ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

999 / 1227
3/11、改稿しました!


第992話 遊戯室を目指せ

 詩乃は受付からが勝負だと思っていたが、受付に行く前、入り口脇に彼女は佇んでいた。

 

「むむ、ライバル接近中、総員警戒!」

「えっ、もう?」

「あ、あの美人の事?」

 

 詩乃の言葉で二人は警戒したが、当然八幡はその女性に普通に声をかける。

 

「よぉ萌郁、どうした?」

「八幡のガードに付く事になった」

「ほ?俺の?」

「今日はゲストが多いから、だって」

「ああ、そういう事か、それじゃあ宜しく頼むわ」

「うん」

 

 そして八幡は振り返り、詩乃達の到着を待った。

 

「紹介しよう、こちらはモエモエだ、一応ここでの案内役みたいな感じだと思ってくれ」

 

 いきなりそう紹介されても萌郁は動じない。理由をきちんと把握しているからだ。

唯花と出海は萌郁のスラッとした姿と、それに似合わぬ豊満な胸に羨望を覚えた。

 

「お前達も今日はハンドルネームで通せよ。という訳で、シノン、ヒルダ、アスモゼウスだ」

「うっひゃぁ、リアルでハンドルネームってかなり恥ずかしいんだね」

「八幡さん、せめて私はアスモで………」

「ん、そうだな、長いしその方が良さそうだな、それじゃあそれでいこう」

「「宜しくお願いします」」

 

 二人は萌郁に負けじと若さをアピールしながらそう挨拶した。

 

「モエモエです、宜しく」

 

 二人の挨拶に対し、萌郁はそう答えたが、その視線は何故か下を向いていた。

 

「ん、モエモエ、どうした?」

「ううん、何でもない」

 

 モエモエはニコリと微笑むと、そのまま最後尾に付き、五人は受付へと向かった。

その途中で唯花と出海はこっそりと萌郁に話しかけていた。

 

「あ、あの、モエモエさん、どうやったらそんなに胸が大きくなるんですか?」

「………………分からない」

「そうですかぁ………」

 

 萌郁にしてみれば、そう答えるしかないだろう。

栄養状態が良かった訳でもないし、勝手に大きくなったとしか言えないのだ。

そして五人は受付に到着し、かおりがこちらに声をかけてきた。

 

「あっ、八幡!それにこの前の二人!」

「ああ、ヒルダとアスモだ、入館許可証は出来てるよな?ソレイアル」

「うん、もちろん!でもいきなりで、一人分しか出来てなかったから、

途中で秘書室に寄ってもらって欲しいってさ」

「分かった、秘書室だな、ソレイアル」

「う、うん、でもそう呼ばれるのって何か恥ずかしいね」

 

 かおりはそう言うと、詩乃達三人に、にしし、と人懐っこい笑みを向けた。

 

「私や八幡は平気だけど、ソレイアルさんは確かにそうよね」

「だよねだよね、うっひゃぁ、これ、長くは耐えられないかも」

 

 そんな社交的で明るいかおりを眩しく感じながら、

二人は再び若さをアピールしつつ挨拶をした。

かおりも三人のスカートの短さに気が付いたのか、一瞬視線を下に向けたが、

特に何も言う事はなく、八幡達はエレベーターの方へと向かった。

それを見ながらかおりはぼそりと呟いた。

 

「はぁ、私も昔はあんな感じだったなぁ、若いっていいなぁ、

でもあれはさすがに短すぎる気もするよねぇ」

 

 八幡達はエレベーターの到着を待っていたが、

一階に到着したエレベーターの中から、いきなりまさかのラスボスが現れた。

 

「姉さん、出かけるのか?」

「ええ、ちょっとね。八幡君は確か今日は遊戯室よね?」

「ソレイユさん、こんばんは!」

「あらシノンちゃん、こんばんわ、それに二人とも、いらっしゃい」

「えっ?」

「しゃ、社長さんがソレイユさんだったんですか!?」

 

 前回来た時は、ただソレイユの社長とだけ紹介されていた為、

二人はこの時初めて陽乃がソレイユだと知ったのだった。

 

「こ、こんばんは!」

「お久しぶりです!」

 

 二人は目を輝かせながらそう挨拶した。

二人にとってのソレイユは、色々な意味で遥か高みにいる憧れの存在なのだ。

 

「改めて私がソレイユよ、宜しくね、二人とも」

 

 そう言ってソレイユは、シノンと合わせて三人の姿を上から下まで眺めた。

 

「あらあら、若いっていいわよねぇ」

 

 陽乃はすぐに詩乃達のスカートの短さに気付いたが、

八幡は単純に制服姿と冬なのに生足のままでいる事に対して言ったのだと思い、

うんうんと頷きながらそれに同意した。

 

「本当に寒いのに元気だよなぁ」

「ふふん、目の保養になっていいでしょ?」

「いや、まあどうかな、年中そうだから正直分からん」

 

 その言い方で、陽乃と詩乃は八幡がスカートの短さに気付いていない事を悟った。

 

