ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第984話 想定外のクリア

「さて、何が出てくるかな、喋ったって事は人型だと思うが………」

 

 ハチマンの目の前で骨片が積みあがっていく。

足元から始まったそれは、受肉しつつ上へと積み上がっていき、

和風の甲冑に覆われた屈強な人体………というか、トカゲ体が姿を現した。

 

『世界の半分では不満だと言うのか、ならば死ね!』

 

 その言葉と共に、頭蓋骨が徐々に降下し、その体と合体する。

 

『我は偉大なる死の支配者なり!』

 

 そして空中に恒例の文字が現れた。

 

『最終決戦兵器、真・黄・龍』

 

 ここでハチマンが堪えきれずに腹を抱えて笑い出した。

どうやら最終決戦兵器の部分がツボに入ったらしい。

 

「ハチマン君、ハチマン君!」

 

 アスナが慌ててハチマンの背中をぽんぽんと叩き、

ハチマンはむせながら立ち上がると、深呼吸をして真面目な表情を作り、

明るい声で攻撃指示を出した。

 

「これで最後だ、盛り上がっていこう!総員攻撃開始!」

 

 おおおおおおおおおおおおおおおお!

 

 と凄まじい歓声と共に、プレイヤー達が敵に向かって突進していく。

だが削る必要があるのは敵のHPのたった一割にも関わらず、

その一割が中々減っていかない。とにかく防御力が高すぎるのだ。

敵が装備している和風の甲冑は、その見た目とは違って実に硬い、とにかく硬い。

その上魔法耐性もあるようで、攻撃は確実に通っているのだが、

与えられるダメージがとにかく少ないのである。

 

「ふう、ぬるいが手強いな」

「攻撃は大した事ないのにね」

「激しくはあるけどな」

「そう言われると確かにそうかも、ホーリーさんの腕のせいでそう見えるのかな?」

「多分そうだな、顔色一つ変えずに防いでるが、あれはかなりの高等技術だぞ」

 

 ホーリーは涼しい顔で敵の攻撃を防いでいる為、とても苦労しているようには見えない。

だが同じタンクのセラフィム、ユイユイ、アサギは分かっていた。

自分達があれをやるのは不可能だと。三人が同じ事をやろうとすると、

おそらく若干ずつではあるが、敵に後退させられる事になるだろう。

アイゼンを使えばそれは防げるが、その分左右の動きが阻害されてしまい、

何発かは攻撃をくらってしまうかもしれない。

それくらい、ホーリーの細かな動きによる敵の攻撃の受け流しっぷりは神がかっていた。

 

「あれが高み………」

「あたし達ももっと頑張らないとね!」

「ホーリーさんに、色々教えてもらわないとですね」

 

 三人はそんな事を話しながら、

何かあってもすぐ動けるように、周囲を警戒しようと散っていった。

この戦闘での自分達の出番はもう無いだろうと悟ったからである。

実際敵のHPは残り数ドットまで減っており、

今一番興味が持たれているのは、誰がラストアタックを取るかである。

実際これだけ細かい削りとなると、

例えばユウキがここぞとばかりにマザーズ・ロザリオを放っても、

それで削りきれるという保証は全く無いのだ。

なので誰にでも、ラストアタックが取れる可能性がある。

その為プレイヤー達は攻撃に熱中し、ヒーラー達も得意とは言えない攻撃魔法を放っている。

アスモゼウスも上向きのままの魔砲を放り出して、無矢の弓で攻撃しているくらいである。

真面目なヒルダは一応ピンチに備えて攻撃はしていなかったが、

ここは攻撃に加わっても許される場面である。

全く動いていないのはハチマンとクリシュナくらいのもので、

リオンすら、ロジカルウィッチスピアで攻撃を行っていた。

 

「順調だな」

「このままいけそうよね」

「まあここまでくれば事故は起こらないだろうな、

例え何かしてきても、全員が即死でもさせられない限りは安泰だ」

「もしそうなったらどうする?」

「さすがにそれはないと、ジョジョを殴りにいくさ」

「あは、そうするしかないわよね」

 

