霊夢の小間使いやってた期間って作中で二話ほどしかないし
まぁいっか
さて最終話ですが、とりあえず納まるところに納まったという感じになりました
これで博麗霊夢の小間使いは完結となります
短い間でしたがご閲覧ありがとうございました
次回作が出来ましたらまたよろしくお願いします
「すいません。少し外に出てきます」
覚悟はしていたけれど、やはり辛いのだろう、妖夢は涙を浮かべて外へ出ていき、それをまだ答えの出ていない霊夢が追いかけたことで家の中には小間使いと幽香だけになった。幽香は何も言わずに小間使いを睨んでいて、それが空気を重くし、現実逃避させることになった。
実際問題、小間使いとしては初恋の人を探す当てとなる情報が少ないので、適当に探し回るよりかは、どこかに身を寄せて情報を待つ方が良いのだが、今更霊夢のところに戻っても入って来るものは少ないと思っている。小間使いがわかるのはその腕っぷしの強さくらいだが、スペルカードルールが適用された今ではそれを表に出す妖怪は知性のない獣妖怪ぐらいのもので、人語を理解し話ができた彼女なら、それを守らないわけがない。逆に分からないような輩は構わず人里を襲うので、救援要請が霊夢のところへ出されるがそれは必要ない。つまり入ってくる情報は無いに等しいのだ。
それこそ春雪異変で魔理沙と協力して幽々子たちの情報を集めようとしても、中々集まらなかったのだからなおさらである。
だから小間使いとしては、まだ幽香の所に居させてほしいのだが、果たしてそれを幽香が許すかどうか。それを幽香が言わない限りは、小間使いとしては図々しく居座るわけにはいかないので、出ていく他ない。
「(幽香さんはどう思ってるのかな?)」
「(……あの娘、よね。今の話を聞いた限りじゃ)」
幽香には小間使いの初恋の人に心当たりがあった。幽香は大妖怪であり、だからこそ妖怪同士のつながりも少なからずあり、個人的に死闘を演じた者や強くなる素質のある者は記憶に残す様にしており、その中にはスキマ妖怪や常闇を操る妖怪、酒呑童子などがいる。妖怪を素手で倒す戦闘方法をするものとなると自ずと数は限られてくる。
そして花の香りといえば、思い当たるのは一人しかいなかった。
紅美鈴
拳法家である彼女ならそこらの妖怪を拳で倒すことくらいできるだろうし、紅魔館の庭の手入れは彼女がやっている。前に戦った時にはまだまだ雑魚だったが、鍛えればそこそこ強くはなるだろう。花を丁寧に扱っているところも印象が良くて覚えていたのだが、まさに彼女こそ小間使いの初恋の人の条件として当てはまっていた。
あくまでそれは仮の話で、まだそうと決まったわけではない。もしかしたら全く別の人物が助けたのかもしれないし、酒に酔った酒呑童子が助けたのを、その酒の香りを花と勘違いしただけかもしれない。
さしあたっての問題は、これを小間使いに話すかどうか。
話したくない、というのが幽香の本音だった。話してしまうことで、小間使いはあの吸血鬼の下へ行くかもしれない。霊夢と妖夢と違わず、幽香も小間使いと過ごした時間は短くなく、隣にいることを心地よく感じていた。先ほどの話で思うことがなかったとは言わないが、それでもまだ話していたいと思う。
「はぁ……私も弱くなったわね。まさかこんなのを手元に置きたいなんて」
誰かと一緒に居ることは自分を弱くする、というのは幽香の持論だ。寿命が近ければ歳と共に力は衰えていくが、そうでなければ妖怪は生きているだけでその力を増していく。幽香は当然まだ老衰などしておらず、小間使いと過ごした日々で力が弱くなったことはない。この場合弱くなるのは精神面でのこと。
少なくとも幽香は小間使いと居ることを楽しいと思っていたし、これからも続けたいと考えている。だがこれで小間使いがいなくなった時にでる喪失感というのは、心にどれほどのダメージを与えるのか。
幽香自身の気持ちと、妖怪としてこのままでいいのかという考え。どちらを取っても間違いではない。
「────貴方の初恋の妖怪に、心当たりがあるわ」
「えっ」
