ようやくここまで来たぜ……
驚いたように声を上げるヤツを睨みつけ、そのまま思いっきり力を込める。
「くぉのぉっ!」
「!?」
ボグッという鈍い音とともに、腕が骨ごと砕けた。
「ギィヤァァァァァァァァァァッ!」
「うるせぇ!!」
「ガッ!!」
叫び声を上げるヤツを殴り飛ばす。
10メートルほど吹っ飛び、更に何度も地面にバウンドして進む。
ようやく止まったころには、既にヤツはピクリとも動かなくなっていた。
「……」
しばらくじっと見つめる。
完全に動かなくなっているのを確かめ、俺は息をついた。
そして、
「おらぁっ!」
「ブゴォッ!!」
振り向きざまに背後に寄っていたもう一匹に回し蹴りをキメた。
(
ヤツの首の骨が折れる感触を足に感じながら、そんな益体のない事を考えていた。
「宗司っ!」
ようやくガキを全滅させ、一息ついてるとさっきと同じ声が聞こえてきた。
振り向くと、声の主――桜が胸元に飛びついてきた。
「大丈夫!?どこも怪我ない!?私のこと、分かる!?」
「だ、大丈夫!大丈夫だから!」
ちょ、ちょっと待て!いいから落ち着け!顔が近い!
「あ……」
ようやく今の状態に気付いたのか、顔を真っ赤にして離れる。
恥ずかしがるくらいならやるなよ……。
と思いつつ、俺もちょっと顔が熱い。
「み、みんなは無事か?」
ごまかすように話を振る。……ヘタレとかゆーな。
「校舎の方には何も出なかったみたい。みんなも、宗司が助けたあの子も無事よ」
「そっか。良かった」
一時はどうなることかと思ったが、何とか切り抜けたみたいだ。
もっとも、一件落着には程遠い。
ヤツらは何者なのか?
本当にメガテンの悪魔なのか?
どこからやってきたのか?
目的は何か?
根本的な謎は解決していないままだ。
「ねぇ、宗司……」
「ん?」
考え込んでいると、桜がおずおずと聞いてきた。
「さっきの宗司のアレ、何なの……?」
「……分からん」
そんなこと、俺の方が聞きたいよ。
桜の声が聞こえた途端、身体が動くようになった。
というより、加速した意識に身体が追いついたって感じだった。
それだけじゃない。
身体ごと弾き飛ばすような力で振るわれた腕を片手で受け止め、
受け止めた腕を力任せに握りつぶし、
更にはパンチ一発、蹴り一発でその生命を奪う。
……そんなこと、普段の俺なら出来るはずがない。
一体俺の身体に何が起きてるんだ……?
「あ」
悩む俺の目に、地面に倒れたままの妖精の姿が映った。
そばに駆け寄り、様子を見る。
「う、う……ん」
うめき声をあげているが、それほど苦しそうでもない。
背中の傷はそこまでひどくはない。流石に頑丈に出来ている。
やっぱり、この子は……。
「宗司、この子って妖精……、なの?」
一緒に来た桜が信じられないといった感じに聞いてくる。
「まあ、見ての通りだと思う」
虫のような形の透明な羽に、子供のような小さな身体。
誰がどう見たって妖精だ。
やはり女の子としてはファンタジーの象徴・妖精に憧れがあるのか、俺の言葉に目を輝かせる。
と、思ったら急に不安そうな顔をして、
「この子も……、あの変な怪物達の仲間……、なのかな?」
と問いかけてきた。
そうであってほしくないというのが丸わかりだ。
「違うと思う」
俺の言葉にわずかに表情を綻ばせた。分かりやすいヤツだ。
「この子はガキと戦ってた。しかも女の子をかばいながら、だ。ヤツらの仲間だったらそんなことしない」
それに、と続けようとしたところで、
――それは起こった――。
「っ!!!???」
地面がグラリと揺れる。
それだけならまだ、ただの地震ですんだだろう。
だがそれがワケの分からない閃光とともにやってきたなら、ただの地震なはずがない。
