誰もが、いつも通りに第六天魔王と畏怖される小波遊一の圧勝で終わると思っていた。
誰もが、小波遊一が殺人犯呼ばわりすることに苛立ちを憶えていた。だが、自分だけが普通に接して、他がそうではなかったら……と考えてしまうと接することができなかった。
いくら、第六天魔王と呼ばれる小波遊一でも、殺人犯になるはずがないと誰もが思っていた。何せ、小波遊一は面倒事が嫌いな人間だ、自分から問題は起こすはずがないとデュエルアカデミアの生徒も遊一の友人、後輩達もそう思っていた。
だけど、世間の目がある。
それが怖かった。
大人達が遊一を馬鹿にするたびに不愉快な思いをした。
皆、知っている。
面倒事が嫌いな彼だが、自分達が困っていたら、彼は助けてくれたのだ。
彼はレッド、イエロー、ブルーといった括りなど気にしてはいないように見えた。だから、いつしか自分達も小波遊一に対してだけは、レッドの人間だからと馬鹿にしなくなっていた。
第一、馬鹿にして、デュエルを挑んだら、悲惨な目に会うのが目に見えていたからだ。
だから、今回も小波遊一が圧勝すると誰もが信じていたのだが、現状はどうだ?
彼は今、頭から血を流して、気を失いかけている。
「遊一⁉」
「待て、十代⁉」
頭から血を流して、気を失いかけている遊一を助けるために十代は大地の制止を無視して、遊一に近寄ろうとした。
あー、ヤバい。
意識が薄れてきた。
久しぶりに2500オーバーのダイレクトアタックを食らったな……頭から血が出てるってことは、闇のデュエルになっているのか?
それとも、最初からか?
賭けデュエルって、命をかけたデュエルだったの?
まるで、闇のデュエルみたいじゃないか……あ、今は闇のデュエルか。
つか、頭から血を流してるのに、俺は何で、こんなに冷静なんだ?
あれか、慣れてるからか?
嫌だな〜、そんな慣れ。
遊一はグダグダと考えながら、顔をあげ、海野を見た。
あー、ありゃ、完全にダークシグナーになって……あ?
よく見ると、海野は笑っているが、その目には涙が溜まっていた。
海野は表情では笑ってはいるが……。
……あぁ、泣いているんだ。
きっと、こんなことになるとは思わなかったんだろうな……あ、や、ばい、いし、きが……。
ーーー今日も帰ってこないんですの?
ーーーはい、旦那様も奥様もお仕事が忙しいらしく。
ーーー……そうですの。
……誰だ?
目の前に蒼い髪のお嬢様みたいな少女と執事みたいな初老の男性がいた。
てか、ここどこ?
周りを見渡すと見知らぬ部屋だった。
気を失ったら、知らない部屋にいた!とか、ホラーなんですけど。
ーーーでは、お爺様とお婆様は?
ーーーお二人様も……。
ーーー……。
ーーーで、ですが、私達が精一杯、幸子お嬢様をお祝いしますので
ーーーありがとう、じぃや
あぁ、あの子は海野幸子か……ん、じゃあ、これは海野幸子の過去?いや、記憶か?
ーーー寂しかった。
ん?
ーーー辛かった。
ーーー毎年、毎年、わたくしの誕生日を祝ってくれたのは、じぃやとメイド達だけ。
この声はやはり海野幸子……じゃ、これは海野幸子の記憶。
ーーーお父様もお母様も、わたくしより、愛人との子の方が大事みたいでしたわ。
……わーお。
ーーーお爺様やお婆様はそんな二人から生まれてきた、わたくしを一族の恥だと思っていたましたわ。
ーーーわたくしは頑張りましたわ。
稽古も勉強も習い事も全てパーフェクト。
ーーーでも、お母様、お父様、お婆様、お爺様はわたくしを認めてくれませんでしたわ。
……認めてくれない……か。
ーーーですから、せめて、身の振り方だけでも海野の名に相応しいようにしましたわ。
なるほど、あの高圧的な態度はそのためか。
ーーーまぁ、そのせいで、いままで友人と呼べる人はできませんでしたわ。
ーーークリスマスも、お正月も、ずっと、わたくし一人。
ーーーじぃや、メイド達にはクリスマスやお正月には、さすがに休暇を与えた。
ーーーだから、一人。
海野……。
ーーー寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい……そんなある日、わたくしはデュエルモンスターズを知りましたわ。
ーーーデュエルモンスターズを学べば、友達が出来る!と意気込みましたわ。
ーーーでも、出来ませんでした。
ーーーそれでも、諦められなくて、後期入学になりましたが、デュエルアカデミアを受験することにしましたわ。
ーーーその前に一人のデュエリスト、小波遊一を知りましたわ。
俺を?
