。こいつ、喋るぞ!と。

同時にあちこちから、他の声も上がっていた。

 

「S田?」

「S田じゃね?」

「S田かよ!」

 

 それでハチマンも、声に聞き覚えがあった理由に気が付いた。

 

(あ、これ、S田の声だ、ジョジョの奴、わざわざ声をあてたのか………)

 

 どうやらジョジョは、この為だけにわざわざ声優を雇ったらしい。

 

「よくやるよ、まったく………」

 

 ハチマンは苦笑しながらもカウンターを決め、そのまま一気に敵を破壊した。

その瞬間に骨片が飛びあがり、中央の泉へと飛んでいく。

 

「ほう?」

 

(また合体でもするんだろうな)

 

 そう思いつつアスナの方に目を向けたハチマンは、

アスナの腰が若干引きぎみなのを見て少し驚いた。

 

「あれ、アスナ、そいつ、そんなに強いか?」

「ううん、そうじゃなくて………」

 

 その時アスナの前にいた骨竜が喋り出した。

 

『ぐへへへへ、お姉ちゃん、あちきと遊ばなぁい?』

「うわ………」

 

 微妙におネエっぽい喋り方で、しかもS田の声で言われた為、

ハチマンもアスナ同様若干引き気味になった。骨竜はご丁寧に小指まで立てている。

同じような現象があちこちで起こっていたらしく、遠くからこんな声も聞こえてくる。

 

「無い、無いわぁ」

「S田、仕事選べよ!」

「いや、面白いんだけど、面白いんだけど!」

 

(やっぱりジョジョって面白い奴だよなぁ………)

 

 ハチマンはそう思いつつ、気を取り直して骨竜に攻撃を加え、一気に敵を葬った。

 

「アスナ、大丈夫か?」

「う、うん、ちょっと気持ち悪かっただけだから………」

 

 そしてその骨もまた、中央へと飛び去っていった。

 

「まったく演出が過剰すぎだな」

「う、うん、びっくりしたね………」

「ネタに走りすぎね、よくこれでオーケーが出たものだわ」

「というか、S田って誰?」

「後で自分で調べてみろ、多分S田さんの中じゃ日本一有名なS田さんだ」

「わ、分かった」

 

 その頃には敵の掃討もかなり進んでおり、危険そうな敵ももう残っていなかった。

そして五分後、全ての敵が倒されると、『月光』が止み、続けて流れ出したのは、

同じくベートーベンの『第九』であった。

今度も文字は出ず、代わりにまたどこかで聞き覚えのある声が、辺り一帯に響き渡った。

 

『よくぞ我の所までたどり着いた、どうだ?世界の半分をやるから私に仕えないか?』

 

「「「「「「「「「「テラK安wwwwwwwww」」」」」」」」」」

 

 プレイヤー達は全員ではないが、一斉にそう叫び、

まったく緊張感が得られないまま、こうして最後の敵が、一同の前に姿を現す事となった。




個人名の部分を一応伏字に修正しておきました!
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