「シノンちゃん、鈍い男ってこういう時困るわよねぇ」

「はい、本当にそう思います」

 

 二人はひそひそとそう囁き合い、八幡の方を見て苦笑した。

そんな八幡は、陽乃の後ろに控えていた二人に挨拶をしていた。

 

「レヴィ、今回はイベントに参加出来なくて残念だったな」

「ああ、まあ仕事じゃ仕方ないさ」

「おい小猫、お前、年末なんだからしっかり働けよ」

「働いてるわよ、ってか何で私だけそんな呼び方なのよ!ロ・ザ・リ・ア・よ!」

「別にいいだろ、小猫が本名だなんて誰が思うかよ、

あっ、これって言っちゃまずいんだった!」

 

 そのわざとらしい言い方で、八幡がわざと本名を連呼している事に気付いた薔薇は、

プルプルと震えながら八幡に抗議した。

 

「どうしてあんたは私にだけいつも厳しいのよ!」

「ああん?そんなのお前が俺の所有物だからに決まってるだろ、いい加減に分かれっての」

「ぐぬぬ………」

 

 薔薇は悔しそうであり、嬉しそうでもあったが、その姿を見ていた唯花と出海は、

二人はまるで八幡と詩乃を見ているみたいに仲良しだな、という印象しか抱かなかった。

 

「それにしても相変わらず凄いね………」

「戦闘力が高すぎなんだよね………」

 

 二人は久々に見る陽乃、レヴェッカ、薔薇の山脈っぷりに圧倒されていた。

自分達が求めてやまないものがそこにあるのだ。

 

「という訳で二人とも、こっちがヒルダでこっちがアスモだ、

今日は一応面識のある奴らも本名は無しだから、間違えないようにな」

「ど、どうも、ヒルダです」

「アスモです、宜しくお願いします」

 

 今回は若さをアピールしている余裕はなかった。

何故なら二人は薔薇とレヴィにどうしても尋ねたい事があったからだ。

さすがに陽乃に対してそんな事は言えなかったが、

二人はレヴィと薔薇に顔を近付け、八幡に聞こえないようにこっそりこう尋ねた。

 

「「あの、どうしたらそんなに胸が大きくなるんですか?」」

「ん~?俺は遺伝かねぇ」

「私はどうなのかしら、気が付くとこうなってたのよね、

私には女性ホルモンを活発化させるような食べ物を選んで食べろとしか言えないわ」

「そ、そうですか」

「それでも参考になります、ありがとうございます!」

 

 レヴェッカと薔薇は、そんな二人にニコリと微笑んだ。

 

「二十歳過ぎてから大きくなった人も沢山いるから頑張ってね」

「まあ日々の努力って奴じゃねえかな」

「「はい!」」

 

 そして陽乃達は出かけていき、五人はエレベーターに乗り込んだ。

 

「とりあえず秘書室だな」

 

 と、後ろからパタパタと足音が聞こえてくる。

見るとこちらに向かって三人の女性が走ってくるところだった。

 

「そのエレベーター、待って~!」

「お、おいユイユイ、あんまり走るとその、目の毒だからまあ落ち着け」

 

 結衣の胸が激しく上下しており、八幡はうろたえながらそう言った。

 

「だ、だって………」

 

 この時エレベーターに乗り込んできたのは、結衣、優美子、いろはの三人であった。

今日はよく知り合いに会う日だなと思いつつ、八幡は三人に唯花と出海を紹介した。

 

「丁度良かった、こっちがヒルダ、こっちがアスモだ」

「あっ、そうなんだ、あたしはユイユイだよ!」

「あーしはユミーだよ、宜しく」

「イロハです、宜しくね、二人とも!」

「「宜しくお願いします」」

 

 二人は、ソレイユには、

ひいてはヴァルハラにはどれだけ美人が揃ってるんだと思いつつ、そう挨拶をした。

 

「ああ、今日は遊戯室なんだよね?あたし達も後で行ってみようかな」

「おう、いつでも来てくれ、何かで対戦しようぜ」

「あーしも行こうかな」

「私は当然行きますよ!」

「今日は三人は何しに来たんだ?」

「えっと、一応エ………じゃなくて、ロビンやアサギさん達と顔合わせ!」

「就職したら私達がサポートしないといけないので」

「うわ、マジかよ、あいつが来てんのか………」

 

 八幡は絶望の表情で天を仰ぎつつ、

三人に、出来れば自分が来ている事はロビンには内緒にしてくれと頼んだ。

 

「いやぁ、それはどうかな」

「もう察知してそうじゃない?」

「ぐぬぬ、確かにあいつなら否定出来ん、それじゃあ出来るだけ足止めをしておいてくれ、

さすがのあいつも仕事を放り出したりはしないだろ」

「オッケー、分かった」

「八幡、これは貸しにしとくし」

「いいですね、先輩、貸しですよ、貸し!」

「お、おう、分かった分かった」

 

