ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第991話 色々けしからん

 次の日の昼、詩乃、唯花、出海の三人は、

現代遊戯研究部の部室に集まって昼食をとっていた。

今日は少し寒く、屋上で昼食をとるのは不可能だったのだ。

 

「出海、もう具合は大丈夫?」

「うん、もうすっかり平気!二人とも、昨日は本当にありがとう!」

「ううん、いいのよ、ただの貸しだから」

「そうそう、貸しだからお礼を言われても逆に困っちゃうよ」

「あ、あは………」

 

 出海はその言葉に戦々恐々としつつ、二人に聞かれるままに、

昨日八幡に家まで送ってもらった後の事を話した。

 

「へぇ、出海の家にはそんなに沢山古いゲーム機があるんだ」

「うん、死んだお父さんが集めてたのと、私が買ってもらったのとで、

老後の暇つぶしも安心、みたいな?しかもまだまだ増えるし?」

「出海、おっさんくさい」

「色欲の中の人がこれってどうなの………」

「うぅ、せめておばさんって言ってよ………」

 

 出海は二人に抗議したが、自分でも確かにおっさん臭かったかなと思っていた為、

その声は弱々しかった。

 

「それじゃあ今日、出海が良かったら出海の部屋に三人で集まるってのはどう?」

「いいね、出海、どう?」

 

 その言葉に出海は目を伏せ、おずおずとこう答えた。

 

「えっと………実は今日ね、八幡さんが学校まで迎えに来てくれる事になってて………」

「え?何で?」

「まさかのデート?」

「ううん、そういうのじゃなくてね、ソレイユにある遊戯室に案内してくれるって………」

 

 それで二人は事情を把握し、詩乃は出海に言った。

 

「確かにあそこは凄いわよ、これは私達もご一緒するしかないわよねぇ?」

「えっ?えっ?」

「二度目のソレイユ訪問だね!楽しみぃ!」

「ええっ!?」

「「これで貸しはチャラでいいわ」」

 

(絶対こうなると思ったから黙ってたのに!)

 

 本当は八幡と二人きりでデート気分を味わいたかった出海だが、

嘘の予定を言うつもりはまったく無かったらしい。

その辺りが出海の善良さを現していると言えよう。

 

(これ、勝負の事はさすがに言えないなぁ………)

 

 いずれバレるだろうが、しばらくその秘密は死守しなければと思いながら、

それでも出海は精一杯の抵抗を示した。

 

「は、八幡さんがいいって言ったらね」

「確かにそうね、帰還者用学校もお昼のはずだし、今電話してみるわ」

 

(行動早っ!)

 

 そして二人の前で、詩乃は八幡に電話をかけた。

 

「もしもし、あなたの大切な彼女の私だけど」

 

 名乗りもせず、いきなりそう攻めた事を言う詩乃に、唯花と出海は仰天した。

 

「さすがというか………」

「詩乃のああいう所、凄いよね………」

 

『あ、明日奈なら隣にいるんだが………』

「もっとよく考えなさい」

 

 そしてしばしの沈黙。電話の向こうから、小さく明日奈の声が聞こえてくる。

 

『いや、詩乃がよ、あなたの彼女ですがって………』

『ああ、しののんも今学校だろうから、そのせいじゃないかな?』

『そういう事か!』

 

 どうやらそれで、八幡は状況を理解したらしい。

 

『………………やっと分かったわ、つまり今学校なんだな』

「当たり前じゃない、で、今唯花と出海と一緒にお昼を食べてるんだけど、

放課後待ってるからあまり待たせるんじゃないわよ」

『………………出海に聞いたのか、分かった、今日はうちは早めに終わるから、

そっちの授業が終わった頃にはもう着いてると思う』

「ふふん、話が早くて助かるわ、それじゃあ後でね」

『………ああ、後でな』

 

 そして電話を切った後、詩乃は笑顔で二人に言った。

 