 だが当然そんな事は起こらず、敵のHPは今にも削りきられようとしていた。

その時ハチマンは、視界の一部で何かが動いている事に気が付き、何気なくそちらを見た。

 

「ん?」

「どうしたの?」

「いや、今何か動いたような………」

 

 その言葉を受け、クリシュナがそちらを向いたが当然誰もいない。

ただぽつんと魔砲が残されているだけであった。

 

「気のせいじゃない?」

「いや、確かに………ちょっと待て、あの魔砲、向きが変わってないか?」

「魔砲の向き?」

「ああ、さっき上空に向けて撃ったんだ、上を向いていないとおかしくないか?」

「そう言われると、確かに敵の方を向いてるわよね。

でもアスモさんが向きを変えたんじゃない?」

「いや、さっきチラっと見た時は、上を向いていたはずだ」

「それって………」

「むぅ………」

 

 その時信じられない事が起こった、いきなり魔砲の先端に魔力が集まり始めたのだ。

その射線上にはアスモゼウスがおり、

もし今魔砲が発射されたらアスモゼウスは消し飛ぶだろう。

だが誰も操作している者はいない、いないのだ。

 

「なっ………」

「ちいっ」

 

 ハチマンは舌打ちすると、そちらに向かって全力で駆け出した。

クリシュナは咄嗟に移動速度が上がる魔法を唱えたが、

十分な詠唱を行えなかった為、その上昇率はかなり低くなってしまった。

だがその魔法の有無が、アスモゼウスの生死を分ける事となった。

 

「おい、アスモ、後ろだ!」

「へっ?あ、あれ?」

 

 アスモゼウスは魔砲の方に振り返ってぽかんとした。

さすがのアスモゼウスにも想定外すぎる為、咄嗟に回避行動が取れない。

ハチマンは魔砲に近付くに連れ、そこから何か違和感を感じていたが、

今はアスモゼウスを助ける事だけを考えないといけない為、

その違和感の正体を探るのは後回しにし、ただひたすらに走る事だけに集中した。

 

「う、うわああああ!」

「アスモ、そのまま動くな!ギリギリ間に合うはずだ!」

 

 その甲斐あってか魔砲から攻撃が発射された瞬間に、

ハチマンはアスモゼウスに飛びかかり、押し倒す事に成功したのだった。

だが魔砲はその命中率の悪さから、ボスにかするように発射された為、

やや斜めに流れており、タイミングが本当にギリギリだった為、

その攻撃はハチマンの足に直撃し、膝から先を消し飛ばす事となった。

 

「ぐっ」

「ハ、ハチマンさん!」

「危なかったな、アスモ」

「そ、それよりもダメージが!」

  

 さすが部位破壊クラスの攻撃だけあって、足に当たっただけでもダメージは甚大であった。

その攻撃によって、ハチマンのHPの四割が持っていかれたのだ。

ヒルダは慌ててハチマンの回復に入ったが、その時ボスの方から悲鳴が聞こえてきた。

 

「ホ、ホーリーさん!」

 

 これがそれまで完璧な立ち回りを見せていたホーリーが、

初めて痛撃をくらった瞬間であった。

魔砲の攻撃はボスからやや逸れてはいたが、

それは丁度ボスにかすり、ホーリーに直撃する軌道で発射されており、

さすがのホーリーもボスの攻撃を防いだ直後だった為、咄嗟に動く事が出来ず、

真横からの魔砲の攻撃をくらう事になってしまったのであった。

足に当たっただけでハチマンのHPが四割削れる程の攻撃だ、

さすがのホーリーもこれには耐え切れず、そのHPは一発で消し飛ばされた。

そして射線上にいた多くのプレイヤーもまた犠牲になった。

その中で有力どころは、ルシパー、サッタン、フカ次郎である。

幸か不幸か、ボスである真黄龍のHPもそれで全損した。

おかげでそこで戦闘は終わり、宙に文字が表示された。

『CONGRATULATION』と。

 

「何だよそれ………」

「誰だ、誰が撃ったんだ!?」

 

