ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第987話 ジョジョの不完全燃焼

『さて、何が出てくるかな、喋ったって事は人型だと思うが………』

 

「はいハチマン正解!」

 

 ジョジョは、まるでモニターの中のハチマンと会話しているようにそう呟いた。

 

「さてお待ちかね!今週の、ビックリドッキリドラゴン!」

 

 もしハチマンがここにいたら、元ネタはそれかよ!と盛大に突っ込んだ事だろう。

そして骨片が積み重なっていき、その首無しの体に戦国時代のような鎧が装着される。

 

『世界の半分では不満だと言うのか、ならば死ね!』

『我は偉大なる死の支配者なり!』

 

 そのセリフに合わせてジョジョはまるで岡部倫太郎のようにくねくね動き、

頭蓋骨が装着されたのと同時に決めポーズをとりながらこう叫んだ。

 

「武者ドラゴン、真黄龍、ここに降臨!」

 

 同時に空中に恒例の文字が現れた。『最終決戦兵器、真・黄・龍』と。

 

「パーフェクツ!さてハチマンは………おお、喜んでる喜んでる」

 

 腹を抱えて笑っているハチマンは確かに楽しそうではあった為、

その感想はあながち間違いではないが、概ね間違っている。

 

「しかしハチマンはいつまで喜んでるんだ?そろそろ戦いを始めないと………」

 

 一周回ってジョジョはハチマンが逆に心配になったが、

そんなジョジョが見ている前で、アスナがハチマンに駆け寄った。

 

『ハチマン君、ハチマン君!』

 

「お?彼女は思ったよりも女の子らしい子なのかな?

まあごつい子ってのは得てしてそういうものだよね」

 

 アスナへの風評被害は、絶賛継続中のようである。

そしてハチマンはアスナのおかげで復活し、立ち上がって攻撃指示を出した。

 

『これで最後だ、盛り上がっていこう!総員攻撃開始!』

 

「よろしい、かかってきたまえ!って言っても戦うのは僕じゃないんですけど!」

 

 ジョジョはモニターに向かってニヒヒと笑うと、

一旦休憩とばかりにソファーに腰を下ろし、新しいコーヒーを用意した。

 

「ふう………ちょっとエキサイトしすぎちゃったかな、

しかしさすがのハチマン達でも、あれはそう簡単には削れないみたいだね」

 

 ジョジョは楽しそうに戦闘を眺めていた、というか傍観していた。

もうやるべき事は全てやったという感じなのだろう。

真黄龍の発狂モードはタフなのが売りなだけで、攻撃はさほど激しくなく、

あくまでも最後はプレイヤー達に、

思う存分攻撃してもらおうという意図で設計した敵なのである。

 

「しかし彼は予想外にいいタンクだね………」

 

 それでも真黄龍の攻撃はかなり重いはずであり、

それをいとも簡単に防いでいるホーリーの技術にジョジョは驚愕していた。

 

「これは次のイベントの調整に悩む事になりそうだね………」

 

 ハチマンから連絡をもらってタンクの現状を知ったジョジョは、

次は多少モブの攻撃面を緩和しようと思っていたのだが、

ホーリーをはじめとしたヴァルハラのタンク陣の事を考えると、

カゲムネ以外の他のナイツのタンクとの差が激しすぎて、

どちらを基準にバランス調整しても何かしら問題が起きそうだと頭を悩ませていた。

 

「まあいいか、今回の事できっとどこもタンクを育成するだろうし、

攻撃面に関しては今回と同じくらいの難易度を目指そう。うん、それでいいや」

 

 ジョジョは考えるのが面倒になったのか、そう結論付け、観戦に戻った。

折りしもユウキが敵に突撃するところであり、

ジョジョは、おっ、という顔で画面に見入った。

 

『マザーズ・ロザリオ!』

 

「おほっ、これが噂のマザーズ・ロザリオか、実に素晴らしい、

現状の最強のソードスキルだけの事はあるね。防御面の調整は、これが基準かな」

 