「教えてもいいけど、条件がある」
だからこそ選んだのは
「二度と私達の前にその顔を出すんじゃない」
この小間使いの気持ちを分かった上で、諦めた半人半霊の少女がいたから。
あの娘が振られると分かっているのに告白したのは、小間使いが感じるであろう罪悪感を失くすため。自分が好きだった人に対して、その初恋を後押しするため。
そこまでのことを見せつけられたのに、自分は引き留めようとするなんて、それでも大妖怪と言えるのか。小間使いが来るまでの生活に戻るだけなのに、何を怖がっているのか。
「それができないなら、貴方の想いなんて所詮そんなもの、今すぐ捨てなさい。私の心当たりに縋る気持ちがあるなら、それくらいはしないと、あの二人に失礼でしょう」
「……その通りだね。……分かった、私はもう君たちには会わないよ。だから、その心当たりを教えて欲しい」
「────ついてきなさい」
外に出るべく小間使いから視線を放した幽香には見えなかったが、小間使いのその顔は少しだけ寂しそうなものだった。
幽香と小間使いが来たのは、当然紅魔館。小間使いには二度目となるが、一度目の記憶はない。そして用があるのは、その紅魔館を守る第一の砦、門番の紅美鈴にだ。
二人が近づくと、幽香から発せられる妖気の大きさに気付いたのか、険しい目つきで見てくるが、相手が幽香だと分かると、幾分かその緊張感を緩和させた。
「お久しぶりですね幽香さん」
「えぇ。……鍛錬は怠ってない様ね」
「勿論です。ですが最近は誰もこの館に寄り付こうとしないので、腕を試す機会がないのが残念ですが」
と、そこで幽香の後ろに隠れた小間使いを発見し、その様子を観察する。当の本人である小間使いは、気づいたようだ。手がかりはその強さと花の香り、そして小間使いだけが分かる声。妖怪は寿命が長い。その例に漏れず美鈴もその生は長いものとなり、体の見た目における成長は、十年やそこらでは変わらない。
美鈴の姿と声、そして吸血鬼へとなったことで感じることのできる強さは、まさに以前助けてくれた彼女そのものだった。
「んんー? 貴方どこかで見たような?」
「それよりも用があってここに来たのだけど?」
「あぁ失礼しました」
立ち話も何ですし中へどうぞ、と紅魔館内に通される。目的はすでに果たされているが、この館の主に断りもいれずにというのは筋が通らないだろう。正直レミリアと会うことは、自身と同じ吸血鬼と気付かれ、小間使いの今後を色々左右するだろうと、幽香は避けたかったのだが、そう上手くはいかない。
案内されたのは所謂応接間だろうか。広めの部屋に数人掛けのソファーがいくつか、奥の机にはレミリアが座って待っていた。側にはメイドの咲夜もいる。
「随分と久しぶりね花妖怪。それにそこの男、霊夢の小間使いだったかしら? よく生きていたわね、待っていたわよ」
矛盾した言葉を投げかけるが、小間使いには記憶がないからさっぱり分からない。しかしそれすら知っているように笑うレミリアを見て、やはり会わせるべきではなかったと思う。
「生きているのは知っていたが、何で生きているのか、それはまぁ……おや? なるほどこれは、どうも面白いことになっている」
「」
やはり同族のことは気づくようで、小間使いが吸血鬼になったことはすぐに分かったようだ。そしてその方法も心当たりがあるようで、つまるところ眷属化したわけだが、そのことでどうにかしようとするのを幽香が止める。
レミリアも元々眷属を作る予定はなかったのだし、釘を刺されずとも手を出すつもりもなく、すんなりと聞き入れた。
「ふむ。まぁそうなった原因の一部に私が関係していることはわかったわ。私も意図したことではないし、いいでしょう。それで、用はなにかしら?」
「アンタに用なんかないわ。あるのはその娘に、こいつがよ」
「ほう」
そう言って小間使いと美鈴を指さす幽香と興味深げにするレミリア。二人に接点があるようには見えないが、どんな用があるというのか。
できれば面白いことだったら良いと、軽くした舐め擦りする。