 だがその事を喜ぶプレイヤーは誰もいなかった。後味が悪すぎる勝利だったからである。

こうなると当然犯人探しが始まる事になる。

だがこれだけの人数がおり、魔砲の方をたまたま見ていた者も多かったにも関わらず、

その全てが進んでこう証言した。

 

『魔砲が発射された時、その近くには誰もいなかった』と。

 

「なぁナタク、あれにはタイマー発射とかの機能はついてるのか?」

「いえ、ありえません、発射する為には必ずプレイヤーがそこにいないと………」

「って事は暴発か?」

「リアルならともかく、ゲームの中でそれはありえませんよ」

「そうか………」

 

 まだざわつく戦場であったが、そこにハチマンの声が響き渡った。

 

「みんな、不幸な事故はあったが敵は倒れた。

さっき確認したが、全員にボス攻略の報酬が入っているはずだ、

いずれ原因は究明するとして、今はこの勝利を喜ぼう」

 

 他ならぬ攻撃をその身に受けたハチマンがそう言った為、

プレイヤー達は微妙な気分ながらも、口々に祝いの言葉を発し始めた。

そしてホーリーとフカ次郎の蘇生も完了し、

フカ次郎は泣きながらハチマンに近付いてきた。

 

「リ、リーダー、私、私………」

「災難だったなフカ」

 

 ハチマンは珍しく、そんなフカ次郎の頭を撫でた。

フカ次郎は思いっきり泣いていたが、それによってすぐに笑顔になった。実に現金である。

 

「おいハチマン、本当に誰もいなかったのか?」

「アスモを助けに走る時、確かに何か違和感を感じた、

もしかしたら、姿を消した誰かがいた可能性は否定出来ん」

 

 キリトにそう尋ねられ、ハチマンは考え込みながらそう言った。

 

「ならきっといたって事だよね」

「ああ、ハチマンの察知能力はありえないレベルだからな」

「そうなると、怪しいのは七つの大罪って事になるんだが………」

 

 そこで一同は困惑したような表情をした。

魔砲の一撃で、ルシパーとサッタンも死亡していたからだ。

 

「ナンバーワンとナンバーツーの首を取られてるんだ、

さすがにそれは無さそうだよな………」

 

 七つの大罪の幹部連、特に倒された二人は本気で激高しているように見え、

それはとても演技には見えなかったのだ。

 

「結局ラストアタックもどうなったか不明か………」

「多分魔砲を撃った奴に入ったんだろうな」

「まあこの借りはいつか返してやる、絶対に、絶対にだ」

 

 ハチマンは、倒されたホーリーとフカ次郎の方を見ながらそう言い、

ホーリーは肩を竦め、フカ次郎は嬉しそうな顔をした。

 

 

 

「ルシパー、お互い災難だったな」

 

 帰り際、ハチマンはルシパーにそう声をかけた。

 

「あ、ああ、そうだな、アスモゼウスの事、助かった」

「気にすんなって、こういう時はお互い様さ」

 

 この頃にはルシパーの怒りも収まっており、

ハチマンはそのまま仲間達と共に去っていったが、

ルシパーはその背中を何ともいえない表情で見送っていた。

この時本人は気付かなかったが、ルシパーの脳裏に一つ、刻み込まれた事柄がある。

それは、例えヴァルハラのメンバーでも、魔砲による一撃ならば倒せるという事であった。

その刷り込みのせいで、今後どうなるかはこの時点では誰にも分からなかったが、

とにもかくにもこうして初めてのトラフィックスの本格的なイベントは、

もやもやする終わり方ではあったが、無事に閉幕する事となったのである。

ちなみにさすがのリョウも、

この雰囲気の中でキリトに攻撃を仕掛けるのは躊躇われたようだ。

もっともジュラトリアに戻った瞬間に仕掛けた為、

キリトは慌ててリョウにその理由を問い、ハチマンが許可を出したと知って抗議するも、

元はといえば自身の発言が発端だった事が発覚し、リョウ相手に勝ちはしたものの、

結局終わった後に仲間達に散々いじられる事となり、

そのおかげで仲間の雰囲気が若干明るくなったのであった。

これでヴァルハラ・ウルヴズの活動は一時終了となった。

残るはALOの年末の大型バージョンアップを残すのみである。

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