ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第986話 ジョジョのボケと突っ込み

「きたきたきた、三身合体!ハチマンも喜んでくれているようで何より」

 

 ハチマンが大笑いしているのを見て、ジョジョは満足げにうんうんと頷いた。

 

「でもここからが地獄なんだよね、さてハチマン、いきなりいくよ!」

 

 ジョジョがそう叫んだ瞬間に、屍黄竜から真っ黒な煙が噴き出し、

プレイヤー全員のHPが残り一割まで減少した。

 

「くっくっく、そしてここからど~ん!」

 

 ジョジョの今の気分は完全に悪の組織の幹部のようだ。

だがハチマンの対応はジョジョの想像以上に素早かった。

 

『総員上空に警戒せよ!』

 

「えっ、気付くの早くない!?」

 

 ジョジョは驚いて画面に目をやった。

 

「くっ、まあハチマン達は対応してくるよね、でも死者はこれは………、

全体の八割くらいか、ちょっと少ないけどまあいいや、

やっぱり即座に対応出来るレベルのプレイヤーはこんなものかな」

 

 この時点での死者は全体の八割、これはジョジョの想定よりも若干少ない数字であった。

だがもちろんプレイヤーを全滅させるつもりはない。

事前にしっかり調査して、一定以上、HPが高い者は死なないように調整してあるのだ。

 

「くっくっく、この攻撃があと四回ある、どれだけ耐えられるかな?」

 

 画面の中ではどんどん蘇生活動が行われていたが、

当然それが終わる前に、二度目の攻撃がきた。

 

「戦場にカオスを出現させるのが開発の役割なのだ、ははははははは!」

 

 このジョジョ、やはりノリノリである。

だがそのせいで、ジョジョはハチマンとクリシュナの会話を聞き逃した。

 

「そして降り注ぐ死の槍!さあハチマン、どうする?」

 

 ジョジョが見守る中、画面の中のハチマンがどこかに走っていく。

その途中でいきなりハチマンが魔砲をぶっぱなし、

首尾良く多くの槍を破壊したのを見て、ジョジョは思わず絶叫した。

 

「おい、それはずるいだろう!」

 

 ジョジョはそう感じたようだが、別にずるくはない。

 

「くぅ、今ので死者がかなり減ったな、まあいい、コンボは後三回………」

 

 そう言いかけたジョジョは、ハチマン達の動きを見て不安を覚えた。

 

「ん、あれ、ハチマンは何をしてるんだ?まさか気付いてないよね?

HPが残り四割のコンボの時に、突起が光るからそれで気付かせる予定だったんだけど」

 

 そのジョジョの不安は、すぐに的中する事になった。

 

『ちょっとあいつの背中を見てみてくれ、

一定間隔で突起というか、パイプみたいなのが並んでるだろ?』

 

「ぐぬぬぬぬ」

 

『話が早くて助かるわ、あそこからさっきの煙が出ている可能性が高いっぽくてな、

あれを全部壊せばもしかしたらさっきの攻撃を防げるかもしれない』

 

「くそおおおおおお、やっぱり気付いてるじゃないかよおおおおお!」

 

 ジョジョは信じられないという表情で絶叫したが、直後に気を取り直した。

 

「いや、でもあんなに激しく動いてるんだ、全部破壊なんてそう簡単には………」

 

 だがそのジョジョの希望は無残に砕かれた。

 

『そうだ、せっかくだしユキノとイロハに足止めもしてもらうか、

ボス相手だから長時間はもたないかもしれないが、

まあちょっとくらいは動きを止められるだろ』

 

「やめてえええええええええええ!」

 

 ジョジョはそう絶叫したが、直後に再び冷静さを取り戻した。実にアップダウンが激しい。

 

「いやいや、よく考えたらボスの足元を凍らせて動きを止めようなんて、

そんな威力の魔法をそう簡単に使えるはずが………え、いや、出来ないよね?」

 

 ジョジョは緊張しながらどうなるのか事の推移を観察していたが、

ユキノが前に出てきた時点でその背筋には冷たい汗が流れていた。

そして二人の詠唱の後、屍黄龍の足元に凄まじい量の氷が出現する。

 

「またあの子かあああああああ!」

 

 そしてジョジョは、イロハにも注目した。

 

「こっちの子もか、ハチマンの仲間は粒が揃いすぎでしょ………、

だがまだ全部破壊された訳じゃない!」

 

 ジョジョは遠距離攻撃では破壊しにくい位置にある突起に希望を託したが、

そこでまさかのハチマンの突撃である。

 

「いやいや、嘘でしょ?え、本当に?

