早く進めて皇帝陛下に会いたい(白目)
何故だろう
今日は朝から頭痛がする
心做しか昨夜の記憶もあやふやな気もするし
そんな頭を抑えながらも登校する
…どうしてか,そうしなければいけないような気がするから
「おーい,呉島」
ふと,聞き覚えのある声に振り向く
そこには予想していた通りの人物がいた
「…おはようございます,慎二先輩」
「あれ,もしかして桜もいると思ったりした?」
別にそういう訳ではなかったのだが,確かに桜さんがいない
けれど,彼からそう言われるまで気付かなかったのはどうしてだろう
「いつも言ってるけど,君に妹を渡すつもりは―」
「分かってますよ,先輩」
ああよかった,彼はいつも通りだ,と安心する自分がいた
何故だか全てに現実味がなくて,自分という存在が酷く不安定なものに感じられる
その中で普段と変わらない調子の先輩に何処かほっとする
「そもそも,桜は…」
僕の気持ちなど露知らず,まだ話を続ける彼に適当に相槌を打ちながらぼんやりと考える
僕は本当に桜さんに特別な感情を持ってはないのに―
『ミッチ』
(…えっ?)
空耳,だろうか
そんな声が聞こえた様な気がする
けれど近くには談笑に勤しむ生徒達しかいない
ならばやはり幻聴の類なのだろう
それなのに…何故か懐かしい
その瞬間,頭をよぎったのは1人の女性
知らない人のはずなのにその笑顔に胸が締め付けられる
けれどそれも直ぐ消えてしまった
「…呉島?」
「ああ…すみません,慎二先輩」
「はぁ〜っ,ま,僕はそろそろ教室に行くけど」
「…はい,では,また」
視界にもやがかかるような,そんな感覚に抗うように僕もまた自身の教室へと向かっていた
ーーー
ーー
ー
放課後になっても違和感は拭えないまま,ふらふら歩きたどり着いたのは中庭だった
この学校には何故か教会があり吸い込まれるようにその扉を開いていた
「―!」
声にはならなかったように思う
ただ,その光景に息を呑むしか出来なかった
そこには1人の女性,白に近い金髪に白いい服,生徒では無いし教師にもこのような人物はいなかったはずだ
目を離せない,というのはこういうことなのだろう
…確実に,僕は彼女に見蕩れていた
どれくらい時間が経ったのか,きっと殆ど経ってはいないのだろうけど
―気を付けて,貴方は運命を選ぼうとしている―
確かに目の前の女性がそう言ったのを聞いた
どういうことか,と問おうとしたけれど
「…え?」
もう彼女はそこにはいなかった
瞬間
「っ…」
酷いノイズに目の前がかすみ,気が付けば校舎の廊下に立っていた
(今のは一体…?)
その時,誰かが走り去っていった
思わず彼を追いかけ
そして,たどり着いた先は
「―、」
廊下の角,向こうから話声が聞こえて思わず立ち止まる
自身の鼓動の速さに内容までは聞こえないけれどちらりと見えた赤い服
学年が違うから直接話したことは無いけれど確か先日転校してきたレオ,という生徒だった
彼は壁に手をついていた
そう,壁なのだ
それなのに,彼の姿はその壁の先に消えていった
先程走り去っていった男子生徒も後を続くように壁の先へ
鼓動がいっそう速くなり,ノイズも酷くなっていく
このままじゃいけない,と耐え切れず僕もまたその先へ―
ーーー
ーー
ー
そこは先程までの学校とは似ても似つかない場所だった
ふと,声が聞こえる
その声によれば目の前の人形が僕の剣となり盾となると言う
ここまで来たらもう引く訳にもいかない
どこまでやれるかは分からないけれど出来る所まではやるしかないと奮い立たせ進み始めた
(…、)
予想以上に順調だった
人形に指示を出し敵性プログラムを撃退していくのだけど
身体がどういう指示を出せば良いのか知ってるような,そんな気さえしてくる
そうして暫く進めていけば突然開けた場所へ出た
ステンドグラスの光るその空間はこんな状況でさえただ見蕩れてしまう程だった
…だから,とは言わないけれど
襲い掛かってきたプログラムに気付けず
呆気ない程自身の人形は敗れ
僕を守る術はなくなってしまった
(あ…)
僕は負けたのか
気が付けば地面に何かがあった
それは学園の生徒達で
自分が気付かなかっただけでさっきからそこにあったのかも知れない
そこに自分も加わるのか,そう思うと悔しくなってくる
…でもやれることはやった
もう終わらせていいだろう
何故かこれが正しい気さえするし
(…本当に?)
『この者を最後の挑戦者として…』
声は続ける
お前の人生はここで終わるのだと,そう告げるように
(…本当にそれでいいの?
何かすべきことがあったはずじゃ?)
思い浮かぶのは今朝一瞬頭をよぎった女性
名前さえ思い出せずにいたけど,その笑顔を僕は
(…まだ)
そうだ,僕にはまだやるべき事がある
(こんな所で負ける訳にはいかない)
もう一度,もう一度だけ,僕に機会を
(まだ,僕は負けれない…!)
『そなたの言葉,確かに届いたぞ!』
瞬間,ステンドグラスが割れる音が響きそこに現れたのは―
明るい金髪に真紅のドレスを着た少女
人間の姿をしているけど本当に人間なのか分からない程神々しささえ感じられるほどの存在感
「そなたの強き願い,余が確かに聞き届けた
契約の証だ,手を取るがよい」
彼女に言われるままその手を取った瞬間,手に焼けるような痛みが走る
その手には先程まではなかった紋様が表れていた
「これより契約は完了した
なればまずあの敵性プログラムを蹴散らすぞマスター…!」
少女の言葉に頷く
再び指示を出す為に
(凄い…)
人形とは全然違うその力に感嘆するしかなかった
そして最後の一振りが相手に当たった時砕けていくその様子に急に力が抜けてくる
『―、』
再び声が話し出すけれどそれを聴ける程の体力はもうなく
『―“光あれ”と』
その言葉を最後に意識は途切れた
ああああ…何か荒削りになってしまった申しわけない…!