最終話後も後日談を書くかもしれませんが、それは次回作が決まってからになります。
感想欄で指摘いただいたので、アンケートは活動報告でおこないますので、できればそちらまでお越しください
異様な面子が揃ったものだ。博麗の巫女に半人半霊、吸血鬼、妖怪とまず間違いなく一緒な空間にいることのない四人だが、それぞれがテーブルに向かい合って座っていた。霊夢と妖夢、小間使いと幽香の並びに、先の二人は少し不満そうだが。小間使いが花の茶葉で淹れた紅茶の優しい香りとは逆に、剣呑ともいえる空気が漂っている。
そもそもこの状況まで落ち着くのに一苦労したものだ。誤解を受けそうな姿勢より、何よりも幽香を落ち着かせることが大変だった。最近はマシになっていたとはいえ、だれかれ構わず花畑に足を踏み入れるのはやはり気分が悪く、特に烏天狗の新聞で情緒不安定な時だったので、二人を排除しようと言う殺気と共に突進を繰り出そうとしていた。それを小間使いが「私の客人」だと言い止め、渋々ながらも納得し、家で話し合うことを許可した。
あくまで話し合うのは当事者である三人で、幽香は席には着くものの傍観する。
「こちら今の、まぁ居候させてもらってる家の主、風見幽香さん。こっちが冥界にある白玉楼でお世話になった西行寺幽々子様の庭師兼剣術指南役の妖夢さんと、博麗神社の博麗の巫女の博麗霊夢さん」
「どーも」
「はじめまして」
随分素っ気無い態度で挨拶するが仕方ないだろう、二人にとって幽香は先の誤解もあり、恋敵として見ているのだから。それこそ自分たちよりも先に進んでいるのは、悔しい。霊夢に関しては父親として見ている男の恋人が妖怪という、人としても職業柄としても受け入れがたい、いわば親を心配する娘の家族愛に似たなにかだが。
「それで、二人とも何の用だい。人里から離れたここまでくるってことは大した用何だろう?」
「決まってるでしょ、あんたを連れ戻しに来たのよ」
「それと、この記事についても聞きたいことがあります」
「前者はともかく、後者は誤解だよ。幽香さんにお茶を淹れているところを撮られただけさ」
そう言っても食い下がろうとしないのは、さっきの光景があるからだろう。流石にあれを誤解というには難しいものがあり、なぜそうしたか説明する、つまりは吸血鬼になったことを説明するのは、別に問題ないのだが、博麗の巫女が目の前にいる手前、言い難いのはある。それを説明したからといって二人が小間使いを怖がる、見限ることは全くないのだが、それでもあまり余計なことはしたくない。
もし言っていたら、また霊夢が暴走はせずともレミリアのところへ行き、文句をつけるのは目に見えている。そういう意味で小間使いの判断は良かったといえよう。
「それに、私は戻る気はないよ」
話題を逸らすことで追及を逃れようとしたが、むしろそれが地雷だったらしい。同様はせずともその真意を確かめるために食いついてきた。
「どうしてよ。別にここに居なきゃいけない理由なんてないんでしょ」
「戻らなきゃいけない理由もないよね」
「元々あんたはこっち側にいたじゃない」
「それはそうだけど……それでも今はこっちを選んだから」
「じゃあその選んだ理由ってのは何よ!?」
悲痛な叫びが放たれる。記憶はなくともその性格は変わっていないだろうから、私の気持ちも少しくらいわかるでしょうと言っているようだ。その気持ちは確かに小間使いも気づいている。余程私の事を気に入っていたのだと分かり、少し心苦しくもある。
「それを聞く覚悟はあるの?」
「どういうことよ」
「……妖夢さんも、幽香さんも、今から酷いこと言うけど、それでも聞きたいなら話そう」
目配せすると頷くが、妖夢は不安そうで、幽香は片目だけで小間使いを見て、また眼を閉じる。先を促しているのだろう。
全員が聞く覚悟があるようだ。
「はぁ……実はね、私は人を探してるんだ」
「人?」
「あぁいや、正確には妖怪だと思う。人型だったから間違えたけど」
「それで、その妖怪がどうかしたんですか?」
「いや……その、ね」
小間使いは照れくさそうに頭を掻いてこう言った。
「私の初恋の人なんだ」
それはまだ小間使いが幼い子供だった頃、年相応に好奇心があった小間使いは、決して一人、もしくは子供だけで里の外へ出てはいけないという教えを、その子供ならではの怖いもの知らずで破り、探検に出掛けてしまった。
未知の空間、歩く場所、見えるもの、全てが新鮮だった。里では見ることのできない動物、昆虫。自分より背の高い植物、木の実、毒々しいキノコ。娯楽だけなら里の中の方がありとあらゆるものが揃っているはずなのに、こちらの方が何倍も楽しくて仕方なかった。