「お願いしたら、快くオーケーしてくれたわ、ふふっ」

「快く!?」

「そもそも今の、お願いだった!?」

「え?何か気になる部分でもあった?」

「いや、突っ込みどころ満載だったと思うんだけど………」

「気のせいよ、気のせい。それじゃあ二人とも、放課後の行動について、指示を出すわ」

「えっ?」

「ほえ?」

「二人とも、いい?とりあえず用意するのは………」

 

 二人は直後の詩乃の言葉に驚かされたが、説明を聞いて納得したような顔をした。

 

「そういう事かぁ」

「わ、分かった、準備する」

「それじゃあ後でね」

「うん!」

「またね!」

 

 こうして詩乃と唯花の同行が強制的に決まり、

まもなく今日の授業が全て終わろうかという頃、教室中がどよめいた。

窓の外に見える校門から、キットが入ってきたのだ。

それでも授業中は静かにしていた一同だが、チャイムが鳴った瞬間に大騒ぎとなった。

 

「お、おい、王子が連続で来てるぞ!」

「えっ、昨日も来てたの?」

「ああ、昨日は確か、山花さんが………」

 

(まずい!)

 

 そう思った瞬間に、教室中の視線が出海に集まった。

 

(ひいいいいいいい!)

 

「ねぇ山花さん、もしかして王子が来たのって………」

「え、えっと………じ、実は今日、約束があって………」

「やっぱり山花さんだったんだ!」

 

 直後に出海はクラスメート達に囲まれた。

 

「どうやってそんなに親しくなったの?」

「王子ってプライベートだとどんな感じなの?」

「山花さん?」

「山花さんってば!」

 

 出海は圧倒されるばかりで何も言えなかった。だがそこに救いの神が現れた、詩乃である。

 

「何これ、凄い騒ぎね、出海、どこ?」

「あっ、こ、ここ!」

 

 その呼びかけのせいで、クラスメート達は出海からザザッと離れ、詩乃に道を空けた。

 

「あっ、いたいた、八幡が待ってるわよ、さ、早く行きましょ」

「う、うん!」

 

 出海はペコペコしながら詩乃の後に続き、やっと教室から抜け出す事が出来た。

 

「どうせこんな事だと思ったわ」

「詩乃、ごめんね?」

「ううん、私にも覚えがある事だから気にしないで」

「そういえばそうだね………」

 

 詩乃は自身の経験と照らし合わせ、出海も同じような状況だと想像したらしい。

そのおかげで出海は助かり、二人はそのまま唯花と合流して、駐車場へとたどり着いた。

 

「ハイ八幡、早かったわね」

「ああ、大切な大切な俺の彼女の詩乃の命令だからな、それくらいは当然だ」

「ふふん、よろしい」

 

 厚顔無恥と言うべきか、面の皮が厚いと言うべきか、

こういう時の詩乃は、そんな八幡の皮肉にもまったく動じない。

 

「ほら、さっさと私をエスコートしなさいよ」

「へいへい」

 

 それどころか詩乃は、そう言って八幡の腕にすがりついてきた。

詩乃は胸のサイズは平凡だが、その事について気にした様子もまったく見せず、

八幡が喜んでいると確信しながら、『当ててんのよ』を行っている。

それだけ八幡の自分に対する好意に自信を持っているという事なのかもしれない。

それを証明するかのように、八幡からは、嫌そうな気配はまったく感じられない。

この二人にとってはこの程度の事は日常茶飯事なのであろう。

明日奈が詩乃を警戒する訳である。

 

(詩乃、いいなぁ)

(私達もあのくらいするべきなのかな?)

 

 二人はそう囁き合いながら、詩乃に助手席を譲り、後部座席に乗り込んだ。

 

「それじゃあ出発!」

『はい、ソレイユに向かいます』

 

 キットも心得たもので、八幡の事は気にせず詩乃の指示で出発する。

 

「待ってキット、その前に、私達三人の家に寄ってくれない?」

『分かりました』

「ん、何かあるのか?」

 

 その八幡の疑問はもっともである。

 

「この後ソレイユの遊戯室に行くじゃない?