 目的の階に着くまで、さすがに八人だとそれなりに狭かった為、

結衣は八幡にピタリとくっついていた。

普通に『当ててるのよ』状態である。当然わざとなのであるが、

優美子といろははいいポジションを結衣に取られた事を悔しがっており、

唯花と出海はこの狭さでは若さアピールをする事も出来ず、

ただじっとその光景を、羨ましそうに眺めている事しか出来なかった。

更に羨望を感じさせたのは八幡の態度である。

八幡が結衣に向ける視線は優しさに溢れており、二人はそれを羨ましいと感じた。

そして目的の階で下りた五人は、結衣達に別れを告げ、そのまま秘書室を目指した。

 

「あそこが秘書室だ、その手前にあるのが次世代技術研究部な」

「唯花の分の入館証をあそこでもらうのよね?

それにしても今日は随分知り合いに会う日だわ」

「だな、おっと」

 

 途中にある次世代技術研究部のドアが開いた為、八幡はそこで足を止めた。

中から出てきたのは紅莉栖と理央であった。

 

「あら、八幡じゃない」

「あ、師匠、今日は遊戯室って言ってたからそれじゃないですか」

「ああ、そっかそっか、そういえばそうだったわね」

 

 そんな二人に八幡が声をかけた。

 

「おう、クリシュナにリオンか」

「えっ、クリシュナさん?紅莉栖さんがクリシュナさんだったんですか?」

「あ、うん、そうね」

「前回は興奮してて分からなかったけど、

よく見ると凄く若いですよね、クリシュナさん………」

「さ、三人の若さにはちょっと敵わないと思うけど」

 

 紅莉栖は詩乃達と同い年にも関わらず、三人のスカートの丈を見ながらそう言った。

 

「ふふん、これが若さよ」

「師匠も多分日本にいたらこうなってた」

「私、スカートって基本はかないわよ」

「あっ、そういえば見た事ない………」

 

 当の理央はミニスカートであったが、八幡はそれを見て、初めて()()()に気付いた。

 

「あれ、リオン、今日のスカート、何か長くないか?」

 

 その言葉に紅莉栖と理央はぽかんとしたように顔を見合わせ、

二人に詩乃がこっそりとこう囁いた。

 

「八幡ってば、私達のスカートの短さに気付いてくれないのよ」

「ああ、八幡ってそういうところ、あるわよね」

「せっかく気合いを入れてるのにね………」

 

 そして理央は、八幡の問いには答えずに黙ってスカートの裾を上げた。

 

(う………これはやばい)

 

 詩乃達に合わせてみたものの、理央はその丈の短さに危機感を覚えた。

だが八幡は脳天気にこう言った。

 

「おお、お揃いになったな、うん、かわいいかわいい」

「「「「「!?」」」」」

 

 もしかして本当は気付いていて、わざと言っているのだろうか、

五人はそう思ったが、後ろで萌郁が静かに首を横に振った。その口は、こう動いていた。

 

『に・ぶ・い・だ・け』

 

 五人はその口の動きでため息をつき、八幡は訳が分からず首を傾げた。

 

「どうした?」

「ううん、何でも。それじゃあ私達は行くわ」

「おう、またな」

 

 八幡達はそのまま秘書室を目指した。

ここまで結構時間をとられてしまっていた為、やや早足である。

 

「誰かいるか?」

「あっ、八幡様!」

「あら八幡君、待ってたわ」

 

 そこにいたのはクルスと雪乃であった。

クルスに関しては、前回面識があったが、ユキノは初見である。

 

(相変わらず大きい………)

(ソレイユさんもやばい、セラフィムさんもやばいよね………)

 

「おう、マックスにユキノか、ヒルダの入館許可証をもらいに来たんだが」

「あっ、ユキノさんだったんですね、は、初めまして、ヒルダです!」

「ア、アスモです!」

 

 そしてユキノに関しても、二人は別の意味で驚いていた。

 

(ユキノさん、超絶美人すぎない?)

(うん、まさかあの怖いユキノさんがこんな綺麗な人だったなんてね………)

 

「そう、宜しくね、二人とも」

「うん、宜しく」

 

 この場では、唯花と出海は再び沈黙するしかなかった。今は落ち着いたとはいえ、

ユキノの前で胸の話題を出すなと詩乃に言われていたからだ。

もっとも今はそうでもないのだが敢えて火中の栗を拾う必要はないのだ。

 

「ありがとうございます!」

「今日は楽しんでいってね」

「はい!」

 

 秘書室での邂逅はこうして終わり、五人はそのまま遊戯室へと向かった。

 

「おう、ここだここだ」

「どうなってるのか楽しみだなぁ」

「アスモはそうだろうな、さて、入るか」

 

 八幡はドアを開け、中にいた人物に挨拶をした。

 

「今日は宜しくお願いします、ラキアさん。あれ、プリンさんも来てくれたんですね」

 

 そこにいたのは、八幡が手配した裏ボスの大野晶と、その親友の日高小春であった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。