 ジョジョは大興奮しながら次々と他のプレイヤーをズームしていった。

ジョジョは本当はハチマンの戦いぶりを見たかったのだが、

ハチマンがまったく動こうとしなかった為、そうせざるを得なかったのである。

 

「うほっ、何だいこの三人、クッソ重そうな斧を軽々と振り回してるじゃないか、

一人はヴァルハラのメンバーか、名前は………ああ、彼がエギルなんだ、

で、他の二人がロウリィとラキア?う~ん、知らないなぁ、まあチェックしておこう」

 

「サトライザー君も頑張ってるみたいだね、もうすっかり日本には慣れたのかな?

今度アサクサにでも遊びに誘ってみよう」

 

「ん、今の大量のレーザーっぽい攻撃は何だ?

え~と………ああ、今のって弓での攻撃なんだ、へぇ、おかしな武器だなぁ、

使ってるのは………ああ、さっき魔砲を撃った子か、

だから魔砲の射撃役を担当する事になったんだね、予想通りだったよ。

それにしてもヒーラーで弓使いとか、随分変わったプレイスタイルだなぁ」

 

 その時画面からハチマンの声が聞こえてきた。

だが画面の中に、ハチマンは映っていない。

 

『順調だな』

 

「あれ?ああ、マイクのズームはそのままだったか」

 

 ジョジョは状況は理解したが、他に会話を聞きたい者もいなかった為、

音声に関してはそのまま放置する事にした。

 

『このままいけそうよね』

『まあここまでくれば事故は起こらないだろうな、

例え何かしてきても、全員が即死でもさせられない限りは安泰だ』

 

「そう思ってても動かないなんて、ハチマンは慎重だよね、

君が戦ってる所も見たかったんだけどなぁ」

 

『もしそうなったらどうする?』

 

「いやいや、しないよ?」

 

『さすがにそれはないと、ジョジョを殴りにいくさ』

 

「ええええええええええええ?

ハチマン、それはひどいよ!もっと僕を信用してくれないと!」

 

 ジョジョはいかにも心外だという風に画面に向けて叫んだ。

 

「クリアが困難なのはアリだけど、不可能なのはナシ、それがゲームってもんさ。

そしてこういった戦闘ってのはエンターテイメントじゃないといけないよね、

楽しいは正義って奴さ!あはははははは!」

 

 ジョジョは今回の戦闘の調整に関しては満足しているようだ。

後はハチマンの指揮によって浮き彫りになった、

編成が偏った場合に備えての調整をどうにか出来れば尚良い。

その時ハチマンがおかしな事を言い出した。

 

『ん?』

『どうしたの?』

『いや、今何か動いたような………』

 

「ホワッツ?僕は他には何も仕込んでないよ?というか一体どこを見てるんだ?」

 

 今モニターにはアスモゼウスと魔砲が映し出されているままになっており、

ジョジョはその言葉に興味が沸き、再びモニターにハチマンを映そうとしたが、

モニターの対象を変える瞬間に、誰もいないのにいきなり魔砲の向きが変わり、

ジョジョは驚いて操作の手を止めた。

 

「え………?」

 

 ジョジョは見間違いかと思い、目をゴシゴシこすったが、

どう見ても確かに魔砲の向きが変わっている。

同じタイミングでハチマンもその事に気付いたのか、ジョジョと同じ事を言い出した。

 

『………ちょっと待て、あの魔砲、向きが変わってないか?』

 

「そうそれ!ってかハチマンもここを見てたんだ、うん、確かに向きが変わってるよ」

 

『でもアスモさんが向きを変えたんじゃない?』

 

「ノー!絶対にそれはない!僕がずっと見てたからね!」

 

 その瞬間に魔砲の先端が輝きだした。魔砲が発射されようとしているのだ。

そしてその射線上にはアスモゼウスがいる。

 

「え?あっ、ノオオオオオオオ!危ない!」

 

『なっ………』

『ちいっ』

 