たまらず地面に膝をつく。
校舎の方からも悲鳴が上がっていた。
「な、何これ!」
「喋るな!舌を噛むじょ!」
お、俺が噛んだ……。
などと言いつつ、桜をかばって地面に伏せる。
酔いそうなほど激しい揺れと、目も眩むほどの閃光が俺たちを襲った。
しばらくそうやっていると、ようやく振動と閃光が収まった。
地面から身体を起こす。
「桜、無事か?」
「う、うん」
桜の安否を確かめる。若干顔が赤いが大丈夫のようだ。
校舎の方を振り返る。元の通りそこにあった。崩れた様子もない。
……だが、その向こうに妙なものが見えた。
「……え?」
最初はそれが何か分からなかった。
いや、理解するのを脳が拒んでいたのかもしれない。
それほどまでに非日常的で、そして
それは壁だった。
垂直の壁じゃない。
それは地平の端から緩やかに曲面を描きながら、上へ上へと伸びていた。
ちょうど球を内側から見れば、こんな感じに映るだろう。
そしてその壁に何かが貼り付いていた。
不規則な形のそれは、歪な斑模様のようにも見えた。
それが何か分かった時、俺は自分の目を疑った。
「うそ、だろ」
それは
一軒家が、ビルが、高速道路すらも、壁を土台にして建っているのだった。
明らかに重力やらなんやらを無視した作り。
だが、それらは平然とあそこに建っている。
その不自然さに身の毛がよだった。
そして、俺はこの光景を知っている。
もちろん、実際に見たわけじゃないが、それでも知っていると言えた。
だが、
(そんな、馬鹿なことがあってたまるか……)
その可能性を即座に否定する。
当たり前だ。
いくら
「そ、宗司……。何、あれ?」
桜の声に横を向くと、上を見上げて立ち尽くしていた。
上?上に何が……?
「!?」
今度こそ声をなくした。
そして、ソレの存在は俺の誤魔化しを跡形もなく吹き飛ばした。
曲面を描きながら、上へ上へと伸びる壁。
それは延々と続き、俺達のいる場所の反対側でとうとう天井へと変わっていた。
だが、俺から言葉を奪ったのはそれではない。
青白く輝く球体。
この球内世界を照らす太陽のように鎮座するそれは、俺にこの世界が何なのかをはっきりと示してみせたのだった。
「ボルテクス界……」
『女神転生』シリーズの一つ、『真・女神転生Ⅲ』の舞台になった世界だ。
『メガテン』の悪魔だけじゃなく、舞台となった世界まで現れた?
もはや俺の頭では理解不能の事態が続いていた。
コレ以上はどうにかなりそうだ。
「貴方は、この世界のことを知ってるんですか?」
唐突に声がかけられた。
振り向くとあの妖精の女の子が目を覚まし、驚いた顔で俺の方を見ていた。
「まあ、な」
頭を搔きながら答える。
とはいえ、どうやって説明したものか……。
「おーい、宗司!」
「宗司君!」
「河原ー!」
考えているうちにみんなが来た。
「お、お、おい。この子!」
「な、何てことだ……」
ああ、この二人ならこうなるだろうな。
特に孝にとっちゃタイムリーな話だし。
「君、は?見たところ妖精のような姿をしているが……?」
唯一冷静さを保っている先生が質問してきた。
正直に言うと俺は彼女を知っている。
だが、それが余計に彼女がここにいることを理解できなくさせていた。
「あ、そう言えば名乗ってませんでした」
そう言って居住まいを正すと、彼女は
「初めまして、異世界の皆さん」
まったく、
「私の名は大妖精。幻想郷という世界の住人です」
『東方Project』のキャラクターがここにいるんだよ……。
いつから妖精の少女がピクシーだと錯覚していた?
ちなみに大ちゃんは仲魔にはなりません
……だって悪魔じゃないもん