で、その後八幡の奢りでご飯を食べるとして………」

「まあそのつもりだったけど、普通言い出すのは俺からだからね?」

「で、その後また遊んで、その後はマンションに泊まるとして」

「おいい?」

「なのでお泊りセットが必要でしょ?」

「いやお前、飯を食ったらそのまま帰ればいいだろう」

「何よ、私達を泊めるのが嫌なの?」

「それは今更だから気にしないが………はぁ、分かった分かった、キット、それで頼む」

『分かりました』

 

 そこから詩乃、唯花、出海の順番で家を回る事になった。

最初に着いた詩乃の家で、詩乃はバッグを持つだけで、制服のまま家から出てきた。

 

「ん?ついでに着替えれば良かったんじゃないか?」

「ううん、これでいいの、この格好なのが大事なのよ」

「………意味が分からないが、まあ詩乃がいいならいいか」

 

 次は唯花の家であったが、唯花も八幡が止めたにも関わらず、

普通に家の前までキットに行ってもらい、二人と同じように制服のまま家を出てきた。

何故か母親らしき人物も玄関から顔を見せ、

にこやかにこちらに向けて手を振ってきた為、八幡は慌ててそちらに向けて頭を下げた。

 

「唯花、最初は我慢だからね!」

 

 八幡は、我慢って何の事だ?と思いつつ唯花に尋ねた。

 

「あれは唯花のお母さんか?」

「うん」

「ちゃんと泊まりだって伝えたか?」

「うん、ちゃんと伝えたよ、お金持ちの人の家に友達と一緒に泊まって、

玉の輿を狙ってくるって言ってきた」

「おい、お前………」

「あら、やるじゃない唯花」

 

 何か言いかけた八幡を、だが詩乃が遮った。

 

「えへへ、でしょう?私の親、そういうのには寛容なんだよね。

避妊だけちゃんとすれば別にいいってさ。最初は痛くても我慢よって何度も言われたよ」

「ぶほっ………」

 

 その言葉に八幡はたまらず噴き出した。

 

「お、お前、女の子がそういう事を言うんじゃねえよ!」

「え~?他の人の前じゃ言わないってば」

「八幡の前でしか言わないわよね」

「俺の前でも言うんじゃねえ!」

 

 八幡は抗議したが、三人ともスルーである。

 

「さて、次は出海の家ね」

「うん!」

 

 出海も二人同様制服のまま姿を現し、八幡も先ほどと同じようにこう尋ねてきた。

 

「出海もちゃんとお母さんに、今日は泊まるって連絡したか?」

「あ~、別に言ってないけど、そもそも昨日、朝帰りでもいいって言われてるから」

「ぶはっ………」

 

 八幡は再び噴き出した。だが昨日会った詩織の性格だと、

確かにそう言いそうだなと思い、ぼそりと呟いた。

 

「何で俺の周りには肉食系しかいないんだ………色々けしからん」

 

 三人はその言葉に笑い、八幡の肩をポンと叩いた。

 

「はぁ………よし、行くか」

 

 キットはそのまま動き出し、十分ほどでソレイユに到着した。

 

「ふう、それじゃあ案内………」

「待って八幡、先に下りてて欲しいの、私達はちょっと準備があるから」

「ん?お、おう」

 

 そして一分後に三人は下りてきたが、八幡には何が変わったのかよく分からない。

微妙に肌色面積が増えた気もしたが、多分気のせいだろう。

 

「それじゃあ行くか」

 

 八幡はそう言って受付ホールへと歩き出し、三人もその後に続いた。

 

「最初の敵はかおりさんよ、みんな、負けないようにね」

「うん!」

「が、頑張る!」

 

 八幡が三人が何をしたのか知れば、おそらくまた、『色々けしからん』と言った事だろう。

そして予め車の中で、()()()()()()()()()()()()()短くしていた三人は、

制服と生足で若さを存分にアピールし、ソレイユ内部に蠢くライバルの美人達に対抗しようと、

気合い十分でソレイユ内部へと足を踏み入れる事になったのだった。

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