楽しいという感情はそれだけで時間の流れを狂わせ、ほんの少しだけのつもりが、気づけばもうすっかり日は暮れていて、日のあった頃の輝きは消え、鬱蒼とした不気味さに塗り替わっていた。いくら怖い者知らずとはいえども、感じるのは恐怖しかない。
その恐怖の匂いは、人外を呼び寄せる。
『────────ッ!!』
化け物の聞き取れないほど大きな叫び、それは歓喜の雄叫びにも聞こえた。久しぶりに人間の肉が食えると。
目の前にあるのは鬼。それはあくまで比喩だが、小間使いにはそれほどに強大な存在に感じられた。三メートルはありそうな巨体に、子供の同よりも太い丸太の様な手足。腕を振るえばそこらの木などなぎ倒してしまうだろう。よだれを垂らして近づいてくる口からは、腐臭、死の匂いがする。
逃げ出すことは、震えてすくむ足が許してくれない。何かの夢じゃないのかと感じていたら、頭はもう口の中に入り込んでいた。
ぶちゃっ
肉の潰れる音と、視界が真っ赤に染まる。
死んだ。
「大丈夫でしたか、坊ちゃん?」
死んだのは化け物、腹に穴を空けていた。これをやった人は女性だと言うのに、手は真っ赤に染まっていて、拳だけでやったのだとわかる。恐らく彼女も妖怪か何かだとわかり、まだ死はすぐそばにあるのだと感じさせる。それで声が出なくなり、本来なら礼を言う所だが、固まったまま動けなかった。
しかし彼女はそれでも不快になるどころか、むしろ笑いながら話しかけてくる。
「実は迷子になっちゃいまして、あてもなく探していたら叫び声が聞こえてきたんで近づいてみればこれですよ。いやぁ助けられて良かったです」
「では私はこれで」と、急いでいたのか走って去っていく彼女を、ただみていることしかできなかった。気が付いて里に戻れば、里の皆が総出で捜索しようとしていたらしく、安堵と共に酷く怒られ、返り血について言及されたが、上手くはぐらかした。そうした方が良いと思ったのと、秘密にしておきたかったから。
もう一度会えた時、今度はちゃんとお礼を言えるように。大人と一緒になんて格好悪いから。
「だから多分彼女が妖怪だとしたら、博麗神社の博麗の巫女なら少しは情報が入ると思って。あれほど強くて理性あるなら、そう簡単に死ぬことはないと思って」
「何よそれ。じゃあ私の所に流れ着いたのも、偶然じゃなくて」
「血の匂いに紛れて、少しだけ花の香りがしたから、何か関係があるかと思って」
代々妖怪退治専門の博麗の巫女なら、もしかしたら情報が入って来る、もしくはすでに彼女の事をしっているかもしれない。だから三年もそこに居続けた。
彼女が死んではいないと信じていたから、その義理を返すまで居続けいずれ果たしたら消える。
もしその花の香りの主が太陽の畑の主と同じなら良し、そうでなくとも花の匂いが染み付くほど花に関わるなら、会える可能性がある。
小間使いが彼女たちに仕えた理由は、つまりそういうことだ。ただ命の恩人である彼女に会うために都合が良かったから。
「君たちが私の事をどう思っているか知らないけれど、それは気持ちは間違いだよ。だから私の事は諦めたほうがいい。幽香さんも、こんな奴をいつまでも居候させなくてもいい。嫌だったらすぐにでも出ていくよ」
全員が難しそうな顔をしている。当然だろう、今までの優しかった小間使いはただの仮面で、自分の目的のために動きやすくしていただけなのだから。騙されていたと言われたら聞こえは悪いが、小間使いはそれでも否定しないだろう。霊夢も言葉を失くし、小間使いとの三年間が本当に偽物だったのかと困惑している。幽香もそうだ、楽しかった会話は、話を合わせていただけだったと気づき、それでもまだ小間使いと一緒にいたいか問われると……。
しかし、妖夢は違った。
「だから私の告白に応えてくれなかったんですか」
「……妖夢さん?」
「その人の事が好きなんじゃないんですか? それを言ってくれれば良かったのに、言わなかったのはどうしてですか?」
告白して断られるよりも、その理由を言われないのは、気遣われたということ。そんなこと、女の子なら誰だって断られる覚悟はしてるし、それでよそよそしくなんかしない。それはよっぽど精神の弱い女の子だけだ。
小間使いにとって妖夢はそう思われていたのだというのが、たまらなく悔しい。
「それで貴方を責める気もないし、その初恋の人を恨む気もありません。気遣われるなんて失礼です、私はそんなに弱くありません」
「……そっか。ごめんね妖夢さん」
「……ではもう一度、言わせてもらいます。私は、貴女の事が好きです。付き合ってください」
「ごめんね。君のことは好きだけど、私は未だに初恋を続けてるんだ。だから君とは付き合えない。でも嬉しいよ、ありがとう」