ーーーたまたま、一人で初詣に行ったとき、そこでデュエル大会があってましたわ。
あー、まさか……
ーーーその時に小波遊一のデュエルを見ましたの。
やっぱりかー。
ーーーその圧倒的なプレイング、必ず相手の一手先を読む戦術などを見ているうちに、彼のデュエルに魅せられてしまいました。
……は、恥ずかしい。
ーーーですから、TVで報道されていたことが信じられませんでした。
ーーー確かめたかった。
ーーー知りたかった。
ーーーでも、わたくしが
ーーー勝てる相手ではない
ーーーとわかっていましたの。
ーーーそんなときに
ーーーChacu Challhua様が現れましたの。
ーーーChacu Challhua様は、わたくしに力をくれましたわ。
ーーーでも
ーーーでも
ーーーそのせいで、そのせいで
ーーー彼は小波遊一は……
彼女がそこまで言うと泣き出した。声がするほうを辿ると、海野幸子が座り込んで、泣いていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「……」
「わたくしのせいで、わたくしのせいで」
「……怒ってねぇよ」
「え?」
遊一は優しく笑いながら、海野の頭を撫でた。海野は驚き、頭をあげる。
「どうして、ですの?わたくしは貴方に……」
「別に気にするな、悪口を言われるのには慣れてるし、怪我を負うのにも慣れてる」
本当に嫌な物に慣れたなと遊一は心の中で苦笑した。
遊一は中腰になり、座り込んでいる海野に目線を合わせる。
「大丈夫。だから、帰ろうぜ」
遊一がそう笑いかけるが、海野は暗い表情をした。
「帰れません……の、Chacu Challhua様が、わたくしを解放しない限り」
「……よし、待ってろ」
遊一は立ち上がり、海野に背を向けた。
「え?」
海野が首を傾げていると、遊一は振り向き、笑いながら言った。
「勝ってくる」
「遊一〜!」
誰かが俺を呼んでいる?
「……十代?」
目を開けると、十代がこっちに走ってきていた。その後ろには、大地、雪乃、亮と何故かレイン恵がいた。
十代が俺に辿り着く、あと数mといったとこで、何かに阻まれた。
「うぉ⁉」
何かに阻まれた十代は、後ろに吹き飛ばされ、尻餅をついた。
十代は自分の尻を摩りながら、ゆっくり遊一に近付き、自分を阻んだ何かを確かめるように触った。
そこには、目には見えないが、何かがあった。
「……なんだ、こりゃ?」
「結界だ、阿保」
「遊一⁉」
十代が首を傾げていると遊一は十代の方を見ずに、怠そうに立ち上がった。その身体はフラフラと揺らめいていた。
だが、その眼は真っ直ぐに海野……Chacu Challhuaを睨んでいた。
遊一はおぼつかない足取りでゆっくりと元いたデュエルリングの場所に立った。
「ほぅ、まぁだ、やるぅきかぁ?」
遊一は海野の喋り方が、高寺の時と同じように言葉使いが安定していないように感じた。
「あぁ、貴様を殴りたくなったんだよ、Chacu Challhua」
「ふん、きさぁごぉきにぃ、我をぉ倒せぇると思っていぃるのか?」
「うん、倒せる」
遊一は当たり前のように言い放ち、デュエルディスクを構えた。
「……なら、我が引導を渡してやろう」
デュエル再開 5ターン目 海野幸子
「わかっているだろうが、次のターンに貴様がお決めにならなければ、貴様様の負けだ。われくしはカードをセット、ターンエンド」
「わーかってるよ」
海野幸子
LP4000
手札0
モンスター
地縛神 攻2900
魔法、罠
竜巻海流壁
セット×4
「遊一はどうするつもりだ?」
「わからねぇ」
「あのChacu Challhuaと言うカードの効果でダイレクトアタックをしてきたのかしら?」
三人が首を傾げているなか、レインはただジッと遊一を見ていた。
6ターン目 小波遊一
「俺のターン、ドロー」
「では、貴様のスタンバイフェイズ時に、トラップ発動!
“グラヴィティ・バインド-超重力“、“魔封じの芳香“を発動、これで貴様はモンスターを攻撃できなずに、さらに魔法を発動できない!