「あの、ここで言わなきゃならないんですか? 流石に人前では恥ずかしいんですが」
「それくらい我慢しなさい。あの娘はもっと辛かったのだから」
妖夢のことを言われてはどうも弱く、小間使いは妙にワクワクした目で見るレミリアの視線にため息を吐きながら、美鈴へと向き直る。美鈴はまさか自分に用があるとは思わなかった様で、それも幽香ではなく小間使いがということに疑問に感じた。
「紅美鈴さん。貴女は以前、妖怪に襲われていた子供を助けたことを覚えていますか?」
「……あー! どこかで見たような顔だなと思ってたら、私が迷子になった時の坊ちゃんじゃないですか! いやぁ元気そうでなによりです」
「それも美鈴さんのおかげです。あの時は礼も言えなくて申し訳ありませんでした。改めて、助けてくれてありがとうございます」
そこで初めて美鈴は小間使いの正体に気付く。それにしては感じられる気の量があの時とは別人だなー、とは思いつつ思い出に耽った。
「あの時はまだ私がメイド長をやっていた時期でしたから、食材の買い出しに行った帰りでしたね」
「迷ってたと言ってましたが、あの後問題なかったですか?」
「それはなんとか」
「……それは良かったです」
和やかに話すが要件はそれではない。妖夢が覚悟したように、幽香が後押ししたように、小間使いはその気持ちに応えなければならない。
さっきとは打って変わって神妙な面持ちになる小間使いは、緊張からか身体が震える。荒ぶる呼吸を落ち着かせるように深呼吸をして、ようやく言いたかった一言を言えた。
「美鈴さん。私は貴女のことが好きです」
「……は? え? ……えぇ!?」
突然告白された美鈴は顔を赤くして驚く。妖怪として生まれ、拳法家として生きてきた彼女には、男っ気など一切なく、またそんなことを考えたこともなかったために、そう言った方面への耐性が全くなかった。
「あんなに強そうな妖怪を倒してしまう強さに憧れて、助けてくれた貴女が向けてくれた笑顔が素敵で、子供ながらに貴女のことを好きになってしまいました。でも貴女が何処の誰かも分からなくて……この気持ちを伝えるために、ずっと探していました」
そのために、少なからず人を傷つけてしまった。後ろめたい気持ちはあるものの、美鈴に抱く想いは本物だ。
「いきなり付き合ってほしいなんて言いません。でも、これからも会いに来ていいですか?」
そう言って頭を下げる小間使いに対してどう返したらいいか分からない美鈴は言葉を失う。その沈黙は小間使いにとっては地獄のような時間だろう。その時間を破るように言葉を発したのはレミリアだった。
「……ふっ、くくっ……はははは! そうか! ついに美鈴にも春が来たか? 良い良い、この館へ来ることは私が許可しよう。勿論美鈴が嫌がれば話は別だが、どうなんだ美鈴?」
「え、いや、べ、別に嫌とは、言いませんけど……」
それでも小間使いが自分に好意を持って会いに来てくれるというのは、恥ずかしいし緊張もするだろう。嫌な気はしないが、今まで感じたことのない心のもどかしさに冷静な思考ができない。主は面白がっているようだし当てにはならない。
小間使いもやっと緊張から解かれたのか、ほっと息を撫でおろすが、まだ足がガクガクと震えて、動悸が収まらない。
あるいみこの二人が今一番同じ思いを抱いているのかもしれない。
一応要件は片付いたが、小間使いにはまだやることがある。そう言って折角だからお茶でもしないかというレミリアの誘いを断って幽香は小間使いを引きずりだし、紅魔館を後にした。
小間使いがやることといえば、次の住居探しだろうか。もう太陽の畑には戻れない、妖夢や霊夢の下へと行くこともできない。人里へは三人と会う可能性もあるからいけない。
「魔法の森へ行きなさい。そこに人形遣いの知り合いがいるわ」
それは幽香が出来る最後の優しさ。一年とはいえ、小間使いと共にいたことで感じた気持ちへの感謝を込めて、それを教える。
「ありがとう幽香さん、今まで本当に」
「────行きなさい」
小間使いは頭を下げて去っていった。
幻想郷に花は、もう咲き乱れていない。
NKT