何でハチマンは、あの足元のおぼつかない屍黄龍の背中を上れるの?」

 

 そう呆然と呟くジョジョの目の前で、ハチマンが軽々と屍黄龍の背中を上っていく。

屍黄龍の体は腐った肉に覆われており、通常は上ったりは出来ないはずなのだが、

どうやらハチマンは、背中の中心の背骨にあたる部分を見極め、

そのとても狭い範囲を足場にして上っているらしく、

見事に残る最後の一つの突起へと到達した。

 

「れ、連邦の白いのは化け物か!」

 

 もちろんハチマンは連邦の兵士ではないが、おそらく化け物ではある。

 

「でもあの突起、意外と硬いんだよね、頼むハチマン、僕の満足感の為にしくじってくれ!」

 

 だがその望みは叶わない。ハチマンはすれ違いざまに、

短剣の一振りであっさりとその突起を切断した。

 

「一撃………だと………!?え?え?ってか何その武器、切れ味がおかしい」

 

 そしてハチマンは、そのまま手に持つ武器で、

屍黄龍の体を切り裂きながら頭の方へと走っていく。

 

「ま、まさかのお土産付き!?」

 

 その攻撃で特に屍黄龍の動きに影響がある訳ではないが、

もちろんキッチリとダメージは入る。

ハチマンはそのまま頭から飛び降り、見事にホーリーの背後へと着地した。

 

『ははっ、派手な登場だね』

『別にやりたくてやったんじゃないけどな』

 

「だったらやらないでよ………」

 

 ジョジョ、完全にめそめそモードである。

 

「ああ、もう無理だ、こうなっちゃうと、発狂モードまでは何も出来ない………」

 

 その言葉通り、屍黄龍はされるがままにそのHPを減らしていく。

 

『もうすぐ敵が発狂モードに入る、敵がおかしな動きをしたら全員攻撃やめ!

何が来ても対応出来るようにナイツ単位で固まってくれ!』

 

「くっ、何から何まで抜け目ない………味方だと頼もしいけど、

こうして敵として見てみると、ハチマンは厄介極まりないよね………」

 

 そして遂に屍黄龍のHPが残り一割まで到達した。

ハチマンの突撃以降、ジョジョはもうすっかり休憩モードになっており、

コーヒーを飲みながら完全に寛いでいた。

 

『さて、ジョジョの奴、今度は何をしてくるんだか』

 

「むっ、今呼ばれた気がする、ってか呼ばれたな、

ああ、もう発狂モードか、それじゃあ期待に応えないと」

 

 とはいえ期待に応えるのはジョジョ本人ではなく、組まれた演出プログラムである。

そして光の柱が屍黄龍に突き立ち、『月光』が流れ始めた。

 

「イッツァ、ムーンライト!」

 

『これは………』

『ベートーベンの、月光?』

『おいジョジョ………』

 

「何だい?って、何で今僕の名前を呼んだんだ?そんなに感動したのかな?」

 

 もちろんハチマンは演出の過剰さに呆れていただけであるが、

ジョジョはその言葉をそう受け取ったようだ。

最初のハチマンの大笑いを、喜んでくれてると思っただけの事はある。

ジョジョは実にポジティブな性格をしているようだ。

 

「ふふん、ボスの頭にばかり注目してると、痛い目見るぜ」

 

 そう言いながらジョジョがコーヒーを口に含んだ瞬間に、ハチマンが叫んだ。

 

『敵襲!』

 

「ぶはっ………」

 

 ジョジョは思わずコーヒーを噴き出し、慌ててハンカチでそれを拭いた。

 

「だから気付くのが早いんだって!」

 

 そしてS田竜が、プレイヤー達を襲い始めた。

 

『お褒めに預かり恐悦至極』

『さて、何でしょうな』

『そのようですな』

 

「いやぁ、ウケてるウケてる、彼を起用して本当に良かった、

僕のニックネームと関係の深い声優さんに頼んだのは正解だったね」

 

 どうやらS田さん登場は、そういった流れらしい。

おそらくK安さんの登場も、同じ理由なのだろう。

 

『よくやるよ、まったく………』

 

「HAHAHAHAHA!お褒めに預かり恐悦至極」

 

 ジョジョはそのハチマンの呟きに、S田竜の真似で答えた。

もちろんハチマンには聞こえていないのだが、ジョジョはとても楽しそうだった為、

これは多分彼にとっては必要な事なのだろう。

そして全ての敵が粉砕され、再び合体フェイズとなった。

次に流れたのはベートーベンの第九である。

 

「やっぱりラスボス戦の曲はこれだよね、フンフンフ~ン、

フロイデ、ツェーネル、ゲッテル、フンケン………」

 

 ジョジョよ、何故歌う。

 

『よくぞ我の所までたどり着いた、どうだ?世界の半分をやるから私に仕えないか?』

 

「そして決めセリフはやっぱりこれだね!イエスイエスイエ~ス!」

 

 何がイエスなのか意味不明だが、ジョジョはそう叫びながら満足そうに頷いた。

そしてプレイヤー達の『テラK安』シャウトを聞いたジョジョは、

自分の選択は間違っていなかったのだと、深い充足感に包まれる事になったのだった。




この話で終わるつもりだったのに、三話目に突入してしまいましたorz

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