いくら、フィールド魔法をセットなどで破壊しようとめ無駄だ!」
“グラヴィティ・バインド-超重力“
永続罠
フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できない。
“魔封じの芳香“
永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、お互いに魔法カードはセットしなければ発動できず、セットしたプレイヤーから見て次の自分のターンが来るまで発動する事はできない。
「……」
外野が何かを言っているが、今の遊一には届かなかった。
「くっくく、言葉も出ないか?」
「勝ったつもりか……」
遊一は慌てなかった。いや、泡ていないは嘘だ、さっさとしないと出血多量で意識を失うか死ぬかだ。そう意味では慌ててはいた。
……だが、それでも、遊一はいつものように。
「甘いんだよ!」
勝ちにいく。
「俺はアトランティスの効果でレベルが下がったモンスターを生贄召喚する!
俺は、“暗黒大要塞鯱“を生贄に捧げ……“海竜ーダイダロス“を召喚!」
海竜ーダイダロス 星7→6 攻2600+200=2800 守1500+200=1700
アトランティスの神殿から、現れた海竜は海中を泳ぎ回り、遊一を守るかのように、とぐろを巻いた。
「ふん、何を出すのかと思いきや、そんなモンスターで何ができる」
海野の身体を支配したChacu Challhuaは愉快そうに、現れたダイダロスを見た。
「できるんだよ、俺は“海竜ーダイダロス“の効果発動!
自分フィールドに存在する“海“を墓地に送ることで、このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する!」
「な、なにぃ⁉」
海野の身体を支配している地縛神Chacu Challhuaは驚きの声を上げた。
「俺は“海“として扱われている“伝説の都アトランティス“を墓地に送り、ダイダロス以外のカードを全て破壊する!
タイダルウェーブ‼」
“海竜ーダイダロス“
効果モンスター
星7/水属性/海竜族/攻2600/守1500
自分フィールド上に存在する「海」を墓地に送る事で、このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。
ダイダロスが雄叫びをあげると、今まで遊一達を包んでいた海が消え、アトランティスが露わになる。すると、凄まじい音が鳴り響き、アトランティスにある宮殿の後ろから巨大な津波が押し迫ってくるのが見えた。
次の瞬間、何もかもが飲み込まれ、アトランティスは伝承通りにたった一日で海に沈んだ。
「さらに、手札から“トレード・イン“発動、手札にいるLevel8モンスターを墓地に送る代わりにデッキから二枚ドローできる」
“トレード・イン“
通常魔法
手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。
「俺は“ゴギガ・ガガギゴ“を墓地に送り、二枚ドロー!
さらに、手札から“思い出のブランコ“を発動、自分の墓地にいる通常モンスターを1体特殊召喚できる!
“ゴギガ・ガガギゴ“を特殊召喚!」
“思い出のブランコ“
通常魔法
自分の墓地の通常モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。
“ゴギガ・ガガギゴ“
通常モンスター
星8/水属性/爬虫類族/攻2950/守2800
既に精神は崩壊し、肉体は更なるパワーを求めて暴走する。
その姿にかつての面影はない…。
「ーーーは?」
Chacu Challhuaは理解できなかった。
自分は圧倒的に有利だったはずなのに、いとも簡単に戦況がひっくり返った。
Chacu Challhuaは悟った。
これが、これが、一度とはいえ、自分達地縛神を封じた。
小波遊一の実力だと。
「“ゴギガ・ガガギゴ“と“海竜ーダイダロス“でダイレクトアタック」
「そんな、そんな、馬鹿……馬鹿な⁉」
「馬鹿?それは貴様だ、Chacu Challhua」
「い、いいのか!そんなことをすれば、この体の持ち主は⁉」
「心配ありがとう、俺の力でどうにかなる……舐めんなよ、シグナーとダークシグナーとかの力を持たされた俺を……後、仮にも、精霊界を管理しているんだぞ」
遊一の目が赤く光る。
Chacu Challhuaはもうダメだと逃げ出す。
「あ、あぁぁぁぁぁ⁉」
Chacu Challhuaは迫り来る二体のモンスターから逃げようとしたが、自分が貼った結界に遮られ……。
「ぎゃぁぁぁぁぁ⁉」
二体の攻撃を受けた。
Chacu Challhua LP4000-2950=1050-2600=-1550
勝者 小波遊一
「てめぇの負けだ、馬鹿神様」
今日、バトオペで二回連続でカウンターによる撃破をジムキャノンでしました。
そしたら、その時撃破したグフに射撃戦を挑まれました……なんか、ごめん。