「まずいよ、あれを止めなくちゃ!」

 

 だが当然ジョジョには魔砲の発射を防ぐ術はない。

 

「S村、後ろ後ろ!S村、おいS村!」

 

 ジョジョはモニターの中のアスモゼウスに向けて一心不乱にそう叫んだが、

この場に誰か日本人がいたら、この状況でネタに走んなと、ジョジョに説教をした事だろう。

 

『おい、アスモ、後ろだ!』

 

 その時モニターの中からハチマンの声がした。

さすが、ジョジョと違ってネタに走るような事はしない。

 

「そこはS村ってつけないと駄目だろおおおお!」

 

 ジョジョはハチマンに向けて苦情を言ったが、当然その声はハチマンには届かない。

だが届ける必要はまったく無いので問題ない。

 

『アスモ、そのまま動くな!ギリギリ間に合うはずだ!』

 

 その声と同時にモニターの中にハチマンが飛び込んできた。

 

「ハチマン!頼む!」

 

 これは確かにゲームだが、戦いの結果ならともかく、

女の子がこういった死に方をするのを許容出来るほど、ジョジョは情の薄い男ではないのだ。

その声が聞こえた訳ではないが、ジョジョの叫びはハチマンに通じ、

ハチマンは片足とHPの四割を犠牲にしながらも、

アスモゼウスを見事に魔砲の攻撃から救った。

 

「グレイト!」

 

 だがその喜びは長くは続かなかった。

ボスの方から沢山のプレイヤーの悲鳴が聞こえたからだ。

 

「えっ?」

 

 ジョジョが慌ててモニターの向きを僅かに左にずらすと、そこに映ったのは、

魔砲の攻撃が数人のプレイヤーを巻き込んで、そのまま真黄龍に命中する光景だった。

 

「あ、あれってあの頑張ってたタンクの人………?」

 

 呆然とするジョジョの目の前でアスモゼウスがハチマンにヒールをかける。

それと同時にリメインライトがいくつか現れ、真黄龍が砕けて消えた。

同時に『CONGRATULATION』の文字が宙に現れたが、

その場にいたプレイヤー達は、一人を除いて一言も発しない。

ちなみにその一人とはアスモゼウスである。

そしてアスモゼウスが発しているのは、すすり泣きと謝罪の声であった。

 

『ごめんなさい、ごめんなさい………』

 

 ジョジョはその声を聞いていられず、映像と音声のズームを適当にぐいっと動かした。

丁度そこには魔砲が映ったが、同時にマイクからこんな声が聞こえてきた。

 

『黄龍の逆鱗?ふ~ん』

 

 それはジョジョが自ら設定した真黄龍のドロップアイテムの名前だった、

今画面には誰も映っていない、だがラストアタックをとった者が確実にそこにいる。

 

「まさか犯人がそこにいるのか………?」

 

 ジョジョは知らなかったが、この犯人が使っているのは姿隠しの魔法である。

通常姿を消したまま攻撃を行うと、姿隠しの魔法の効果は切れてしまうのだが、

犯人は何らかの方法でそれを防いだようだ。

 

「………………クソ野郎が」

 

 その時ジョジョが発したのは、もしハチマンが聞いていたとしても、

本当にジョジョなのかと疑いたくなるような、彼らしくない怒りの声であった。

 

「俺の主催したイベントを汚しやがって!」

 

 だが現地にいないジョジョにはどうする事も出来ない。

 

「くそっ」

 

 ジョジョはそのままソファーに乱暴に座り、冷めたコーヒーを口に含んだ。

その苦さにより、多少冷静さを取り戻したジョジョは、悔しそうにこう呟いた。

 

「今日のところは見逃してやる………そしてクリアおめでとう、プレイヤーのみんな」

 

 こうしてジョジョにとってのイベントは、不完全燃焼のまま幕を閉じた。

ジョジョがこの事で溜飲を下げる事が出来たのは、これよりしばらく先、

先ほどの音声データがハチマンの手に渡ってからしばらく後となる。

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